聖女様の飼い猫 作:毛布野タビ
天気の良いお昼。森の中にある木の上で、のんびり優雅に箱座りをしている現在。
偶然にも昨日に引き続き、あの喧しい二人組──シスターと、昨日に比べちょっぴりボロボロな姿になった翼仮面さんのコンビを、俺の可愛らしい眼は発見していた。
翼仮面さんは知らんが、シスターが街の外に出るなんて珍しいじゃん。美味しいごはんでも狩りに来たのであろうか。
しかし、この広い森の中で、神猫たる俺の視界に入る所まで辿り着くとはな……本当に、運の良い奴らである。幸運値めっちゃ高そうだぜ。
「全然見つかりませんねぇ、魔物。折角我が力を見せるためにやってきたというのに……ここまで出てこないなんて予想外でした。どうやら我の発する“力の波動”を感じ取り、奴ら逃げてしまったようです……すみません、我が光り輝く存在であったがために、このような苦労を貴方に与えてしまってッ」
「そうね、取り敢えず腹立つから黙りなさい。ツッコむのもいい加減面倒臭いわ。あとポーズも取るな、なんかダサいのよ一々」
「ダ、ダサ!? け、結構考えてカッコいいのを生み出したつもりだったのですが……」
此方に届くくらいに傷付いた雰囲気を醸し出す、翼仮面さん。
うーむ、俺は悪くないと思うけれども……練習した感伝わってくるし。まあシスターは嫌うだろうな、ああいう喧しいポーズは。
「大体、なんで貴方ちょっと既にボロボロなのよ。その仮面の傷はどうしたの」
「え? し、知りたいですか知りたいんですねこの傷のことがやはり! ふふっ、そこまで願われてしまっては、応えぬワケには参りません! お教えしましょう! 聞けば感動必至! 涙なしには語れない! 我のこの傷付いた姿に纏わる陰謀と運命。ロマンチックな物語の顛末を──」
「成る程とてもロマンチックな物語ね感動したわ」
「まだ一言も物語について喋っていないのに!?」
あからさまに話を避けたな。気持ちは分からなくもない。長そうな上に、面白くなさそうなんだもの。
俺なら数分で眠っちゃってる自信がある。猫は睡魔に正直だからね、仕方ない。
「け、結構聞かれるの楽しみにしてたのに我……むうっ」
「……はあ。語りたいなら、簡潔に纏めてから話しなさい。長くないのであれば、聞いてあげる」
「!! わ、わかりました!」
パァッと、喜びの雰囲気に身を包む翼仮面さん。
シスターの甘い所が出たな、何だかんだですっごーーく面倒みが良いし優しいんだよな、この人。
ウジウジしてる所が最近目立っているから、見ていて猫パンチを叩き込みたくなるのは否定しないが。
「実はですね……この仮面の傷は、昨日受けたクエストで負ったモノなんです」
「え、貴方昨日夜まで教会に居たわよね? あの後クエストを受けたの?」
「え、は、はい」
「……あれだけ私との“オハナシ”に疲れ果てていたのに、よくもまあそんな体力があったわね……」
「ふっふっふ、貴方との話し合いは楽しかったですから。何より依頼人の方がとても困っている様子で、見過ごせなかったんです」
「………」
何とも言い難い表情で、シスターが押し黙った。どういう感情ですか?
