聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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52話 猫と宣戦布告

 

 

 

 聖女様の“奇跡”の再臨、そして聖女様が再びこの地に現れることを祈り願う祭典──『聖譚祭』。

 世界を救った救世主を讃えるべく、各地から多くの人々が、このエイコーンに集まっている最中。その幸福な催しに似合わない不穏な影は……水面下でゆっくりと蠢いていた。

 

 

 深夜。

 聖女様の像が祀られている広場へと通じている通り道。

 

 聖女様へと祈りを捧げるカルミナのことを、テレスとムクロはその位置からそっと見守っていた。

 

「カルミナ長いね……かれこれ一時間は経ってる」

 

「積もる話でもあるのでしょう。彼女も色々あったということです」

 

「成る程……乙女心は複雑ってやつか」

 

「多分違いますね」

 

 微妙に違うことを呟くムクロを横目に、テレスは周囲に気を張り巡らせる。

 聖譚祭が迫った今。いつ、どこから敵がやってくるか解らないからだ。

 

「テレス……気が立ちすぎ。そんなに心配なら、もっと傍で護ればいいのに」

 

「そうしたいのは山々ですが、彼女からの要望です。“祈り”の最中は、極力距離を取ってほしいと」

 

「? 破ればいい」

 

「……もし破れば、全力で身を晦ませると言われたんですよッ」

 

「ぷっ……何それ面白い」

 

 頭を押さえるテレスと、思わず笑い声を漏らしてしまうムクロ。

 自由気ままな歌姫に、2人とも完全に翻弄されていた。

 

「ここからでもギリギリ目視は可能ではありますが……カルミナの姿はしっかりと感知出来ていますか、ムクロ」

 

「ん、問題ない。あと、周囲に人の気配も全くない」

 

「であれば、今すぐに仕掛けてくるということはないでしょう……と言いたいところですが、油断は禁物です。これ以上失態を重ねるワケにもいきませんからね。ムクロ、貴方も気を抜かぬようにしてください」

 

「もぐもぐ……ん、分かってる分かってる」

 

「言った傍から何を食べてるんですか貴方は……」

 

 お面を少しズラし、いつの間にか隣で食事を始めているムクロ。のほほんと幸せそうに食べる姿は、気の抜けている姿そのものだった。

 

「露店で買ったにゃんこの形を模倣した、猫型パン……んふふ、これで元気100倍になった。もう、なにも怖くない」

 

「貴方は元々何かを恐れるようなタチじゃないでしょう」

 

「そんなことない。私は、結構怖がりだよ。顔が鬼のようになったときのテレスには、普通にビビってる」

 

「誰の顔が鬼ですか誰の」

 

「あいてっ」

 

 恐れ知らずの妄言を喋るムクロの頭にチョップを叩き込む。

 僅かに蹲り頭を擦るムクロを見つめながら、テレスは小さく息を吐いた。

 

「何をしようと度が過ぎていなければ咎めるつもりはありません……が、気だけは抜きすぎないように。それではいざというときに動けませんし、カルミナを護れないですよ」

 

「むぅっ……めっちゃ頑張ってるのに……カルミナのことも周囲の気配もしっかり感知できてる。ちゃんと、程々に集中もしてる。猫型パンも食べた。今の私なら、違和感があれば、絶対気が付け───ッッ!!」

 

 仮面の奥で目を見開き、弾けるようにムクロは立ち上がった。

 

「ど、どうかしたのですかムクロ」

 

「ごめん、テレス……しくじった」

 

「──────」

 

 短く、簡潔に謝罪を述べる。

 何かを感知できたワケではない。寧ろカルミナや、自分達以外の誰も感知できていない。しかし、一度意識すると解る、小さく、そして惑わしてくるかのような繊細な違和感。

 

 根拠などないが、だからこそ確信できる。この“違和感のなさ”こそが“違和感”なのだと。

 

 一度足りともこんな経験はないが、知識としては知っている。まさか、私を相手に本当に実践できる者がいるなんて。

 

 敵の強大さを見誤っていたと確信し、ムクロは漸く感知できた違和感の正体──空間を漂う黒い霧へと視線を走らせた。

 

「私の感知魔法を惑わす程の、強大な“幻影魔法”が展開されている。完全に先手を奪われてた……ごめん」

 

