2人の幸せ   作:言うても

5 / 23
5話

 

 鉄の机をはさんで、

 デンジは手錠をつけられたまま座っていた。

 ヒーロー側の取調官が、向かいで書類をめくる。

 白衣にヒーローバッジ。顔は疲れていた。

 

 「デンジ君。君たちは奴らの実働班だったんだな。」

 「だったって言うか……雇われてただけだ。」

 「暗殺、運搬、処分。全部やっていたそうだな。」

 「そうしねぇと、借金も返せねぇし、飯も食えねぇんだよ。」

 「報酬は?」

 「レゼと俺とポチタで合わせて10万から40万。

  でも借金とか、装備代とか、寝床代とか引かれて……残るのは数万。」

 

 調査官のペンが止まる。

 しばらく沈黙。

 

 デンジはうつむいて、机の傷を指でなぞった。

 「どうせ信じねぇんだろ。俺らが“生きるため”にやってたって言っても。」

 「……信じるよ。」

 「へぇ、珍しいな。信じるって言うヤツ、初めて聞いたわ。」

 

 隣の部屋では、レゼが別の調査官と話していた。

 透明なガラス越しに、声だけが薄く届く。

 

 「あなたは……個性の実験体だった?」

 「うん。昔ね。爆弾の個性、制御できないって理由で捨てられたの。」

 「それで、スラムに?」

 「そう。そしたら、デンジ君がいて。」

 「彼と一緒に?」

 「うん。あとね、もういなくなっちゃったけどポチタも。

  生きるのが下手な子だったけど、優しいの。」

 

 レゼは少し笑って、指先を見つめた。

 「ご飯分けてくれた。腐ってたけどね。

  ……でも、分けてくれた。」

 

 調査官は言葉を失っていた。

 机の上のペンが転がる音が、やけに響く。

 

 一方の部屋で、別のヒーローがビームの取り調べをしていた。

 

 「サメの個性……お前、暴走体質らしいな。」

 「オレはサメッ! でも! チェンソー様たちの前ではイヌッ!!!」

 「……会話にならん。檻にいれるぞ!」

 「檻? 檻!? 檻なんかいかない!!!」

 「静かにしろ!」

 「ウルサイ!! チェンソー様、レゼ様、最高ッ!!!」

 

 ――バンッ。

 壁の向こうで机を叩く音。

 デンジがうるさそうに眉をしかめた。

 「……アイツ、まだ騒いでんのか。」

 

 取調官が書類を閉じた。

 「君は、本当は……何になりたかった?」

 デンジは少し黙って、肩をすくめる。

 「何って……考えたことねぇよ。

  ただ、レゼとポチタで普通の生活したかっただけだ。」

 

 取調官が目を伏せた。

 

 そのとき――。

 

 ドアが静かに開いた。

 柔らかい足音。

 「……もう十分だよ。あとは僕たちが話そう。」

 

 入ってきたのは、

 白い毛並みの小柄なネズミ――**雄英高校校長・根津**。

 その後ろに、黒いコート姿の男――**相澤消太**が続いた。

 

 「根津校長……!」

 調査官が慌てて立ち上がる。

 根津は手を上げて制した。

 「いいんだよ。君たちも疲れただろう。少し休むといいさ!」

 

 デンジはぼんやりと二人を見上げた。

 「……ネズミと、もじゃもじゃ?」

 相澤が眉をひそめる。

 「口が悪いな。」

 根津が小さく笑った。

 「フフ……そう言われるのは久しぶりだね。」

 

 

 「デンジ君。君たちは“ヒーロー社会”の外で生きてきたんだね。」

 「ヒーロー社会?」

 「そうだよ。秩序の中で、秩序に守られなかった者たち。

  君たちは、その狭間にいた……いや、落とされてしまったのかもしれない。」

 

 デンジは鼻で笑った。

 「言ってることよくわかんねーけど、守られた覚えなんて、ねぇよ。」

 相澤が壁にもたれ、ポケットに手を突っ込んだ。

 「……だろうな。」

 

 根津は机の上のファイルを閉じ、静かに言った。

 「僕は、君たちを“犯罪者”としてではなく、“生徒”として見たいのさ。」

 「……は?」

 「すぐに、というわけではないよ。

  まずは落ち着ける場所へ行く必要があるからね。」

 

 根津は穏やかな声で続けた。

 「雄英高校のOBや支援者の募金によって運営されている保護施設がある。

  君たちのように、行き場を失った子供たちが暮らしている。

  医療も教育も受けられる。……そこへ行きなさい。

  しばらくは、そこで“生き直す”のさ!」

 

 デンジが怪訝そうに眉をしかめる。

 「……それ、メシ出んのか?」

 相澤が短く笑う。

 「お前な……」

 根津もくすっと笑ってうなずいた。

 「もちろん!三食きちんと出るよ。

  君たちのような子にこそ、ちゃんと食べてもらいたいからさ!」

 

 レゼの部屋のマイクがかすかに音を立てた。

 彼女が息を呑むのが聞こえた。

 

 根津は目を細めて言った。

 「一年後。もし君たちがまだ、自分の手で未来を掴みたいと思えたら……

  雄英高校への正式な入学を、提案させてくれたまえ。」

 

 デンジは少し黙ってから、

 「……勉強なんて、できねぇぞ。字も読めねぇし、退屈になったら寝ちまうぞ。」

 「できるとも。学ぶことは、生きることの延長線上だからね。」

 「延長線……ねぇ。」

 デンジは鼻を鳴らして笑った。

 「俺の人生、線ってよりドブだぜ。」

 

 相澤が片眉を上げる。

 「世間から何を言われるかわかりませんよ。」

 根津が小さく笑う。

 「フフ……僕にも多少のツテはあるからね。」

 

 

 根津は立ち上がり、静かに言った。

 「では、次に会うときまでに、少しだけ考えておきなさい。」

 

 デンジは椅子にもたれて天井を見た。

 「……考え、ねぇ。腹いっぱいメシ食うくらいしか思いつかねぇな。」

 レゼは笑って言った。

 「じゃあ、まずは三食ついてる場所に行こっか。」

 

 デンジは肩をすくめて、うなずいた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。