聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
先程までの大雨が嘘みたいに晴れ渡った快晴。
興奮しまくる聖女ちゃんを放置し、俺は機嫌よく街の中心部にへとやってきていた。
雨上がりの天候というものは、とても気分が良い。ポカポカと温かい空気がじんわり辺りを包んでいく感覚がある。
俺の神をも超越せしモフモフは、そういう晴れの温もりを物凄ーーく感じ取ることができるのだ。どこか良い感じの場所があれば、お昼寝がしたいもんだぜ。
「次、岩石クッキー買おうよ! 向こうの屋台で売ってるらしくて、すっごく美味しいんだって!」
「次はブルーアップル食べたいなぁ!」
「向こうの射的景品超豪華らしいよ! いこいこ!」
「うえ!? しまった金がもうねえ! 聖女様絵画展で金を使いすぎちまった! ツ、ツケにしてくれたりは……」
「できるワケねーだろボケが」
「
……まあ、この騒々しさじゃあ大変そうだけどもね。
可愛らしく路行く下々の民達をそこら辺の屋根の上から観察しながら、小さく尻尾を弾ませた。
ふん、バカのように集まりよって……これだから人類は。
前のときと同じく、この喧騒が“祭り”によるものだということは、何となく想像はつくが。見たこともない色んな露店が出店されてるし。
しかし前回の祭りのときよりも、人が多い感じがするな……こいつが『聖譚祭』? というやつであろうか。知らんけど。
「あー畜生、全然客が来ねえ! “緑魚すくい”、南の方じゃ結構人気なんだがなぁ……この街は王都勢が多いし、客層が違うのかな……」
露店のお兄さんが超嘆いてんな。
だが、ほう……“緑魚すくい”とな? 金魚すくいみたいなものだろうか……もしそうならめっちゃ遊べるじゃん。今日のごはんはお魚かな。
遊び道具確保のため、俺は“緑魚すくい”なるものを行っている露店にまでするりと降り立った。
カワイイ俺が降臨してあげたぞ、生涯感謝しなよ!
「にゃあ」
「うお!? ね、猫……い、いつの間に背後に……一瞬客かと期待しちまったじゃねーか」
客だぞ。世界一高貴なね。
カワイイ前足を上げ、緑魚が泳ぐ巨大なプールをジッと覗きこんだ。
ふむふむ、見た感じ、普通の金魚とサイズ感は一緒だな……扱う道具も殆ど一緒のようだし。違うことがあるとすれば、魚の色が緑だということくらいだ。何であれ、遊びやすいサイズということには違いない。
「なんだ……うちの商品が気に入ったのか? 流石は猫ちゃん、見る目があるじゃないか」
俺もそう思う。俺って、世界で一番見る目があってカワイイ生命体だよね。故に、何をやっても赦されるのだ。
右前足を水につけ、チャプチャプと俺はお魚へと足を伸ばした。
「あ、コラ! 止めろ! うちの商品にちょっかいかけんな!」
ちょっかいじゃない、これは狩りである。2度と履き違えるでないぞ。
「猫ちゃんよ、お前のカワイイあんよさんが濡れちゃってるぞ! 気が付いてないのか!?」
……あ、ほんとだ、俺のカワイイ右前足が濡れちゃってるぜ!
き、貴様……まさかこれを狙って“緑魚すくい”などという露店を始めおったのか? 何たる不敬、絶対に許さん覚悟しろぉ!
慌てる緑魚すくいのお兄さんの方を向き、俺は渾身の“睨み付ける”を放った。
「……え? 俺が悪いの??」
お前以外に悪い奴などいないだろうが。この落とし前、どうつける気だ?
「はーー……どれだけ自由気ままな振る舞いをしやがるんだお前は。猫に言ったって仕方ないけどさ……ほら、前足拭いてやるからこっちにこい」
じゃあいいよ、赦してあげる。
でも“こっちにこい”と言われて行くほど、俺は軽い猫じゃねえぞ。俺に来て欲しいのなら、相応のごはんを用意してもらおうか。
「全然来ないし……ま、猫が言うこと聞いてくれるわけもねーか……はは。遠路はるばる此処に露店を開きにやってきて、来てくださった客は片手で数えられる程度。熱心に楽しんでくれたのが猫一匹だけとなりゃあ、流石に落ち込んじまうよ。面白いんだけどなあ、“緑魚すくい”」
空を見上げ、黄昏始める緑魚すくいのお兄さん。よっぽど自信あったんやろなぁ。
元気だしなよ、カワイイ俺に会えたんだからさ。それだけでお前は、世界で最も幸運に恵まれた者の称号を獲得したに等しいんだよ?
「ショバ代だってバカにならねえのに、どうすっかなぁ……どうすりゃいいと思う? 猫ちゃん」
「にゃあ」
俺にごはんを献上すればいいと思う。
「ははっ……そうだな。“にゃあ”だな……よし、なんかお前見てると元気出てきた。もっともっと、頑張ってみるか──」
「やあ、猫ちゃん。たまたま君の姿が見えたんで、ついつい立ち寄ってしまったよ……こんにちは」
あ、銀髪エルフさんこんにちは。お前とはよく会うなぁ、ほんと幸運を味方につけた奴だぜお前は。
可憐な笑顔で露店に顔を出した銀髪エルフさんに、俺は礼儀正しく挨拶を返した。
「にゃあ」
「ふふっ……にゃあ」
「あ、い、いらっさ! いらっしゃ……ごほんっ。いらっしゃあああい!」
うるせぇ!
