2人の幸せ   作:言うても

4 / 23
4話

 デンジが壁にもたれて息を吐く。

 「……やっと、終わったな。」

 レゼが隣で笑う。

 「ふふ、ほんとに……終わったのかな。」

 「さすがにもう誰も残ってねぇだろ。」

 「だったら、いいけど。」

 「おいおい、縁起でもねぇこと言うなよ。」

 

 デンジがぼんやり天井を見上げながら言った。

 「なぁレゼ……これからどうすんだ?」

 「え?」

 「俺らに金くれてたヤツら、みーんな殺しちまったじゃん。」

 「……そうだね。」

 「仕事もねぇ、メシもねぇ。マジで詰んでんな、俺ら。」

 レゼは小さく笑った。

 「ふふ、ほんとデンジ君らしいね。普通、もう少し焦るところだよ?」

 「焦ったって腹ふくれねぇし。」

 「……たしかに。」

 少しだけ沈黙が落ちる。

 

 レゼがそっと呟く。

 「でもね、こうして生きてるだけでも、ちょっと奇跡だと思うよ。」

 「奇跡か……。俺は奇跡より肉の方がいいな。」

 「もう……ほんとデンジ君って、そういうとこ好き。」

 「へ? なんか言った?」

 「なんでもないよ。」

 レゼの笑顔は、ほんの一瞬、痛そうに歪んだ。

 

 そのとき――。

 

 「チェンソー様ァァァァァ!!!」

 

 ドバァッと瓦礫の山を突き破って、

 水しぶきのようにサメが飛び出した。

 

 「ビーム……お前、生きてたのかよ!?」

 「もちろんッ!! ビームチェンソー様!置いて死ねるワケないです!!!」

 「うるせぇな……鼓膜破けるわ。」

 「チェンソー様の鼓膜なら治ります!!!流石チェンソーマン様!!」

 「治んねぇよ。」

 

 レゼがかすかに笑った。

 血と煤にまみれた顔で、それでも少しだけ優しく。

 

 「……帰ろっか、デンジ君。」

 「ああ。腹減ったしな。」

 

 外はまだ夜明け前。

 灰色の空に、焼けた匂いが残っていた。

 風が吹くたびに、血の粉が舞う。

 

 デンジは胸に手を当てる。

 (……なぁ、ポチタ。聞こえてっか? 俺、まだ生きてるぞ。)

 返事はない。

 けど、心臓がドクンと鳴った。

 

 レゼが空を見上げた。

 「ねぇ、デンジ君。」

 「ん?」

 「朝、きれいだね。」

 「こんな所でもか?」

 「うん。でも、すぐ汚れるんだろうね。」

 「そういうこと言うなよ。」

 「ふふ、ごめん。」

 

 ……そのときだった。

 

 ――遠くでサイレン。

 続いて、タイヤが焦げる音。

 

 倉庫街の入り口で、何台もの車が停まる。

 ヒーロースーツ姿の男女が次々と降りた。

 まだ若い。

 緊張で息が荒い。

 

 「通報はここだ! 火災反応あり!」

 「何か……臭くないか?」

 「……血、だ。」

 

 扉を蹴破る。

 

 ――ドン。

 

 中に入った瞬間、息を呑む。

 空気が変わった。

 焼けた鉄と焦げた肉の臭い。

 床一面、赤。

 壁にも、天井にも、血。

 

 「……ひどい……」

 「これ、人間がやったのか?」

 「ヴィランの巣窟って聞いてたけど……まさか……」

 

 若いヒーローが壁際で嘔吐した。

 「……死体、何十人分だ……」

 

 奥から小さな音。

 かすれた息。

 

 「誰か、生きてるのか!?」

 「反応あり!」

 

 煙の向こうに、三つの影。

 ――血まみれの少年と少女、

 そしてサメのヒレを持った少年。

 

 彼らはただ、ぼんやりと座り込んでいた。

 灰色の朝の光に照らされながら。

 

 「こ……子供?」

 「ウソだろ……この惨状、こいつらが……?」

 「……なんで…」

 

 その声に誰も答えられなかった。

 恐怖と困惑が入り混じる。

 

 デンジが顔を上げた。

 「……なんだよ、お前ら。」

 声が掠れている。

 

 「動くな!!」

 ライトが一斉に向けられる。

 眩しい光が目を刺す。

 

 「これは……! “個性暴走”かもしれない! 拘束優先!!」

 「待て! 俺たちは──!」

 

 パンッ。

 

 麻酔弾がデンジの肩を掠める。

 血が滲む。

 

 「おい、何すんだよ……! 俺、もう戦わねぇってのに……!」

 「安全確保だ、拘束しろ!!」

 

 もう一発。

 鎮静剤が首筋に刺さる。

 

 「チェンソー様に触るな!! 汚い!!」

 

 ビームが暴れようとするが、

 電磁拘束具で一瞬にして地面に押さえつけられた。

 「ぐえぇッ!! でも痛みもチェンソー様のためッ……!!!」

 

 レゼが泣きそうな声で叫ぶ。

 「やめて! 撃たないで!! この人たちは──!」

 「黙れ!!」

 

 金属の手錠が鳴る。

 レゼとデンジの腕が拘束される。

 ビームはなおも吠え続けた。

 「チェンソー様ァァァ!! ビームはどこまでもお側にいます!!!」

 

 その声が、煙の中に消えた。

 

 朝日が昇る。

 灰色の空に、血と煙が混ざって揺れる。

 

 ヒーローたちは呆然としたまま、

 無言で現場を封鎖した。

 

 誰も言葉を発せなかった。

 

 

 デンジの視界がぼやけていく。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。