聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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49話 猫と恐ろしい

 

 

 

 日の光がよく当たる高台の上。

 聖譚祭の準備が着々と進む街並みを、カルミナは優しい微笑みを浮かべながら眺めていた。

 

 帽子が風で飛ばされるのを防ぐため左手で帽子を押さえ、右手で僅かな“聖魔法”を灯らせている。

 

 そしてニコニコと笑い、見ているだけで楽しいんだと伝わってくるその様子を、後方で護衛の2人──テレスとムクロが、ジッと見つめていた。

 

「あの人……ずっと街見てる……楽しいのかな」 

 

「楽しいのでしょう。雰囲気がポワポワしていますし」

 

「あの人……本当に狙われてるの?」

 

「はい、狙われています……狙われている筈です」

 

 徐々に自信がなくなっていき、声が小さくなるテレス。

 それくらい、カルミナの放つほのぼの感は、現状の不気味な敵の影に対して相応しくなかった。

 

「ん、これは……虚偽に塗れた独り言だから聞き流してもいいけど」

 

「なんですか?」

 

 チラリと、テレスはムクロの方へと視線を向けた。

 

「私、今かなりやる気がなくなっている。感知魔法で凄く探したのに、“神聖殺し”の影も形も見つからないし……他の皆は私を放置して勝手に王都に戻っちゃうし……リーダーはまた失踪するし。これで真面目に仕事しろという方が無理がある。ん、私も依頼キャンセルしていい?」

 

「………」

 

「なんか言って」

 

「聞き流してもいいと言ったではありませんか……」

 

「言いたかっただけ。深い意味なんてない」

 

 面倒くさいことを言うムクロに頭が痛くなり、テレスは蟀谷を押さえた。

 

「キャンセルはナシです。『星詠の聖典』として、私達だけでもやれることをやりましょう」

 

「……もう殆ど帰ったのに?」

 

「ええ。そもそも、彼らが此方に直接連絡もなく帰ったことこそが異常なのです。いくら私たちが自由性を重んじたパーティとはいえ、このようなことはありえない。情報からして、敵による何らかの“妨害”を成されたと考えるのが妥当です。……貴方自身が解っていることを聞くのは、感心できませんよ」

 

「……むぅ」

 

 正論を説かれ、仮面の奥でムクロは唇を尖らせる。

 ムクロとて、本当は理解できているし、肌で直感もしている。今がどれだけ、『異常』な攻め方をされているのかを。

 

 ムクロ達が所属する『星詠の聖典』は、冒険者ギルドから与えられる最も優れたランク──“白金(プラチナ)級”の称号を獲得している、最高峰の“冒険者パーティ”だ。

 どんな難易度の高いクエストでも、一度引き受けたのであれば必ず達成してみせる。護衛、魔物討伐、領地奪還だろうと。

 ソロアムを含めたメンバーの一部の実力は、“英雄級”にも到達しているとされ、ギルドや国からの信頼も非常に厚い。 

 

 確実に任務を達成したいのなら、『星詠の聖典』を呼べばまず間違いないだろう。

 

 そう言われるくらいには、『星詠の聖典』の評価は高かった。

 

 ソロアムが定めたパーティの方針も、『命令でも、やりたくない仕事は駄々捏ねよう! ただし、一度引き受けた仕事は必ず完遂しよう!』であった。

 

 その方針を、破った者は1人足りともいない……にも関わらず。

 

 一度引き受けた仕事を、パーティの大多数が何の理由もなく放棄した、この現状……どう考えても異常と断言せざるを得なかった。

 

「テレスは真面目すぎ……リーダーなら、絶対“臨機応変”って言う」

 

「あの人のは臨機応変ではなく、只いい加減なだけです。……大体今回の護衛任務の件だってそうでしょう。自分も参加すると言っておきながら、いざ直前になると『他の街で大事な用事が出来たから、そっちの任務はよろしく☆』と言って一切の連絡遮断……舐めてるとしか考えられませんッ。そもそもパーティリーダーとしてあの人は──」

 

「………」

 

