聖女様の飼い猫   作:もふもふもふも

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53話 猫と開幕

 

 

 

 ぐるぐると周り続けるいつも通り様子の可怪しい骸骨少女や、ピカピカと雷っぽい何かが光る暗闇から、一夜明けた早朝。

 

 廃教会の入り口から、俺は降り注ぐ雨を見つめていた。

 

 睡眠も取り、さあ今日も哀れな人類にカワイイをくれてやろう! と思っていた所だったのに……すんごい水を差された気分だぜ。

 

 昨日まで晴れ渡ってただろうがよ……急に降り出しやがって。ほんと、空気読めやボケ雨が。カワイイ俺が散歩できないじゃん。

 

 台風のように強く降る雨への憎悪を込めて、尻尾を大きく振りながら俺は鳴いた。

 

「なーん……」

 

『猫さん……悲しそうに鳴く声と、感情を顕すように大きく振られる尻尾……そして、憐憫を誘うその後ろ姿。ああ、なんて可哀想にっ』

 

 別に憐憫を誘ってはいないが……今は憎しみを抱いているワケだし。

 見当違いな解釈をする聖女様の方へと振り返り、尻尾を弾ませる。

 

『ぐぅッ……フォ、フォルムと仕草がズルすぎますっ……わ、私は……こんなにも罪深い人だったのですねっ。悲しむ猫さんに可愛さを見出すなど……何という大罪。何という強欲。うぅ……ごめんなさい、猫さんっ』

 

 まーた勝手に湿度を高くし始めたね。聖女ちゃん、真面目な天然さんだから変なことばっかり気にするんだよな。聖職者の性ってやつであろうか。

 今の俺は気が立っているので、そういうのご遠慮願いたいのだけど。

 

 俺は、威圧的に聖女ちゃんを睨み付ける。これ以上湿度を高くすることは赦さぬ……さもなくば、必殺の悩殺腹出し攻撃をお見舞いしちゃうぞ。

 

『カワイイ顔で私を見つめてくれる猫さん……永久に天使ですっ。こんな罪深い私を、貴方は気に掛けて下さるのですね……くっ、わ、私の猫さんが世界一優しいっ』

 

 コイツほんと繊細なのか逞しいのかがワケわからん奴だな……拗れるの面倒臭いし、それでいいけども。

 

『罪滅ぼしになるわけではありませんが……せめて私も、猫さんの隣に寄り添わせてください。私が辛いとき、貴方が寄り添ってくれたように……今度は私が、貴方に寄り添います。一生』

 

 一生は止めてね。

 

『“魔法”とは、想いや願いをカタチにする力のこと……私の抱く、猫さんを幸福にしたい、傍にいたいという気持ちは、誰にも負けません。どうか受け取ってください──【猫さんに寄り添う魔法】』

 

 重いな……。

 俺の隣の空白が僅かに輝き、聖女ちゃんの想いに呼応するように形を成していく。一体何が作られるんだろうか。

 ……まあ? 何が作られようとも、今回は聖女ちゃんの気持ちを素直に受け取ってあげるのも吝かではない。たまには、そんな結末も悪くはないか──

 

『今回は、鼠を象ってみました。蝶やカエル、バッタ等は猫さんに襲われちゃいますからね……それに猫と鼠は、仲が良いという話も聞いたことありますし……ふふ、完璧な選択です! さあ、これで一緒の時を共有できますね、猫さ──ぶべら!?』

 

 俺は、鼠を吹っ飛ばした。

 

 狩りを始めましょう。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

『ま、待って! 待ってください猫さん! どうか話し合いましょう! 私は、貴方の傍にいたいだけなんです!!』

 

 じゃあ逃げないでくれません? 傍に置いてやるからよ。

 逃げ惑う聖女ちゃん(鼠)を、俺は猛追する。流石にクソ雑魚大鼠とは違って一撃では仕留められないし、元気も有り余っているようではあるな。

 良い、実に良い。そうでなくては狩りが全く盛り上がらない。最近は、どいつもこいつも挨拶代わりの軽い一撃で昇天する、不届き者ばかりであったからな。

 

 日頃溜まりに溜まった狩猟本能と、この天候に対する苛立ち……今、存分に発散させてもらうぞ。

 