それにしても、翼仮面さんの属性はやはり聖女ちゃんと同質のようであるな。確実に光側の性質だ。我が目に間違いはなかった、流石俺。
「依頼は単純で、“迷い猫の捜索”というモノだったのですが……これが思った以上に大変で。捕まえるのに手間取り、今の今まで掛かっちゃいました。そして、これ程までの手傷を負ってしまったというワケです」
え、つまりその仮面の傷は猫に付けられたってこと? ど、同族に先を越されてた!? 俺がやるつもりだったのに! な、なんだこの縄張り争いに敗北したかのような気持ちは。
「しかし受けて正解でした……確かに大変な思いをしたのですが、依頼人の方や受付の方にとても感謝されて……ものすごーーく嬉しかったんです……えへへっ。やはり良いものですね……誰かの役に立つということは!」
「…………」
「勿論、貴方の役にも立ってみせますよ! 此度のクエストで、その気持ちが強くなったんです! なんて言っても我は、伝説を作りし者! 貴方を護る最強の矛であり盾ともなる存在なのですから! ふふん! 以上、ご清聴ありがとうございました!」
バッとヘンテコなポーズを決め、翼仮面さんは話を締め括った。
良い話だったよ〜、俺以外の奴に爪研ぎさせた部分を除けば。後でお前、仮面剥ぐ勢いで爪研ぎするから覚悟しておけよ。
「…………」
「あ、あの……マスター? 何か感想とかありませんか?」
「…………」
「え、えっと……罵倒でもなんでもいいのですが」
居た堪れなくなったのか、変なことを言い出す翼仮面さん。
罵倒でほんとに良いんですかお前。
「………。……………はあああ。私、貴方のことめちゃくちゃ嫌いかもしれないわ」
「え、いきなり!?」
「実は昨日からよ、それがちょっぴり確信に近付いただけ」
深く溜め息を吐いた後、止めていた足をシスターは再び前に進めた。
「さ、行くわよ。貴方の伝説的な力、ぶつけられる相手をさっさと探しましょう」
「あ、あの我……かなりショックを受けたのですが」
「問題ないでしょ……貴方なら」
顰めっ面を隠すことなく、しかし真っ直ぐと翼仮面さんを見つめながらシスターは断言した。
なんかよくわからんけど……もう移動する感じ? 俺への挨拶をすることなく? え、それはいくらなんでも不敬がすぎるんじゃあないかい?? まあ、俺は寛大だから赦してやらんでもないが。
『またにゃ〜』という意味を込めて、俺は鳴いた。
「にゃあん」
「ッ!?」
「なっ、わ、我の感知範囲内から急に──……て、あれ……昨日のカワイイ猫さんじゃないですか」
殆ど同時に俺の方向へと顔を向けてくる、シスターと翼仮面さん。
今一瞬、とんでもなく緊張感が高まった雰囲気があったが……俺の凄すぎかつ跪きたくなるような、絶対遵守の声の迫力にビビったのかな……。
「な、なんで貴方がこんな所にいるのよッ……」
「にゃあ」
「“にゃあ”じゃない! ああ、もうっ……此処は街の外よ……どうやってこんな所までッ」
どうやってって……普通に気配を殺して通ったのだが。我が道を遮りお散歩を止められる者とか、この世には存在しないし。
「悪いけど、一旦貴方の力の確認は保留よ。今すぐあの子を街に戻──!」
「ッ、畳み掛けてきましたね……いつの世においても、やって来て欲しくないときに限って、訪れるモノです」
「あーもう! ほんとにそうね!!」
むむ、気配……何奴!
ズシンズシンと、森に響く音。重音量な足音……けれどもとてつもなく速いそれが、此方に近付いてくる気配を、俺のカワイイ五感も感じ取っていた。
何か……デケー奴が来そうな予感!
尻尾をペシンペシンと木に叩きつけながら、俺は警戒態勢に入る。誰が来ようと、この俺が狩る!
そして、デカい音と共に現れたのは──めちゃくちゃ大きい猪であった。
「ブゴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
わあ……とっても大きい図体と鳴き声だぜ。だが、デケーだけだな、神猫たる俺の敵じゃあない。
「ア、アレは恐ろしい突進力で周囲のモノを蹴散らす猪型の魔物──
「どうやらそのようね……クソ、騒ぎすぎたのが原因かしら。貴方あの子回収できる? 私が獄牙を引き付けるから」
「え!? な、なぜそのような結論に? 貴方は護衛対象ですよ……どうして我よりも危ない橋を渡ろうとしているのですか!?」
「いや……貴方鈍臭そうだから、一瞬で吹っ飛ばされそうなイメージが……変な仮面付けてるし」
「へ、変な仮面? 鈍臭い? そ、そんなイメージ持たれてたんですか!?」
うーむ、俺に言わせればどっちも鈍臭そうだけれども。まあ、猫である俺に比べれば、人類は皆大した違いはありはしないが。世話の焼ける奴等だぜ……仕方ない、慈悲深くも最強な俺が二人を護ってあげよう!
