聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
今日は何だか街の人々が騒がしい。
どこもかしこも喜色に面貌を染めては、飛び跳ねそうな勢いで燥いでいる。なんだなんだ、この俺が居てもそんなあからさまな反応は晒さないってのに。
一体どうしたというんだ。
『何があったんだ。発言を許す、申してみよ』という意味を込めて、俺は頭を撫でてくるシスター少女に鳴いてみた。
「にゃー」
「なに、もっと撫でてほしいの? ほんと図々しい猫ね、まあ、いいけどさ。……ふふっ」
うーむ、やはり通じないか。
嬉しそうなのを隠せていないシスター少女のなでなでテクニックに喉を鳴らしつつも、不満が溜まる。
ツンデレ気味なシスター少女はホッコリするし、嫌いじゃないんだけどもさ。猫の俺に見せるのはデレが9割を占めてるし。
けれど、やはり意思疎通が上手く出来ないのには不満が……よし、いいぞ。良き“撫で”だ。また腕を上げたなシスターよ、褒めて遣わす。
「にしても……この喧騒には困ったものね。喜ばしいことなのは分かるけど、もう少し適度に燥ぐことを覚えた方がいいわ。司教様なんて、今朝からずっとニヤけてるし。大ファンなのは知ってるけれど、教会の立場を鑑みたら厳格な対応が求められることくらい理解できてるでしょうに。あれじゃみっともないわ」
「にゃー」
お、街の雰囲気の原因に纏わる話かね。いいぞ、そのまま申し給え。
シスター少女の手に頭を押し付け、俺は話の続きを促した。
「わかった、わかったわよ……撫でればいいんでしょ撫でれば。全く、貴方は悩み事とかなさそうで良いわね。このお気楽にゃんこめ」
否定はしない。猫は自分本位で気楽な生き物なんでね。
でも別になでなでの催促をしてるワケじゃないぞ、さっきからどれだけ俺に甘えにゃんこ属性を付与したいんだ。
俺は話の続きが知りたいんだよ、話の続きが。早く話してよシスター。
「うりうり……ふふ、貴方ほんとに“もふもふすべすべ”な手触りだわ。飼い主に余程大切にされているのね。“神聖”さすら感じる見た目になってきてるわよ」
ダメだな、話を聞くことは無理そうだ。コイツはもう俺の虜になっちまった。
身に降りかかる話題より、目の前の俺を愛でることを選んだか。
当然といえば当然だな。世界の理ともいえる。
ほんま、カワイイって最強やわ〜。
最強すぎて話は聞けなかったが。まあ、俺が最強にカワイイのでよし!
◆◆◆◆
異様な活気に包まれた街を歩いてみて、気が付いたことがある。
それは、街の人々が『なにかの準備』を行っているということだ。風船やら、花飾りやら、リボンやら。街の至る所に装飾を施しては、綺麗に彩られた景観へと変えていっている。
人々の表情、街の装飾、あちらこちらに並び始めた屋台達。
ここまで来れば、何があるのか大体の予想は尽くというものだ。俺の可愛すぎる頭脳が導き出した答えだ、間違いない。
これは、“お祭り”だろう。
どういう主旨のお祭りかは知らんけど。まあ、どんな内容でも幸福な喧騒は嫌いじゃないから、いっか。
ベンチの上で、俺は大きく欠伸をした。
「こんにちは、綺麗な猫さん。お隣失礼してもよろしいかしら」
「にゃー」
どーぞ。
俺の隣に座れることを一生誇れよ若人。
隣に腰掛けた大きめの帽子を付けた女性を、俺は寛大に迎え入れた。
「ありがとう。こんなに可愛い猫さんの隣に座れるなんて、それだけでこの街に来た最高の思い出になるわね」
キミ見どころあるじゃん。
隣に座るだけじゃ足りないだろう。この最高級もふもふを撫でてくれてもいいんだよ?
透明感のある薄い空色の髪が特徴的な、綺麗な少女の手に俺は擦り寄った。おらモフれ。
「ふふ、随分と人懐っこい子ね。私を信用してくれているのかしら」
「にゃー」
俺は俺の可愛さを信用している。ので、その可愛さを理解したお前も信用できるってことだ。遠慮せず撫でなさい。
「綺麗な白色ね、よく手入れが成されている。貴方の飼い主は、とても素晴らしい方なんでしょうね。とても“善い愛情”を感じるわ」
「にゃあ」
ほう……なで技術は銀髪エルフさん以上、シスター少女未満といったところか。中々の技術だな……しかし触り方が割れ物や芸術品を撫でるみたいに、品性と優雅さが溢れすぎている。普通に擽ったいぜその力加減じゃ。
「猫さん。私、実は歌手をやっていてね、明日ここで私のコンサートが開かれるの。もし良ければ見に来て頂戴ね」
「にゃあ」
コンサート? ほうほう、それは凄いじゃん。
こうして同じベンチに座った仲だ。忘れてなかったら見に行ってあげるよ。君、絶対歌上手い声質してるし。
「ふふ、貴方のように幸福に満ちた子が居るってことは、それだけで聖女様の意思を受け取ったかのような気分になるわ。私はまだまだあの方のように心を温かくする、人々を笑顔にできる歌は歌えないけれど……それでも前に進もうという思いが強くなるの」
へぇ……そっか、君は良い子だな、空色女子。
属性で語れば、確実に聖女ちゃんと同じ側の人間だ。圧倒的善属性、眩しいったらないぜ。
しかし、こういう明らかに育ちの良い、人間性の整った綺麗な子も『聖女様』に脳を焼かれてるのか。本当にかの人物の影響力の大きさというものは、目を見張るモノがあるな。流石は世界を救った聖女様といったところだろうか。
いつか会ってみたいもんだぜ。歌も上手いらしいし、是非とも一度聴きたいね。
◆◆◆◆
廃教会で、俺は聖女ちゃんの歌を聴いていた。
『猫さん猫さん、猫さんさん♪ 世界で一番もっふもふ〜♪ 世界で一番ふっわふわ〜♪ 猫さんこねたら天使だよ♪ 天使をこねたら猫さんだ♪ カワイイカワイイもっふもふ〜♪ もふこねもふこねふっわふわ〜♫ 猫さん天使だカワにゃんにゃん♫ 天使は猫さんカワにゃんにゃん♫ どっちもこねちゃえカワにゃんにゃん♫』
なんだぁ……その歌詞?
一々天使と猫をこねてるし……意味を考えたら普通に怖いのなんなの? 最終的にどっちもこねちゃってるじゃん。
声質は良いし、上手いと思えるのに……歌詞が絶望的に気になりすぎる。
『どうですか猫さん。猫さんのことを思って作った歌です。自分でも良い歌詞が出来たなと感じるくらいの自信作で……えへへ、気に入ってくれましたか!?』
「にゃあ」
そっかぁ、自信作かぁ……うん。
作り直せ。
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