聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
騒がしくも、のんびりとした平和なお祭りの翌日。
俺は廃教会の直ぐ外で寛ぐ小鳥さんを対象に、狩りの体勢へと突入していた。
ここ最近は、邪魔ばっかり入って本当に狩りが成功していないからね……そろそろ狩猟本能を満たしておきたい。他者を大勢満たしてきたカワイイ俺が満たされないなんて、そんな不敬なこと赦されていいわけがないのだ。
別に小鳥さんに何か恨みがあるというワケではないけれど、猫たる俺の意思は何を差し置いても優先されなければならない。コレはもうそういう世界の掟だ。大人しく諦めてもろて。
草むらの中をゆっくり進み、じんわりと、確実に小鳥さんとの距離を俺は詰めていった。
「おーん……カカっ……カカカ」
よし、よしいいぞ。後ちょっとだ、後ちょっとで我が狩猟領域にへと突入する。そうすれば、小鳥さんが羽ばたく前に電光石火で仕留められるぜ。
俺はこの先に待ち受ける狩猟景色に対して興奮に胸を高ぶらせつつ、身を屈めてお尻を振った。
さらばだ……もふもふを抱いて溺死しろ!
「カカカ、カカカカッ」
「!」
そして、小鳥さんは俺が仕留めるよりも速く、お空へ飛んでいってしまった。
ば、馬鹿な。可怪しい……俺の隠密は完璧だった筈なのに、なんで、どうしてバレたんだ……? ここまで興奮させておいて失敗だなんて、そんな結末……納得できないッ。
あまりにも理不尽な結末に、哀しみの咆哮を天空へ放った。
「みゃおーん……なおーん……」
『……くっ……ふ、ふふふっ』
「……」
廃教会の中から、俺の勇姿を見ていたのであろう、聖女ちゃんの耐えきれずに零れ落ちたかのような笑い声が響いてくる。
なにわろとんねん、貴様。神の失敗を見て笑うとは、随分と大胆な真似をしてくれるじゃんね。
聖女ちゃんの方を振り返り、俺は渾身の威嚇を仕掛けた。
『ご、ごめんなさい猫さんっ……でも、あははっ……か、可愛すぎてッ、我慢できなかったんです……ふふッ。猫さんは、本当にカワイイドジっ子さんですね』
煽ってんのかテメェ? ドジっ子筆頭が抜かしてんじゃあないぞ!
『……貴方は、何をしても可愛くて……愛しくて……見ていて幸福になりますっ。おドジなのも、愛嬌がありすぎて困っちゃうくらいです』
「にゃあ」
『ふふっ……にゃあ』
“にゃあ”じゃねえよ。
コイツ……俺が温厚な神猫だからって、何を言っても赦されると思ってないか。聖女ちゃんのくせに舐めやがって……勘違いも甚だしいぜ。
どちらが上か、今一度その石頭に刻みつけてあげる必要がありそうだなぁ!
聖女ちゃんの方へ小走りで近づき、その足元に俺は頭突きを食らわせた。
『ゔ、致死量不可避のスリスリ天使ですッ……本当にありがとうございますっ』
御礼言われちゃったよ。
『ああ、なんて幸福なんでしょうか……貴方が居るだけで、何気ないこと全てに心が温かくなります。猫さん……貴方は平和を作り、見出すことのできるとてもカワイイもふもふなんですね』
「なーん」
俺の怒りの頭突き=平和を作る……てことか。
何だコイツ、俺が何をしても全部平和と幸福に結び付けてくるじゃん。俺のことが好きすぎて、無敵の要塞状態みたいになってるよ。思いきしぶん殴ったろかほんと。
『貴方がくれた沢山のモノに報いられるよう、私ももっと精進しなくてはなりませんね……』
じゃあ、まずは俺からの報いを受けてください。ちょっとは身の程を弁えて反省しろよぉ!
