2人の幸せ   作:言うても

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3話

 

 「ねぇ、デンジ君。」

 「ん?」

 「今日おかしくない?」

 「おかしい?」

 「うん。いつもは車で報酬なのに、今日は“アジト”に来いって。」

 「まぁ、金もらえりゃいいだろ。」

 「……そういうとこ、デンジ君らしいね。」

 

 レゼは笑った。けど、目が笑ってなかった。

 

 階段を降りる。

 空気が変わる。冷たい。

 

 「嫌な感じする。……」

 「気のせいじゃね?」

 「ううん、気のせいならいいけど。」

 

 ドアの前。デンジが一息つく。

 「……よし、いくか。」

 

 ドアの向こうは薄暗い。

 机に肘をついて煙草を吸う男。

 雇い主の幹部だ。

 壁一面にヒーロー新聞。

 “救済”“平和”“希望”。

 どれも笑えるくらい嘘っぽい。

 

 「サワダは?」

 「……処理、終わりました。ちゃんとやりましたよ。」

 「そうか。」

 

 煙が、重い。

 灰皿に押しつける音がやけに長く響く。

 

 ジュッ。

 

 レゼが小さく袖を引いた。

 「……デンジ君、帰ろ?」

 「なんでだよ。金もらうだけだろ。」

 「いつもと……違う。」

 「気のせいだって。」

 

 男が立ち上がった。

 「お前らには助けられたよ。ほんとにな。」

 「はぁ、まぁ……そうっスね。」

 「だがな、尻尾は切るもんだ。」

 

 ――カチ。

 

 音。

 銃の安全装置が外れる。

 背後のドアが開く。

 スーツの男たちがずらり。

 十人。いや、もっと。

 

 「悪いな。お前ら、もういらねぇんだ。」

 「は? 何言って……」

 「ヒーローに嗅ぎつかれた。口を割る前にな。」

 「そんなことしねぇって!」

 「信じる理由がねぇ。」

 「ふざけんなよ……! 命かけてんだぞ!」

 「命なんて、いくらでも替えがきく。」

 

 レゼの瞳が細くなる。

 「……やっぱり、こうなるんだね。」

 指がピンに触れる。

 「ごめんね、デンジ君。」

 「は? 何がだよ。」

 「ちょっと、個性使うね。」

 「はぁ!?」

 

 ――ボン。

 

 世界が白く爆ぜた。

 爆風。炎。空気が弾ける。

 

 「生きてる?」

 「耳キンキンだよ!!」

 「……なら、よかった。」

 

 その声が、どうしようもなく優しかった。

 「デンジ君の番だよ。」

 「……ポチタ、いくぞ。」

 「ワン!!!」

 

 ギィィィィィィィィィィィィン!!!

 刃が吠える。金属が泣く。

 

 デンジが走る。

 ポチタを振り上げ、突っ込む。

 

 「うおおおおおッ!!!」

 肉が裂ける。骨が砕ける。

 血が顔に降りかかる。

 「へへっ……切れ味最高じゃねぇか!!」

 ポチタが「ワン!」と返す。

 

 銃弾が飛ぶ。

 肩が掠める。

 「痛ぇなぁ!!!」

 

 爆炎の向こう、レゼが笑った。

 「デンジ君、左。」

 「わかってる!」

 

 床が鳴る。

 ドボン。

 水音。

 

 「――ビーム!!!」

 

 返事はない。

 けど、床が割れた。

 濁った水煙。

 ヒレのある少年が飛び出す。

 

 「チェンソー様ァァァァァァ!!!!!」

 

 サメの個性、ビーム。

 笑いながら狂っている。

 

 「喰らええええええッ!!!」

 敵に飛びつき、噛み砕く。

 骨が砕け、血が舞う。

 「チェンソー様の敵はァ!全部!喰い殺すッ!!!」

 

 「ビーム!! 最高だなお前!!」

 「当然デス!! チェンソー様ァァァ!!!」

 

 三人が動く。

 刃。炎。牙。

 

 ギィィィィィィン!! ボン!! ガブゥゥゥゥ!!!

 

 音の嵐。

 血と火花と笑い声。

 

 誰が敵で、誰が味方か、もう分からない。

 

 

 パンッ。

 

 銃声。

 胸に衝撃。

 「……あ?」

 

 デンジが崩れた。

 血が広がる。

 ポチタが鳴く。

 「ワン……ワン……」

 

 レゼが駆け寄る。

 「デンジ君!? デンジ君!!」

 頬を叩く。

 「起きて。起きないと、また爆発するよ。」

 

 

 血の匂いの中で、息が震える。

 

 ……暗い。

 音がない。

 何も感じない。

 

 ただ、血の味だけが口の中に残ってた。

 鉄の匂いと、焦げた煙のにおい。

 

 

  (……ポチタ?)

 

 『私は、デンジ達の“夢の話”を聞くのが好きだった。』

 

 『これは契約だ。』

 

 『私の心臓をやる かわりに――デンジ達の夢を、私に見せてくれ。』

 

 温かい何かが、胸に流れ込む。

 バクン。

 バクン。

 

 心臓が動く。

 血が流れる。

 燃えるみたいに熱い。

 

 「……う……」

 目が開く。

 視界がぼやけている。

 

 「デンジ君!! デンジ君!!」

 レゼが泣きそうな顔で駆け寄る。

 「生きてるの!? ねぇ!!」

 

 デンジは息を吐いた。

 「……ああ……胸が……」

 

 そのとき、足音。

 煙の向こうで、まだ息のある敵がよろめきながら近づいてきた。

 銃口が、こちらを向く。

 

 「……チッ……まだ、生きてんのかよ……」

 

 レゼが構える。

 でも、デンジの目はもう違っていた。

 視界が赤く揺れ、頭の奥で何かが疼く。

 

 胸の輪に、手が伸びた。

 「……引かなきゃ……殺される……」

 

 レゼが叫ぶ。

 「デンジ君、やめ──!」

 

 ギュッ。

 ――カチン。

 ――ブルルルルルルン……。

 

 低く響く音。

 床が震える。

 血の匂いが熱を帯びて膨らむ。

 

 ――ギィィィィィィィィィィィィン!!!

 

 頭から刃。腕からチェンソー。

 血と油。赤い視界。

 

 「命はいくらでも替えがきくって言ったよな!!」

 チェンソーが笑った。

 「じゃああ、お前らのも替えてやるよ!!」

 

 轟音。

 刃が唸る。

 血が飛ぶ。

 悲鳴が潰れる。

 

 レゼはその背を見ていた。

 炎の中、少しだけ笑って。

 「……やっぱり、かっこいいね。デンジ君。」

 

 チェーンソーが吠え、レゼが爆ぜ、ビームが喰い荒らす。

 灰色のアジトは、真紅に包まれた。

 

 

 

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