「問題ありません。貴方だから、ここまで早く気が付くことができたのでしょう。切り替えてください」

 

 剣を抜き、テレスは気力と殺気を爆発的に高める。どうやら、気が抜けていたのは此方の方だったようだ。

 

 幻影魔法は、空間や相手を惑わすことに特化した魔法。優れた使い手程その精度は精密かつ完成された“現実”と遜色なく、見破ることは困難を極める。

 

 ムクロを惑わす程の完成度。ここまでの幻影魔法を体験した記憶は、テレスにはなかった。

 

 得体が知れない。故に、今取るべき最善の行動は決まっている。

 

「護るためにも、今すぐにカルミナの下へと行きます。約束を破ることにはなりますが……緊急事態です。後で2人で謝りましょうね」

 

「え……私も謝るの? なんにも約束してないのに」  

 

「仲間が困っているときは、助け合うのがパーティの掟ですよ?」

 

「うげっ」

 

 いつも通り、露骨に嫌な雰囲気を出すムクロに軽く笑みを溢し、テレスはカルミナの所へ行くべく地を蹴った──が。

 

「ッ! テレス、上!」

 

「──!!」

 

 何もなかったはずの上空から、突如として1本の槍が出現し、凄まじい速度で地面へ突き刺さる。

 ムクロの咄嗟の呼び声に反応したお蔭で、強烈な槍の一撃を間一髪で避けられた。しかし、その余波を諸に浴び、テレスはムクロが居た位置まで吹き飛ばされる。

 

「ぐっ!」

 

「大丈夫!? テレス!」

 

「問題、ありませんっ」

 

「……よかった。そこら一帯に幻影魔法が展開されてる。目に映る景色を信用しすぎないで……私でも見破ることは不可能に近い」

 

 厄介と断言せざるを得ない情報。そして、何より降り注いだあの槍の威力と、悪意を突破できない自分への苛立ちで、テレスは眉を顰めた。

 

「ん、黒い霧が……どんどん深く広がってきてる。もう、隠す気もないみたい」

 

「くっ、カルミナッ……」

 

 自由気ままで、我儘な少女の名を呼ぶ。ここ最近は、ずっと儚い表情しか浮かべて居なかった、あの少女の名を。

 護衛任務を請け負った『星詠の聖典』として、ここで引くのだけはありえない。何としてでも、この先を突破し彼女の下へ行かなければ。胸を駆け巡る焦燥感と不安感に身を焼きながら、テレスは瞳の色を鋭くした。

 

「──まさか、あの一撃を避けられるとは思わなかったぜ。流石にやるじゃねえか……『星詠の聖典』」

 

「ッ、誰だ!!」

 

 2人を取り囲むように展開された黒い霧から、ふと響いた声。どちらとも方角が解らないまま、剣を構えた。

 

「ムクロ、黒い霧の中に誰かを感知できますか?」

 

「ッ……できない。完全に術中に嵌められてる」 

 

 悔しげに、ムクロは首を振った。

 

「そう怖い顔すんなよ。今宵を面白くしてくれそうな礼だ……ちゃんと名乗ってやるよ。な? 嬢ちゃん」

 

「うぇ!? え、えっと……な、な、名乗りはコミュニケーションの基本ですからっ……は、はい。対話を成立させるためにも……な、名乗りますっ」

 

「ははっ、そうでなくちゃな」

 

 暗闇の中から聞こえる、2つの声。

 気味の悪い幻影と、まるで気配の感知できない周囲に身構える。

 

 そして、緊張の迸るテレスとムクロの前に──声の正体であろう2つの影が、幻影の中から姿を現した。

 

「この世に“幸福”を齎らさんがために集まった最低最悪の組織、【無秩序(イセフェト)】の一人──“乱槍(らんそう)”の青」

 

「お、同じく“天秤(てんびん)”のプレンフィル」

 

 圧倒的とも呼べる威圧感。2つの巨星が……降臨する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 青とプレンフィル。2人の強大な敵を前にして、テレスの起こす行動は早かった。

 

「〈雷鎚(イカヅチ)〉!」

 

「うおっ、いきなり攻撃かよ! せっかちな奴だぜ!!」

 

「ひ、ひいいいい! な、名乗ったのに攻撃されてんですけどおおおお!?」

 

 迸る雷を躱しつつ、2人は声を上げる。姿を現した途端、テレスがこのような行動を取るとは予想していなかったからである。

 