しみじみと呟く聖女ちゃんに、下から抗議の咆哮を上げた。
「みゃあん」
『うぐっ……て、天変地異級……いえ、それを遥かに上回る凄まじいカワイさですっ。だ、抱きしめたいっ……抱きしめて、今すぐ埋まってしまいたいッ。ね、猫さん……ほんのちょっとで構いませんから、弁えて行動していただければ助かりますっ。でなければ、どうなっても知りませんよ……私が』
お前かよ。嘘やん……逆に諭されるとは思ってなかった。
こ、この娘、ほんと大胆な言動ばっかり取ってくるな。結構効果のある脅しなのが、余計にタチが悪いぜ。
『常々思っていましたが……猫さんは可愛すぎるので、お外にお出かけ中のとき、迷子になったり誘拐されていないかが心配で仕方ありません。ちゃんと、警戒心をもって行動してくれているのでしょうか……』
「にゃあ」
してるに決まってるだろうよ。我、由緒正しい警戒心の高い神猫ぞ。
『……してなさそうです。さっきの狩りを見ても、猫さんにはおドジな所があるのは否めませんし……この前のように、一晩中帰ってこないなんてことがあれば私は……いえ、考えたくもないですね。うーん……どうするべきか。私が直接一緒に居られれば、それが最もいいのですが……』
「………」
『あはは……頭突き、ありがとうございます。そうですよね……今できることを全力で取り組むことこそが、一番です。私が、貴方を護らなくてはっ』
そんな意図を込めて、頭突きはしていなあい! ご褒美判定するんじゃねぇ!
『……あ、そうだ! 猫さんに私の“証”を授けましょう! そうすれば、視覚的に猫さんが私の家族であることの証明になりますし、多少なりとも他者の牽制に役立つ筈です!』
楽しげにキラキラ輝く声で、聖女ちゃんは言う。
“証”ィ? なんかわからんけど、欲しくないです。聖女ちゃんからの贈り物とか、絶対曰く付きじゃん。聖女ちゃん俺のことになると思考能力がマイナスまで下がっちゃうし、普通にデメリットが勝りそう。
『いらない』とシンプルな意味を込めて、俺は鳴いた。
「にゃあ」
『猫さん……ふふ、喜んでくれているのですねっ。今の私に、そこまで精密な魔力コントロールが出来るかは怪しいところではありますが……貴方のためなら、私は何だってできます。どんなことでもやってみせます……だから。ずっと傍で見ててくださいね……私のこと』
言ってないし、想いが重い。
重めの猫飼いみたいなこといいやがって……その感じ止めてって言ってるよね? なんでしちゃうかな、このボケが!
『では、いきますね──【聖天の神輪】』
俺の睨み付けを無視し、聖女ちゃんは胸元で何か光り輝くモノを作り始めた。
なんだアレ……黄金の首輪? めっちゃキラキラしてんぜ。
『よし、完成です。猫さんの首輪サイズに落とし込むのにかなり苦戦しちゃいましたが……えへへ。やはり、猫さんが一緒にいれば私に失敗などありえないようですね! ふふん!』
ドヤァと、心底嬉しそうな声を上げる聖女ちゃん。
すみません、過去の数え切れない程ある失敗の記憶を、忘却しないでもらえませんか。
出来栄えは認めてあげるけども。
『さあ、一旦付けてみましょう、猫さん! 首元の違和感や大きさなど、気に入らないところがあれば、その都度調整しますから!』
聖女ちゃんの意思に呼応しているのか、キラキラ輝いている首輪は、クルクルと回転しながら俺の方へと近付いてくる。
にゃるほど、コレを俺に付けることで“証”とするワケか……ふむふむ。……うん。
絶対ヤ!!
近付いてきた首輪に、俺は猫パンチを叩き込んだ。
『えぇ!? な、なぜ!? あ、遊び道具と勘違いしているのでしょうか……?』
別にしてない。
首輪を付けるのが嫌なだけだ。誰かに首を差し出すほど、俺は安い猫じゃないんだからね! 聖女ちゃんと言えども、調子に乗ったことしないで!
『ううん……遊ぶ猫さんも世界一カワイイですが……コレでは首輪を付けることができませんね。仕方ないです、後でおねんねしているときにでも付けましょうか』
はっ。滑稽ここに極まれりでありますな。そんな隙、この俺が見せるとでも? 我、警戒心の神ぞ。
いくら眠っているときを狙おうが、気が付かないなんてあるわけないだろ!
この数時間後、俺は気がつかぬ間に首輪を装着していたのだった。解せぬ。
『私が作った首輪を付ける猫さん……し、幸せすぎるっ。せ、世界を破滅させてしまうほどの破壊力ですっ……うゔ……ゔ……ゥ』
自分で勝手にやっておいて昇天してんじゃねぇ!
ここまで読んでくださり、ありがとうございました! お陰様で猫さんが首輪を付けてくださいました!
本当に、本当に励みになりますので、もしよろしければ高評価等も宜しくお願い致しますッ。