聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
今日も今日とて元気いっぱいの散歩日和。色んな所を自由気ままに探検するぞ! ……とはいかず。
急に降り出した雨を凌ぐため、俺は近くにあった大きい建物の下で雨宿りをしていた。
雨は嫌いだ。
俺のふんわりお毛々が湿って動きが制限されるし、身体が一気に冷え込んでしまう。それに猫の毛って、水を弾きにくいから不快感が凄いんだよね。中々乾かないんで体力も奪われるし。……全く雨め、猫たる俺の道を阻むとはなんと傲慢な輩よ。いつか必ず雫一つ落ちない快晴へと変えてやる覚悟しろ。
若干濡れてしまったお毛々を毛繕いしながら、俺は雨への憎悪を募らせた。
「はあ〜……疲れたぁ……人間関係面倒くさいし、労働ってほんとゴミ……て、猫?」
おおう、前世の俺がめちゃくちゃ共感できちゃうことを呟いてんな。
建物の中から出てきた疲れ気味のOLっぽい感じの人を、俺はジッと見つめた。
あ、勝手に軒下使ってるぜ。雨が止むまでは此処に居てあげるから感謝しなよOL娘。
「なんか、自信満々な表情してる猫だなぁ……世界は自分のためにあるとか思ってそう」
「にゃー」
当たり前だろ。我猫ぞ? 逆に俺以外の誰のために世界があるってんだ。
天の寵愛を受けし超越存在である俺が居なければ、この世界は成り立たぬことと知れ。
「はあ……猫は良いなぁ……なんのしがらみもなく生きてそうだもん。羨ましいったらないよ」
隣に座ってきたOL娘が、俺の顎を擽るように撫でてくる。
ううむ、醸し出す疲れ切った雰囲気と発言内容とは裏腹に、撫でる技術はトップクラスじゃないか。これは猫ポイントが高いぜ。
誇れ、お前は凄い。褒美にゴロゴロ音を賜わそう。
「あはは、安心するの早っ……なんか単純そうに生きてるなぁ、君は」
まあね。
深く考えるのなんて、猫のすることじゃないんでね。どーせなるようになる。
これくらいの軽い気持ちで歩んで、自分本位に楽しまなくちゃ生きてて面白くないだろう?
俺は寝転がり、OL娘にお腹を曝け出した。おら、お前もモフって全部忘れろ。
「心配になるくらい警戒心がまるでない……ちょっと頭の足りない子っぽいな」
……あ?? お、お前……俺の何が足りてないって? その発言、跪いて泣き喚いても絶対に許さな──
「でも……ふふ、元気でる。超可愛いね、君」
なんだよよく解ってんじゃねぇか。
遠慮することないよ? どんどんモフりなさい若き才能の原石よ。頑張る子にはご褒美がないとダメだからね。
モフって笑って、もっと俺を褒め称えよ。
「人慣れしてるし、この整った綺麗な毛並みからしても、多分誰かの飼い猫なんだろうけれど……良いなぁ、白猫。癒しだもん……また来てくれるかな」
「にゃー」
それは気分によるな。
お前の撫でテクニックは確かに称賛に値する。しかし俺はチョロい猫じゃないんで、それだけで通ってあげるほど軽くも安くもないよ。簡単に俺の行動を決められるだなんて烏滸がましいこと、呉れ呉れも考えないでね、人間。
「ギルド長も猫好きで、『猫来訪歓迎!』とか宣ってたし問題ないでしょ。また来てくれたら、面白い玩具や美味しいごはんをあげるよ。この冒険者ギルドには、観光できるポイントも沢山あるし。どうかな白猫さん」
じゃ、通う。
俺の散歩コースの一つに、冒険者ギルドが追加された。
◆◆◆◆
『猫さん、一緒に遊びましょう!』
「にゃー」
しょうがないにゃあ。
テンション高めの聖女ちゃんに誘いを受けて、俺は可愛い腰を上げた。
聖女ちゃん、魔法の練習頑張ってるからなぁ……こっちも相手くらいしてあげないと釣り合いが取れないもの。
ほんと、慈悲深い猫だぜ俺は。
『最近精度を高めて、漸く猫さんとも遊べそうな魔法が出来たんです!』
魔法で遊ぶの? え、それ大丈夫?
俺が絡んだときの聖女ちゃんの魔法の腕は、普通に疑ってるぞ俺。前も守護魔法で俺のこと身動き不可にしただろ。
困惑と心配に身構える俺に向けて、聖女ちゃんは言う。
『今から使うのは、猫さんのために作った猫さんのための魔法。えへへ、この日のために密かに死ぬ気で練習したんです。いっぱい楽しんでくださいね!』
……うーん。『死ぬ気』がちょっと引っ掛かるけれど、聖女ちゃんがそこまで自信を込めて言うのなら、付き合ってあげるか。
しかし不都合や問題があった場合、即座に連続猫パンチの刑だ。覚悟しときなよ。
『──“蝶が羽ばたく魔法”』
聖女ちゃんの両手が淡く光ったかと思ったら、見たこともない白色の蝶が一頭飛び出し、俺の周囲を元気に飛び回り始めた。
わあ……とっても綺麗な蝶々さんだぜ。なんだかとっても幻想的だ。
『これは、私が魔法で生み出し、コントロールしている蝶です。まだ私の目の届く範囲でしか操作できませんけれど、猫さんと一緒に教会の中を散歩したくて、解呪作業の傍らに頑張ったんです』
はえ~凄いじゃんね。
あの量の魔法練習をしながら、そんなことまで行っていたのか。え、マジで凄いな……どんだけ俺と遊びたかったんだ……?
『この蝶は私と視界を共有しているので、色んな角度から猫さんを見ることが出来ます。ふふ、どの角度から見ても、猫さんはカワイイの塊ですね!』
蝶は羽ばたき、俺の身体の周りをグルグルと回り続ける。
この狂喜乱舞しているような動き……確かに聖女ちゃんが操っているみたいだな。元気すぎだろ。
『景色が動くというのは、これ程までに素晴らしいことだったのですね。それに猫さんが私のことを追って、顔や身体を動かしてくれている……愛おしくて堪りませんっ』
視界の端や中心をバタバタ羽ばたかれたら誰だって見ちゃうでしょ。猫なら尚更に。
折角聖女ちゃんが作ってくれた魔法だから、甘んじて受け入れてあげてはいるけどさ……ヤバいからそんなに動かさないでほしいな。
『猫さんの顔を、こんなに近くで見たのは初めてです!』
「……」
『猫さんのお鼻……う、可愛すぎるっ』
「……」
『猫さんの背中、もふもふで滑らかそうです……滑りたい』
「……」
『猫さんの──』
うん、もう限界だな。
我慢なんて猫には向いてないし、俺の主義にも反する。本能を抑え込んで、やりたい事をやらないなんて愚の骨頂だ。やりたいことはやったもんガチなんだよ、青春ならね。
というわけで。
そろそろ狩るか♠
『え、猫さん……な、なにをして……ま、ちょっ、猫さん!?』
俺は遊び尽くした。
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