癖者共のコンキスタドール   作:まどかみやび

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第4話

「あっの……糞村長がぁぁぁぁあぁ!!」

 

怒りの声を上げ上がながらも体を動かし続けるガリヨン。

周囲には襲い掛かるオオカミの群れ。

ガリヨンがたどり着いた河辺はオオカミの巣になっていたのだった。

 

数分前――――

ガリヨンが目的地である川辺に到着し、キャンプ地を探していたところに背後からオオカミの声が聞こえた。

グルルルル…。と、唸り声をあげるオオカミの群れはガリヨンが何を言うでもなく問答無用で襲い掛かかる。

非常に効率的な狩りの仕方だ。

ガリヨンは嫌が応もなく交戦を強いられてしまった…。

 

「だぁぁぁ!!」

 

オオカミの咬みつきは空をとらえ身をひるがえしながらも叫び声をあげ、スコップを振り回すと鈍い金属音と共にオオカミが悲鳴を上げる。

スコップの先端がオオカミの頭に直撃する音だ。

怯んだオオカミの背後から新たなオオカミが今度は爪を立てる。それをスコップの柄で受けると腰に下げたマチェットを脳天に叩き込む。

こうして絶命したオオカミを増やしながらも怯まぬオオカミに対し、ガリオンはじりじりと群れの中心へ詰め寄り、一匹、また一匹と時には服を裂かれながらも体に届かせず確実にスコップとマチェットをオオカミに叩き込む。

何度も繰り返し距離をとりながら、時にはかわしながら。時に雄たけびを上げ突撃しながら。

ガリヨンは一瞬の油断なくオオカミを退けているが、それでも数が多い。

オオカミの数は少しずつ減ってきてはいるが数はまだまだ多く、ガリヨンの目にも気自身が危険な状況であることがわかる。

 

「おるぁああああああ!糞犬ども!!!俺の飯にしてやるから覚悟しておけよ!!!?」

 

…しかし、それでも咆哮し、オオカミを威嚇する。

その姿はまさに獣。人が見かけたら悪魔か怪物か。人ならざる者と勘違いするほどの気迫を放つガリヨン。

そして群れの中の後方、オオカミたちの中でも特に大きいオオカミは咆哮に怯んだのか、一瞬動きが鈍くなる……。

その瞬間をガリヨンは見逃さなかった。

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

…オオカミは知っていた。

獣の群れと独りで相対した時の人間がとる行動は基本的に逃げの一択だ。

群れのリーダーはそれを今まで何度も見てきた。

そして、成功させてきた。

だからこそ、仲間と囲んでしまえばいいと考えていた。

しかし今回の獲物は違う……。

獲物だと思っていたモノが叫び声を上げた瞬間、オオカミは自分が死ぬんだと直感的に理解した。

きっとこいつは人間じゃないのだ。

でなければ、こいつが逆にこちらに向かってくる理由が説明がつかないじゃないか!!

そうして、オオカミのリーダーは最後に武器を振り上げこちらに走ってくる怪物の顔を瞳に焼き付けながら絶命した。

 

――――

 

「はぁ、はぁ……」

 

息を切らせ、あたりを見回すとそこにはオオカミだったものがそこらかしこに落ちていた。

激戦を繰り広げた体を休めるように、しばらく地面に座り込むガリヨン。

疎水手座り込みながらひときわ大きなオオカミの…おそらく群れのリーダーだろうと考えられるオオカミの死骸を見つめる。

その瞳は見開かれ、ガリヨンを恨めしそうに、しかしどこか尊敬したようにこちらを見つめていたように感じられた。

 

(疲れてんな、俺……)

 

そんな想像をする自分を自嘲気味に鼻で笑い、このオオカミの肉と皮を一人で解体するのか…。と、少しおっくうに感じていたそんな中、背後から突然声をかけられた。

 

「お疲れのところ悪いんだけど…。」

「…っ!」

 

(油断した!)と、一瞬で倒れた体を跳ね上げ武器を握りしめるガリヨンに対し、話しかけてきた男は慌てたように両手を振り上げ敵意がないことをアピールする。

 

「いやいやいやいや、まってまって、待ってください!私は貴方と敵対する気なんてありませんよ…!」

「なら…何の用だ?」

 

