2人の幸せ   作:言うても

20 / 23
20話 個性把握テスト2

「じゃあまずは――50m走だ」

 

 相澤が端末を操作しながら、ちらっとデンジとレゼを見る。

 

「デンジはスタートの合図。レゼは測定機の数値をここに入力しろ」

 

「へいへい……なんで俺が笛係なんだよ」

 デンジはだるそうに笛を受け取り、眉をひそめた。

 

「俺が全体を監視する。お前らは手を動かせ」

 

「分かりました。デンジ君、行こ?」

 レゼは軽やかにゴール側へ歩いていく。

 

「シャシャッ!! ビームはチェンソー様の手伝い!!」

 

「ビーム、お前はレゼの補助だ」

「レゼ様! 補助!! 了解!!」

 

 50mレーンには一組目が並ぶ。

 飯田天哉、蛙吹梅雨、そして爆豪勝己。

 

 爆豪が横目でデンジを睨む。

 

「オイ、テメェら。試験の時の50m、記録なんだった?」

 

 デンジは笛を咥えながら気怠く答えた。

 

「あ〜? 俺が1.2秒で、ビームが1.8秒……で、レゼが0.6秒だったっけな」

 

(こいつ、朝からずっと絡んでくんな。

 まあ、昔はもっとキレ散らかすやべぇ奴の相手してたけどよ…)

 

「はァ? 0.6……?」

 爆豪の眉がピキッと跳ねる。

 

 周りがざわつく。

 

「レゼさんすげぇ……!」

「音より速くね……?」

「それもう競技違わない?」

 

「チッ……お前らにこのテストでぜってぇ勝ってやる」

 爆豪が砂を踏み鳴らす。

 

「へいへい、めんどくせぇから始めっぞ」

 デンジはスタート横にしゃがみ込む。

 

(爆豪君なんでこんなにデンジ君に突っかかるの?

 今はデンジ君我慢してるけど、大丈夫かな…)

 

「位置について〜」

 

 空気がピンと張りつめる。

 

「よーい……」

 

「ピィィィィィッ!!」

 

 笛の音と同時に、飯田と爆豪が地面を蹴った。

 エンジン音と爆発音が地面を震わせる。

 

「速ッ!!」

「足音エンジンやべぇ!!」

「爆豪、空中移動してんぞ……!」

 

 爆豪は爆風を連打しながら加速していく。

 

 その間にレゼが記録を読み上げる。

 

「飯田君、3.04秒。

 爆豪君、4.13秒。

 蛙吹さん、5.58秒」

 

「ちぃぃいい!!」

 爆豪が悔しさを爆発させる。

 

「うわ、マジで悔しがってんぞ……」

「デンジ達の記録、よっぽど気にしてるんだな」

「カッチャン……大丈夫かな」

 

「お〜いレゼ〜! 次呼べ〜」

 デンジが投げやりに手を振る。

 

「はーい! 次の組、並んでくださーい!」

 

 レゼの柔らかい声に、自然と生徒たちが動き出す。

 

 相澤は淡々と記録をまとめていたが、

 その横で爆豪が再び噛みつく。

 

「オイ!! その気だるい態度がムカつくんだよ!!」

 

(あ〜始まった。テスト中に喧嘩売ってくんなよ、めんどくせぇ。学校ってこんなもんなのかよ)

 

 デンジはポケットに手を入れてそっぽを向く。

 

「ぶっ殺すぞテメェ!!」

 

「じゃあおめぇ、俺らの記録に勝ってみろよ」

 デンジが無造作に返す。

 

「ハァ!? てめぇ言ったな……!

 そんなの余裕で超えてやるわ!!」

 

 怒りに燃える爆豪は、まだデンジをギラギラ睨んだまま戻っていった。

 

「デンジ君……大丈夫?」

 レゼが心配そうに聞く。

 

「知らねーよ。勝手にキレてくんだよアイツ」

 デンジは肩をすくめた。

 

「何かあったら言ってね。助けに行くから」

 レゼは静かに言う。

 

「シャシャッ!! チェンソー様ァ!

