re:無名のダンジョン潜りについて   作:イクラ系鮭

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あけおめ!
新年早々気分の悪い話だぜ!


六話

 ベラ、ごめんね。ごめんね。

 いいよ。お姉ちゃん。しょうがないもん。子供だけは危ないに決まってるのに、油断した私の所為だよ。

 絶対、直ぐに助けるから。絶対。待っててね。

 うん。危ないことはしないでね。

 

 あー。終わった? じゃあこれ書いて。

 これは?

 契約書。早く。

 ……一つ、約束してください。

 却下。

 ……。

 書いた? 内容は、まあどうせ読んでないか。妹の開放は1000万。お前は500万だ。金額設定は適当だ。ノルマは特にない。好きに稼げばいい。けど、早くしないと妹の方にも協力してもらわないといけないことになる。分かったか?

 ……。

 どうした? ああ、面会は一回5分。10万。分かったら早く行けよ。

 はい。

 

 これが契約書だ。……ほう、ちゃんと読むのか。

 それが何か?

 いや、最近は読まない奴も多いからな。まあ読んでも読まなくても変わらないが。

 ……。

 早く書けよ。

 姉にも同じ契約書を渡しましたか?

 ああ。但し、金額は逆だ。お前の方が高くなってる。

 そうですか。

 ……字が汚いな。二人そろって学がないのか? まあ、そんな顔してんな。じゃあ、さっそく明日から稼いでもらおう。前のは客がやりすぎて壊れたからな、予約が溜まってるんだ。取り敢えず、それ全部消化しろ。

 一回いくらですか?

 客による。安心しろ、最低3万だ。全部終わって、足りなかったらロビーのやつに言え。その紹介には紹介費がかかる。最低3万だ。

 ご飯は。

 それは世話係に聞け。

 

 ふ、はぁ。これで、2万。怪我したからポーションの分引かなきゃ。あと、武器を磨く石も。だから、19000ヴァリス。あと、9999900ヴァリス。……面会、出来そうにないなあ。

 

 次。

 お前、休憩なしで三連続だぞ。ぶっ倒れられても困るんだが。

 大丈夫。

 まあ稼いでくれる分には文句はない。飲み物のオプションはどうする?

 いらない。水道水でいい。一円だって無駄にできないから。

 ……貧乏くさいな。じゃあ次、402号室。またハードなのが希望なんだろ? 行って来いよ。

 

 1,2,3,4。2,2,3,4。もっと、もっと下に。

 

 ……はい。終わりました。計算してください。

 ああ。今日の稼ぎは18万だ。

 嘘。あの人、オプション追加したし、髪だって掴まれた。

 クリーニング代と破損代で3万。業務委託の手数料と利息を引いて……手残りは2万だな。

 ……クソが。

 

 ……ふぅ。これで二十体目……。魔石の回収……これだけあれば、きっと。

 ……足、折れてる……。まあいいや、動くし。

 

 やだ、ごめんなさい、殴らないで、顔はやめて! 働けなくなる!

 

 更新料。

 はい。

 ……スキル?

 え、あ。え?

 

 はぁっ、はっ、ふっ、はあ。ゴライアス、恐るるに足らず。私の勝ちだ。

 これで、ランクアップには届いた。今の私、前よりずっと強い。スキルもある。もしかして。今なら、ベラを連れて逃げることくらい……。

 

 が、息、息……。

 遅い。頭が悪いとは思っていたが、ここまでとはな。一つがランクが上がった程度で、ダンジョンの深層で本当に世界を回している俺たちに勝てる訳ないだろう。

 ……大分手を抜いたつもりだが、腕二本、肋骨が数本、内臓破裂。全治二ヶ月か。これでは稼働できないな。しばらく別の仕事をしてもらおうか。そのスキルを使って。

 ……お、なかが……ベ、ラ……。

 

 本当にこれだけですか?

 ああ、そのスキルで、遠くから線に沿って切るだけだ。報酬は、説明したとおりだ。難しい仕事じゃないだろ。

 そうですけど。

 ……そろそろ時間だ。

 

 最悪、最悪、最悪。

 見事なもんだな。初仕事で躊躇しなかったのは個人的に高評価だ。報酬金は増やさないが。

 お前たち、人を。

 ああ、金持ちの道楽ってやつだな。人は普通の肉より何倍も高いんだ。高いだけで旨い訳じゃないけどな。けど、高いってことが重要らしい。じゃ、これからもよろしく。解体係。

 

 今日は、あの箱ですか。

 ああ、箱の側面に線が書いてあるから、あれがガイドだ。

 ……だとすると、刃渡りが足りないかもしれません。

 分かってる。だから、これを用意した。

 これは?