銀髪エルフさんを見た途端、テンションが上がりまくってる緑魚すくいのお兄さん。
客が来てくれて嬉しいのはわかるが、耳障りだから声のボリュームをもうちょい落とせ。
「ん、やあこんにちは。とっても元気の良い挨拶だね。君がこのお店の店主かい?」
「はい! やらせてもらってます店主!」
「それは凄い。見た所、まだまだ若いだろうに……立派だね」
「はっ、ありがとうございます! 折角の縁ですし、お姉さんも是非ともやってみませんか!? “緑魚すくい”!」
「“緑魚すくい”……南の国、ノトスで流行った遊戯だね。ノトスに立ち寄った際、聖女様が楽しそうにやっていたから覚えているよ」
過去に回帰する、懐かしげな笑みを銀髪エルフさんは浮かべた。
ふーん、認識あるんだ。ならこの哀れなお兄さんに慈悲をくれてやってもよいのではないか? どっちでもいいけど。
「ふふ……猫ちゃんもこう言ってることだし、一回やってみようかな」
別に俺はなんもいってねーよ。
「あ、ありがとうございます! では一回ということで……あの、ルール説明は必要でしょうか?」
「大丈夫だよ、ありがとう」
「ふぉっふ……はっ、はい!」
“ふぉっふ”ってなんだ?
俺が困惑していると、お兄さんは俺に向かって親指をグッと立ててくる。すまぬ、どういう感情か全然わからんわ。
客が入って嬉しいの? 銀髪エルフさんの笑みに照れてんの? 俺の可愛さに平伏したいの? それとも全部? ……全部だなあの顔は。
「では、こちらが緑魚を入れる“桶”と、緑魚をすくう“ポイ”でございます。あ、あと魔法とかの使用は禁止になりますので、そこら辺は守ってくださると幸いです」
「ありがとう、君はしっかりしているね」
「い、いえ……わたくしなど、まだまだ若輩の身でございますゆえ」
言葉遣い可怪しくなってんぞお兄さん。完全に照れちゃってるぜコイツ。
銀髪エルフさん、外面はとんでもなく綺麗だもんなぁ。俺の毛並みには余裕で負けるけど。
彼女も、内面はとんでもなく面倒くさいんだが……お兄さん幸福そうだし別にいっか。
「では、ご健闘をお祈りします!」
「うん、頑張るね。──ところで、1つ質問があるのだけれども」
「はい! 何でも聞いてください!」
お兄さんの方へと振り返り、銀髪エルフさんはとんでもなく綺麗な笑みを見せた。
「取っていい緑魚の数に制限はあるのかい?」
「へ? いや別にありませんけど……そのポイが破れるまでは、幾らでも大丈夫っす」
「それを聞いて安心したよ」
「ど、どういう────!!!?」
お兄さんの言葉を聞いた直後、全てを蹴散らす風が舞い上がった。
◆◆◆◆
約1分後。
そこには、桶9つに緑魚をいっぱいに掬った満面の笑みの銀髪エルフさんと、真っ白に燃え尽きたお兄さんの姿があった。
「久し振りだから、全部すくうのに結構時間が掛かっちゃったね。ポイも思った以上に破れやすかったから、かなり気を使ったよ。良い遊びだった……ありがとう、店主くん」
「あ……そ、そっすか……ははっ……ははは……はははははは」
銀髪エルフさんの台詞に、最早笑うしかないといった様子のお兄さん。
『可哀想』って、こういう時に使うんだろうな……哀れすぎて、居た堪れないったらないぜ。
「なんかごめんね。十分楽しませてもらったし、取った緑魚は全部返すから心配しないで」
「はは……あざーす……ははははは」
あ、これ声届いてないやつだな。あまりのショックに脳が破壊されたか……南無。
茫然自失なお兄さんに苦笑を浮かべた後、銀髪エルフさんは、緑魚にちょっかいを掛けていた俺をぎゅっと抱っこした。
あ、くっ! 良いところだったのに!
「お代はここに置いていくよ。あと緑魚を全部返す代わりに、この子とお祭りを回らせてもらうからね」
「はは……ははは……」
全然聞こえてないな……可哀想にも程があるだろ。
あと俺を緑魚の代わりにするとか、釣り合いが取れてないにも程があるでしょうが。身の程を弁えよハイエルフ風情が!
あの頃のお兄さんを返せ! “あの頃”のお兄さんのこと全く知らないけども!
お兄さんに元気になってもらうべく、俺は天使の声を放った。
「みゃあ」
「ははは……は、ワァ……アッ」
泣いちゃった!
ここまで読んでくださり、ありがとうございました! お陰様で猫さんがお魚で遊べました!
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