席についたデンジたち三人は、まだ落ち着かない教室の空気を眺めながら、いつも通りの調子でしゃべっていた。
「みろよレゼ!机新品だぞ」
「うん。綺麗だね、デンジ君」
「チェンソー様ァ!! 椅子も光ってます!!」
その声は、思った以上に教室へ響き渡った。
「…………あ?」
空気がピリッと割れる。
反対側の列から、低いぶっきらぼうな声。
ドンッと机に足が乗る音。
金髪の男――爆豪勝己が、鋭い目つきで立ち上がった。
「テメェら……うっせぇんだよ。
入ってきて早々ガヤガヤ喚いてんじゃねぇ、
クソ雑魚共が」
デンジは気だるそうに顔だけ向ける。
「なんだぁ、おめぇ。
朝からギャーギャー鳴いてんのはそっちじゃん」
「……ハァぁ!? テメェ今、誰に口きいてんだコラ!!!」
爆豪のこめかみに血管が浮き、指先が“チッ”と爆ぜる。
ビームが前の席から勢いよく振り返った。
「チェンソー様ァ!! あの野郎、
敵意100%です!!」
「敵意とかどうでもいいわ。
知らねぇ奴にキレられても困るしよ」
その“テキトーすぎる返し”が、爆豪への着火剤になった。
「てめぇ今ぶっ——」
「知るかよぉ〜〜〜だ!」
デンジは爆豪の言葉を途中でぶった斬り、
舌をべーっと出して挑発した。
「ぶっ殺す!!!!」
「待ちたまえ!!!」
ズバァッと割って入ってくる影。
真面目そのものの眼鏡の男――飯田天哉だ。
「君たち!ここは教室だ!!
入学初日から大声で言い争うとは何事だ!!」
「あん? 誰だよ眼鏡」
デンジが眉をひそめる。
「僕は飯田天哉!クラスメイトだ!
騒音は周囲の迷惑になる!!
まずは落ち着いて——」
「テメェは黙ってろメガネェ!!」
爆豪が怒鳴る。
「黙らない!
そして君!机の上から足をどきたまえ!!
机を作った職人の気持ちを考え——」
「思わねーよ!テメェどこ中だよ、端役が」
「ぼ、僕は私立聡明中学校出身だ!」
「聡明ぃ〜!? クソエリートじゃねぇか。
ますますブッ殺し甲斐がありそうだな!」
「ブッ殺し甲斐!?
ヒーロー志望としてどうなんだ君は!!」
爆豪と飯田がデンジそっちのけで言い争う
教室のあちこちでもざわめきが走る。
「やば……もうキレてるじゃん」
「入学初日から荒れてんな……」
「“チェーンソー様”って何?」
視線とささやきが集中し、空気が揺れる。
デンジはレゼへ顔を寄せて小声で言う。
「なぁレゼ……なんか俺ら置いてかれてねぇ?」
「いいからデンジ君。今は静かにしよ?
あの人ほんとに真面目だよ」
「……チッ、めんどくせぇ」
「チェンソー様ァ!! ビームは
いつでも戦えます!!」
「戦わねぇよ、座ってろビーム」
教室の空気が本気で荒れ始めた、その瞬間——
ガラッ
教室のドアが開く。
視線が一気にそちらへ向く。
緑谷出久が、びくっと肩を跳ねさせながら立っていた。
緊張に押し潰されて、顔が引きつっている。
「お、おはよう……ございます……」
だがデクが入る前に——
「おはよう!!」
飯田が秒速で距離を詰めた。
「俺の名前は飯田天哉!君は!
実技試験の仕組みに気づいていたな!?
僕は気づけなかった!
君の観察力には驚かされたよ!!」
「え、え!?
ぼ、僕は……緑谷……よろしく……飯田君……
(ごめん、気づいてなかったよぉ……)」
そのとき、デンジがじっとデクを見てレゼに言う。
「おいレゼ。アイツ、なんか見たこと
ある気がすんだけど」
「デンジ君、海で特訓してた緑谷君だよ」
「あー!海で冷蔵庫押してた天パか!」
デンジが手を挙げてデクを呼ぶ。
「おーい天パ!!」
デクがビクッと反応し、振り返る。
「あっ!デンジ君とレゼさん!」
「お前受かったのか。
こっち来いよ、天パ」
デクが歩き出そうとした、その瞬間——
「お友達ごっこしたいなら……他所でやれ」
廊下から、低く沈んだ声。
全員が一斉にそちらを見る。
寝袋のまま床に寝る黒髪の男。
(……え、なんか……いる!?)
