聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
神猫たる俺は、毎日がとても忙しい。
遊んだり、眠ったり、ごはんをねだったり、ヘンテコリンな生き物を狩ったり、人類に癒やしをお届けしたり。
その他、世界のためになることを俺は毎日行なっている。俺より働き者な生命体など、この世に存在しないと言っても過言ではないだろう。
ほんと、人類は一生俺に感謝し奉仕するべきだよね……モフモフの神たる俺が居なきゃ、世界は100万回くらいは滅んでるんだから。
己の偉大さと愛くるしさを再認識しつつ、俺はそこら辺にある屋根の上で、世界を屈服させるように元気に鳴いた。
「おわーん」
「ん? あ、やった、にゃんこだ……今日もキュートな声とモフモフだね、おはよ」
やあ、おはよーだぜ骸骨娘。
こんな天気の良い日に日向ぼっこする俺の姿を拝謁できるなんて、お前も存外運に恵まれた娘よな。
ほら、さっさと跪きなさいな。頭が高いぞ。
「相変わらず、貴方は私の感知に引っ掛からないね……なんでだろう。けど、それでもこうして出会えるんだから、やっぱりコレって運命?」
「にゃあ」
「貴方もそう思う? んふふ……両想い最高」
別に思ってないんだけど。
コイツも聖女ちゃんの次くらいにはマイペースな奴だな。烏滸がましいぜ。
「仕事中ではあるけど……ん、貴方に出会ったものは仕方ない。モフモフタイムの時間」
嬉しそうに俺の方に近付くと、骸骨娘は俺の頭をワシャワシャと撫でてくる。
ううむ、ギリ合格かな……シスターとOL娘のテクニックを体験した後じゃ、物足りない感が否めない。もっと精進せよ。
「もっふもふ〜……カワイイカワイイもっふもふ〜♪ 好かれた私ももっふもふ〜♪ んふふっ」
「………」
超楽しそうじゃん。
つーかお前はモフモフってワケじゃないだろ。適当なこと抜かしてんじゃねえ。
「いつ触っても、最高すぎる手触り……ん、貴方は最凶の癒し兵器。やっぱり私が責任を持って───アレ?」
「?」
俺を撫で回す手をピタリと止め、骸骨娘は固まった。
え、何急に? さっきまでの鬱陶しすぎる勢いは何処に行ったのだ? 勢いの激しい頭の可怪しい奴がいきなり静かになると、困惑しちゃうだろ。
「貴方、コレ……首輪?」
「にゃあ」
あ、首輪に気が付いたのか……ふん、そーだよ。コレは首輪だ。聖女ちゃんがどうしてもって宣うから、仕方なく付けてあげているのだ。外したら煩そうだからね、本当にしょうがない。
こんな度し難い行為も赦す度量の深さ……俺は神の中の神であるな。ふふん!
「………」
キラキラ謎の輝きを放つ黄金の首輪に触れながら、プルプルと震え始める骸骨娘。
……いやなんか言えや、そういう静けさは好きじゃないんだよ。
言葉の続きを催促するように、俺は骸骨娘の膝をフミフミした。
「あ、カワイイ……じゃなくてっ。…………したの?」
「?」
「私以外の人に……首輪を許したの? なんて残酷なことを……むうっ」
なんか傲慢かつ面倒くさいことを言い始めたな此奴。聞くんじゃなかった。
フミフミを止め、可愛らしくコロンと寝転がる。
「カワイイ……でも、よくよく考えてみればそう。貴方みたいな無防備な子が野良で生きていけるわけない……考えもしなかった。だから、人馴れもしてたんだ」
あ? だ、誰が野良で生きていけるわけないって……? ブ、ブチ狩るぞ貴様ッ。
「ん、貴方が幸せそうなら私から言うことは何もない……たとえ誰かのモノになろうとも、貴方は貴方。何も変わらない……誰とどんな時間を過ごそうとも、最後にこの私の横に居てくれるのなら……それだけでいい」
どこの世紀末の覇者だお前? ツッコミ所の多い変なことばっかり言わないで!
「でも、それはそれとして脳が破壊されたから……ちょっと横になるね……ふうっ」
言うだけ言うと、俺の横にドサリと骸骨娘は倒れ込んだ。
コイツ……ほんとマイペースだな。言っていること大体意味わかんないし不敬だし、そろそろ本気で上下関係を解らせる必要があるかもだぜ。
顎を撫でてくる骸骨娘の手を、俺はゆっくりと押し退けた。
「あ、嫌がられた……ふふっ。ご褒美すぎる……貴方は、人の喜ぶことをよく解っているね」
解っているというか……お前達人類は、猫に何をされても喜ぶじゃんね。それ自体は仕方ないものだけれど、不敬なのは赦さないからね絶対。ネコへの敬意を忘れるなかれ。
ネコは心を見るのだ……。
「ん……悔しいけど……その首輪、似合ってるね。貴方の純白は、その緑色と結構マッチしてる」
緑色……? え、どこら辺が? どう見ても金色だろコレ。この子、骸骨のお面なんか被っているから、色とかがよく見えてないんじゃ……。
「はあ……貴方のようなカワイイ子が家族なんて、貴方の飼い主は世界一の幸せ者。一体どんな徳を積んだんだろう……もし会うことができたら、教えてもらう」
止めておいた方がいいよ。聖女ちゃん、俺のこととなると一生喋ってくるから。多分、後悔するよ……お前。
そもそも飼い主は俺の方だし。
「ん、今日はこのまま……貴方と一緒に寝て過ごそうかな。貴方もそうして欲しい?」
「にゃあ」
いや別に。
「ふふっ……解った。じゃあ、今日はお仕事サボりデーに決定。どーせ、ギルドからの特別依頼……“加護持ち”捜索や、この前の護衛任務同様、何もないに決まってる。神経張り詰めるだけムダ。サボったってバレない。それににゃんこが言うなら、仕方ないもの」
「………」
サボる口実に、神猫たる俺を使用する気ですかお前。良い度胸じゃんね。
俺は、無言で不敬すぎる骸骨娘を睨み付けた。
「あ、超見てくれてる。嬉しいんだね……んふふ。……たとえ首輪を付けられようとも、貴方に一番好かれているのはこの私のよう。貴方の飼い主にも、見せつけてあげたい……」
「──んー、そうだねぇ。この子の飼い主に見せつける前に、貴方が仕事を堂々とサボっている姿を、私は見せつけられちゃったなぁ。ねーねー……この沸々と湧き出る感情、どうする? どうするべきだと思う? 教えてほしいなぁ、ムーちゃん♪」
「!? ひっ、リ、リーダー!?」
あ、なんか魔法使いっぽい格好の人が現れたぜ。どっかで見たような気がしないでもないな……うーん、やっぱり気のせいかも。誰だお前?
