聖女様の飼い猫 作:毛布野タビ
温かい太陽さんが沈み、お月さんが顔を出す時間帯。
シスター達と共に、俺はファンタジー世界でよくありそうな酒場へとやってきていた。
ガヤガヤと酒場の中は喧騒に包まれており、皆が楽しそうに笑い飲み食べてを実行している。
うーむ、此処に来るのは初めてではないものの、やはり喧しすぎるな。こういう光景や喧騒は全然嫌いではないのだけれどもね。優雅かつ静寂な時間の方が好きってだけで。俺の性質的にも、そっちの方が相応しいし。
しかし常日頃から特殊な訓練を受けている、世界最カワな神猫の俺じゃなければ、耐えられなかったであろうな。こういう時に経験というものは活かされるのだろう。
全ての経験、時間を余さず活かすことができるなんて……俺は適応能力の神でもあるようだな。ふふん。
己のあまりの有能ぶりに、椅子の上で俺はドヤった。
「……何を自信満々な顔をしているのよ、この放浪にゃんこ。どんな場所でもその平和ぶりを発揮できるなんて……本当に大物ね、貴方」
隣の席に座っているシスターが、頬杖を付いた状態で俺のことをジト目で見つめてくる。
“どんな場所でも”というか、猫のいる所こそが平和だからね。たとえどれだけ鬼気迫る状況、因縁的絶望の中でも、そこに猫を配置するだけであら不思議。のほほん空気の出来上がり! なのだ。
「まーまー! 猫さんも折角ここまで付いてきてくれたのですから! この子も我らと共に森を冒険した仲……此度の戦友でしょう!」
「戦、友……? 絶対に違うというのだけは断言できるわね……」
そうだね、ここはシスターに同意するぜ。俺はお前らの戦友じゃない……安寧秩序を正す神だ。立場を弁えよ、人類。
「そもそも獄牙が消滅した後、直ぐに街に戻ることにしたでしょう。……この子が逃げ回るせいで、無駄に時間が掛かったけれども」
「ふふっ……猫さんは元気いっぱいに動き、沢山眠るのがお仕事ですからね、仕方がありません。我としては、この短期間の間に二度も猫探しが出来て幸福まであるのですが……二度目は貴方も居ましたし」
「……貴方のその“超”が付くほどのポジティブ精神、頭が痛くなるから止めてくれないかしら? 如何ともし難い気持ちの悪い気分になるのよ」
「べ、別にポジティブなつもりはないのですが……思っていることを言っているだけで」
「………はあ」
疲れ気味に溜め息を溢すと、シスターは俺の頭をワシャワシャと撫で回した。
ううむ、悪くない。良き撫でだぜ!
「この子とは別種の問題児ね、貴方も。この二日間でそれがよく理解できたわ。愛嬌がない不気味な見た目の分、余計に腹立たしい」
「ぶ、不気味? 腹立たしい!?」
「ええ、ビックリするくらいにね」
と言いつつも、声は全然ムカついてる感がないな。何かに腹が立っているとしても、それは翼仮面さんにではないと思う。妙に落ち着いているのは、撫で心地で解るし。
「ふーっ……なんか、色々と疲れる日だったわ……二度とこんな日、ゴメンだと思えるくらいの厄日よ」
「そ、そうでしょうか? 我は、物凄く楽しい一日でしたよ。あの方の“奇跡”を間近で見られるなんて思ってもみませんでしたし、何より貴方と冒険が出来たワケですから。この二つだけで、全ての行為に掛け値なしのお釣りが発生した気分です」
「にゃあ」
「おおっ、貴方もそう思うのですね! 勿論、貴方と会えたのも物凄く嬉しかったことの一つですよ!」
ズイッと身体を前のめりにし、俺のことを見据える翼仮面さん。
別に今の声は、何の意図もない只のカワイイ鳴き声だったのだが……。
「しかし、まさかあのタイミングで聖女様の魔法が降るなんて驚いちゃいました。獄牙の強化種は確かに強敵ではありますが、我だけで何の問題もなかったと思いますし……何か、あの方が魔法を──それも、【天の裁き】を発動させるだけの理由があったのでしょうか?」
「……さあね。けど、あの方のことだもの。きっと、とてつもなく次元の高いことに思考を巡らせていたのでしょうね」
「にゃあん」
俺のことを考えていたんだろうね間違いない。
むむっ、撫で方に更に深みが増したぞ。また技術を上げたなシスターよ……褒めて遣わす!
