聖女様の飼い猫   作:毛布野タビ

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66話 猫と墓参り

 

 

 

 ここ最近の俺を取り巻く狩り事情は、中々に酷いものがある。

 

 鼠、蝶、蛙、小鳥、魚、バッタに蛇……その他多くの畜生共を見定め、狙ってきたわけだけれども……狩ることが全く出来ていない。 

 

 俺クラスの神猫になると、狩られる側が『狩ってください! お願いします!』と頭を垂れても何ら可怪しくないことでしょうに。俺の前に現れる奴等は、殆どが逃げたり消えたりと、礼儀知らずな不届き者ばかり。

 

 一体どうなってるんだこの世界は。常識狂ってるんじゃないか?

 カワイイ俺が失敗して不貞腐れてる姿とか、誰にも何処にも需要なんてな……あれ、あるな。とんでもなくあるぞ。どんなことをしようとも、神猫な俺がするだけで未曾有の価値が付与されてしまっている。世界一のカワイさを振りまいてしまうのにも、困ったもんだぜほんと。ふふん!

 

 ……しかし、この溢れ出るカワイさでは、残念ながら我が狩猟本能が満たされたりはしないんだよね。

 

 そろそろ具体的かつ有効な手を……いや、肉球を打つときであるな。

 

 というわけで。

 

「あ、いらっしゃい白猫さん! 今日ももふもふな毛並みだねっ……癒し降臨感謝感激っ。早速撫でてもいい?」

 

「にゃあ」

 

 うむ、OL娘……お主なら赦す。撫で技術が高くて良かったね!

 満面の笑みで我がもふもふを撫でてくるOL娘の手を、俺は寛大な心で受け入れた。

 

「あー……あーー……癒しの塊すぎるっ。休憩時間中に猫をモフれるとか、私今めっちゃ満たされてるよぉっ。ふふ、白猫さん、今日も冒険者ギルドを探検しに来たの? それともギルド長の相手?」

 

 いや、そのどちらでもない。俺が今日冒険者ギルドに足を運んだのは、活きの良い獲物について色々と探るためである。

 こういうのは、冒険者ギルドに行けば大体情報が落ちているものだからね……ほら、さっさと俺が満足できるような獲物の情報をよこしなさいな。俺のカワイイ狩猟本能を満たすためにも、尽くしてください。

 

 これは命令です。

 

「にゃあ」

 

「貴方がいると職場の雰囲気が良くなるから本当に助かるよぉ……冒険者の数が多いとさ、トラブルもその分増えちゃって……はあ」

 

 俺の頬をモニュリながら、溜息を溢すOL娘。

 いつも大変そうだね、貴様も。溢れる溜め息に、なんか色んな心情が詰まってるのがよく解るぜ。

 毎日一生懸命頑張っているからな、俺と接することで存分に癒やされなさい……と言いたいところだが。我が頬をモニュることは赦さぬ。前が見えないんだよっ。

 

 身体を振り、俺はOL娘の手を薙ぎ払った。

 

「めっちゃ身体捩曲げて嫌がられた……な、なんで??」

 

「あっはは! お顔ムギュッとされるのが嫌だったんですよその子! エーレ先輩、疲れすぎで猫ちゃんへの対応が雑になってますよ」

 

 あ、後輩少女じゃん、こんにちにゃ〜。 

 やってきた後輩少女に対し、俺は挨拶の意味を込めて尻尾をパタンパタンと弾ませた。

 冒険者ギルドに来ると、結構お前とも会う機会が多いね……恵まれた奴だぜ。

 

「“白猫さんは繊細なんだから、もっと割れ物を扱うみたいに丁寧に接しないと”……ふふ、先輩が私に言った言葉ですよ。言った当の本人が、忘れちゃダメじゃないですか」

 

「レ、レイーゼ……た、確かに。わ、私としたことが、いつの間に猫ちゃんのお顔を……気持ち良すぎて全く気が付かなかった。なんて不覚ッ」

 