 アイツ失礼!! 失礼!!」

 ビームが全力で報告してくる。

 

「知ってるわ……」

 

 

【立ち幅跳び】

 

「おららッ!!」

 

 爆豪は個性を使い、爆風で空中を駆けるように跳ぶ。

 

「爆豪、続けられるのか?」

 相澤が尋ねる。

 

「あ、ああ当たり前だろ!」

 

 爆豪は少し自慢げにデンジへ視線を向ける。

 

 だが――

 

「レゼも無限だったしな」

 デンジがボソッと言う。

 

 レゼは少し気まずそうに頬をかく。

 ビームは無邪気に立っている。

 

「ちっ」

 爆豪が舌打ちする。

 

 

【握力】

 

「爆豪君、60kg」

 

「俺達は壊したぜ、へへ」

 デンジが自慢げに笑う。

 

「デンジ君、壊したこと誇らないでよ……」

 レゼは苦笑する。

 

 爆豪はさらにイラつき、

 手に力を込めて記録を「63kg」に更新する。

 

 

【反復横跳び】

 

 爆豪は爆発を連続使用し、高速で左右に跳び続けた。

 

「……75回」

 

 爆豪が肩で息をしながら、デンジを睨む。

 

「テメェ……らな……!」

 

「もう勝手にやってろよ……」

 デンジは気だるく返す。

 

 

【ボール投げ】

 

 グラウンドの端に立つデンジが、緑谷へ声をかける。

 

「オイ天パ、お前が最後だ。早く投げろ」

 

「あ、ありがとうデンジ君」

 緑谷は両手でボールを受け取る。

 

「じゃあ投げろ。――オイ、ビーム準備しろ」

 

「分かりましたチェンソー様!!」

 

 ビームは返事をすると同時に地面へ潜り、

 いつでもボールを回収できる態勢に入った。

 

――緑谷がボールを握りしめる。

 

 1-Aの視線が、自然に彼へ向く。

 

「緑谷君はこのままだとマズいぞ」

 飯田が心配そうに小声で言う。

 

「あァ゙? ったりめぇだ! 無個性の雑魚だぞ」

 爆豪が鼻で笑いながら煽る。

 

 緑谷が個性を使って投げようとした、その瞬間――

 

 相澤が、緑谷をじっと凝視した。

 

(ヒーローに……絶対なるんだ!)

 

 緑谷がそう叫ぶように心で踏み出した時――

 

 ポトン。

 

 ボールは、近くに落ちた。

 

「緑谷君、一回目……46m」

 レゼが記録を読み上げる。

 

「お〜いビーム、取ってこい」

 デンジが指示する。

 

「分かりましたチェンソー様!!」

 

 ビームが地面から飛び出し、ボールを回収する。

 

「ウイ、サンキュ」

 デンジがボールを受け取り、

 

「ほい天パ、二回目投げろ」

 と緑谷へ差し出すが――

 

 緑谷は俯いたまま、ボールを受け取らない。

 

「オイ、大丈夫か? 天パ?」

 

「な、な……今、確かに“使おう”って……」

 

「今、俺が個性を消した」

 

 相澤の声が、冷たく刺さる。

 

「見たところ、個性制御できてないんだろ?

 また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりか?

 助ける側に立とうとする人間が?」

 

「そ、そんなつもりじゃ……」

 

「どういうつもりでも、周りはそう“せざるを得なくなる”って話だ。

 現場に出てもただ迷惑なだけだ、緑谷出久。

 お前の力じゃあ、ヒーローにはなれないよ」

 

 沈黙が落ちる。

 

「……お前の個性は戻した。二回目、投げろ」

 

 相澤が淡々と言う。

 

 緑谷は、デンジからボールを受け取る。

 

 小さく息を吸い、深呼吸。

 

(先生の言う通り、このままじゃヒーローになれない……

 僕は、人より何倍も頑張らなきゃダメなんだ!