骸骨娘のビビリようからして、只者ではないと予想するぜ。カワイイ俺の予想は外れないことに定評があるのだ。
「あはっ。久しぶりの再会なのに、悲鳴をあげるとかするんだ。へー……そう。随分と嬉しいことをしてくれるんだね★ ね、ね?」
「あ、いや……その……すみませっ……ま、また会えて嬉しいです……はい……あ、すみませんっ」
タジタジじゃねーか。
プルプルと震える骸骨娘。その姿は、とんでもなく哀れみを誘った。絶対助けんが。
「この件に関しては、また詰めるとして……お留守番ご苦労様、ムクロ。色々と任せてたから、大変だったでしょ?」
「んんっ……別に、大したことじゃない。最近は思わせぶりなことばっかりある割に、最終的には何もなかったってことしかないから……」
「あはっ、それは草臥れる奴だね。でもなんにもなかったのなら、良かったよ」
俺の隣に腰を下ろすと、魔法使いさんはポンポンと俺の頭を撫でてくる。
え、流れるように撫でるじゃん……俺へ跪くという当然の行為を怠っている不届き魔法使いの分際で。
「君も久し振りだねぇ〜、カワイイにゃんこちゃん! 可愛らしい緑の首輪も付けちゃって……すっごーーく似合ってるよ! ふふっ、元気にしてた?」
「にゃあ」
してたよー。
元気すぎて、俺に関わる有象無象共にも分けてあげちゃったくらいだぜ。
「え、リーダー……その子のこと知ってるの?」
「うん、知ってるよ? ムーちゃんよりも深い仲なんだから。ねー、にゃんこちゃん?」
「う、嘘……そ、そんなワケないっ……脳破壊2度打ちは禁断すぎるっ。認めない! 私の方が、絶対仲が良い! ね、にゃんこ!?」
どっちもそこまで良くないよ。
お前ら2人とも、調子に乗らないでくれる?
「キミ、そんな大きい声出るんだね……うーん、まあそれは一旦置いておこうか。漸く戻れたワケだし、先ずは冒険者ギルドに行こう。モモノも交えて、話さないといけないことがあるんだ」
「話さないといけないこと……? 私、必要? テレスじゃダメ……?」
「テレスは次の任務──“鋼鉄竜”討伐があるから、もう王都に帰ってる筈だよ。あの子、期限とか全部遵守するタイプだから。というか、キミに別れの挨拶くらいしてるでしょ、絶対」
「あ、そういえば確かにされた気が……」
「忘れちゃダメだよ、ほんと」
俺を挟んで、ずっと会話してんな。2人とも何の違和感を持つことなく俺を撫でてるし……テクニックがあと少しでも低ければ、悪即斬だったぜ。
「ん……私が必要ってことは、何となく想像がつく。多分、また緊急で入った新手のクエストでしょ」
「お、勘が鋭くなったね〜」
「ふふん、それほどでもない。けど……ここ暫く、私はずっと変なクエストばっかりやってる……難易度マックスだのなんだの言っておいて、結局は“何もなかった”ってモノ。今回もどうせそんなオチ。絶対、私は必要ない。いい加減、にゃんことのんびり過ごす時間がほしい」
「ん? なに、ツッコミ待ち? “キミは任務中だろうと、のんびりしかしてないやないかーい”て魔法をブチ込まれたいってこと? あはっ、フリが上手になったね! ね?」
「ち、違っ……そ、そのようなことは決してっ」
震えながら、骸骨娘は俺の頬をモニュモニュする。
し、振動が……あばばっ。
「ふふっ、問題はないよ。今回のは、正真正銘“何かある”のは確実だから。何せ──【秘宝競売】に関することなんだもの」
「うげっ……絶対面倒臭いやつだ……」
「にゃあ」
どうでもいいから、震えるのは止めろ!
身体を全力でブルブルと振り、俺は脱出した。
「わっ、にゃんこのお毛々が舞った……あ、これが秘宝?」
「うーん……多分違うかな!」
ここまで読んでくださり、ありがとうございました! お陰様で猫さんが日向ぼっこをしております!
本当に、本当に励みになりますので、もしよろしければ高評価等も宜しくお願い致しますッ。いつもありがとうございますっ。