聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
お日様が輝く、とっても落ち着くお昼頃。
日当たりの良い草むらでグデンと伸び、日向ぼっこをしている所を、俺は骸骨少女にモフられていた。
「ん、あいも変わらず良すぎる手触り。会って早々、こんな不可避の誘惑を仕掛けてくるなんて……貴方はとても誘い上手」
別に誘ったわけじゃないけど。しかし猫という存在自体が、その溢れるカワイさと愛くるしさで人類を強制的に誘惑しちゃう超越天使であるからな……仕方がないね。
「んふふ……これが、にゃんこの触感。断言できる、コレに勝る癒し魔法は存在しない」
そうだな。人類が理解し扱える程度のレベルの“癒し魔法”では、常時発動型かつ、神の領域にも至ったこの俺を超えることなどできんだろうよ。土俵に上がることすら烏滸がましいぜ。
お前も、もっと俺への敬意を示し、貢ぎ物を沢山くれても全然構わないんだよ?
撫で回してくる骸骨少女のお手々を捕まえ、俺は神の鳴き声を放った。
「にゃあ」
「ん……にゃあ?」
「みゃあ」
「おおっ……みゃあああ」
「………」
「あ、急にそっぽ向かれた……でも、ふふ……会話が成立した……」
ホントにそうか?
「にゃんことの会話……やってみたいリストに含まれていたものの1つ。ついに叶えられた……ん、すごく感激」
……100%会話は成立してないだろうけれども、なんか感激しちゃってるんで黙っておいてあげるか。全力で否定しても勝手にコイツは自己解釈し始めて喜んでそうだし。
ほんと、人類の度し難い所ではあるな。我が神聖な言葉を全く別の意味に変えて悦に浸るのは……ふっ、だが許そう。人類の上に君臨するカワイイ者として、俺のモフモフな懐はとても温かいのである。
なんて慈悲深く、空気を読める最高神な俺。
「折角の機会。他のやってみたいリストも消化したい……シてもいい?」
「にゃあ」
やだ。人類の分際で調子に乗りやがって、烏滸がましいんだよ。
「にゃあ……ふふ、やった。またもや会話成立……そして、許可もゲット」
「………」
やっぱ度し難いなコイツ。
俺の渾身の“睨みつける”を意にも介さず、骸骨少女はウキウキな雰囲気で俺の毛並みを撫で回す。ううむ、撫でテクニックが中々のものじゃなければ、即猫パンチだったぜ。
「……じゃあ、スるね」
自身の身に付けている骸骨の仮面をほんの少しずらし、骸骨少女は口元を露出させた。
一体なにをする気かは知らぬが、鬱陶しそうなら10連猫パンチの刑に処すからな、呉れ呉れも弁えた行動を心掛けろよ。お前は結構無礼な部類に入るんだからさ。
まあ、なんだかんだ言っても俺の許容限度は聖女ちゃんとの攻防により底上げされている。よっぽどのことじゃない限りは、受け入れてあげるのも吝かではな──
「まずは、にゃんこのお腹に顔を埋めて、深呼吸する。その後は、モフモフに息を吹きかけてみたり、耳をはむはむしてみたりす──」
させるわけないだろ! 聖女ちゃんみたいなこと言いやがって!
俺は、10連猫パンチを繰り出した。
「すごく嫌がられた……ん、好感度が高すぎた……?」
なんでやねん。無敵思考やめろ。
◆◆◆◆◆
「……うげ、面倒な人が近づいてきてる。もう、そんなに時間が経ってたんだ……これが、にゃんこの力……」
「?」
俺に向かって振る猫じゃらしを止めて、骸骨少女は何やら呟いた。
なんかよく解らぬが、この俺を前にして他のことに気を取られている余裕などあるのかね。その一瞬の油断を、猫たる俺が見逃すとでも?
止まった猫じゃらしを捕まえ、後ろ足で蹴りを入れながら俺は寝転がった。まだまだ精進が足らぬなお主は! ふふん!
「あ、捕まった……ふふっ。私の隙を付くなんて……貴方、のほほんとしてるのに凄いね」
なんだろう、バカにされた気分だぜ。褒められてるのか、それは?
「でも、こんなカワイイポーズを見せられたら仕方がない……誰だって誘惑に負けてしまう。ん、すっぽかした理由としては完璧。これなら誰にも怒られたりしな──」
「怒られるに決まってるでしょう。約束の時間はとうに過ぎ去っているのですよ?」
わ、いきなり知らない赤髪の人が現れたぜ。女性版騎士のような恰好をしているが……誰だお前は。誰でもいいが、俺との謁見は頭を垂れて蹲うものと決まっておるだろうが。頭が高いぞ。
「あの距離を一瞬で詰められた……むう、絶対魔法使った……テレスはいつもそういうことする……ズルいっ」
「言える立場ですか貴方は……」
めっちゃ呆れ顔で、骸骨少女のことを見つめている赤の騎士。どうやら知り合いらしいが……仕方ないね、骸骨少女はバカだもの。
「会合の時間はちゃんと伝えていた筈です。なぜこのような場所で油を売っているのですか」
「うっ……私は、ちゃんと行くつもりだった……でも、この子が魅惑のモフモフで誘惑してきたから……」
おいほんと貴様身の程っ。
「貴方の責任です。全く……リーダーといいカルミナといい貴方といい……私が関わる人物は自由奔放過ぎます。少しはちゃんと生活をしてください」
「ちゃんと生活してるのに……」
「は?」
「………」
赤の騎士さんの鋭い視線を浴び、顔を背ける骸骨少女。
露骨に負けてんじゃん、もうちょい頑張りなよ。
「……一旦その話は置いておきましょう。今は、情報共有が優先です」
「……ずっと置いてくれてても構わない」
「やっぱり今しますか? 12時間お説教コースですが」
「!? す、すみません……情報共有がしたいです……」
骸骨少女よ、声が震えてんぞ。
「……まずは確認からです。ムクロ……貴方は私達が現在、請け負っている任務を把握していますか」
「え、任務? えっと……う、うーん……“加護持ち”の捜索とか??」
「それは、リーダーから貴方への個人的な依頼です。組織単位の話ではありません」
「じゃあ、にゃんこのごはんや玩具の捕獲……?」
「そんな任務はないです」
あるだろ。人類単位での任務だぞ。何を差し置いても優先すべき大切なことであろうが!