 しかし慌てているようで、全く淀みなく自分の攻撃が完璧に対処されている事実に、テレスは表情を歪めた。

 

 ──強い。

  

 先の一撃は、多くの手練を仕留めてきた雷鳴の攻撃。それを初見でこうもあっさり攻略してみせるなど、並大抵の芸当ではない。

 

 冒険者のクラスで言えば、間違いなく“白金級”以上の実力。そのため、手加減などできそうになかった。

 

「ムクロ! 今すぐカルミナの所へ! 貴方なら幻影魔法で覆われていたとしても、彼女の所に辿り着ける筈です! 彼らは私が相手をします!」

 

「了解」

 

 敵がこの2人だけとは限らない。色々と聞きたいことはあるものの、飽くまでも最優先はカルミナの護衛。

 

 知りたいことは、彼らを戦闘不能にした後に聞けばいい。

 そう結論づけたテレスは、剣に雷を纏い、2人に放った。

 

「受けるがいい──〈雷線火(ライセンカ)〉!!」

 

「げ! んだそりゃ」

 

「わ、わ……ァ」

 

「おい絶望すんな嬢ちゃん!」

 

 炎のように不規則に揺れ、超速で襲い掛かる雷を紙一重で防御しつつ、青とプレンフィルはテレスから距離を取る。

 

「物騒な奴だぜ……挨拶も返さねえとか、あの女にゃ品性ってもんがないのかね」

 

「う、うぅ……服が少し焦げました。頑張って挨拶をしたのに、いきなり攻撃されちゃうし……か、悲しくて吐きそうですっ」

 

「吐いたら見捨てるぞ」

 

「ひ、酷いですぅ……」

 

 メソメソとし始めるプレンフィルを一瞥することすらなく、青は真正面にいるテレスを見つめた。

 

「ま、判断が早い奴は大好物だけどな。カルミナの護衛を、心の中で第一に添えているからこそ、ここまで躊躇なしに行動出来るんだ。そういう奴は損得勘定に長けているし、いざってときの瞬間にめっぽう強い。へっ、コイツは大当たりだな」

 

「あ、あの、あ、青さん……今日は──」

 

「あ? あー……わーってるって。俺だってミリスを敵に回すような真似は流石にできねえよ」

 

 熱を冷ますように頭をポリポリと掻く。今日の目的は解っている、決して本番じゃないということも。……だが。

 

 両足に雷を纏い凄まじい速度で此方へ近付いてくるテレスを前に、青は口角を上げた。

 

「こちとら大切な相棒を失って傷心中なんだ。向こうが話も聞かずに仕掛けてくるんだったら、遊ぶくらいは赦されたっていいだろう? 嬢ちゃん、お前はもう一人の方の相手をしてくれ」  

 

「え、そ、それって──」

 

「させるものかッ! ──〈雷迅玉(ライジンギョク)〉!」

 

「ひ、ひええええ!!?」

 

「はっはっはーー!!」

 

 降り注ぐ雷の玉を槍で薙ぎ払いながら、獰猛な笑みを溢す青。

 テレスと青。全ての違和感を遮断する幻影の中で。事情は違えど、互いに溜まった鬱憤を晴らすかのごとく、2人の戦士は火花を舞い上がらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「随分と……騒がしい音色ね」

 

 プレンフィルが展開した幻影に侵食されている筈の広場で、カルミナは正確に周囲の音を聞き取っていた。

 耳を澄まし、僅かに聞こえた足跡の記憶を辿り、彼女は誰も居ない後方へ問いを投げかける。

 

「貴方達が原因かしら?」

 

「あは、やーっぱりバレてた♡」

 

 透明な景色に、黒い霧が発生する。そして、その黒い霧の歪から一人の少女がゆっくりと象られていった。

 

「ハジメマシテ。キレイな歌姫様」

 

「………」

 

「えー……シカトォ? ミリス悲しくて泣いちゃうよぉ……しくしく」

 

 ワザとらしく泣き真似をするミリスに、目を細める。

 心を震わせる、底の知れないオーラ……彼女から感じるものは、今までにない種類のものであった。  

 

「そんなに警戒しないでほしいなぁ……ミリス、悪い人類じゃないよ?」

 