「あ、ストップ。くだらないこと言って落ち込むのは止めてくださいね? 空気が重苦しくなるので!」

 

「く、くだらない……?」

 

 若干傷付いた反応を見せるOL娘をまるで気にすることなく。

 彼女の隣に座ると、嬉しそうに後輩少女は俺の顔を覗き込んできた。

 

「ようこそです、猫ちゃん! 今日も先輩のストレス発散に付き合ってくれてありがとう……沢山ゆっくりしていってね!」

 

 聞くこと聞いたら狩りに出掛けるので、それはちょっと難しいかも! カワイイ俺は、とっても予定が立て込んでいるのだ。

 

「レイーゼ……貴方、さっき休憩時間はカフェで過ごすって言ってなかった?」

 

「そうしようと思ってたんですけど……バカみたいに混んでたんで、戻ってきちゃいました。あんなに人が居たら、休憩になんかならないですよ、もうっ」

 

「そっか……サイナンだったね」

 

「感情籠ってないですよ先輩ッ」

 

 頬を膨らませ、後輩少女はジロリとOL娘のことを睨み付けた。

 

「レイーゼ……さっきの冒険者、結局どうなったの? 随分と報酬をゴネてたみたいだけど」

 

「ああ、そのままの報酬でお帰りいただきましたよ。どう考えても、コブリンの牙と棍棒4本ずつ程度じゃあ、アレ以上の報酬は認められませんから」

 

「……よく納得してくれたね。相手、結構ズタボロでヒートアップしちゃってたじゃん。話なんか碌に通じる感じがしなかったけれど……一体どうやって帰ってもらったの? ギルド長を呼んだの?」

 

「ふふ、乙女の秘密です!」

 

「ああ……そう」

 

 俺の頭を撫でつつ、OL娘は目尻を揉んだ。

 喋るならせめて、もっと凶暴な獲物の話題とかしてくれないかな。なんでもいいから、長持ちする獲物を教えてくださいな。

 

「先輩の方も、私に言わないといけないことがあるんじゃないですか?」

 

「え? 別にないけど……なにかあったっけ?」

 

「やだなぁ。この前一緒に飲みに行こうって約束したじゃないですか! 先輩が奢ってくれるっていうから、ずっと楽しみにしてるんですけど!」

 

「あ、そうだったかも……いや、待って。奢るとは言ってなくない? 絶対言ってないよね?」

 

「あ、あはは……そうでしたっけ?」

 

 俺が待ってるのに、どうでもいい話に花を咲かせるのは止めてくれよ。

 俺、暇じゃないんだよ?? ねえ!

 

「あ、見てくださいエーレ先輩! 猫ちゃんがカワイイお顔を浮かべてますよ! 撫でてもいいですかね?」

 

「ダメ。今は……ううん、ずっと私のターンなんだから」

 

「ご、強欲……!」

 

 ほんとだよ。欲張ってるんじゃねぇ。

 ダメだな……カワイイ俺がいる前では、物騒な話題など出さんか。もうっ、アテが外れたぜ、もっと情報が毟れそうな場所に行こう。

 

 机から降り、俺は可愛らしく歩き始めた。

 

「え、あ、も、もう行っちゃうの……? も、もふもふが……私の癒しが……」

 

「仕方ありませんよ、何者にも縛れない……そこが猫ちゃんの良いところじゃないですか」

 

「そうだけど……もふエネルギーが足りないよぅっ」

 

「なんですかそれ……変なこと言ってないで、ちゃんと休んでくださいね。午後からも、忙しいんですから!」

 

 そーだよ、精々沢山休むことだな……お前の撫で技術は認めてあげているんだからね。

 

 2人の方へと振り返り、俺は天使の鳴き声を届けた。

 

「にゃあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 エイコーンから遥か北……王都ヒエラスとの間に存在する、黒い空白……人々に、立ち入り禁止と言われている魔のエリア。

 

 数多の英傑たちが眠る巨大墓地──【星還りの廟(びょう)】。

 