あくまでも警戒は解かず。

男がナイフを隠し持っているかもしれない。

油断させて襲う気なのかもしれない。

そういった可能性を頭の片隅に置きながらもガリヨンはいったんは構えを解き武器から手を放す。

そんなガリヨンの姿を見て安心したのか男は話を始めた。

 

「貴方がオオカミを引き寄せ…あまつさえ倒してくれたおかげで私は命拾いをしたんです。だからそのお礼にと声をかけたんです」

「命拾い?」

「ええ…。おっと、自己紹介がまだでしたね。私の名前はシェドリ、今はこの辺を拠点に村々で細々と仕事をしている流れ者です」

 

男の風体は黒髪に無精ひげをざっくばらんに生やした、一見すればどこにでもいるような落ち着いた身なりだった。

歳はガリヨンより少し上だろうか。

そんなシェドリと名乗った男は握手を求めるように手を差し出す。

ガリヨンは差し出されたその手を一度じっと見つめたが、何もないことを認めると手を握り返した。

 

「おれはガリヨン。最近ここに流れ着いた…ん、まぁ旅人さ…」

「やけに歯切れが悪いですが…まぁこの辺りは色んな人間がいますから余計な散策はやめておきましょう」

 

そういって握手を交わし手を放す二人。

その表情は穏やかであったが、握手をした瞬間のシェドリはその手の硬さ、そして力強さからガリヨンを只者ではない。と認識しつつあった。

そもそも、たった一人でオオカミの群れを壊滅させる様な男だからこそ、シェドリはいきなり後ろから切り掛られるのを恐れかけと称し声をかけたのだったが、そんなシェドリの思惑など考えてもいないようにガリヨンはオオカミの死骸を集めだしてた。

 

「しっかし、ちょうどよかった。シェドリ…って言ったっけ?」

「はい…。えっと、何がです?」

「この量を独りで捌くのはさすがに骨が折れるからよ…。悪いんだけど手伝ってもらえないか?」

「え、えぇ…もちろんかまいませんが…」

「ん?あぁ、もちろんただとは言わねぇよ。肉と毛皮をいくつか持ってっていいからよ」

 

言い淀むシェドリに対し、ガリヨンは報酬の心配をしているのかと思い先に対価の話を持ち出した。

この提案はシェドリにとっては想定内、後ろ賭けで言えば上振れを引いたといえるほどであった。

そもそも、こんな恐ろしく強い男に奇襲をかけられないように、と考えての声掛けだっただけにもしかしたらお零れを貰えるかもしれない状況…。そうでなくても一枚二枚肉をもらってもばれないような状況は食料が乏しいシェドリにとってはこの上なくありがたい提案だったのだ。

 

「あー、ただ、作業しながらでいいんだがこの辺のことなんも知らねぇんだ。もしよかったら俺にいろいろ教えてくれるとさらに助かるんだが……」

「はは、そんなことでしたらいくらでも」

 

柔和な表情で笑うシェドリはオオカミを捌きながらガリヨンに様々な話をしてくれた。

 

「おそらく、ガリヨンさんもご存じの通りこの半島…ルサノヴァレ半島はエクシティウム王国の流刑地としても有名ですが…。この広大な半島の中でもこの辺りは特に治安の悪い地域です」

「あ~、この辺りはそういえばそんな名前だったなぁ!ココそんなに治安が悪かったのかぁ気づかなかったなぁ、はは、はははは……」

 

全く頭に入っていなかった情報を知ったかぶり空笑いをするガリヨンを不思議に眺めながらもシェドリは続けた。

…内容を要約するとこの辺りは流刑地として罪人が流れてくるため開拓村がおそわれ開拓が進んでいないこと。

そのうえで開拓村への税の搾取がひどく、そのたさらに村人は疲弊していること。

シェドリ自体も元々この半島出身だがいざこざもあり追い出され旅をしていたこと。

などの情報を教えてくれた。

 

「…特にひどいのは領主ですね。兵隊は威張るばかりでならず者を取り締まることもありませんし…。それに最近では兵隊が賄賂を受け取っているなんて話もあるくらいです」

「なるほどなぁ…。ちなみに、その領主ってどの辺に住んでるんだ?」

「ここからさらに北、川を渡った先の大きな城壁街があるんですがそこに引きこもってます」

「そりゃなかなか攻めれねぇなぁ」

「あはは、そもそもこれだけ疲弊した村人たちじじゃ何人集まっても兵隊には勝てませんよ」

「まぁそりゃそうか」

 

