聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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46話 猫とカルミナ

 

 深夜。

 人の数が疎らとなり、昼夕の騒々しさをまるで感じさせない街の風景を、俺は可愛らしく眺めていた。……広場にある、救世の聖女様の石像の上で。

 

 前にコレに乗ったときはシスター少女に叱られてしまったが、今回は時間が時間。バレる可能性は低いだろうし、問題あるまいて。

 

 まあ、バレてもカワイさで相手の記憶を飛ばしちゃえばいいんだけどもね。猫は、存在するだけで人類の記憶や感情を思うがままに出来ちゃうし。

 

 そもそも、神猫である俺がすることは全てが正当化されるというのに、シスターへの義理立てでここまで配慮した行動を取った俺は偉すぎるであろう。

  

 ほんと、人類にはありえない慈悲深さだ。誰でもいいから平伏せ。

 

 尻尾でペシペシと聖女様像を叩きながら、俺は得意げになった。朝になったら、シスターにごはんを献上させよっと。

 

「──あら。随分と可愛らしい先客ね。でも……ふふ、ちょっぴり不敬かしら」

 

 む、何奴じゃ!

 突如聞こえた透き通る綺麗な声に反応し、俺は天使すぎる顔を向けた。

 

「貴方に会うのは、初めてじゃないわね。貴方のような可愛い子の顔を、忘れるなんてありえないもの。……元気そうで何よりだわ、綺麗な白猫さん」

 

「ゔー……」

 

「え!?」

 

 聖女様の石像から降り、俺は目の前の大きめの帽子を被った娘っ子から距離を取った。

 初対面で馴れ馴れしく『久し振りに会えて嬉しい』感を出すんじゃねえよ、誰だテメーは。どこの猫と間違えてんのかは知らんが、不敬な奴だな。

 

「ね、猫さん? え、え……わ、私のこと、覚えてないかしら?」

 

 覚えてない。めちゃくちゃ整った綺麗な容姿をしているが、どこの誰なんだよお前は。俺と他の猫を間違えるのは、極刑級の無礼の1つであるのだぞ。

 臨戦態勢に入った俺の姿を見て、帽子娘は哀しげに顔を伏せた。

 

「そ、そう……顔を覚えられるのには慣れているけれど、完全に忘れ去られたのは初めての経験よ……こんなに哀しい気持ちになるのねっ」

 

 なんか、すごい落ち込み始めたな。俺が悪いことしたみたいな空気になってんじゃん。

 『猫さんに拒絶されたら一生引き摺ります』って聖女ちゃんも言ってたし、この反応は至ってスタンダードなものなのかもしれないが。

 

 むう、仕方ないにゃあ。この空気は嫌だし、慈悲をくれてやるよ。永久に感謝しろ。

 

 落ち込む帽子娘に近づき、俺は神の咆哮を放った。

 

「にゃあ」

 

「ね、猫さん……私のこと、思い出してくれたのかしら?」

 

 いや全然。

 

「ふう……ごめんなさい、取り乱したわ。たとえ貴方が私のことを忘れていたとしても、また覚えてもらえるように努力すれば良いだけだもの。それこそ、誰かを幸福にする歌を沢山歌ってね……ふふ、新しい目標が出来たわ。貴方のお陰よ、ありがとう猫さん」

 

 おう感謝しなさいな。神猫的にも、そういうポジティブな思考回路は嫌いじゃないぜ。

 因みに頻繁に挨拶したり、ごはんを献上されたり、一緒にお昼寝とかした相手なら俺は忘れないぞ……多分。それらに当てはまらず、尚且つこの街に住んでない場合は、俺の可愛い脳は記憶を飛ばしている可能性が無きにしもあらずである。つまり、俺は全く悪くないってことだ。

 

 儚さを感じる微笑みと共に頭を撫でてくる帽子娘。それに返答するように、俺は尻尾を弾ませた。

 

「あいも変わらず……いいえ、前にも増して、素晴らしい撫で心地ね……“神聖さ”も上がってる。善い愛情を沢山もらってる証拠だわ。心が洗われるって、こういうことを言うのかしら」

 

 そうだよ。知らんけど。

 しかしお前さん、撫で方はとんでもなく上手じゃん、シスター少女に匹敵するな。これはにゃんこポイントが高いぜ。

 