 太刀だ。使えるよな?

 ええ、多分。

 じゃあ、今回もよろしく。

 

 さあ! 今回の目玉はこちら! 当然、ただの木箱ではございません! 早速開けてみましょう! 解体係さーん! お願いしまーす!

 何か、変だ。けど、やらないと。

 ……はい! ただいま斬撃の設置が終了しました。それでは解体までカウントダウン!

 3! 2! 1!

 

 は?

 

 はい! 中にいたのは、解体係さんの妹さんでした!

 は?

 では、解体係さんに登壇してもらいましょう! ああ、分かっていると思いますが、妹さんは即死です! 

 は?

 姉に憧れてたのか、隠れて鍛えていたらしく肉が硬いので、皆様のお口には合わないでしょう! なので、この肉は解体係さんに食べて処理してもらいましょう!

 

 あれ? 解体係さん? 早くしてくださいよ?

 おーい。聞こえてますか?

 早く答えろよ屑が!

 

私の所属するファミリア、カマソッソファミリアを壊して欲しい

 エリナはそう言った。

 いいぜ。

「……LV2は十人以上いる。まとめ役はLV3だよ」

 ああ、それで?

「本気で言ってる? LVが一つ違うだけでどれくらい――」

 分かってるって。その上で、勝算があるって言ってんだよ。だよな? 神様。

 神様は読んでいた本を閉じた。

「本当に話していいんだな?」

 ああ、話してくれ。

 やれやれと首を振る神様。その手は艶やかに紙を示した。

「こいつのスキルは際限なく補正を掛けることが出来る。理論上は、その補正値だけでLV3のステイタスを余裕で上回ることが出来る」

 ということだ。じゃあ、さっそく乗り込むから場所教えてくれ。

 俺は切り落とされた左手から生成した鶴嘴を担いだ。

「ダメだ。勝てない。あいつのスキルを突破することは誰にもできない。そう、無理なんだ」

 エリナは消えるような声でそう言った。

 そのスキルっていうのは?

「反射だ。あいつは、全ての攻撃を反射できる。しかも、意識外の攻撃も反射していた」

 あーなるほどね。じゃあ、行けそうだな。神様、情報は集まったか?

「言われずとも。最初から揃っている」

 神様はテーブルに地図を広げた。インフラから地価まで書き込まれた神様特製のやつだ。何の目的でこんなの作ったんだよ。

 神様は秘密とだけ言って沈黙した。

 で、場所は?

 エリナは震える手である一点を指した。

 ほーん。ふーん。

 神様。

「ああ、言わんとすることは分かる」

 

 勝ったなこれ。

 

 17時。カマソッソファミリアの巣であるホテルを眺める。俺たちはその近くのカフェテリアで打ち合わせをしていた。無防備に思えるが、カマソッソの連中は全員ホームの中にいると確認が取れているので問題ない。

 エリナベラは落ち着かない様子で太刀を手の内で回した。いつも使っている刀は俺が折ってしまったので、今持っているのは俺が生成した例の半透明の太刀だ。彼女はそれを正面に素振りしてみたり、自分の袖を切ってみたり、逆手に持ってみたりしている。ここ飲食店ですよ?

「いい刀だね」

 俺がお前のを参考に作ったからそりゃあね。

 彼女はテーブルに太刀を乗せた。

「『白魚』と名付けよう」

 透明な刀身の隅々まで這う血管、峰に沿って連なる脊髄、中央付近を通る一本の白い線は、言われて見れば白魚のそれに見えなくもない。

 気に入ってくれたなら幸いだ。……時間だ。俺は行こう。

「行ってらっしゃい」

「貴様の力を見せつけて来い」

 ……エリナ。頼んだぞ。

「うん。頑張る」

 

 今日は集会の日だ。会場は、地下。

「おい、見ない顔だ――」

 鶴嘴を一振り。スイカのように弾けて消えた頭部に周囲八人の視線が集まる。

 

カマソッソ・ファミリアー>補正値:130

 

 姿勢を低くし、床を砕きながら一足で迫る。鶴嘴を薙いだ勢いで次の標的へ飛び移り、次々とその頭部をザクロにしていく。骨の砕ける音が八度響き、ホールは沈黙した。

 準備体操のようなものだ。死体は邪魔なので、端の方にジェンガしておいた。

 しかし、階段がないな。もしかして、隠されてる?