シスター達の隣に舞い降りた俺は、天使の声を放った。
「にゃあ」
「何、貴方もそう思うのね──いや、いつの間に隣にいるのよアンタ!?」
さっきからだぜ。
て、何をしやがりますかこの愚か者め! いきなり抱っこするんじゃねぇ不敬であるぞ!!
「よし、よし! 捕まえたわよこの大バカにゃんこ! 心配かけさすんじゃないわよ!」
「にゃあん」
「その何にも解ってそうな平和全開の声止めて、緊迫感がなくなる!」
無理言うな。
「ふぅ……猫さんも無事……良かったです。どうやらこれで憂いはなくなったようですね」
「バカ言わないでっ、状況は何も良くなってなんかないわ。通常はまだしも、“強化種”はいくらなんでも手に余る。全速力で、街の結界まで逃げ──」
「いいえ、その必要はありません」
翼仮面さんは、俺とシスターの方へと視線を向けると、柔らかく優しい声で告げる。
迫りくる猪、その気迫に負けないくらい、今の翼仮面さんは大きく見えた。おおう、何だコイツ……ちょっとカッコいいぞ。覚悟ガンギマリって奴であろうか。
「──我の力を貴方に見せる、絶好の機会ですから」
「!」
突進を仕掛けてくる猪の方を向き、翼仮面さんは更に言葉を続ける。
穏やかな声、そこには微塵の恐怖も畏れも感じられない。あるのは、“勝つ”という絶対の自信だけ。
大した根性であるな。しかし、そういう力強いポジティブな感情は嫌いじゃない。
よーし翼仮面よ、最早我がもふもふな力を見せる必要はない! 今のお前の驚異的であろうパワーで、そのデカブツを蹴散らしてしまえー!!
「ずっと見せたかったんです……貴方に我の力を。もう、あの頃とは違います。それを今から証明します……だから、今は見ててくださいね──私のこと」
「なっ──」
目を見開くシスター。
それにクスリと笑うような仕草を見せると、翼仮面さんは左手を猪にへと向けた。
「フハハハハハハハハ!! 貴方もつくづく運が悪かったですね獄牙よ! 相手がこの我であろうとは! しかし貴方の命、存在は無駄にはしません! 安心して逝くがいい!」
「フゴオオオオオオオオオオア!!!!」
「ふふ……それでこそやりがいがあります。見るがいい! 我が力! その聖なる一端を!」
どうやら始まるようであるな。仕方ない、カワイイ俺が一生懸命応援してあげよう。どんな応援よりも力の源になる最カワな応援……それが俺の応援なのだ。つまり、敗北などありえんし、したら狩る。オヤツの時間までには終わらせてね命令だよ!!
「みゃおーーん」
がんばえー! 翼仮面ー!!
シスターの腕の中で、俺は元気いっぱいに応援した。──そして。
「受けてみよ! 【聖──」
「フ、フギゴオオオオオオオオオアアアアアアアア!!!?」
「なっ……え!?」
「あ……ああっ!?」
獄牙、シスター、そして翼仮面さん。三人の意識が次の一瞬へと完全に繋がった──その刹那。
誰も予知していなかった、光り輝く天の柱が……空から降り注ぎ、猪畜生を貫いたのだった。
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ここまで読んでくださり、ありがとうございました! お陰様で猫さんが可愛らしく応援してくれました!
本当に、本当に励みになりますので、もしよろしければ高評価等も宜しくお願い致しますッ。