聖女様の飼い猫 作:もふもふもふも
祭り当日。
人々が笑顔で騒ぎ立てている声が街全体に響き渡っている最中。
俺は、鉄柵に身体が挟まり抜けられなくなっていた。
……猫の身体は圧倒的液体能力を誇っているとはいえ、少々驕っていたようだ。無理矢理に鉄柵を抜けようとしてこの始末。鉄柵に挟まる俺も最高に可愛いが、これでは祭りに出向くことが出来ん。
主役が居なければ、街の人々も満足出来ぬだろうに……どうにかせねばならんな。
うーん、仕方あるまい。我が天使の声で有象無象を呼び寄せて、俺を救出する名誉ある仕事を任せるとするか。ありがたく思え。
周囲に届くように、俺は鳴いた。
「なーん、おーん、みゃーん」
「……なにをしてるんだい、君は」
「にゃあ」
やあ、今日はとっても良い星が煌めいているね。はよ助けろ。
早速やってきた人に向けて、俺は気さくな挨拶をした。……て、誰かと思ったら銀髪エルフさんじゃん。元気にしてたかい。俺はとっても元気だぜ。
「……抜けられなくなったの?」
「にゃー」
流石理解が早いね、見たまんまかもしれんがな。
苦笑する銀髪エルフの手腕により、俺は鉄柵から解き放たれた。良い手際だ、感謝するよ。
「まさか、お祭りを見に来て一番最初にすることが、鉄柵に挟まった猫の救出とは……流石に予想できなかったな」
俺もだよ。
しかし、良い思い出になっただろう? 祭りに来てこの俺をモフれたんだから。
「あはは、喉が鳴ってる。今日は特別な日だもんね。猫ちゃんもお祭りが楽しみなのかい?」
「にゃあ」
まあまあかな。
猫である俺が居るところは、総じてお祭りみたいな空気になるし、そんなに特別感は感じていない。俺がいつも特別に可愛すぎるのでね。
「ふふっ……私も今日のお祭りは楽しみなんだ。良いモノが見られるかもしれないからね」
良いモノ? なんですそれ。なんにしろ俺を見た後じゃ喜びも半分以下にならないか?
「此処はまだ喧騒から離れているから、落ち着いて腰を据えることができるよ。万が一同族に見つかったら面倒なことになる」
俺の隣に座り、銀髪エルフさんは夜空を見上げた。
ふむ、君も星の綺麗さに気が付いたのかい? いいぜ、一緒に見ることを許そうじゃないか。
「……猫ちゃんは、今日がなんの日か知ってるかい?」
「にゃあ」
俺がカワイイ日だろ。
「今日は、天が裂けて光が差し込んだ日。闇の帳が晴れて、あの人が──聖女様が現れた日なんだ」
ほへ〜、そうだったんか。
そりゃ確かに祭りの一つや二つ開きたくなるわな。世界的偉大な日じゃん、皆も燥ぐワケだ。漸く理由が判明したぜ。
「空に輝く星々の綺麗さなんて、ありふれたものだと昔は思っていた。ああ、でも……それがこんなにも眩しくて綺麗だなんてね。もっと早くに気が付いておけば……いや、よそう。折角の宴に悲壮は必要じゃない」
む、猫パンチの出番はナシか? 湿度高くなりそうなときの為にスタンバってたんだが。
「猫ちゃん。君もこの夜空は綺麗と感じるかい?」
「にゃー」
うん、綺麗だよ。
俺の毛並みの方が何倍も綺麗だけども。
「ふふっ……なら十分だね!」
ワシャワシャと俺の頭を嬉しそうに銀髪エルフさんが撫で回してくる。
俺のお蔭で喜ぶのは良い、猫たる俺は居るだけで幸福をお届けする最強すぎる存在だからだ。しかし……撫で方が雑すぎるぞ。
や、やめるのじゃ愚か者、頭と身体がぼさぼさになるではないか!
「ふふ、君も嬉しいのかい? よし、もっと撫でてあげよう!」
止めろ言うとるやろがい!