 一階を歩き回って従業員用みたいな扉を片っ端から開けていくと、その一つに赤い階段に続くものがあった。これじゃん。俺は階段を下り始めた。

 

 たどり着いたのは両開きの扉が二、三枚ある廊下の様な空間。ドアの横のプレートには「宴会場」という文字が飾られていた。絶対ここだ。俺はこっそりと中を覗いた。

 壇の上で男が音頭を取っていた。壇の下を見れば、50人余りの人間が4、5人のグループでテーブルを囲っている。舞台の上には縛られた女と、泣きながら刀を振り上げた男。ああ、めんどくせえなあ。やらないとダメ? ダメか。

 俺はドアを蹴り開けて鶴嘴を投げた。鶴嘴は風を切って飛翔し、舞台の後ろの幕に突き刺さる。カマソッソの仲間たちが椅子を蹴り飛ばして立ち上がる。キレてて草。

「誰だ? まあいいや。やっちゃって」

 壇上のおっさんがそういった。あれがLV3か。

 その一声で何処からともなく武器を取り出す面々。考えなしに唯一の武器を投げてしまった俺は、慌てて舞台に上がり鶴嘴を回収した。ついでに二人にここから出るように伝える。

「でも――」

 うるせえぶっ殺すぞ!

 女の縄を解いた男は走り出した。俺は鶴嘴を振り回して、その進路上に飛び交う皿やらフォークやら投げナイフやらを撃ち落とす。うん。練度は高くない。俺だけでも相手できそうだ。

 そうして彼女たちが階段に消えたことを確認し、俺は奴らに向き直った。

 暗赤色の結晶よ。

 SAN-1=█

 LV3は剣を取り出して構えた。

「なんだこいつ。もしかして報告にあった……まあいい。適当に捕まえろ」

 むさくるしい男どもが武器を構えてこちらへ突っ込んでくる。俺は鶴嘴を正眼に構えた。

「そうだ。お前、誰の差し金かは想像がついてる。忠告だが、よく考えずに殺すのやめた方が良い。この中には商品、所謂被害者の人間だって――」

 近くの男に鶴嘴をお見舞いする。先端はあっさりと頭を貫通して脳漿をぶちまけた。

 あ? なんか言ったか?

 LV3は変な顔をした。

「お前、もしかしてこっち側?」

 どっちだよ。

 死体を蹴って鶴嘴を抜き、牽制の為こびりついた血を振って飛ばす。そうして僅かに出来た時間で足に力を溜め、目の前の人の群に飛び込んで鶴嘴を薙いだ。先端で幾つかの首を引き千切って空間を確保。勢いのままに一回転し、足元を薙ぎ払う。

 

カマソッソ・ファミリア:不意打ちー>補正値:1200

 

 追撃に走ろうとしたところ、天秤が歌舞く。反射的に背中に鶴嘴を回し、剣戟を防いだ。振り返る勢いのままに鶴嘴を振って伏兵の喉を貫き、直ぐ正面に向き直る。

 さて、掃討戦だ。

 

 たった数分でカマソッソファミリアは半壊した。まあ、スキルもあるしこの程度は余裕だ。

 惨事を前にLV3は拍手をして言った。

「……お前、こっちに来る気はないか? 待遇は保障するぞ」

 誰が行くかよ、クソが。クソ宗教のクソ食人パーティーなんて虫唾が走るぜ。

 俺の足元には既に十数人分の死体が転がっていた。さっさとコイツ殺して終わりにしたいが、そう簡単には行かないだろう。

 目の前まで走って行ってその頭に鶴嘴を振り下ろす。だが、その皮膚に触れる瞬間、天秤が大きく傾く。今更止められる筈もなく、その先端はおっさんの頭部に直撃した。

 

オートルフ・ケードー>補正値:5000

 

 硬い。異変を感じて鶴嘴から手を放した瞬間、衝撃と共に勢いよく弾かれた鶴嘴が床に突き刺さる。その軌道は振った時と真逆を描いていた。なるほどね。これが反射。俺は手首を回して調子を確認した。少し痛いかもしれない。