 『しまった、地雷踏んだ』と考えつつ、テレスの止まらない愚痴を聞き流す。

 

「ん、わかった貴方が全面的に正しいと思う。……でも正直……ザレンやミカヅチ……他のメンバーを纏めて退けた相手に……私達2人だけで対抗できるとも思えない。もっと強そうな人呼ぼう?」

 

「どう足掻いても時間と情報が足りないでしょう……解ってて聞くのは感心しないと言ったばかりですが?」

 

「あ、は、はい。す、すみません……」

 

 怒気の強く灯った瞳に睨見つけられ、ムクロは震える声で謝罪した。

 

「……心配しなくとも、敵は全て私が倒します。溜まった鬱憤を全てブツケたいので……ふふっ」

 

「………」

 

 可憐な笑みを浮かべ、テレスは剣を掲げる。その笑みに潜む強烈な殺気を感知し、仮面の奥で冷や汗を垂らした。

 

「わ、わかった……テレスには普段からお世話になっている気がしないでもないような気がするし……私も、出来る限り頑張る」

 

「……そこは、“お世話になっている”と断言してほしいのですが」

 

「皆の敵討ち……ん、これならやる気が出る」

 

「いや別に皆死んでませんから」 

 

 ムクロのいい加減な物言いに、テレスは溜息を吐いた。

 そうした会話を2人が行っている間も、カルミナは優しい雰囲気を崩すことなく、只街を眺め続けている。まるで、一生目に焼き付けるかのように。

 

 その光景を見つめ、ムクロはポツリと呟いた。

 

「……それに、カルミナは……とても良い人。見てて心地が良い……元々見捨てるつもりなんかない」

 

「! ……ほう。先程、依頼をキャンセルしようとしていませんでしたか?」

 

「む、あれは虚偽に塗れた独り言と言った筈」

 

「しかし、言いたかっただけと──」

 

「記憶にない」

 

 プイっとそっぽを向くムクロ。へそを曲げてしまったその子供っぽい仕草に苦笑してしまう。

 

「兎も角、やる気になってくれたのであれば、それ以上は望みません。貴方が『守護』に転じてくれるのは、非常に助かりますから」

 

「ん、あんまし期待はしないで。にゃんこに会ったら、普通にそっちを優先するから」

 

「気持ちは解りますが……仕事を優先しなさい」

 

「人類にそんな真似はできない」

 

 今までのどんな会話のときよりも本気の声で返され、テレスは眉間を押さえた。

 

「……いくらなんでも堕ちすぎです。貴方も白金級の冒険者なんですから……もっと相応しい行動と言動をしてください」

 

「別に堕ちてない、目を覚ましただけ。でも……大丈夫。仕事後のモフモフエネルギー充電のことを考えたら、元気になれる。だから、ちゃんとやる気はあるし……仕事も熟せる……今までで一番」

 

「モフモッ……な、ならば構いませんが……」

 

 明らかに堕ちた発言。しかし、あの問題児の一人だったムクロがこれ程やる気になる瞬間など滅多にない。

 ムクロのやる気に満ち溢れている姿を確認し、色々と言いたいことを飲み込んだ。

 

「けど……カルミナの姿を見てたら、平和すぎてやる気が抜ける」

 

「それはそうですね……」

 

 小鳥を肩に乗せ微笑むカルミナを見据え、テレスは遠い目をした。

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多くの思惑が交錯し、絶望への螺旋が連なっていく。それは、まさしく地獄への道で、誰もが恐怖する道。知ってしまえば最後、呑気に眠ることすら恐ろしい。何故なら邪悪な魔の手は、すぐそこにまで迫っているのだから。

 

 聖譚祭開幕まで……あと2日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「んぷ……ぴー……」

 

『ふふ、帰ってきて早々……直ぐに眠ってしまいました。夜に沢山……遊んだのですね』

 

「ぷぴー……」

 

『とても可愛らしく、呑気な寝顔……天使すぎますッ』

 

「んぷー………ぴぴっ」

 

『イ、イビキかわいい……恐ろしすぎるカワイさです───ヴッ』

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
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