俺は猫パンチを叩き込んだ。
◆◆◆◆
幸福な喧騒が轟く光景を、俺は大樹の上から見下ろしていた。
本当は俺も地面を堂々と歩きたいのだが、なにせあの人数だ。俺が居ることに気がつかず、踏んづけようとする不埒者が現れても可怪しくない。猫を踏むという世界崩壊よりも望まぬトラウマを相手に与えてしまう危険性も大いにある。
人々のことを慮った行動を取れるとか……俺は慈悲深さの塊かもしれないな。
「こんばんは、綺麗な猫さん。昨日ぶりね」
「にゃあ」
こんばんは、空色女子。今日はあの野暮ったい帽子を被ってないんだね。よく大樹の上にいる俺の姿を見つけたな。
いやマジでよく見つけたな……どうやったんだ? 銀髪エルフさんと同じ感じか?
「此処は良い眺めね。人々の幸福を一望できるもの。猫さんのお気に入りスポットかしら?」
「にゃあ」
まあね。
日中は陽の光も当たるし、此処での睡眠が気持ち良いことは間違いないぜ。
「今日、私のコンサートが昼間にあったのだけれど……観に来てくれたかしら」
「……」
観に行って……ないですね。
あ、いやだって、時間知らなかったし。昼間は聖女ちゃんの相手をしてて手が離せなかったんだよ。い、今の今まで忘れてたとかじゃないよ!? ほんとだよ!?
「ふふ、猫さんにも用事はあるものね、仕方がないわ。今日のデキも、まだまだ私の思い描くモノではなかったし……観客だけではなく、私自身を納得させないと『歌姫』と呼ばれる資格なんてないもの。人々の幸福を紡ぐためにも、もっと精進しなくちゃね」
真面目かよ。
やっぱりこの人、聖女ちゃんと同類だ。他人のために、どこまでも自分を追い込むタイプ。聖女ちゃんは、そこに天然のポンコツ要素が大量に含まれてるけど。
俺は、頭を撫でてこようと手を伸ばす空色女子の手に擦り寄った。モフりやがれ。
「『──あの輝く星々のように、眩しい未来は必ず訪れます。貴方が諦めない限り、絶対に』……聖女様が、昔泣きじゃくってばかりいた私に言ってくれた言葉よ」
「………」
「望んだ目標は果てしなく、生涯を賭けても届かないかもしれない。でも、私は俯くつもりも泣くつもりもないわ。だって、一番私の歌に期待しているのは私自身だもの。だから、私は私を一生褒めてなんかあげない」
「にゃあ」
「ふふっ……けれど、聖女様に褒められたら泣いてしまうでしょうね。あの方は、私の始まりであり“憧れ”だから」
「なぁーう」
なにっ。昨日よりも格段にナデナデ技術が向上してやがる。この短期間で……あ、ありえない。
口だけじゃないぞ。この子、天才か?
「ふふ、こんなこと、恥ずかしくて他の人には言えないわね。ありがとう、猫さん。私の話を聴いてくれて……お蔭で心がスッキリしたわ」
「にゃあ」
気にするな。悩みある若者の話を聞くのは、デキる猫として当然のことだからな。本当に聞くだけだし。
「不思議ね……貴方は、どこか懐かしい気配? 魔法? を感じさせるの。どこかで会ったことがあるのかしら」
「にゃー」
いや、ないと思う。
空色女子、凄い目立つ綺麗な容姿をしているし。それに、
自信のなさを誤魔化すように、俺は毛繕いをした。
「うーん。匂いとか嗅いだら、ヒントを得られるかしら?」
「にゃあ」
聖女ちゃんっぽいこと言うな。
◆◆◆◆
『あ、おかえりなさい! 今日は遅かったですね、猫さん。心配したんですよ、なにかあったんじゃないかって……もう、あとちょっとで大声で泣き叫ぶところだったんですからねッ』
「にゃあ」
コ、コイツ……恥もなく言い切りやがった。
最近、ポンコツ具合というか、遠慮がなくなり過ぎてやしないか。
俺が居なくなった程度で泣いたりするんじゃないよ……いや、待てよ。天使より天使しているめちゃカワ最高猫の俺が居なくなったら、誰でも泣くか。
世界の真実だったわ。
ごめん、聖女ちゃん。ポンコツだったのは俺の方だったみたいだ。
俺は頭を下げて反省した。
『顔を伏せて眠る猫さん……カワイイっ』
別に寝てねーよ。
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