2人の幸せ   作:言うても

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16話ヒーローの背中

――砂浜・夕暮れ。

 

 風が少し冷たくなってきた。

 夕陽は海面を赤く染め、波の音が低く響いている。

 二人で歩いた足跡が、寄せる波に少しずつ消されていった。

 

「……そろそろ戻ろっか」

 レゼが笑って言う。

 デンジはうなずきながらも、まだその背中を見つめていた。

 

 帰り道、砂浜の先に壊れた家電とゴミが積み上がった一角が見えてきた。

 看板には「ポイ捨て禁止」と書かれている。

 けれど、デンジはなんとなく足を止めた。

 

「なんだここ……?」

 近づくと、遠くから誰かの叫び声が聞こえた。

 

「もう一回だ! まだ動ける!」

 

 声のする方へ目を向けると、

 体の細い少年が巨大な冷蔵庫を必死に押していた。

 息を荒げ、汗で前髪が張りついている。

 ボロボロで今にも倒れそう――だが、その眼だけは燃えていた。

 

「おい……アイツ、何してんだ?」

「……ボランティア、かな?」

 

 レゼが少しだけ目を細める。

 そのすぐ近く、廃車の上に立つ巨大な影が目に入った。

 

 金髪に異様な体格。

 ――オールマイト。

 

「あ! あん時いたデケェおっさん!」

 デンジが思わず叫ぶ。

 

「ほんとだ!」

 レゼも驚いたように声を上げた。

 

 少年は冷蔵庫を押し続けている。

 腕を震わせ、何度も転び、何度も立ち上がる。

 その姿を、オールマイトはじっと見つめていた。

 

「なんでおっさんがこんな所にいるんだ?」

 デンジがぼそりと呟く。

 

 レゼは疑問に思いながら

「さぁ……気になるね」とだけ言った。

 

「おーい! オッサン!」

 デンジが声を張る。

 

「ちょ、デンジ君。いきなり呼ぶの?」

 

 その声に、オールマイトが気づいた。

「うん? おおっ、デンジ少年とレゼ少女ではないか!」

 

 ジャンプ一つで、巨体が砂の上に降り立つ。

 眩しい笑顔とともに、親指を立てた。

 

「ハハハ! こんな所で会うとは奇遇だね!」

 

「何やってんだよ、こんなゴミ山で。」

「ハハハ! これかい! これはそこにいる

緑谷少年の特訓さ!」

 

「へぇ~。」

「そうなんですね。」

 

 レゼとデンジが同時に声を上げる。

 

「そうさ!」

 オールマイトが胸を張る。

「しかしなぜ、こんな冬の海に二人して――」

 

 そのとき、冷蔵庫がガタンと大きく動いた。

 少年が両腕を突き出し、声を張り上げる。

 

「できた……! オールマイト、今の見た!?」

 

「ナイスだ、緑谷少年!」

 オールマイトがうなずく。

 

 そして少年――緑谷出久が、こちらに気づいた。

「え? あの……誰ですか?」

 

 驚いた顔。

 レゼが口元に笑みを浮かべる。

「ごめんね、邪魔しちゃった?」

 

「い、いえっ! 全然邪魔なんかじゃないです!」

 緑谷は顔を真っ赤にして慌てた。

 

「そっか、よかった。」

 レゼが柔らかく笑う。

 

「ぼ、僕は緑谷出久といいます! お二人のお名前をお聞きしても大丈夫ですか?」

 

「私はレゼ。こっちはデンジ君、よろしくね。」

 レゼが嬉しそうに両手を広げ、デンジを紹介した。

 

「えっと……レゼさんとデンジさんは、オールマイトの知り合いなんですか?」

 

「まぁ、このオッサンとは昨日ちょっと会っただけだぁ。」

 デンジが肩をすくめながら言う。

 

「ちょっと〜デンジ君、その説明じゃ緑谷君わからないよ。」

「え〜、めんどくせぇ。レゼが説明してくれよ。」

「もう、ほんとに……」

 

 レゼが苦笑しながら振り返る。

「ごめんね、緑谷君。私たちとオールマイトはね、雄英高校ヒーロー科の試験で会ったの。

 オールマイトはその時の試験監督だったんだ。」

 

「えっ!? ヒーロー科の試験!? 一般も推薦もまだなはずじゃあ……」

 緑谷が目を丸くする。

 

「あ〜、え〜っと……う〜ん、なんて言えばいいんだろ……」

 レゼは気まずそうに目をそらした。

 

      オホン!

 

 その横で、オールマイトが咳払いを一つ。

「ちょ〜といいかい、緑谷少年。」

 

 オールマイトは緑谷の肩を軽く叩き、

 声を落として耳打ちした。

 

「これはオフレコなんだが……今年だけ、ヒーロー科に“特別入試”というものを行ったのさ。

 彼らと、もう一人の受験者を試験して、すでに合格させている。

 だがこれはまだ公式には発表していない。内密に頼むぞ、緑谷少年。」

 

「合……合格!?」

 緑谷は目を輝かせる。

「す、すごい……! 雄英高校ヒーロー科に合格するなんて……!

 僕も雄英のヒーロー科を目指してるんです!」

 

 レゼは少し気まずそうに微笑んだ。

「ありがとう、緑谷君。……緑谷君も、きっと合格できるよ。」

 

 

「へへっ、俺すげぇだろ。」

 デンジが胸を張る。

 

    バシ!

 

 すぐに、レゼの肘がデンジの脇腹に突き刺さった。

 

「いってぇ!」

「調子に乗らないの、デンジ君。」

 

 レゼは苦笑いしながら、緑谷に軽く会釈する。

「そろそろ行こっか、デンジ君。緑谷君、頑張ってるしね。」

 

「ああ。」

 デンジは軽く手を上げ、緑谷に向かって言う。

「まぁ頑張れよ。」

 

「っ……はいっ!」

 緑谷が勢いよく頭を下げる。

 

 レゼとデンジは並んで歩き出した。

 夕陽の中、波が静かに寄せてくる。

 振り返れば、まだ緑谷は冷蔵庫に向かって全力で押していた。

 

「なぁレゼ……あいつみてぇなのが、ヒーロー科に来るのかよ。」

「うん。……なんか、ちょっと眩しいね。」

 

 レゼが目を細めて言う。

 その横顔を、デンジは黙って見つめていた。

 

 風が海の匂いを運び、空は深い橙に染まる。

 デンジの胸の中で、何かが小さく灯るのを感じた。

 

――それが、デンジと緑谷出久が初めて出会った日だった。

 

 




みなさん、ありがとうございます…!
感想やお気に入りが思った以上に増えていて、
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なんと【15位】に入っていました。

本当に嬉しいです。
読んでくださる皆さまのおかげです。

そして、もしこの物語を気に入ってくださっている方がいれば、次の映画の入場特典が本当にすごいので、ぜひ劇場へ…!ぶっ飛びます。
これからも自分のペースで、でも全力で書いていきますので、
引き続きお読みいただけると幸いです。
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