 聖女が消えた後、何らかの原因で急激に汚染されていき、現在では超高難易度の【迷宮】として登録されたそこで、騎士の男が逃げ惑っていた。

 

「畜生っ……畜生! なんなんだよ、聖宝具による攻撃も何も通じねぇなんてありえねぇだろ! どうなってんだよ此処の魔物共は!」

 

 男は、ワケもわかない現象に対する恨みつらみを、大声で吐き出した。

 

 背後から、何かが迫ってくる。地面を削るような破壊音。1つではない。2つ、3つ──否。

 数えることすら億劫になるほどの雑音が、暗闇の向こうからこちらへ押し寄せている。

 

「他の皆はやられちまったのか……? くそっ!」

 

 魔に属する存在であれば、触れただけでも傷を負わせる聖なる武器。この廟へ足を踏み入れる前、男はそれを何度も確認した。

 

 これがあれば大丈夫だと。そう、高を括っていた。今の今まで、コレを受けて無事だった魔物などいないからだ。それは、今の歴史が証明している。

 男がこの迷宮に挑戦する、絶対の自信を身につけるに至った最高峰の相棒。誰にも負けない聖なる武器。

 

 故に──理解できない。想像が追い付かない。

  

 こんな情報、何処にもなかった筈だ。あり得ていい筈がない。

 

「そんなわけがないんだ! 俺の剣が通じないなんて……そんな馬鹿げたことがあるものか!!」

 

 震える手で男は剣を構える。そうしていると、暗闇の中から一体の魔物が姿を現した。

 人の腕にも似た細長い四肢。歪んだ頭部。その全身には、まるで墓場から這い出してきた死者のように、黒い泥がへばりついている。

 

「俺についてきてくれた、皆の仇──ッ!」

 

 男は叫びながら剣を振り抜いた。鍛え上げられた、美技。聖なる光が弧を描き、魔物の身体を捉える。

 

 ──しかし。

 

「な……」

 

 斬れない。微動だにすら、してくれない。

 男の目が見開かれる。その目には、確かに絶望が映っていた。

 

 魔物は何事もなかったかのように、ゆっくりと顔を上げる。

 

 そして──愉しそうに笑った。

 

 口など存在しないはずの顔が、不自然に裂けたのだ。

 

「ひっ」

 

 男の喉から、情けない声が漏れる。

 

 次の瞬間。

 

 魔物の腕が、男に向かって振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆ 

 

 

 

 

「……墓参り、遅くとも一週間後には行きたいな……依頼とか出したら、誰か付いて来てくれるかしら? 場所が場所だし……厳しい……かなぁ」

 

「にゃあ」

 

 墓参り、まだ言ってたんだ。最近ずっと言ってんね。

 隣でずっと唸りながら「墓参りっ……でも場所が怖いっ……でも、墓参りっ」言われるのなんか気分悪いんですけど。行きたいならはよいこうや。

 

 怖いのはわからなくもないが……シスターなら、墓地に行く機会はいくらでもありそうなもんだけど。

 この子、かなーり臆病なところがあるんだよね……素直になりきれずに、すぐイジけちゃうし。

 

「はあ……やっぱり適当にそこらでお墓作って済ませちゃおうかしら……でも、もう逃げたくなんてっ……ああ、クソッ」

 

 う、うぜぇ。見ててイライラするぞコイツ。やりたいことがあるなら、さっさとやれや三下シスター。ちょっとは振り切れている聖女ちゃんを見習おうよ。

 

 気分転換も兼ねて、この俺がついて行ってあげるからさ。

 

 そうすりゃ、怖くなかろう? 神猫たる俺は、全ての悪霊、悪鬼阿修羅を打ち払うのだ! ふふん!   

 

「にゃあん」

 

「呑気っ子め……おかわりはないからね」

 

 別に催促じゃない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださり、ありがとうございました! お陰様で猫さんが今日も癒しを沢山届けております!

本当に、本当に励みになりますので、もしよろしければ高評価等も宜しくお願い致しますッ。
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