聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
「【聖天の剣】! 【聖天の剣】! ふー……想いや願いをカタチにするイメージ……イメージ……よし。聖! 天! の! 剣!!」
魔法使いさんの手によって、無理矢理連行されていく哀れな骸骨娘を見送った後。
俺は高台にある木の上で、シスター少女の奇行を眺めていた。
手振り足振り一生懸命身体を動かして、一体何をやってるんだろうこの子。うーん、体操にしては切羽詰まってる感が凄まじいし……人類って、本当に理解不能なことばっかりするよね。ワケがわからないよ。
「……やっぱり、出来るワケない……か。はあ……何やってるんだろ私。解ってるのに、こう何度も何度も毎日飽きもせずに……バカな奴。……逃げ続けてきた私に……祈ることしかしてこなかった私に……何かを成せるワケがないでしょうに」
空を見上げ哀しげに表情を歪めると、仰向けに倒れ込むシスター。
なんか、空気が重くなってんな……。意味わかんないことした挙句に湿度を高くするとか、舐めてんのか貴様は。
ずっと思ってたんだけど、コイツ俺が居ないとき基本的に辛気臭い顔や冷たい無表情ばっかで、全然笑ってなさそうなんだよね。
いつも罪人みたいに、何かに囚われている感が出ている。
聖女ちゃんといい、シスターといい……俺の家臣で在りたいのなら、もっと弁えた行動をしてほしいものであるな。手の掛かる阿呆ばかりで困ったもんだぜほんと。
身の程知らずなバカ共を叱りつけるように、俺は神の咆哮を放った。
「みゃーん」
「……あ」
あ、目が合っちゃったぜ。はろはろ〜。カワイイ俺が挨拶をしてあげるよ!
「ま、また私有地で勝手に貴方は……というか、さっきまでの見てた?」
「………」
「な、なんか言いなさいよ」
「………」
「欠伸をするなッ」
だって眠いんだもん。
こんな長閑で日当たりの良い場所にいて、欠伸が出ないわけないであろうよ。寧ろ“ありがとうございます!”と泣いて感謝すべき行為なんだぞ。にゃんこの欠伸は。
「あーもう……最っっ悪。気配出しなさいよね貴方ほんとに……猫に言っても仕方ないんだけどもさ」
「にゃあ」
「……平和な奴」
木の上で鳴く俺を眺めながら、シスターは息を吐いた。
「……貴方、また“神聖さ”が上がってるわね。毎度のことながら、一体どういう仕組みよ……ペースが尋常じゃなさすぎるわよ。ちょっとこっちに降りて来てみなさい。見てあげるから」
「……」
「おいコラこっち向け」
イヤだ。
“降りて来い”と言われて降りてあげるほど、我は軽い猫じゃないの。勘違いしないでくれる?
猫たる俺は、誰の指図も命令も受けたりしない。この身は生涯、孤高で在り続ける最カワな存在なのだ。
コレは、世界の理の1つであるぞ。しかとその胸に刻み込んでおけや。このウジウジしまくりの三下シス──
「後でごはんあげるから」
「にゃあん」
木の上から降りて、俺はシスターに擦り寄った。
はよごはん寄越せや!
「チョロい……チョロすぎるわこの子……て、ん? 貴方、首輪付きになったの? ふーん……良かったじゃない。似合ってるわよ」
「にゃあ」
「それよりもごはんね……はいはい解ってるわよ。ちゃんと後であげるから、楽しみにしてなさい……」
眉間を少し揉んだ後、シスターは俺の頭をふんわりと撫でた。
うむうむ、にゃんこポイント荒稼ぎしてくるじゃんね。流石はシスター、褒めて遣わすぜ。
「ッ……やっぱり、この間会ったときよりも格段に“神聖さ”が向上してるわね……上がり方がちょっと異常よ。普通は善行を積んだり、神に祈りを捧げたり、神に見初められるような生活を心掛けないといけないのに」
「………」
「……たとえ、どれだけ清廉潔白に過ごしても上がらない人が殆どなのよ。この世に生がある限り、誰しもが欲に呑まれた行動をしてしまうものだから。もうっ、ほんっっとに……世界の為になるとか、貴方がそんなお偉いことをしてるとはとても思えないし……一体どんな生活してんのよッ」
わかんないぜ。
別に特段変わったことはやってないけれど。いつも通り健やかに過ごしているだけだもの。
そもそも、神がどうこう言われてもピンとこないんだよね。俺は神に祈らないし、媚びたりしたことないから。何故なら、天地創造を成した絶対神は俺だもの。
万物全てを支配するカワイイ俺は、存在しているだけで素晴らしい。だからお前達人類は、俺に祈るし媚びるし跪いてくるのであろう?