そんな話をしながら最後の一回り大きな、おそらく群れのリーダーのオオカミを捌き終えた二人は休憩がてら焚火を起こし始める。

オオカミの数が置かったからか、あたりもうっすらと暗がり始めていたため二人ともはこのままこの場でキャンプをすることに決めていた。

 

「それにしても、シェドリ…さん?」

「シェドリでいいですよ、私もガリヨンと呼んでも?」

「あぁ、もちろん」

 

そういって改めて握手を交わす二人。

ひと作業を終え、仲間意識が芽生えたのかはじめの警戒しあっていた雰囲気はどこかへ解け、気安い雰囲気を漂わせていた。

 

「それで…シェドリ、あんた…ケモノ捌くのうまいんだな」

 

シェドリの捌いた毛皮をと肉を見て感心したようにガリヨンは言う。

確かにみると、ガリヨンの捌いたオオカミ肉はところどころだめにしてしまった部位が出ており、また、毛皮に関してもシェドリの剥いだ物は完璧だ。

肉も同様の出来であり、ガリヨンのものよりも数段おいしそうに感じた。

 

「手先の器用さだけが取り柄でして…」

 

ははは…。と照れたように笑みをこぼすシェドリは遠い目をしながら昔を思い出し語りだした。

 

「私、元いた村では所謂何でも屋と言うヤツでしてね。雑用を色々やっていたのですが…」

 

はぁ、とため息をつくとそのまま話を続けるシェドリ

 

「段々と仕事量が増やされて…仕事量について村長に文句を言ったところ口減らしを口実に村を追い出されてしまったのですよ…それで、各村を転々と渡り歩きながら簡単な仕事を請け負って日々暮らしていたのですが…」

「…ですが?」

「そろそろ、落ち着けるところが欲しいんですよ…」

「ふぅん、落ち着けるところ…。ねぇ…」

 

ガリヨンにとっては獣もならず者もさしたる程の障害にはなりえないが、シェドリは一般人である。

シェドリの話の中でも語られていたがこの辺りはとにかく治安が悪い。

本来なら獣や野盗に対抗するために衛兵や領主兵など、それでなくても村内で自警団を組織するのが普通のはずだがそれすらないという話にガリヨンは何か思考を巡らせる。

そんなガリヨンを見てシェドリは声をかける。

 

「どうかしました?」

「いやぁ、なーんかいい手がありそうな気がするんだが…」

 

そういって唸るガリヨン。

しかし、何か妙案がポンと浮かぶわけもなし。あきらめて目の前の肉を持ちシェドリへ声をかける。

 

「まぁ、とにかくこいつ食っちまおうぜ。オオカミ肉はあんま旨くないがそれでも肉だ。せっかくだからシェドリも食っていくだろう?」

「いいんですか?でしたら是非」

「おう、ちょうど燃料も火おこし道具も奪っ…じゃなくて手に入れてたんだ。こいつでいくつか焼いて食っちまおうぜ」

 

語らいの為には酒と肉だ。と奪った荷物から少量の安酒を用意しながら笑うガリヨンを見て、はじめに抱いていた警戒心などとうに忘れたシェドリも笑い、ガリヨンの準備を手伝い始める。

 

「俺の捌いた肉は売り物になりにくいからな、こいつを優先的に食っちまおう!」

「他は燻製にしたほうがよさそうですね」

「あぁ、忘れてたナイスだシェドリ」

 

てきぱきと準備を進めるシェドリへ親指を立て賞賛を送るガリヨンを「なんですかそれ」と恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべながら受け流す。

 

「手際良いな~」

「昔からこういうのはよくやってましたから」

「こりゃ、酒も多めに渡さねぇとならねぇな」

「ははは、そうとなればさらに頑張らせてもらいますよ」

「それじゃあ俺の飲む分まで渡さなきゃならねぇだろうが」

「ぜひそうしてもらえるとありがたいんですがね!」

「ふざけんな!量もそんなねぇんだから俺も手伝うぞ!!」

 

そんな言い合いを続けながらいつの間にか完全に意気投合をした二人の頭上は完全に暗くなっていた。

しかし、そんなこともいざ知らず、二人の男はひび割れた器で安酒と、オオカミ肉で乾杯をする。

そんな宴会は夜遅くまで続いた…。




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