「ふふっ、喉が鳴ってる……さっきまでの警戒心はどこに行ったのかしら?」

 

 撫で方が上手な奴に悪い奴はいないからな。先ほどの無礼は許してしんぜよう。ありがたく思え。

 

「……やっぱり、聖女様が成した想いや願い……それを、こうも解りやすく感じられる瞬間はないわ。そのくらい、貴方を見ていると気が抜けてしまうもの。貴方は、私より聖女様の願いを叶えようと頑張っているのね」

 

 別に聖女様の願いなんか叶えようとしてないけど。

 聖女様は偉大とは思うけれど、絶対俺ほどじゃないし。そもそも、この世に俺より偉大かつ偉業を成し遂げた生命体などいないわけだが。

 

「もし、聖女様……そして、あの子も猫さんに出会ったら。そう……思ってくれるのかしら」

 

 聖女様の石像を見つめ、帽子娘は遥か遠き理想を追い求めるかのように、瞳を細めた。

 なんか、湿度高くなってきたな。止めてくれません? 俺の前でそういう“しんみり感”出すの。

 帽子娘の手を捕まえ、俺はコロンと寝転がった。

 

「あっ、お腹を……ふ、ふふ。誰かの心を温かくするのに、貴方以上の適任はいないかもしれないわね。でも……私も負けていられないわ。誰かの助けになりたい、力になりたい……そして、聖女様に会い……ッ。いえ、聖女様の意志を継ぐためにも……もっと頑張らないとね」

 

「にゃあ」

 

「……ありがとう、猫さん。これで私は……迷いなく“正しい道”を選ぶことができる」

 

 俺を抱き上げ、帽子娘は楽しげに微笑んだ。  

 

「そういえば、貴方に私の名前を教えて居なかったわね。これから沢山伝えるから、覚えてくれたら嬉しいわ」

 

 いや1回でいいよ。

 頑張って覚えるから……何度も伝えられても鬱陶しいし。耳をぴょこんと立て、俺は聞く姿勢に入った。

 

「私の名前は──カルミナというの。前にも言ったけれど、皆からは『歌姫』と称されることが多いわ。改めて宜しくね、とても綺麗な白猫さん」

 

 人々を魅了するような美しい笑みで、帽子娘──カル、カル……んー……歌姫ちゃんは呟いた。すまぬ、名前は後でもう一回言ってくれ。

 

 しかし、歌姫か……どっかで聞いた覚えがあるような……まさか、本当に此奴俺と会ったことがあるのでは? もし、そうだとしても絶対に俺は非を認めないけど。

 ……お前の属性は聖女ちゃんと同じのようだからな、拒絶するみたいな真似はもうしないであげるよ。

 

「あら。もう、こんな時間。楽しい時間というものは、とても過ぎ去るのが早いものね。此処に来るために勝手に抜け出して……テレス達には悪いことをしてしまったわ。帰ったらこっぴどく叱られちゃうでしょうね。……ふふ、猫さん、一緒に叱られてくれる?」

 

「ゔー……」

 

 嫌に決まってるだろ!

 俺は再び拒絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

『ふふ、猫さん。貴方はいつ見ても液体天使ですね!』

 

 床でグデンと伸びていると、楽しげな聖女ちゃんにそう言われた。

 液体天使……言いたいことはわかるが、微妙に釈然としない。この気持ちはなんであろう。

 

『そして、もふもふ天使、球体天使、肉球天使、お髭天使、ゴロゴロ天使、鳴き声天使、ドジっ子天使……その他諸々全てを司る天使でもあります!』

 

 多いな称号。

 もう天使だけでいいだろそれなら。あと、やっぱり微妙に嬉しくないんで2度と呼ばないでください。

 

 ……ドジっ子はお前だろうがポンコツ聖女がよぉ。

 全てを否定し、批判する気持ちを込めて、俺は鳴いた。

 

「にゃあ」

 

『猫さん……えへへ、気に入ってくれて嬉しいです!』

 

 この結果になるのは解ってたよ。

 

 無敵のクソボケが。

 

 

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
高評価等もありがとうございます! もふもふしちゃうくらい励みになります! お陰様で、猫さんが沢山の称号を獲得しました!
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