そんな単純な真理すら解らぬから、貴様は辛気臭くなるのだ。ネコへの態度を悔い改めよ。
「何よ、そのカワイイ顔……私のことを嘲ってるの?」
大体当たってる。
「そんなわけないか……はあ、どうしたものかしらね。自分のこともままならないのに、この子のことばっかり考えて……ふふ、どこまでもどうしようもないな、私」
自虐気味に、シスターは笑った。
別にそんなことないでしょうに。自分じゃなくて猫を優先しちゃう思考って、人類という種であれば最早標準装備と言っても何ら過言ではないもの。
この世の理に気が付かず、憂う方が余程どうしようもない愚かな行為だと我は思うがね。
シスターはそこら辺がまだまだ解っていないようだな……ガチ愚かだぜ。聖女ちゃんほど振り切れろとは言わないから、少しは真理について考えてみなさいな。
さすれば、お前の願いや想いもちょっとはカタチになることであろうよ。
『地と人はネコのもの』という意味を込めて、俺は可愛らしく鳴いた。
「にゃあ」
「……ごはんでしょ。解ってるってば」
解ってないなぁ!
◆◆◆◆
シスターに連れられ、エル……プサイ? 教会にやってきた俺は一生懸命ごはんに喰らいついていた。
うむうむ、良き味だぜ……流石はシスター。もっと沢山食べたいなぁ。
「言っておくけれど、おかわりはないからね? 強請ってもダメよ」
了解だぜ。ねだったりしないから安心し……あ、もうごはんがなくなっちゃった。シスター、もっとごはんを献上せよ。
「みゃあーん」
「なんだろ……絶対おかわりを強請ってきてるってことだけは解ったわ。さっきの言葉、まるで通じてなかったようね」
頬杖をつきながら、シスターは眉をしかめた。 通じてはいるよ、その上で己の意思に忠実なだけでな!
「なんて真っ直ぐな瞳よ……全く……貴方はほんとにっ……悩みや怖いものとか、何にもなさそうね……」
そんなことないぞ、俺にだって悩みくらいある。
最近よく見かける黒い靄を纏った畜生共。何とかソイツらを生け捕りにして、聖女ちゃんに見せてあげたいのだけれども……失敗続きなんですよね。身の程知らずなあの畜生達は、我が許可を得ることなく勝手に消えやがるから。
死ぬならせめて、我が欲求を満たしてから死に腐れや。ほんと礼儀がなってないぜ。
顎を撫でてくるシスターのテクニックに喉を鳴らしながら、俺は怒りの咆哮を解き放った。
「にゃあ」
「可愛らしく鳴いてんじゃないわよっ」
今のは可愛らしさを感じるシーンじゃねえ! 猫は何をしても無限大にカワイイので、赦してあげるけれども!
「……。……貴方と居ると、あんなに長かった日々があっという間に過ぎ去っていくわ……一体、どんな魔法を使ってんだかね」
俺の顔を両の手でモニュモニュと撫でつつ、シスターは表情を柔らかくした。
おいバカシスター、我が神的お顔をモニュるのやめーや。それされると前があんまり見えないんだよ。
シスターのお顔拘束から脱出するべく、全身全霊で身を捩る。身の程を……知れ!
「めっちゃ嫌がられたし……もう、ごめんてば」
「………」
「……な、なんて顔してるのよ貴方……ふ、ふふっ」
なにわろとんねん貴様っ。神の威嚇を笑うなど、調子に乗りやがってぇ!
「みゃおーん」
「あはは……なおーんっ」
“なおーん”じゃないが。
無礼を働いた挙句、聖女ちゃんのようにいい加減なことを抜かすとかフザケてんのかテメェっ。
……今までは貴様の働きや技術に免じて、多少の無礼は赦してやった。しかし、シスターがそこまで上下関係をはっきりしたいと態度で示すのであれば……良かろう。教えてやろうではないか。
受けてみよ! 我がもふもふ!
俺はその場にコロンとお腹が見えるように寝転がった。俺のこの姿を見た者は、胸キュン心臓麻痺を起こし死に至る。コレで俺は、聖女ちゃんを今までに何百回とノシてきたのだ。
さあ、シスターよ。可愛さの前にひれ伏せ……頭を垂れて蹲うがいい!
「……………………10年振りに故郷に……墓参りにでも行こうかしら」
いや、なんで??
妙に覚悟の灯った瞳で告げられた謎の回答に、俺は困惑するのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました! お陰様で猫さんがリラックスしております!
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