『私は、悪い鼠ではありませんっ。貴方の隣にいたいだけの、そ、そう……お友達です。猫さん、お友達にこんなことをしてはいけません!』

 

 友達なら一緒に遊んでくれよ。大丈夫だ、簡単にトドメを差したりしないから……目一杯あそんであげるから。

 

『痛覚はありませんが、コントロールがブレる……恐怖とカワイさが混同したこの感覚……ぐっ、猫さんは卑怯です。危険が危なすぎますッ』

 

 危険が危ないのか……言葉が可怪しくなってるぞ。いつもだが。

 

 ボロボロのソファの下に逃げこむ鼠を仕留めるべく、俺は頭からソファの下に突っ込んだ。

 

 ちっ、ギリギリ前足が届かぬか。運の良い奴め。

 

『あ、危なかった……ここまで追い詰められたのは、竜が【世界を焼き尽くす魔法】を放ってきたとき以来でしょうか……とっても焦っちゃいました』

 

 さらっと物騒な魔法が出たな。聖女ちゃんの経歴が気になっちゃうぜ。

 前足を伸ばしつつ、俺はコロンと転がる。うーむ、届かぬわ。

 

『くっ、カワイイ……しかしダメですッ。今回の目的は、飽くまで猫さんに寄り添うこと。故に、此処で狩られるワケにはいかないのです。猫さんは優しいから、今は興奮していても必ず解ってくれる筈……私の象る生き物を、狩ろうとする癖が出来ちゃうのもよくありませんし』

 

 まるで俺が悪いことしてるみたいな言い草じゃんね。

 俺が狩りたくなるようなモノばかり作る聖女ちゃんが悪いと思うんです。もし聖女ちゃんが悪くないのだとしても、俺が悪いという結論には絶対ならないが。

 

 存在するだけで世界を救ってしまう最強カワイイにゃんこな俺は、何をしても赦される。そうでしょう?

 

『猫さんに変な狩り癖がつくのは、家族として許容するわけにはいきません……とても悲しいですが、猫さんの傍にいるためにもここは心を鬼にします。これでも、私は結構頑固で通ってたんです……絶対、譲りませんからねっ』

 

 心に芯の通った強い声で、聖女ちゃんは言う。

 

 こうなってしまっては、確かに聖女ちゃんの鼠を狩るのは難しい。前足を伸ばしてもギリギリ届かないし……ぐぬぬ、仕方ない、一旦見逃してやるわ。物凄く不服ではあるものの、聖女ちゃんの心意気に免じて諦めてあげる。一生感謝しなよ。

 

 後ろ足を使い、お尻を振りながら俺はソファの下からモフリと脱出した。

 

『猫さん……ああ、解ってくれたのですねっ』

 

 俺の行動に、感極まったかのような声を出す聖女ちゃん。

 最初から聖女ちゃんの言葉は解ってるに決まってんだろ。解ってたうえで追い掛け回してたワケで。

 

 身体をグッと伸ばし、俺は鳴いた。

 

「わん」

 

『え? ね、猫さん今……貴方は、猫の身でありながら、“わん”と鳴いたのですか? な、なんですかそれ……か、可愛すぎます! お、願いします! もう一度鳴いてくださ──ひでぶっ』  

 

 俺は叩き潰した。

 

 鳴き声一つでノコノコと姿を現すなんて……やはりこの子はクソボケなのかもしれない。

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 鼠を叩き潰した後。

 聖女ちゃんの肩までよじ登り、俺はゴロゴロ音をプレゼントしてあげていた。

 

 なんだかんだ言っても、聖女ちゃんのお蔭で陰鬱とした憎しみが多少はマシになったワケだからね……これは正当な報酬である。

 

 感謝の気持ちを忘れない俺は、世界一義理堅い猫であろう。

 

『ね、猫さん……結果は何であれ、喜んでくれたのですねッ。うぅ……カワイイ、尊い、好きッ』

 

 うん、知ってる。

 でも全部合ってるから、今回はご褒美を沢山あげようではないか。

 

 聖女ちゃんの頬に、俺は前足を押し付けた。おら、喜べ!!

