壊れた倉庫の影に、デンジはしゃがんでた。
「腹減った……肉まん食いてぇ……」
「デンジ君、仕事中だよ。」
「終わったら食う。ポチタにもやる。」
「ポチタは肉まん食べないと思うけど。」
「いーんだよ。気持ちだっつの。」
ポチタが「ワン」と鳴く。
ちょっと笑ってるみたいな声だった。
「標的、ここで合ってんのか?」
「うん。中にサワダって人。外に見張りが二人。」
「おっけ。じゃ、外は任せた。」
「……ほんと、もう少し慎重に言ってよ。」
レゼが月光の中でナイフを抜いた。
刃先が冷たく光る。
風が止まる。
音も止まる。
すぐに、二人分の呻き声。
レゼが影から戻ってきた。
「終わったよ。」
「はっや! 俺もあんなふうにやってみてぇ!」
「デンジ君がやったら、血の海になるよ。」
「……まぁ、なるな。」
デンジが鼻をこすって、扉の前に立つ。
分厚い鉄の鍵。
「鍵かかってんな。」
「待って、開けるから。」
「いいよ、もう開ける。」
「デンジ君、それ違――」
「ポチタ、いくぞー!」
「ワン!」
エンジンが咆哮する。
「ギィィィィィィィン!!!」
火花と金属音。
鉄の扉が吹っ飛ぶ。
「開いたー!」
「……ほんとに開けるんだ……」
「壊れりゃ一緒だろ!」
デンジが笑いながら突っ込む。
「よぉ!!」
サワダが振り返る。
目が光る。皮膚が鉄に変わる。
「お前……何の個性だ。」
「うるせぇ!」
チェンソーが唸る。
「ギギギギギィィィ――ン!!!」
火花。
血。
金属の悲鳴。
終わり。
煙の中で、デンジが息を吐く。
「ふぅー……よっしゃ、終わり。」
レゼが入ってくる。
「ほんとに、考えるより先に動くよね。」
「考えたら腹減るだけだろ。」
「……バカだね、デンジ君。」
「バカでいいだろ。勝ったし。」
静かな倉庫。
血の匂いだけが残ってる。
「さてと、金目のもんねぇかな。」
「え?」
「ほら、悪党の部屋だし。なんか置いてんだろ。」
棚を漁る。
ガラクタばかり。
デンジが眉をひそめる。
「ゴミしかねぇじゃん……」
そのとき。
奥から――金属の音。
ガン。ガン。ガン。
「……なんだ?」
奥の闇。鉄の檻。
中で何かが動いた。
「……チェンソーの……音ォ……」
デンジが身をのり出す。
レゼが止めようとする。
遅かった。
「先の戦い、見ましたァァァ!!!」
「うおっ!? なに!?」
檻の中。
人間の体に、サメの頭。
水に濡れて、目がギラギラしてる。
「我ァァ! ビーム!! “サメの個性”を持つ者!!!」
「サメ!? 人間かよ!?」
「見たァ!! チェンソーの男ッ!! 最高ッ!! 音が最高ッ!!!」
「うわ、テンション高ぇな!」
「我は狂っておるゥ!! だがチェンソー様はもっと狂っておるゥ!!!」
「褒めてんのかそれ!?」
「褒めてるゥ!! 敬ってるゥ!!!」
デンジが首をかしげる。
「お前、ヤバいな。」
「狂信しておるゥ!!!」
レゼが小声で言う。
「デンジ君、檻は開けちゃダメ。」
「うーん……でもこいつ、なんか面白ぇし。」
デンジが近づく。
「おい、ビーム。」
「ハハァ!! 何なりとォ!!!」
「今日からお前、俺たちの手下な。」
「ハッ!! 分かりましたァ!! チェンソー様の下僕、ビームと申しますゥ!!!」
「よし、話早ぇな!」
「この命、サメの牙、全てチェンソー様にィ!!!」
「いや死ぬなって!!」
レゼがこめかみ押さえる。
「……ねぇデンジ君、ほんとに仲間にするの?」
「だってノリ合うし。俺、上に立つの初めてだし!」
「バカ……」
「へっへ、俺も今日から“チェンソー様”だ!」
「……どうしようもないね。」
ポチタが「ワン」と鳴く。
レゼは笑って肩をすくめた。
その夜。
犬とサメとバカと少女。
最悪で、ちょっとだけ幸せなチームが、生まれた。