聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
猫ってめちゃくちゃ身体が柔らかい。
人間の頃では想像のつかなかった凄まじい可動域を有している。
猫は液体とはよく言ったものだ。本当に内臓がどうなってんのか意味不明レベルで身体がグニャグニャ曲がりやがる。
人間でここまでグニャグニャしたら凄いを通り越して気持ち悪い領域だが、猫がやる分には『可愛い、天使』で全てが解決する。
改めて、無敵な生き物だ。
可愛いしモフモフだし液体だしで、言うことが何もない。
ほんと、なにをしたら怒られるのか教えてほしいくらいだぜ。
街を散策中に見つけた石像の上で箱座りをしつつ、俺はドヤ顔になった。そういえば、聖女ちゃん以外の石像の上で眠るのは初めてだな……バレたら『私以外の石像と!』とか言って面倒臭くなりそうなので、一生黙っておこう。
「こらぁ、そこの猫! 今すぐ降りなさい!」
「!?」
うお、ビックリしたっ。
下から唐突に聞こえた声に身体がビクリと跳ねる。声のした方角へ視線を向けると、シスターっぽい綺麗な服を纏った少女が此方を睨み付けていた。
な、なんかよく解らんが猫たる俺を睨みつけるとはなんと不敬な奴。それに、今この俺に降りろと言ったのか?
人間め……身の程を知らぬようだな。我が咆哮の前にひれ伏すがよい!
「にゃー」
「くっ……可愛く鳴いてもダメよ! その石像は大事なものなのっ。いいから降りて、猫用のごはんあげるから!」
なら赦す。
石像からスルリと降りて、俺はシスター少女に擦り寄った。
「あ、あなた随分と現金な猫ね……世渡り上手って言うのかしら」
渡ったことないな。
向こうがいつも勝手に好条件を出してくるので、乗ってあげてるだけだ。猫はなにをしても大ごとにも罪にもならんのでね。
「兎に角、石像に傷がなくて良かったわ。もし傷があったら、司教様にこっぴどく叱られるところだったもの」
そうか。丁寧に扱った俺に感謝しなよ。
「なんで貴方、ちょっと得意気な顔をしているのよ……そもそも貴方が石像の上に乗らなければ、こんなに焦ることもなかったのよ?」
シスター少女がしゃがみ、俺の顎を優しく撫でていく。
おうおう、中々のテクニック。やるじゃないか……褒美にゴロゴロ音をプレゼントしてあげよう。
「ふふ、初対面の人間に気を許しすぎじゃない?」
猫だから問題ない。これはテクニックに対する正当な評価だからな。気にせず受け取れ若人。
「貴方、またヤらかしそうな顔してるわね。……はあ、一応言っておくけど、あの石像は世界で最も偉大な救世主である『聖女』様をイメージして作った代物なの。だから、私たち聖女様を称え信仰する『エルピス教』にとってはシンボルのようなもの。街の人の拠り所でもあるし、特定の人以外は触るだけで不敬罪になってしまうほど貴重なモノなのよ?」
はぇ〜すっごいな。聖女様への信仰も、そのような大事な石像の上で座っても許されてしまう俺の存在も。やはり俺がNo.1か。
にしてもあの石像……どことなく聖女ちゃんに似てる気がするな。座り心地と精巧さは聖女ちゃんの方が上だけど。
「ごはんあげるから、もう登っちゃダメよ。わかった?」
「にゃあ」
仕方ないにゃあ。検討を加速させるんで、はよごはん寄越せ。
「絶対わかってないわね貴方……」
シスター少女が溜息混じりに、俺の頭をワシャワシャした。
これも中々のテクニックだぜ。
◆◆◆◆
『聖女』様の石像の上に座るのは不敬罪に当たるらしいので、暫くは止めておくことにする。シスター少女を困らせる趣味はないのでな。
しかし、ご馳走になったご飯はスゲー美味かったので、またタカりに行くか。異世界に来てから1、2を争う美味さであったし。
明日以降の素晴らしき予定を考えつつ、俺は聖女ちゃんの頭の上で喉を鳴らした。
『私の頭の上で安心してくれる猫さん可愛いッ……うぅ、撫でたい……一生撫でて過ごしたいっ』
禁断症状かな?
聖女ちゃんの場合、もし解禁されたら本当に一生撫でてきそうなので、触れさせるのは遠慮願いたいのだけど。もし触れるとしても、時間制限を設けておきたい。
『猫さん。今日は私、昨日よりも水魔法の持続時間が3分も延びたんです。思っていたよりも、身体の“戻る感覚”がずっと早いのを感じています』
「にゃー」
そっか。
魔法を使えないのでそれがどれ程凄いことか、いまいちピンと来ないけれど……聖女ちゃんに良い情報なら俺は素直に喜ぶぞ。
『ふふっ……未来が楽しみで堪りません。貴方と一緒に歩く世界は、どのような煌めきを抱いているのでしょうか。きっと、世界を救ったあのときの何万倍も、“綺麗“、なんでしょうね。……貴方が隣でいるのなら』
いや重いって。
このちょくちょく挟む想いの丈の重量どうにかならないだろうか。聖女ちゃん真面目だから、恩とか一生引きずりそうなんだよね。恩を売った覚えは微塵もないが。カワイさは溢れ出てたけれどもさ。
『仕事や、家も探さなくてはいけませんね。治癒魔法が使えるのでそれ程困ることはないと思いますが……私は要領が悪いので、人々に迷惑を掛けないかが心配です』
そこは大丈夫じゃね。
聖女ちゃんの使う魔法凄いし。聖女ちゃん俺が絡んでないときは基本優秀の塊じゃん。俺が近寄ると魔力コントロールを乱すポンコツになるが。
『猫に関する勉強も行いたいですし……ふふ、これからやることがいっぱいですね!』
「にゃー」
ほんとにな。
石像の聖女ちゃんがどういう風に社会に溶け込んでいくか、心配でならんよ。
あー、いかんいかん。長い間一緒に居すぎて親猫のような温かい気持ちになっちゃってる。
ダメな子程カワイイの言葉の意味を理解する日が来るとはな……人生もとい猫生、何が起きるか解らんもんだ。
まあ聖女ちゃんは他人を慮れる、優しくて凄い子だし愛されるだろ。『人間』、突き詰めれば一番大事になるのは人柄って言うしね。聖女ちゃんはその点、人格に問題もなくて親しみ易い。大丈夫、ちゃんと成功するだろうさ。
猫たる俺が言うんだ。それだけは絶対に断言できる。
『貴方を護れる純然たる家族になるためにも……私、命に懸けて頑張りますからねっ』
でも、その重いのは止めようね。マジで。
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