 

「にゃあ」

 

『あ……あっ。そ、そんな……こ、こんなのって……か、か、可愛すぎますうううううう!!!!』

 

「!?」

 

 発狂と同時に、聖女ちゃんからおそろしく大きく、強い光のオーラが立ち昇り始め驚愕する。

 

 喧しいのは平常運転であるが……この光のオーラは一体なんだろうか。なんでもいいけれど、間違いなく雨空に届いてんだろこの勢いの激しさと強さ。

 

 相変わらず、凄まじい奴だぜ。まあ、俺の身体に何の悪影響もなさそうだから赦してあげるけれど。

 

 天空へと立ち昇る光のオーラを眺めながら、俺は尻尾を弾ませた。

 

『尻尾を弾ませる猫さんも天使すぎますっ。ああ、カワイすぎて辛いッ』

 

 

 

     

  

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 人々は、驚愕した。

 

 そして、深く、強く、信心深く感謝した。再び“奇跡”が再臨したことに。

 

「う、うそ……空が……晴れた」

  

 雨空が晴れ、祝福するように射し込む日の光を見つめて、誰かが呟いた。

 

 “聖譚祭”当日でありながら、今日は生憎の天候。ドシャ降りの雨を見て、誰もが中止と判断していた。

 

 誰もが、そのときは暗い気持ちを隠せなかった。こんな素晴らしい日を、時間を、世界を。作ってくれた大切な御方を讃える祭りを、中止せざるをえない。

 

 幸福に、少しだけでもいただいた恩に報いることすら許されない。遥か遠い存在が、また遠くに行ってしまったような気がする。

 

 人々は、喪われた機会を深く嘆いていた。

 

 しかし、たった今。全ての暗澹を打ち払ったあの時のように、天へと立ち昇った“光”を目にして。

 

 人々は歓喜し、祈る。讃える。感動に震える。

 

 世界を救った最も偉大な救世主は、どこまでも“健在”なのだと。

 世界を見捨てない、皆を笑顔にする“希望”そのものなのだと。

 

 誰もに、“幸福”の火が灯った。

 

「おかーさん! すごい! すごい! お空が晴れたよ!! とってもキレイ!」

 

「ああ、聖女様……偉大なる我が主! この想いをどうお伝えすればよいのか! 貴方様こそやはり世界を統べるに相応しい!」

 

「聖女サマ……聖女サマ……ああ、聖女サマ!」

 

「聖女様は、我々のことを見てくださっている! 見守ってくださっている! この世界を好きでいてほしいと祈ってくださっている! この気持ちに応えずどうするか! 行動で示さずどうするか!」

 

「今こそ聖女様を讃えるときなのよ! 感謝し跪くときなのよ! 世界を救ってくださった聖女様に、“幸福”を捧げるときなのよ!」

 

「聖女様……私は──」

 

「聖女様万歳! 聖女様万歳!」

 

 希望が、夢が、願いが、幸福が伝染する。

 

 自分達のために、悲しみを晴らすために、再び聖女様は“奇跡”を齎してくれた。希望の光を上げてくれた。

 

 讃えることしかできないあまりの『美しさ』に、人々の心には火が灯り、温かく染まっていく。

 

 幸福な世界は、今、此処に存在した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一時はどうなるかとおもったけど……あはっ、さいっっこうの始まりじゃーん♡」

 

 その光景をプレンフィル達と見守りながら、ミリスはクスクスと笑っていた。

 浮かべる笑みには果てしない『愉悦』が見て取れ、これから先の未来が待ち遠しくて仕方がないのがよく解る。

 

「本当に面白くなってきたなぁ。地獄から天国……そこから更に、上がってこれなくなるほどの地獄へと叩き落とされたときの人の顔ってどうなるのかなぁ……ふふ、愉しみ♡」

 

「プレンフィル……あんな風になっちゃダメだぞ。世界が破綻するから」

 

「うぇ!? え、あ、は、はい……そ、それは……はい、もちろん」

 

「あはっ、2人とも【本殿】送りにしちゃうよ?」

 

 告げる言葉に震え上がる2人を見つめ、ミリスは嗤う。

 

 多くの思惑が渦巻く中、いよいよときは訪れた。

 

 

 『聖譚祭』が、始まる。 

 

 

 

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございました! お陰様で猫さんが沢山遊べました!

凄く励みになりますので、もしよろしければ高評価等を宜しくお願い致しますッ。
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