「能天気にゃんこめ……貴方も、少しは聖女様を見習って“次元の高い思考”を行いなさい。折角あの方の“奇跡”を間近で体験できたんだから……少しは経験を活かして行動することね。貴方はとんでもなく貴重かつ素晴らしい出来事に見舞われたのよ」
「にゃあ」
「………絶対解ってないわね」
解ってるぜ! あんまし話は聞いてないけどなぁ!
「ふふっ……何はともあれ、これでマスター、貴方との初ミッションを無事に終えることができました。貴方の言う通り、此度の結果、経験を活かして次の本番──『星還りの廟』のときに全身全霊で挑んでみせましょう。我が、貴方のことを護ります。どうか、期待してくださ──」
「? 何を言っているの。貴方と行くとは、まだ決めてないわよ」
「ええ!?」
キョトンと首を傾げながら告げたシスターの発言に、驚愕の声を上げる翼仮面さん。
愉快な反応だなぁ、見ていて飽きないぜ。
「な、何故ですか!?」
「いや何故も何も……貴方別に一度も戦ってないじゃない、経験を活かす以前の問題よ。私に自分の戦闘能力を見せる、信用を勝ち取るという名目で森へ行ったのに、戦闘してないなんてワケわかんないでしょーが」
「うぐっ! た、確かにそうかもしれませんが……! そ、それは魔物が居なかったからであって我の落ち度ではなくないですか!? そ、それに猫さんも届けなくてはなりませんでしたし!」
「だから、今はまだダメという話よ」
俺を撫でる手とは反対の手で、シスターはジョッキを持ち、中に入った飲物を一気に飲み干した。
「まあ、運も実力の内ね……貴方、そういうのあんまりなさそうだもの。妥当な結果よ」
「む、むぅッ……我ほど運の良い選ばれし者もいないと思うのですが。我はどうしても、貴方に認めてほしいです」
「……そういう所がある限り、貴方は折れないのでしょうね」
顰めっ面で、シスターは言う。
むむっ、どうでもいいが撫でる手が止まったぞ。何をしておる、早くするのじゃ。
「みゃーん」
「猫さんもこう言っていることですし……どうか認めてくださいませんかっ? 貴方のために、何度でも森に出向きますから!」
「………」
「なあん」
「ほら! 猫さんも我と同意見です! お願い致します!! 今一度我にチャンスを! 必ず役に立ちます!!」
お前と俺の意見は100%違うであろうよ。適当なこと抜かすんじゃあねえ!
「微妙に噛み合ってないのでしょうけれど……はあ。これ以上言い合っても、正攻法で説き伏せるのは不可能そうね。貴方は、“普通”じゃないもの」
「当然です! ふふん!!」
「ポーズを取るな鬱陶しい」
ジョッキをドンと置き、暫く逡巡するように顔を顰めた後、顔を伏せるシスター。
重苦しい雰囲気だなコイツ相変わらず。一発猫パンチで、空気をリフレッシュさせておこうかな。
下を向くシスターと目線を合わせながら、俺は鳴いた。
「にゃあ」
「───……ああ、もうッ。どいつもこいつも!」
覗き込む俺の顔を両の手でワシャワシャし、シスターは盛大に態とらしく溜め息を吐いた。
ま、前が見えねえから止めろォ!!
「はあああああ……馬鹿の相手は疲れるわ。……口調や雰囲気はまるで違うけれど、貴方はあの人達に似通っている所が多いから……尚のことね」
「………」
「……。………どうせ貴方には何を言っても無駄なようだしね。分かりきった結末のために、時間を使うのにはもう飽きてるのよ。ふーっ……いいわ、後悔させてあげる。死ぬほどコキ使ってあげるから覚悟しなさい!!」
あ、シスターがデレたぜ。大体いつもデレてる気がしないでもないが。
「え!? ほ、本当ですか! や、やったー! 我の勝利! 我の手柄! 我と猫さんの華麗かつ真っ直ぐな思いが、貴方に届いたのですね! 何だかんだ言って、やはり貴方はとんでもなく甘くてチョロいです!! ふっふーん!」
「………やっぱり今のナシにしましょう」
「どうして!!?」
妥当ッスね。
というか、お前たちの湿りっ気のある会話の結末なんぞどうでもいい。そんな些末なことよりも、カワイイ俺の顔をムギュムギュするんじゃあない!!
顔を掴むシスターの手を薙ぎ払い、俺は怒りの声を放った。
「あおーーーん」
◆◆◆◆
『………ある地点から動く気配がありませんね。邪悪な気配も周囲にはありませんが……むうっ。猫さんに逢いたいですッ』
ここまで読んでくださり、ありがとうございました! お陰様で猫さんが鳴いてくれました!
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