 足元の皿を投げてみる。皿は確かにおっさんに当たったが、反射されて俺が投げた地点に着弾した。

 近くにいた奴を殺し、剣を奪って投げる。剣はおっさんではなく天井に当たって突き刺さった。

俺は鶴嘴を回収して上に投げた。鶴嘴は回転して天井に刺さり、その振動で抜けた剣がおっさんの頭に落下する。おっさんは剣を見もせずに反射した。

 ここまでは情報通りだ。分かってはいたが、実に厄介だ。

 LV3はニヤリと笑う。

「もういいか? こっちに来る様子は無さそうだし、さっさと終わらせたい」

 天秤が揺れる。

 

オートルフ・ケードー>補正値:6000

 

 咄嗟にしゃがむと、頭上を剣が通過した。けたたましい鎖の音と共に補正が変動する。

 自重で天井から落ちてきた鶴嘴をキャッチし、目を狙って振る。おっさんは手で払う事で容易く反射したので、その勢いを利用して後ろへ下がろうとするが腹部に拳が突き刺さる。

 

オートルフ・ケードー>補正値:7000

 

 速い。見えなかった。酸い味と共に再び補正が変動する。目が冴え、背筋が寒くなった。知性の強化だ。

 目を凝らす。おっさんの姿がブレたのを視認するや否や、横にスライドしつつ踏み込み、先ほどまで鶴嘴の柄があった場所に獲物を振る。予想通り、先端は高速で詰めて来たおっさんの腹に反射された。先ほど攻撃された箇所に響いてじくりと痛む。

「気付いたか。だが無駄だ」

 皿を投げた時、反射時に皿は割れておらず、床に当たってようやく割れていた。つまり、反射する瞬間は反射物が壊れない。では、何故拳が当たった時俺はダメージを受けたのか。

 反射を解いたからだ。攻撃の瞬間は無防備になるっていうお決まりの奴だ。

 鶴嘴を床に叩きつけてフローリングを砕き、浮かび上がった木片を撃ち出すと同時に距離を詰めて足払いを仕掛ける。おっさんは当然それら全てを反射する。目が動いていない。反射に個別の認識は不要。反射は回数制ではない。俺は右足を軸に回転し、反射時の勢いを次の攻撃へと繋げた。それも反射されるが、流れるように次へ、次へ、次へと繋げる。反射の角度が水平なら幾らでも続けられるが、途中で見切られて鶴嘴を弾かれた。俺は敢えて脱力し、その勢いに乗じて後退した。

「その悪あがきはあいつもやっていたな」

 手垢のついた方法だったらしい。でも、収穫はあったぜ。俺はLV3の腰から盗った剣を鶴嘴で砕いた。さて、これであいつは無手。

 俺は体を起こして懐中時計を取り出した。蓋を開き、時刻を確認する。

 もうそろそろいいかな。

「諦めたか? 懸命だな。今なら俺が買ってやる――」

 そろそろ葬式の準備をした方がいいんじゃないか? 誰も来ないだろうが。

「は?」

 ほら、もう六時だ。

 地下が揺れる。複数回に分けて、ドン、ドンと殴られたかのように激しく。何人かはバランスを崩し、座り込むほど大きな揺れだった。

「地震か?」

 いや、爆発さ。

 

オートルフ・ケードー>補正値:10000

 

 おお、大台に乗ったな。頼むぜ補正値君。

 俺は前に跳んだ。脚が床を離れた瞬間、骨の折れる音と共に身体は最高速に達する。周囲の景色は全て直線になり、一人高速の世界へ投げ出された。

 鶴嘴を構え、振る。

 おっさんは身構えるが、俺はその横を素通りして思い切り壁を砕いた。

「何だお前、何がしたい?」

 今に分かるさ。

 俺の一撃は壁を貫通し、大きな穴を一つ開けた。

 地下に作ったのは間違いだったな。

「は?」

 この世界は中世ヨーロッパ的な雰囲気を出していながらも、インフラが現代並みに整ってる。主に、水道とか。

「まさか――」

 宣告しよう。君は踊り狂って(おぼれて)死ぬ。

 俺の開けた穴から、水がどっと噴出した。

 

 順調に増す水位に、俺は満足していた。

 だって、あいつ泳げないから。

 スキルを発動したままだと、超撥水状態になって、水を掻けない。

 スキルを解けば、俺が殺せる。

 見れば、あいつは焦ってドアから出ようとしている。俺はそれに先回りした。

 お前、ドアを開けるためにはスキル解除しないといけないよなあ。

「邪魔だ!」

 LV3は叫んだ。その顔には玉のような汗が浮かんでいる。

 これは押し戸だ。反射中は物を壊せないから、スキル発動中は殴って壊せない。スキルを解いて、押して開けるしかない。

「うるさい!」

 やって見るか?

