2人の幸せ   作:言うても

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6話

 

 ――朝だった。

 雨漏りの水、隙間風、暑さ以外で目が覚める朝なんて、初めてだった。

 

 天井は白い。

 静かすぎて、耳が変になる。

 外で鳥が鳴いてた。

 

 デンジは布団に沈みながら、ぼそっと言った。

 「……なんだここ、マジで天国か?」

 寝返りをうつ。

 ふかふか。沈む。柔らかすぎて気持ち悪い。

 「やべ……布団に食われる……。」

 

 笑った。

 それだけで、変な気分になった。

 

 「デンジ君、起きた?」

 隣の部屋からレゼの声。

 「レゼ! 床が光ってるぞ! なんだこれ!歩くの怖ぇ!」

 「ふふ、それが普通だよ。」

 「マジかよ。俺ん達の床、虫と隙間しかなかったぞ。」

 「ここは“保護施設”だからね。」

 

 ドアが開いて、レゼが顔を出す。

 髪が濡れてる。ほっぺが少し赤い。

 「シャワー、すごいね。お湯が止まらないの。」

 「はぁ!? お湯が!? 止まんねぇ!?」

 レゼが笑う。

 「前まで、雨の日に溜めるか、川に行くしかなかったのに。」

 デンジは頭をかいて、鼻を鳴らした。

 「止まんねぇ湯とか……逆にコワくねーか? 」

 

 レゼは小さく笑った。

 「朝ごはん、パンが並んでたよ。」

 「パン!? マジで!?」

 デンジは跳ね起きた。

 「おい、急げ!レゼ!!パンなくなっちまうぞ!!」

 「ふふっ。」

 

 廊下に出る。

 光。

 床ピカピカ。足が冷たい。

 「なんだよこれ……床がツルツルだ。」

 「これが普通みたいだよ。」

 レゼの目が、少し潤んでた。

 「でもね、普通って、こんなに綺麗なんだね。」

 「普通ってスゲーな……。俺、普通バカにしてたわ。」

 

 食堂。

 ビームがパンくわえて座ってた。

 ジャムだらけの口で叫ぶ。

 「チェンソー様ァ! パン甘いッス! 神ッス!」

 「お前もう食ってんのかよ!」

 「文明!!文明!!」

 「マジでうめぇなコレ。」

 

 デンジはかじる。

 バターがとろける。

 「……あっっつ! でも、うめー。」

 

 レゼは目を閉じて、噛んだ。

 「……甘い。あったかい。」

 「なぁ、これ……廃棄品でもねぇし、カビもねぇ。」

 

 「ふふ、泣いちゃうね。」

 レゼの目から、涙がこぼれた。

 

 「なぁレゼ。パンってさ、毎日食っていいの?」

 「たぶん、いいと思う。」

 「やっべぇ……最高じゃん、ここ。」

 

 職員が服を配ってた。

 清潔な服。アイロンの匂い。

 

 デンジはぼそっと言った。

 「……これ、マジで俺らの?」

 「うん。寄付された服だって。」

 「へぇ……金持ちのやつらも、悪くねぇな。」

 

 ビームが叫んだ。

 「チェンソー様ァァァ!! 似合ってます!!!」

 「だろー」

 「フヒヒヒヒヒ!!!」

 

 レゼは鏡の前でボタンを留めてた。

 自分の姿を見て、息をのむ。

 「……ねぇ、デンジ君。似合ってる?」

 「お、おう。なんか……女の子に見える。」

 レゼは照れ笑いして、少し俯いた。

 「昔ね、鏡に映る自分、見るの怖かった。

  でも今はちょっと……好きかも。」

 デンジは肩をすくめた。

 「そりゃ、よかったじゃん。」

 

 レゼは鏡に微笑んだ。

 デンジは袖を握って、つぶやく。

 「……なぁポチタ。

  おれ今、うめぇ飯食って、ちゃんとした服着てるぞ。」

 

 

 レゼが袖を引く。

 「デンジ君外、行こ。空が、すごいよ。」

 「おう。」

 

 外。

 光が刺さる。

 風がやさしい。

 空が広い。

 

 「“普通”って……ムカつくくらいすげぇな。」

 レゼが笑う。

 「うん。でも、いいでしょ?」

 

 デンジは笑った。

 「なぁ、レゼ。」

 「なに?」

 「……おれ、もうちょっと、まともに生きてみてぇかも。」

 レゼは小さくうなずいた。

 「うん。私も、まともに生きてみたい。」

 

 空は青すぎて、目が痛かった。

 でもデンジは、笑ったままだった。

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