「……そうかもしれない。けれど、強制的に警戒が出来なくなっている感覚があるのよ。こんなことをされて、警戒しない程私は能天気なつもりはないわ」

 

「……へえ。そこまで見抜くんだ……流石だねぇ」

 

 頬を緩め、ミリスは笑みを浮かべた。

 

「ミリス……貴方は、私を狙っている賊の一人ね?」

 

「えへ、ちがーう! ……て言っても、無駄か。歌姫様と他愛ない話ができると思ってたんだけどなぁ……残念」

 

 薄い笑みを張り付けたまま、首を傾げる。その愉しそうに笑う姿は、とても無邪気で、警戒心を無理矢理紐解かれていく感覚に見舞われた。

 

「ミリスが声を掛ける前から、とんでもない警戒心が貴方にはあった。ふふ、ミリス達が狙ってるって、知ってたんだ?」

 

「ええ、一応はね。今までにない強大な影が蠢いていることは、何となく察していたわ」

 

「それを知ってて一人で待ち構えていたの? 豪気だねぇ」

 

 クスクスと笑うミリス。カルミナのする選択肢の一つ一つが、面白くて仕方がないといった様子である。

 

「皆が、私のために戦っているんだもの。どんな困難であろうとも、私だけ逃げる選択肢なんてないわ」

 

「……やっぱり見に来て良かった。貴方の人柄を知れて、ミリス今とっても幸せだもの! 本番はとっても愉しいことでいっぱいになりそう!」

 

「な、なにを………くっ」

 

「あ、ごめんねぇ。魔法を使った覚えはないんだけど、ちょっと漏れてたみたい……てへっ」

 

 ミリスが無意識に放ったオーラにふらつき、カルミナは膝をつく。

 身体が、心が、魂が。揺らされているみたいに、立つことすらままならなくなったのだ。

 

 しかし、それも数秒のこと。揺らぐ魔力と呼吸を直ぐに整え、再びカルミナは立ち上がった。

 

「ふー……本番っ? 何の話かしら?」

 

「一瞬で立ち直った。ほんと凄いねぇ……歌姫様。拍手を送ってあげよう、ぱちぱちぱち〜」

 

 1割の出力もなかったとはいえこの能力を乗り越えてみせたカルミナへ向けて、ミリスは惜しみない称賛の拍手を送る。

 種族上の特性ではない、彼女自身が備えている恐るべき精神力。この世界で稀に見る傑物であると、ミリスは目を細めた。

 

「ふふ……本番は本番だね。貴方を攫う、“聖譚祭”本番のこと。イヒヒ、今日は飽くまで宣戦布告だよぉ」

 

「宣戦、布告? 今、攫いに来たのではないの? 今ならば私を捕まえられるでしょう……抵抗は当然するけど」

 

「んー……それじゃあ、あんまり面白くないっていうかぁ……愉しいことができないじゃん! 見たいものが見れないし!」

 

「………」

 

 ミリスの言っていることはワケが解らないし、良い予感も全くしない。恐らくカルミナだけではなく、この街全体に良くないことを齎すつもりだろう。彼女は、悪い願いを叶えるだけの力がある。

 喉が震えそうになるのを耐えながら、カルミナは気丈に前を向く。

 

「お願い……教えてほしいのだけど」  

 

「んー……なあに? 頑張ったご褒美に、なんでも答えてあげるよ〜」

 

 上機嫌で、愉しそうに笑うミリス。確かに今の彼女ならば、どんなことも答えてくれるだろうという奇妙な確信があった。

 

 彼女に聞きたいことは、沢山ある。なぜこんなことをするのか、正しい道を選ぶつもりはないのか、何処まで私のことを知っているのか。その他にも、沢山。

 しかし、その中でも。ミリスという人物を見極めるために……一番聞かなければならないことを、カルミナは問う。

 

「貴方は……この街で一体、何が見たいの」

 

「───混沌」

 

 間髪入れることなく、とても素敵な笑顔でミリスはそう言った。

 

「無秩序、絶望、罪、破壊……これらが巻き起こる混沌の中。聖なる貴方がどんな選択をするのか……ミリスはそれが見たいんだ」

 

「なっ───」

 

 思った以上の最悪な回答に、カルミナは絶句する。目の前にいる可愛らしい少女が、“魔性”を帯びた何か別の生き物に見えた。

 

