2人の幸せ   作:言うても

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18話 初めての教室

正門をくぐると、すでに中庭は新入生でごった返していた。

声と足音が渦みたいに混ざり合う。

 

「クラス分けの表、あっちかな?」

 

「なんだよこの数……ここからじゃ見えねぇ」

 

「じゃあ、もっと近く行こ。ほら、デンジ君」

 

 レゼは人の流れを読み切った動きで、スルッと前へ進む。

 腕を引く手は細いのに、不思議と頼りになる。

 

 ビームは周囲を警戒しながら胸を張った。

「チェンソー様ァ!! ビームが周囲の脅威からお守りします!!」

「脅威いねぇだろ今は」

 

 掲示板の前はさらに混雑していた。

 誰かのカバンがデンジの背中にぶつかり、

「イッてぇ!」と声が漏れる。

 体がデカすぎる生徒、浮いたまま移動する生徒、

 泣きながら紙を探す生徒……完全にカオスだ。

 

「すっげぇ……ほんとに“学校に来ちまった”って感じだな……」

 デンジの喉が勝手にゴクリと鳴る。

 

「押されないようにね」

 レゼが背中に添えた手。その温度が逆に落ち着かない。

 

「……レゼって、人混み慣れてんのかよ」

「んー、どうかな。昔からこういうの平気だよ」

 

 ようやく掲示板が見えた。

 

「多すぎだろ……ビームも探すの手伝え」

「了解です! チェンソー様ァ!!」

 

 三人で名前を追う。

 

「あった! デンジ……“1-A”だ!」

「私も“1-A”だよ」

「チェンソー様ァァ!! レゼ様!! ビームも一緒!!!」

 

 レゼがデンジの手をきゅっと握り直す。

 

「じゃあ……行こっか。1-A、私たちの教室」

 

「……お、おう!」

 

 人の波を抜けて昇降口へ向かう。

 靴の音、風の匂い、遠くで聞こえる先生の声。

 校舎の空気は新しくて、少し冷たい。

 

 デンジは深呼吸をひとつ。

 期待と不安が胸の奥で暴れている。

 

「……なんかよ、心臓がうるせぇ」

「うん。私も緊張するよ」

 

 ビームは後ろでキョロキョロしながらついてくる。

「チェンソー様ァ! レゼ様ァ! 部屋大きい! デカい!」

 

 角を曲がると、廊下が急に静けさに包まれる。

 

「お! あれじゃねぇか」

 デンジが前を指す。

 

「うん。地図の場所とも合ってるね」

 レゼが案内紙を見ながらうなずいた。

 

 ――1-Aのプレートが朝日に照らされていた。

 

「……お、ここだろ」

 

 近づいた瞬間、デンジは眉をひそめた。

 

「なんだよこれ……ドアでけぇな!?

 俺こんなドア見たことねぇぞ……?」

 

 縦にも横にも常識外れの大きさ。

 取っ手に触ると、金属の厚みまで違う。

 

「たぶん……体の大きい人でも入れるようにしてるんだよ」

 レゼが肩を寄せて言う。

 

 デンジの脳裏に、さっきの怪獣みたいな新入生たちがよみがえる。

 

「あー……学校って……あんなのまで全部考えてんのかよ。

 ……すげぇな」

 

「うん。色んな個性の子が来るもんね」

 

 レゼは微笑み、デンジの手をそっと握る。

 

「行こ。ドア、開けてみよ?」

 

「よし」

 

 取っ手に力を込める。

 胸がドクンと鳴る。

 

 ガラ

 

 扉を開けると、教室の空気が一気に流れ出した。

 

 すでに十数人が思い思いに過ごしている。

 

 金髪の男が机に足を乗せて睨む。

 イヤホンジャックの女がコツコツ机を叩いてこちらを振り向く。

 眼鏡の男はレンズ越しにギラッと光らせた。

 

「……おいレゼ、なんか全員見てくんぞ」

「大丈夫だよ。何もしてないし」

 

 レゼはまったく動じていない。

 

 そこへビームが前に飛び出す。

 

「うおおおッ!! ここがチェンソー様とレゼ様とビームの部屋!!綺麗!! デカい!! 凄い!!」

 

「うるせぇビーム!! 目立つ!!」

 

 教室のざわめきが一段階大きくなる。

 

「見た? 今の」

「カップル?」

「後ろのサメ何? 個性??」

「チッ……リア充かよ」

 

 ささやきが飛び交う。

 

 デンジはほんの一瞬だけ足を止めたが――

 レゼがまた手を引いた。

 

「ほら、席探そ?」

 

「……ああ」

 

 二人が進むと、ビームも堂々と続く。

 

「チェンソー様レゼ様のお通りだァァ!!」

「だから黙れって!!」

 

 レゼが前方を指した。

 

「デンジ君、ビーム君。席ここだって」

 

 窓側の角、三つ並んだ席がまるっと空いていた。

 

「お、ラッキーじゃん。全員ちけぇし……

 それにレゼと隣とか最高すぎんだろ」

 

「ふふ、私もだよデンジ君」

 

 席の配置はこうだ。

 前列がビーム。

 その後ろでデンジとレゼが隣り合う。

 

「チェンソー様!! なんでも言ってください!!」

「はいはい」

 

 デンジは椅子を雑に引き、ドンと腰を下ろす。

 レゼは静かに座って小さく息を整えた。

 

 ガヤガヤとした教室の音。

 緊張も期待も混じっている。

 

 デンジは机に肘をつき、ちらっとレゼの横顔を見る。

 

(……始まっちまうんだな)

 

 胸の奥がじわりと熱くなった。

 

 こうして3人は、初めての教室で、最初の席についた。




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