 俺が鶴嘴を振りかぶると、奴は停止した。そうしている間に、水位はどんどん上がっていく。膝から腹、肩へ。

 なあ、LV3なら耐異常のアビリティ持ってるよなあ。それって、酸素欠乏にも有効なのか?

「黙れ! 殺してやる」

 俺は歯列をむき出した。

 やって見ろよ。

 水位は口元まで達した。爆発音が響く。俺もそれに合わせて鶴嘴を振り、追加で二か所、壁から水が噴き出し始めた。そして水は、ついに奴の身長を超えた。これでチェックメイトだ。

 奴は背伸びして水面から何とか顔を出した。しかし、直ぐに水はそれを覆う。とうとう、奴はスキルを解除した。沈んでいくおっさん。その顔が笑顔で歪んだ。

 まさか、跳躍して水から抜け出すつもりか?

 跳躍後、すぐにスキルを発動すれば天井に辿り着ける。距離が開けば俺も追撃が難しい。だから、天井を破壊して逃げる為にスキルを解除しても問題ない。

 なるほど。少ない頭でひねり出したにはいい案だ。

 奴は足を曲げ、思い切り伸ばした。

 暗赤色の結晶よ。

 SAN-10=█

 だが、残念ながら、想定済みだ。

 その足を無数の手がつかんだ。奴の顔が水面に沈んでいく。

 神様に言われて気付いた。【ショウシャクヨモギ】は形のないもの(イメージ)に形を持たせる魔法だ。だから、こういうことも出来る。

 水中から伸びた数えられないほどの腕が、奴を再び水の中へ引きずり込んだ。

 俺は、幽霊に形を持たせた。

 【性質変化】:ヲカルトは俺の持ち込んだものを表していた。

 例え、この世界に幽霊が存在しなかったとしても、俺は怪異の概念を持ち込んだ。だから、この世界に幽霊が実在するのだ。

 LV3がいくら引きはがしても、新たな腕が次々に憑りつく。予想通り、相当に恨みを買っていたらしい。

 俺とエリナだけで終わらせるなんて、勿体ないじゃないか。

 どうせなら、盛大に恨みを晴らそうぜ。

 ()()()の復讐劇だ。

 そして、そろそろだな。

 

「とどめは私が?」

 ██は頷いた。その意図は察したが、上手くできる自信が全く湧かなかった。

 君は、復讐をしたいんじゃないのか。君の手で終わらせないと、一生囚われたままだ。彼はそう言った。

 私は太刀を握りしめた。いつも使っている、あの時も使ったあの太刀は粉々に打ち砕かれた。この太刀は██からの贈り物。

「分かった。やって見せる」

 

 俺は鶴嘴を上に投げた。丁度、あいつが藻掻いているところの真上に。先端は天井を砕いて、小さな穴を開けた。

 

 

 ちょっといい商売しただけなのに。

 あいつらだって望んでやってたのに!

 使いつぶしたっていいだろう!? いくらでもいるんだから! くだらない人生を金に換えてやってるんだから感謝しろよ!

 死んでたまるか! 死んでたまるか!

 この気色の悪い腕も、本気で振り払えばなんてことない。何度も引き剝がせば数も減ってる!

 このまま逃げられる! また新しいビジネスを始められる!

 水面が近い。光が見える。スキルを解除して顔を出さないと。

 あ。

 

 

 スキルを解除しないと、水面に顔を出すの不可能だ。何故なら、スキルを発動したまま顔が水を押し上げると、水は動きを反転させ、顔に張り付くから。

 だから、そこが狙い目だった。

 俺の破壊痕を目印に落下したエリナは、その太刀で奴の額を貫いた。

 声を出す間もなく、脳を刻まれて脱力したおっさんは壁際に流されていった。

 

 水面から、一本の腕が伸びる。華奢で、白いその腕は、エリナの顔を優しく撫でると、再び水中へと姿を消した。

 

 俺はエリナの顔が濡れていた訳を決して訊かなかった。

 




 これにて一区切り。
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