正門をくぐると、すでに中庭は新入生でごった返していた。
声と足音が渦みたいに混ざり合う。
「クラス分けの表、あっちかな?」
「なんだよこの数……ここからじゃ見えねぇ」
「じゃあ、もっと近く行こ。ほら、デンジ君」
レゼは人の流れを読み切った動きで、スルッと前へ進む。
腕を引く手は細いのに、不思議と頼りになる。
ビームは周囲を警戒しながら胸を張った。
「チェンソー様ァ!! ビームが周囲の脅威からお守りします!!」
「脅威いねぇだろ今は」
掲示板の前はさらに混雑していた。
誰かのカバンがデンジの背中にぶつかり、
「イッてぇ!」と声が漏れる。
体がデカすぎる生徒、浮いたまま移動する生徒、
泣きながら紙を探す生徒……完全にカオスだ。
「すっげぇ……ほんとに“学校に来ちまった”って感じだな……」
デンジの喉が勝手にゴクリと鳴る。
「押されないようにね」
レゼが背中に添えた手。その温度が逆に落ち着かない。
「……レゼって、人混み慣れてんのかよ」
「んー、どうかな。昔からこういうの平気だよ」
ようやく掲示板が見えた。
「多すぎだろ……ビームも探すの手伝え」
「了解です! チェンソー様ァ!!」
三人で名前を追う。
「あった! デンジ……“1-A”だ!」
「私も“1-A”だよ」
「チェンソー様ァァ!! レゼ様!! ビームも一緒!!!」
レゼがデンジの手をきゅっと握り直す。
「じゃあ……行こっか。1-A、私たちの教室」
「……お、おう!」
人の波を抜けて昇降口へ向かう。
靴の音、風の匂い、遠くで聞こえる先生の声。
校舎の空気は新しくて、少し冷たい。
デンジは深呼吸をひとつ。
期待と不安が胸の奥で暴れている。
「……なんかよ、心臓がうるせぇ」
「うん。私も緊張するよ」
ビームは後ろでキョロキョロしながらついてくる。
「チェンソー様ァ! レゼ様ァ! 部屋大きい! デカい!」
角を曲がると、廊下が急に静けさに包まれる。
「お! あれじゃねぇか」
デンジが前を指す。
「うん。地図の場所とも合ってるね」
レゼが案内紙を見ながらうなずいた。
――1-Aのプレートが朝日に照らされていた。
「……お、ここだろ」
近づいた瞬間、デンジは眉をひそめた。
「なんだよこれ……ドアでけぇな!?
俺こんなドア見たことねぇぞ……?」
縦にも横にも常識外れの大きさ。
取っ手に触ると、金属の厚みまで違う。
「たぶん……体の大きい人でも入れるようにしてるんだよ」
レゼが肩を寄せて言う。
デンジの脳裏に、さっきの怪獣みたいな新入生たちがよみがえる。
「あー……学校って……あんなのまで全部考えてんのかよ。
……すげぇな」
「うん。色んな個性の子が来るもんね」
レゼは微笑み、デンジの手をそっと握る。
「行こ。ドア、開けてみよ?」
「よし」
取っ手に力を込める。
胸がドクンと鳴る。
ガラ
扉を開けると、教室の空気が一気に流れ出した。
すでに十数人が思い思いに過ごしている。
金髪の男が机に足を乗せて睨む。
イヤホンジャックの女がコツコツ机を叩いてこちらを振り向く。
眼鏡の男はレンズ越しにギラッと光らせた。
「……おいレゼ、なんか全員見てくんぞ」
「大丈夫だよ。何もしてないし」
レゼはまったく動じていない。
そこへビームが前に飛び出す。
「うおおおッ!! ここがチェンソー様とレゼ様とビームの部屋!!綺麗!! デカい!! 凄い!!」
「うるせぇビーム!! 目立つ!!」
教室のざわめきが一段階大きくなる。
「見た? 今の」
「カップル?」
「後ろのサメ何? 個性??」
「チッ……リア充かよ」
ささやきが飛び交う。
デンジはほんの一瞬だけ足を止めたが――
レゼがまた手を引いた。
「ほら、席探そ?」
「……ああ」
二人が進むと、ビームも堂々と続く。
「チェンソー様レゼ様のお通りだァァ!!」
「だから黙れって!!」
レゼが前方を指した。
「デンジ君、ビーム君。席ここだって」
窓側の角、三つ並んだ席がまるっと空いていた。
「お、ラッキーじゃん。全員ちけぇし……
それにレゼと隣とか最高すぎんだろ」
「ふふ、私もだよデンジ君」
席の配置はこうだ。
前列がビーム。
その後ろでデンジとレゼが隣り合う。
「チェンソー様!! なんでも言ってください!!」
「はいはい」
デンジは椅子を雑に引き、ドンと腰を下ろす。
レゼは静かに座って小さく息を整えた。
ガヤガヤとした教室の音。
緊張も期待も混じっている。
デンジは机に肘をつき、ちらっとレゼの横顔を見る。
(……始まっちまうんだな)
胸の奥がじわりと熱くなった。
こうして3人は、初めての教室で、最初の席についた。
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