「やはり、把握していませんでしたか……他人の話を全然覚えようとしない貴方のことです。予想通りといえばそれまでですが、そこもお説教に含めておきましょう」
「げっ……ま、待ってほしい。あと3年もあれば思い出せるから──」
「ふふ、舐めてるんですか?」
とても良い笑顔で、ブチギレボイスを出す赤の騎士さん。その笑みに、骸骨少女も震え上がっている。
俺をモフる手にも振動が来てるから、止めてくれませんかね。
「はあ……いいですか。今回私達【星詠の聖典】が請け負った任務は、『歌姫』──カルミナの護衛です。因みに難易度は、ついさっきの会合で最高クラスに変更になりました」
「あ……確かにそんな任務もあった気がする……忘れてた」
「忘れないでください、重要な仕事ですよ」
「にゃあ」
「おおっ……にゃんこが私の代わりに返事をしてくれた。偉すぎる」
貴様の震える手に抗議したかっただけで、別にそんなつもりはないが……お前達の話に俺あんまり興味ないし。俺が偉すぎるのなんて、世界の当然の理だものな。
「此方の話に集中してください。お説教時間を延ばしますよ」
「す、すみませんでした……」
「なーお」
更に震えが増した骸骨少女の手を振り払い、ボサってしまった毛並みを俺は丁寧に毛繕いし始めた。
世界最高の毛並みだぞ……もっと貴重に扱えというに。全く、これだから人類は。
「ああっ……モフモフにゃんこに逃げられた……凄く哀しいっ」
「………その子と、2度と接触できない身体にしましょうか」
「そ、それは勘弁。ちゃんと聞くから……」
赤の騎士さんが放つ冗談抜きの圧に、骸骨少女は慌てて姿勢を整えた。
神である俺を脅しの道具に使うとは……烏滸がましすぎる。テメーも後で10連猫パンチの刑だな。
「ふう……このような調子で、降りかかる火の粉から彼女を護れるのか……」
「……火の粉?」
「“敵”の話ですよ。数は未だに把握しきれていませんが……今回は何やらその“質”が厄介なようでして。故に、私達に護衛依頼が舞い込んだのです……ああ、漸く本題に入れるっ」
「そう……」
「しっかり危機感を持った上で、覚えておいてくださいね? 今から貴方に伝えるのは、今回の任務で最も重要なことなんですから」
骸骨少女をジト目で睨み、赤の騎士さんは続ける。
「いいですか。存在する敵として最も強大かつ厄介なのは、“加護持ち”や“魔呼び”同様、英雄級以上の実力を有するとされる蛇の怪物──【アポピス】。“神聖殺し”と呼ばれる、邪悪な魔物です。これは、あのカルミナのお墨付きの情報で、まず間違いは──」
「まーゔ」
「え!? な、なんですか急に!」
貴様らの話はよく解らない……だが! “神聖殺し”だろうが何であろうが、今の俺に蛇の話をするんじゃねぇ! モフモフした怒りが再発しちゃうだろうが!!
赤の騎士さんに向かって、俺は威嚇の声をぶつけた。
「あ、にゃんこが怒った。こんな姿初めてみる……テレスのせい、サイテー」
「な、なぜですか!? 私はその子に何の危害も加えていませんよ! わ、私は只世界の命運を握る、蛇の話をしただけで──」
無礼な蛇畜生ごときが世界の命運なんぞ握れるわけないだろ! 世界の命運を握ってんのは、何時だって世界一カワイイ俺なんだよ!! 履き違えんな三下!
俺は、赤の騎士さんに20連猫パンチを放った。
◆◆◆◆◆
『猫さん猫さん!』
「にゃあ」
『ふふ……にゃあ!』
随分と威勢の良い元気な“にゃあ”だな……悪くない。80にゃんこポイントをくれてやる。
『えへへ。猫さんの言葉を使えば、猫さんの気持ちや、言葉の意味をもっと知ることができるかもしれませんからね。猫さんの心に寄り添うためにも、頑張りますね!』
“にゃあにゃあ”言ってるだけなんで無理だと思うけれども。そもそも聖女ちゃん、俺の気持ちも言葉の意味も当てられたことないじゃん。……まあ、聖女ちゃんの突拍子のない行動は何時ものことだしな、少しくらい付き合ってあげるか。
聖女ちゃんの方を見つめ、俺は寛大に尻尾を弾ませた。
『私の“言葉”に反応して尻尾を……! ふふ、やはり猫さんは私のことが大好きなのですねっ』
お前調子乗んなよ??
俺は聖女ちゃんを睨みつけた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
高評価等もありがとうございます! お陰様で猫さんが猫じゃらしをゲットしました!