――施設・早朝
春の気配はあるのに、空気はまだひんやりしていた。
施設の玄関前で、デンジは新品の制服をぎこちなく引っ張りながら落ち着かない様子で立っている。
「そんなにいじってたら伸びちゃうよ?」
声をかけたのはレゼだった。
軽くまとめた髪、自然に着こなした制服。
ほんのり笑ってデンジを見上げる。
「……いーだろ別に。なんかムズムズすんだよ」
「ふふ。緊張してるんでしょ?」
「してねーし」
「そっか。じゃあ……震えてるのは寒いせいだね?」
デンジは反射的に袖口を押さえ、そっぽを向く。
レゼはくすっと笑い、ほんのわずか首をかしげた。
その後ろでビームが直立不動。
「チェンソー様ァ!! 制服姿も最高ォ!!」
「うっせぇビーム、黙ってろ!」
「はいはい、あんたら。今日は送ってったげるから早く車乗りな!」
施設のおばちゃんが手を叩く。
「お、悪ぃな婆ちゃん」
「おばちゃんありがと〜」
「シャシャッ!」
三人はワゴン車に乗り込む。
走り出して数分。車内は早くも大騒ぎだった。
「レゼ見ろよ! 俺ネクタイちゃんと結べてんじゃん!」
「結べてないよ? ひっくり返ってる」
「ギャーッ!! チェンソー様ァ!! ビームが直します!!」
「触んなっつってんだろ!!」
「ビーム君も間違ってるよ。二人とも貸して」
レゼは二人のネクタイを慣れた手つきで整えた。
おばちゃんは笑いながらハンドルを握る。
——そして、雄英高校前。
新入生たちが続々と校門へ向かい、
制服の擦れる音、桜の舞う気配が朝の空気を震わせていた。
「オイオイ……なんだよこの人数……」
デンジは思わず目を丸くする。
「大丈夫。デンジ君なら大丈夫だよ」
レゼが袖をほんの指先でつまんだ。
その小さな触れ方に、デンジの肩がわずかに震える。
「ほらほら、並んで! 写真撮るよ!」
おばちゃんが、すでにカメラを構えていた。
「写真とか……マジかよ」
「いいじゃん。最初の思い出だよ?」
レゼが一歩寄る。
距離が自然に近くなる。
「早く撮ってもらお、デンジ君。ビーム君も」
「……しゃーねぇな」
三人は校門前に位置取った。
風が桜を舞わせ、朝日の匂いが制服の布を揺らす。
「ビームももっと前来いよ!」
「チェンソー様の背後はビームの特等席……!!」
「勝手に席つくんな!」
レゼがそっとデンジの肩に手を添えた。
あたたかさがじんわり伝わり、胸の奥が跳ねる。
「……お前、近ぇよ」
「いいでしょ。彼女なんだから」
ニッと笑い、さらに少しだけ近づく。
「はいーっ、チーズ!」
シャッター音。
三人は同時に舌を出して、ピースを決めた。
「いい写真だねぇ! 玄関に飾っとくよ!」
「飾んなって婆ちゃん!!」
「ふふ、デンジ君いいじゃん」
「よくねぇよ!!」
「じゃああんた達、しっかりやんなよ!」
おばちゃんは笑いながら車に戻る。
「おう!」
「は〜い!」
「チェンソー様、レゼ様について行く!!」
おばちゃんがいなくなり数分。
「……行こっか、デンジ君」
レゼが自然な流れでデンジの手を取る。
デンジは顔を赤くしながらも、
その手をぎゅっと握り返した。
ビームは胸を張り、その後ろにつづく。
桜が空に舞い、光の中で雄英高校の校門がそびえ立つ。
デンジの胸がじわりと熱くなる。
隣で、レゼが小さく「ふふっ」と笑った。
――こうして、デンジとレゼ、そしてビームの雄英初日が始まった。