「ペソンの立てた計画を、ここまで話すと拙いんだろうけれど……たまにはいっかぁ! とても強く綺麗な心を持った貴方には、全部知って貰ったうえで、頑張って欲しいんだもの!」  

 

「あ、貴方は──」

 

「今から話す情報を、“本番”が始まるまで誰かに喋ること、もしくは行動を起こすことは【禁止】ね。でも安心して? 貴方も貴方で何か企んでいるようだけど、それらをミリスに言う必要はないよ。本番のときの愉しみにしておくからさ!」

 

「ッ!!」

 

 先程の比ではない、魂を震わせる言葉に歯を食いしばる。認識することすら難しい『言葉』に、一瞬カルミナは息が止まった。

 

「あ、あな、たはッ……一体何をす……ッ」

 

「ふふ……【よく聞いてね】。エルピス教会と冒険者組合に、それぞれ一つずつ……とてつもなく強大で、聖女様クラスでもないと解呪が不可能な恐ろしい『呪物』を仕掛けたんだ。明日、聖譚祭の最中に完全に解放されて、人々を狂わせるように設定されてあるの。何も知らない狂った沢山の人達に、何も知らない沢山の人達が襲われる……あはっ、それが──“本番開始”の合図だよ」

 

「ッ!!!!」

 

 恐ろしいことを満面の笑みで告げるミリス。

 明日、必ず訪れる最悪な結末に、カルミナは目眩がした。

 

「そんなことが、起こるくらいならっ……私は今直ぐにでも──」

 

「降伏は推奨しないよ。そんなことシても、どのみち呪物は解放される。アイツは、ミリスとおんなじくらい性格悪いからねえ……聖譚祭の日を狙ったのだって、聖女様を慕う多くの人々が苦しむ姿をみたかったからだろうね」

 

「………っ」

 

「届かない“神話”を憎み続ける酔狂な化け物なの。だから“聖天族”である貴方を狙い、彼女の作った秩序をも破壊したがっている。貴方は、そういうのを見捨てられないでしょ?」

 

 当たっている。見捨てられるワケがない。人々を……聖女様の作った平和な世界を。

 

「さあ、貴方の選択。貴方の道。貴方の夢。貴方の心意気。貴方の輝き。全部見せて───抗ってよ、絶望に」

 

 ミリスから、包み込むかのような優しい抱擁を受け、息を呑む。

 

 決して逃れることのできない地獄への道……この道を選んでから、いつかは来ると思っていた。

 

 自分が、聖女様に命を救われ生き残ったあの日から。聖女様のようになりたいと希った、その瞬間から。

 

 いつかは、やって来ると。理不尽で、残酷な運命が。

 

「──ふふ、順番が回ってきたということね」

 

 カルミナは、笑顔で覚悟を決めた。

 

 聖女様のように、全ての運命を受け入れる覚悟を。

 

「全てを貴方達の思い通りになんかさせない。私のことはどうなろうと構わないわ……でも、無辜の人々への手出しだけは絶対に赦さない。私の歌は、彼らを救済するためにあるのだから」

 

「──……あはっ、満点だよ♡」

   

 聖譚祭まで、あと1日。

 

 残酷な運命が、始まる──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 そこら辺の屋根の上で、俺はなんかグルグルと同じ所を周り続ける骸骨少女のことを眺めていた。

 

 こんな夜中に何やってんだアイツ……ボケてんのかな。

 

 それに、遠くの方で雷みたいな何かがピカピカ光ってるし……結構大きい音鳴ってるぞ。なんで誰も気が付かないんだ?

 

 猫の聴力が人類の何倍も優れているのを差し引いたとしても、普通気が付くだろう。

 

 ……人類ってもしかしなくとも阿呆ばかりなのかな。

 

 何故か必死に周り続ける骸骨少女に一声鳴いた後、俺は大きく欠伸をした。ほんと、お可哀想な人達。

 

「みゃあ」

 

「に、にゃんこのカワイイ声が聞こえた気がするっ。……くっ、こんな幸福な幻聴まで用意しているなんて……本当に強敵ッ」

 

 何処が幻聴やねん、張っ倒すぞ肉球で。

 

 

 

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございました! お陰様で猫さんが欠伸をしました!

とんでもなく励みになりますので、もしよろしければ高評価等を宜しくお願い致しますッ。
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