聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
猫になり、とんでもない回数の『カワイイ』をその身に受け取るようになった。
寝ても起きても歩いても食べても、全部『カワイイ、偉い』と言われる。いっそ何をしたら『可愛くない』判定をされるのか、気になってしまうくらいだ。
多分どれだけ煩く騒ぎ立てても、『元気いっぱいだね、偉いね。カワイイ〜!』って言って、人類は笑顔になるんだろうなぁ。容易にその光景が想像できる。全く、人類から思考能力を奪ってしまう我が可愛いさが恐ろしいぜ。
街の一角にある大樹の上で日向ぼっこをしつつ、俺は己の可愛さに酔いしれた。やはり可愛いは最強……そして、可愛い俺は銀河覇者だな。
「この大樹の上は気持ち良いかい? 可愛い猫ちゃん」
「にゃあ」
悪くないね。我が散歩コース兼お気に入りスポットの一つにしてあげても良いよ、感謝しろ。
隣に座っていたファンタジー世界でお馴染みの種族、エルフの女性に、俺は尊大な返答をした。
……この銀髪エルフさん、俺が日向ぼっこをしているのを見た途端、凄まじい速度で隣を陣取ってきたんだよね。俺、結構高い所にいるのだけども、遠視能力でも備えているのだろうか。空を飛んでたし、そのくらいは持ってても不思議じゃないか。エルフだし。
「ふふ、此処は見晴らしが良いね。風も気持ちいいし、下の喧騒も届かない。ああ、猫は耳が良いから、君には聞こえているのかな」
「にゃー」
まあね。
だが別に煩いとは思ってないよ、俺は寛大な猫だからな。……煩いのにはイヤというほど慣れてるしね。この程度の喧騒は小鳥の囀りに等しい。
「君は毛並みが良いね。綺麗な白色だし、誰かに飼われているのかな」
いいや?
俺はそこまで安い存在じゃないんでね。この毛並みの良さと綺麗な白は、聖女ちゃんの水魔法を浴びたらなんかそうなっただけだ。元々あったチート級の素材の良さが更に際立っちゃって、困ったもんだぜホント。
「……本当に、平和な世界になったね。少し前なら、こんな穏やかな佳景はありえなかった。……あの人にも見てほしかったな」
そうなんだ。エルフのいう“少し前”は信用ならないから、話半分に聞いとこう。
過去を幻視するような瞳で下の人々を眺める銀髪エルフさんに、一声鳴いてみる。俺の前で湿度高いのは止めてくれ、今は気分じゃないんでな。
「にゃー」
「ふふ……感傷に浸ってる場合じゃないようだ。撫でてほしいのかな?」
違うよ。勘違いしないでくれる?
と言っても通じる筈もなく、俺は銀髪エルフさんに優しく頭を撫でられた。
「ほらほら、ココが良いのかい」
ううむ、悪くないテクニックだ。
しかし、街のじいちゃんやばあちゃん、シスター少女には劣るな。だが筋は良い、もっと精進しなよ。
「……君は可愛いな。本当に癒される」
知ってる。俺が癒しの塊であることは生まれる前から知っている。
「ふふ……そうだ。可愛くて素敵な猫ちゃんには、私が一番好きな魔法を見せてあげよう!」
何を思ったのか、綺麗な笑みで銀髪エルフさんは宣言した。
一番好きな魔法? なんですそれ。
俺が困惑していると、銀髪エルフさんは左手に可憐な花冠を作り出し、俺の頭にポンと乗せた。猫×花か……人が死にかねない組み合わせだな。凶悪すぎるコンビだぜ。伝説級の魔法だろこれ間違いない。
「うん、よく似合ってる。可愛いよ猫ちゃん」
「にゃあ」
「あははっ。気に入ってくれたようで何よりだ。これは12年前、とある救世主に教えてもらった魔法なんだ。世界をどうとでもする力を持っていたのに、誰かを笑顔にする可憐で儚い魔法が大好きだと言っていた救世主に」
良い救世主じゃん。中々出来ないよそんな考え。
猫に花冠は人を笑顔にするどころか、人を殺めてしまう威力が出てしまうのだけども。幸福を抱いて逝けるのなら、それに勝るモノもないからいっか。
「昔の私は戦いのことばかりで、魔法に好きも嫌いもなくてね。彼女の考えが全く理解できなかった。……でも、今は心の底から良いと思えるよ。可愛い猫ちゃんにプレゼントを贈れたんだからね」
つまり俺のお蔭ってことね。知ってた。
我が事ながら、有能すぎて困っちゃうぜ。
「ふふっ……君みたいに温かい所を好む、のんびりした子の生活を護るために、あの人は命を懸けたんだろうな」
俺の背中を優しく撫でながら、銀髪エルフさんは微笑んだ。
全然関係ないけれど……この人の耳、普通のエルフの耳より、かなり長い感じがするな。
なんかこう……カッコいいじゃん。一番可愛い耳は俺だけど。
◆◆◆
いつもの廃教会で、意味もなく俺はコロンコロンと転がっていた。
『くっ……転がる猫さんカワイイ……世界一カワイイッ』
転がってるだけで世界一認定されちゃったよ……流石俺。
聖女ちゃんは今日も良い立ち姿だな。惚れ惚れするぜ。
『なぜ猫さんの行動は、全てがそれ程までに可愛らしく愛おしいのでしょうか……』
「にゃー」
それはね……猫だからだよ。
例えば人間が今の俺と同じように此処を転がっても、『カワイイ』とはならないだろう。猫がするから“行動”にカワイイが生まれるのだ。
君たち人類には決して到達できない領域……それこそが猫なのさ。ふふん。
『ふふ、きっと私が、猫さんのことを大好きだからですね!』
間違ってはないな。好きな気持ちは実際大事だし。
でも聖女ちゃんからの『カワイイ』はいつも真っすぐすぎて、その日の気分によっては中々重いと感じるものがあるんだよね。当たり前の可愛さを見た『カワイイ』じゃなくて、心の底の底から好きだと思っている、命を懸けた『カワイイ』なのだ。つまり目と声色が完全にイッている。
聖女ちゃんのような聖女やってる性格の子から全幅の好意を受け取って、嬉しくないわけじゃない。しかし、重すぎる『カワイイ』は趣味じゃないんだぜ。暫くの間、聖女ちゃんへの『カワイイ』はお預けだな。
聖女ちゃんから見えないように、俺は顔を伏せた。
『あぁ……猫さんの後頭部……歴史史上最大にカワイイッ。うぅ……一生抱き締めて埋まりたいですッ』
しまった、俺……後頭部もカワイイんだったわ。
あと埋まらないでください。
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