全員の心の声が揃った。
「ここはヒーロー科だぞ」
相澤が、ゆっくり……本当にゆっくり寝袋から顔を出す。
「はい。静かになるまで……8秒かかった。
時間は有限。君たちは合理性に欠けているね」
その一言で場が一気に締まる。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
拍手も声も出ない。ただ静寂。
「早速だが……これ着てグラウンドに出ろ」
そう言って相澤は、体操服の袋を無造作に投げ配り始めた。
――雄英・グラウンド。
全員が体育着に着替え、まだ初日の緊張が抜けきれないまま集合していた。
「よし、全員揃ったな」
相澤が立つ。
風に揺れる長い髪。眠そうなのに、声は妙に刺さる。
「今から――個性把握テストを行う」
その一言で、クラスが一気にざわつく。
「個性把握テスト!?」
「入学初日から!?」
「中学じゃ個性禁止だったのに!」
驚き、興奮、――反応はバラバラ。
「お前らも中学で体力テストはやっただろ?
あれを“個性あり”でやるだけだ」
端末を操作しながら淡々と続ける。
「種目は――50m走、握力、反復横跳び、ボール投げなど」
「普通じゃね?」
「実技入試トップは爆豪だったな。
お前からだ。試しに投げろ」
「おう」
爆豪が前に出る。
「個性使っていい。円から踏み出さなきゃ何しても構わん。
思いっきりな」
爆豪がニヤッと笑う。
「言われるまでもねぇ!!」
掌で爆ぜる火花。
次の瞬間――
「死ねぇッ!!」
轟音。ボールが空気を裂き、空が揺れた。
――ピピッ。
「705.2メートル」
「はぁ!?」
「700!?」
「化け物だろ!」
叫びと狼狽が混ざる中、相澤だけが無表情。
「まずは自分の最大限を知れ。それがヒーローの素地を形成する合理的手段だ」
興奮する生徒達。
「これ楽しそう!」
「握力自信あるんだよな!」
「個性ありとか最高じゃん!」
そんな空気を断ち切る声。
「楽しそう……ね?」
相澤の声が一段低くなる。
「ヒーローになる三年間を、そんな軽い気持ちで過ごす気か?」
そして――淡々と告げた。
「そうだな…トータル成績最下位は“除籍”とする」
「はぁぁぁ!?」
「初日で!?」
「マジかよ!!」
全員が色を変える。
「自然災害、大事故、ヴィラン……日本は
理不尽だらけだ。
雄英はその理不尽に打ち勝つ者を作る。
プルスウルトラ。乗り越えてこい」
生徒達の目に覚悟が灯る。
「……やるしかねぇ」
「絶対落ちねぇ」
「説明は以上だ。こっからが本番――」
相澤が歩きつつ、デンジ・レゼ・ビームへ視線を向ける。
「ああ、言い忘れていたが……デンジ、レゼ、ビーム。お前達は参加しなくていい」
「はぁ!?」
「えっ……?」
空気が一瞬で凍る。
「俺の補助をしろ」
「だりぃ〜……手伝いとかよ」
デンジの声はやる気ゼロ。
「分かりました」
レゼは落ち着いて答え、
「シャシャッ!!」
ビームはよく分かっていないまま
元気よく返事した。
視線が一斉に三人へ集中する。
「相澤先生!!」
飯田が勢いよく手を挙げる。
「なぜ彼ら三人だけ参加しないのですか!!?」
(そうだ!)
(ズルい!)
(特別扱い!?)
ざわつくクラス。
「彼奴らは既に測定して記録がある。
記録があるのにもう一度やらせるのは非合理的だ」
「いつそんなことを……?」
「今年から導入した“特別入試”で選ばれた。
推薦でも一般でもない。将来有望な個性持ちをスカウトする枠だ」
(……まぁ、それっぽく言っとけばいいか)
「一般試験と同じ実技と個性把握テストを既に受け、 我々の基準を越えて合格している」
「特別入試……!」
「マジかよ……」
「すげぇ……」
爆豪が歯ぎしりを鳴らした。
「……ハァ? ふざけんなよオイ」
掌で火花がバチッと弾ける。
「俺より上? 俺より優れてる?
――そんな奴、いるわけねぇだろ!!」
爆豪がデンジに向かって歩く。
デンジはポケットに手を突っ込んだまま、気だるそうに言う。
「またおめぇかよ……朝からずっと騒がしいな」
「ブチ殺す!!」
爆豪が腕を振り上げた。
爆風がデンジの頬に触れる――その瞬間。
「オイ、爆豪」
相澤の低い声が響いた。
「これ以上騒ぎ立てるな。時間の無駄だ。
さっさとテストに戻れ。お前から除籍にするぞ」
「チッ……クソが!!」
爆豪は舌打ちしながら引き下がる。
周囲は凍りついた。
(相澤先生こえぇ……)
張りつめた空気の中、テストは続いていく――。
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