2人の幸せ   作:言うても

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8話

 

 ――朝。

 

 炊きたての湯気が立ってる。

 それだけで部屋がやけに静かだった。

 

 けど、デンジはぼーっと座ってた。

 なんか、頭の奥がスカスカしてる。

 

 (……なんか忘れてっかんな。

  大事なもん、ポケットから落としたみてぇな感じだ)

 

 「デンジ君?」

 横でレゼが茶碗を持ちながら首をかしげてる。

 「食べないの?」

 「……あ? 食う。今から食うとこ。」

 「ふふ、珍しいね。ご飯前に静かなんて。」

 「別に。寝起きで脳みそまだ動いてねぇだけだよ。」

 

 レゼが微笑んで箸を置いた。

 「大丈夫? 食べれる?」

 「食べ!……いや、食べられねぇ。」

 「もう、しょうがないなぁ。」

 

 レゼは笑って、ご飯をすくって差し出す。

 「はい、あーん。」

 「あ〜ん!」

 

 デンジはがっつり食う。

 「……うっめぇぇぇぇ!」

 

 「ふふ、うれしい。」

 

 デンジはふと天井を見た。

 (……やっぱ忘れてんな。何か大事なもん。)

 

 「デンジ君?」

 レゼが小首を傾げた。

 

 その瞬間、デンジの中の何かがピタッと止まる。

 (……かわいすぎねぇか、今の。)

 気づけば口が勝手に動いてた。

 

 「なぁレゼ、今の仕草、ちょう可愛い」

 

 レゼが目を丸くして、すぐ笑う。

 「もう、いきなり何それ。」

 「いや、マジで。考えるのやめた。脳がレゼで埋まったぜ」

 「ふふ……バカ。」

 

 

 レゼが照れたように笑い、少し目を伏せる。

 「……デンジ君も、かっこいいよ。」

 「マジで!? オレが!? どのへん!?」

 「全部。」

 「そりゃ嘘だろ!」

 「ほんとだよ!」

 

 

 二人の笑い声が、食堂の壁に響いた。

 米の匂いと一緒に、笑いがゆっくり空気に溶けていく。

 

 レゼがまた一口すくって、デンジに差し出す。

 「はい、あーん。」

 「おっ、まだあるのか! 最高!」

 「よく噛んでね。」

 「うっめぇぇぇ!!!」

 「ふふ、元気だね。」

 

 

 そのままテーブルに顔を寄せ合う。

 光がレゼの頬を透かして、肌が柔らかく光った。

 デンジは無意識にその髪に手を伸ばしかけ――

 

 ――ガラッ。

 

 食堂のドアが開いた。

 

 「根津校長……!」

 レゼが立ち上がる。

 デンジは口に米を詰めたまま言う。

 「あ、しゃべるネズミだ!」

 「Yes!ネズミなのか犬なのか熊なのかかくしてその正体は── 校長さ!」

 

 根津が椅子に座り、静かに微笑む。

 「ご飯、美味しそうだね。」

 「うめぇぞ! ここの飯」

 「夢みたいでしょ? でもこれは現実なんだよ

  これが“生きる”ということだよ。」

 

 デンジは考える。

 (……前にも言われた気がすんな、それ。)

 「あ、思い出した!学校だ」

 

 ――“もし君たちが、自分の手で未来を掴みたいと思えたら――雄英高校へ来なさい。”

 

レゼが呆れ顔で笑う。

 「え、デンジ君、忘れてたの!?」

 

 脳の奥でその声が響く。

 デンジは手を止めたまま、ゆっくり顔を上げた。

 根津が穏やかに微笑む。

 

 「君たちはよくここまで生き抜きぬいた。

  この施設は、そんな君たちを見守るためにある。

  かつて困難を乗り越えた雄英の卒業生――OBたちが、

  “助けられた人が、次に助ける側になる”という信念で支援してくれているのさ!」

 

 レゼが息をのむ。

 デンジは拳を握り、口を開いた。

 

 「……オレでも、ヒーローになれっかな。」

 

 根津は目を細めた。

 「なれるかどうか、ではなく――“なりたいかどうか”だよ」

 「……オレは、なってみてぇ。」

 「いいね!“試してみる”――それが勇気だ

  勇気より大事なのは、“守りたい”って気持ちなのさ」

 

 デンジが鼻を鳴らす。

 「勇気とか守るとか難しいことわかんねぇけど……

  飯と寝床と、笑える時間があんなら、それ守りてぇ」

 根津が満足そうに頷く。

 「それが一番、重要なのさ」

 

 根津は立ち上がり、朝の光の中へ去っていった。

 小さな背中が、まるで陽の光みたいにぼやけて見えた。

 

---

 

【デンジの部屋】

 

 食後、部屋に戻る。

 白い光がカーテンを通して広がってる。

 

 デンジはベッドの端に腰を下ろし、ぼそっと言った。

 「なぁ、レゼ。あのネズミに“行く”って言っちまったけど……よかったのかよ。」

 

 レゼは窓辺に立って、光の中で笑った。

 「なんで? 私、デンジ君が行くならどこでも行くよ。

  それに、学校……行ってみたかったし。」

 

 デンジは腕を組んだ。

 「でもよ、ヒーローになるってことは、個性使うってことだろ。

  レゼが苦しむの、オレは見たくねぇ。」

 

 レゼはくるりと振り向き、まっすぐ言う。

 「やっぱり、デンジ君は優しいね。

  でも、大丈夫。デンジ君も同じでしょ?」

 

 「まぁな……オレもチェンソー出す時、クソ痛ぇけどよ。」

 

 レゼが一歩近づいて、デンジの手を握る。

 その掌があったかくて、少し震えてた。

 「ほら、デンジ君も“痛み”知ってる。

  だから私、我慢できる。……痛くないもん。

  むしろ――デンジ君と一緒にいられるのが、嬉しい。」

 

 デンジは頬をかき、照れくさそうに笑う。

 「……そういうこと好きだわ。」

 「ふふ、でしょ?」

 「よし、行くか。一緒にな。」

 「うん。一緒に行こ。もちろん――ビームもね。」

 

 「ビーム?」

 デンジはハッとする。

 「やっべ、忘れてた!」

 「おいビーム! どこいった!?」

 

 レゼが指差した。

 「そこ。」

 

 部屋の隅。

 影の中で、サメのヒレを持つ男が体育座りしていた。

 

 「チェンソー様に……忘れられた……悲しいッ……」

 

 デンジが駆け寄る。

 「わ、悪ぃ! 忘れたわけじゃねぇよ!お前も一緒に行こうぜビーム! 」

 ビームがパッと顔を上げる。

 「チェーンソー様、レゼ様一緒に行く!学校!!絶対!!」

 

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