 今、僕にできる全力を――)

 

「SMASH!!」

 

 ビューン!!!

 

 ボールが音を裂いて、高く、遠くへ飛んでいく。

 

「お、すげぇじゃん天パ」

 デンジが目を見開く。

 

「え〜と……緑谷君、705.3m」

 

 レゼが数値を読み上げる。

 

「先生……!」

 

 緑谷は、まだ震える膝を押さえながら叫ぶ。

 

「まだ動けます!!」

 

「こいつ……」

 

 相澤は先ほどまでの気怠い目を細め、

 今度は、力強く、どこか期待を込めた眼差しで緑谷を見つめていた。

 

(クソッ……! アイツらともほとんど勝てねぇで……

 なんで、なんで無個性のはずのデクなんかが……!!

 けど実際…)

 

 爆豪の胸の奥で、悔しさ・混乱・嫉妬が一気に爆ぜる。

 

クソ! クソ! クソ! クソーー!!

 

「……テメェ」

 

 爆豪がギラギラした目で緑谷に歩み寄る。

 

 足音は砂を蹴り、そのまま飛び出す。

 

「どーいうことだ、コラ……!

 ワケを言えやデクテメェ!!」

 

 緑谷は驚きで固まり、後ずさった。

 

 爆豪の手が、緑谷の襟首めがけて伸びる――

 

 その瞬間。

 

 ガシッ。

 

「はぁ〜、またかよ、お前」

 

 デンジが横から腕を伸ばし、爆豪の手首を掴んで止めていた。

 

 掴んだまま、デンジは面倒くさそうに眉をしかめる。

 

「朝から殴ろうとしすぎなんだよ。

 お前ほんと、すーぐキレんだな。めんどくせぇっての」

 

「どけ!!」

 爆豪が爆発を起こそうと力を込めるが――

 

 デンジの握力は、1ミリも緩まない。

 

「やめよ、爆豪君。テスト中だよ。さっきから変だよ」

 

 レゼも爆豪の反対側にそっと立ち、腕を押さえ込む。

 心配そうな顔なのに、瞳だけ冷たい。

 

(本当に爆豪君、暴れすぎ。デンジ君ケガさせたら…許さないから)

 

「シャシャッ!! チェンソー様、レゼ様の言う通り!

 言う通り!!」

 

「黙れサメぇぇえ!!」

 

 爆豪が怒号をあげた、その瞬間――

 

 バサッ。

 

 捕縛布が、爆豪の体に巻きついた。

 

「何だ……硬え!」

 

 相澤の個性と捕縛武器が、爆豪の身体をがっちり拘束する。

 

「ったく。何度も手間かけさせんな」

 

 爆豪の背筋がビクリと跳ねる。

 

「……チッ!!」

 

 爆豪はデンジの手を乱暴に振り払い、後ずさっていった。

 だが、緑谷へ刺すような視線だけは外さない。

 

 悔しさと混乱は、まだ爆豪の胸の奥で渦巻いていた。

 

 爆豪の渦巻く感情は晴れないまま、

 個性把握テストは、緑谷が最下位という結果で終了した。

 

「はい、みんなお疲れ様」

 

 相澤が生徒の前に成績を空中に映し出す。

 

「最下位は除籍と言ったが――あれは嘘だ。

 君らの個性を最大限引き出すための、合理的虚偽だ」

 

「はあああああああ!!」

「え、え!!」

「嘘だろ、俺信じてた……」

 

 生徒たちが思い思いに叫ぶ。

 

「当たり前でしょ。

 記録を先に測定したとはいえ除籍がかかってるのに、3人も参加してない時点で分かりましたわ」

 

 冷静すぎるツッコミが飛ぶ。

 

「これで今日は終わりだ」

 

 相澤のその一言で、

 雄英ヒーロー科1-Aの“洗礼”の一日目が、ようやく幕を下ろした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。