――砂浜・夕暮れ。
風が少し冷たくなってきた。
夕陽は海面を赤く染め、波の音が低く響いている。
二人で歩いた足跡が、寄せる波に少しずつ消されていった。
「……そろそろ戻ろっか」
レゼが笑って言う。
デンジはうなずきながらも、まだその背中を見つめていた。
帰り道、砂浜の先に壊れた家電とゴミが積み上がった一角が見えてきた。
看板には「ポイ捨て禁止」と書かれている。
けれど、デンジはなんとなく足を止めた。
「なんだここ……?」
近づくと、遠くから誰かの叫び声が聞こえた。
「もう一回だ! まだ動ける!」
声のする方へ目を向けると、
体の細い少年が巨大な冷蔵庫を必死に押していた。
息を荒げ、汗で前髪が張りついている。
ボロボロで今にも倒れそう――だが、その眼だけは燃えていた。
「おい……アイツ、何してんだ?」
「……ボランティア、かな?」
レゼが少しだけ目を細める。
そのすぐ近く、廃車の上に立つ巨大な影が目に入った。
金髪に異様な体格。
――オールマイト。
「あ! あん時いたデケェおっさん!」
デンジが思わず叫ぶ。
「ほんとだ!」
レゼも驚いたように声を上げた。
少年は冷蔵庫を押し続けている。
腕を震わせ、何度も転び、何度も立ち上がる。
その姿を、オールマイトはじっと見つめていた。
「なんでおっさんがこんな所にいるんだ?」
デンジがぼそりと呟く。
レゼは疑問に思いながら
「さぁ……気になるね」とだけ言った。
「おーい! オッサン!」
デンジが声を張る。
「ちょ、デンジ君。いきなり呼ぶの?」
その声に、オールマイトが気づいた。
「うん? おおっ、デンジ少年とレゼ少女ではないか!」
ジャンプ一つで、巨体が砂の上に降り立つ。
眩しい笑顔とともに、親指を立てた。
「ハハハ! こんな所で会うとは奇遇だね!」
「何やってんだよ、こんなゴミ山で。」
「ハハハ! これかい! これはそこにいる
緑谷少年の特訓さ!」
「へぇ~。」
「そうなんですね。」
レゼとデンジが同時に声を上げる。
「そうさ!」
オールマイトが胸を張る。
「しかしなぜ、こんな冬の海に二人して――」
そのとき、冷蔵庫がガタンと大きく動いた。
少年が両腕を突き出し、声を張り上げる。
「できた……! オールマイト、今の見た!?」
「ナイスだ、緑谷少年!」
オールマイトがうなずく。
そして少年――緑谷出久が、こちらに気づいた。
「え? あの……誰ですか?」
驚いた顔。
レゼが口元に笑みを浮かべる。
「ごめんね、邪魔しちゃった?」
「い、いえっ! 全然邪魔なんかじゃないです!」
緑谷は顔を真っ赤にして慌てた。
「そっか、よかった。」
レゼが柔らかく笑う。
「ぼ、僕は緑谷出久といいます! お二人のお名前をお聞きしても大丈夫ですか?」
「私はレゼ。こっちはデンジ君、よろしくね。」
レゼが嬉しそうに両手を広げ、デンジを紹介した。
「えっと……レゼさんとデンジさんは、オールマイトの知り合いなんですか?」
「まぁ、このオッサンとは昨日ちょっと会っただけだぁ。」
デンジが肩をすくめながら言う。
「ちょっと〜デンジ君、その説明じゃ緑谷君わからないよ。」
「え〜、めんどくせぇ。レゼが説明してくれよ。」
「もう、ほんとに……」
レゼが苦笑しながら振り返る。
「ごめんね、緑谷君。私たちとオールマイトはね、雄英高校ヒーロー科の試験で会ったの。
オールマイトはその時の試験監督だったんだ。」
「えっ!? ヒーロー科の試験!? 一般も推薦もまだなはずじゃあ……」
緑谷が目を丸くする。
「あ〜、え〜っと……う〜ん、なんて言えばいいんだろ……」
レゼは気まずそうに目をそらした。
オホン!
その横で、オールマイトが咳払いを一つ。
「ちょ〜といいかい、緑谷少年。」
オールマイトは緑谷の肩を軽く叩き、
声を落として耳打ちした。
「これはオフレコなんだが……今年だけ、ヒーロー科に“特別入試”というものを行ったのさ。
彼らと、もう一人の受験者を試験して、すでに合格させている。
だがこれはまだ公式には発表していない。内密に頼むぞ、緑谷少年。」
「合……合格!?」
緑谷は目を輝かせる。
「す、すごい……! 雄英高校ヒーロー科に合格するなんて……!
僕も雄英のヒーロー科を目指してるんです!」
レゼは少し気まずそうに微笑んだ。
「ありがとう、緑谷君。……緑谷君も、きっと合格できるよ。」
「へへっ、俺すげぇだろ。」
デンジが胸を張る。
バシ!
すぐに、レゼの肘がデンジの脇腹に突き刺さった。
「いってぇ!」
「調子に乗らないの、デンジ君。」
レゼは苦笑いしながら、緑谷に軽く会釈する。
「そろそろ行こっか、デンジ君。緑谷君、頑張ってるしね。」
「ああ。」
デンジは軽く手を上げ、緑谷に向かって言う。
「まぁ頑張れよ。」
「っ……はいっ!」
緑谷が勢いよく頭を下げる。
レゼとデンジは並んで歩き出した。
夕陽の中、波が静かに寄せてくる。
振り返れば、まだ緑谷は冷蔵庫に向かって全力で押していた。
「なぁレゼ……あいつみてぇなのが、ヒーロー科に来るのかよ。」
「うん。……なんか、ちょっと眩しいね。」
レゼが目を細めて言う。
その横顔を、デンジは黙って見つめていた。
風が海の匂いを運び、空は深い橙に染まる。
デンジの胸の中で、何かが小さく灯るのを感じた。
――それが、デンジと緑谷出久が初めて出会った日だった。
みなさん、ありがとうございます…!
感想やお気に入りが思った以上に増えていて、
もしや…と思ってランキングを見たら
なんと【15位】に入っていました。
本当に嬉しいです。
読んでくださる皆さまのおかげです。
そして、もしこの物語を気に入ってくださっている方がいれば、次の映画の入場特典が本当にすごいので、ぜひ劇場へ…!ぶっ飛びます。
これからも自分のペースで、でも全力で書いていきますので、
引き続きお読みいただけると幸いです。