2人の幸せ   作:言うても

9 / 23
9話

 

 ――午後、雄英高校 職員会議室。

 

 蛍光灯の白い光が、書類の山と顔ぶれを照らしていた。

 根津校長を中心に、相澤消太、プレゼント・マイク

 ミッドナイト、オールマイト、ブラドキング、

 スナイプ、13号、エクトプラズム、リカバリーガール――

 錚々たる教師陣が顔をそろえていた。

 

 いつもより空気が重い。

 紙の音ひとつでも響くほど、緊張が張り詰めていた。

 

 根津が立ち上がり、前足で書類を整えた。

 「――では、議題に入ろうか。

  本日の特別項目、“ヒーロー科特別入学枠”についてでだよ。」

 

 相澤が腕を組み、眠たげな目を細める。

「今回は“推薦でも一般でもない生徒”を、三名、特別に受け入れたいと思うんだ。」

 

 その一言に、場の空気が揺れた。

 

 ミッドナイトが眉を上げ、軽く椅子を傾ける。

「三名? しかも“特別”?」

 

 マイクも続けてしゃべる。

「Yo! 校長! それってウルトラスーパー・イレギュラー案件じゃないっスか!」

 

 スナイプが腕を組み、低く唸った。

「前例がない……。どんな連中だ?」

 

 根津は穏やかに微笑んだ。

「前例がないからこそ、やる価値があるのさ」

 

 オールマイトが静かに問いかける。

「……その三人、どういう子たちなんですか?」

 

 根津がリモコンを押す。

 モニターに映し出されたのは、保護施設で撮られた三人の写真。

 寝起きのような少年。穏やかに笑う少女。

 そして――サメのヒレを背負い、カメラにピースする青年。

 

 「彼らの名は――デンジ、レゼ、ビーム。」

 

 相澤が険しい声を出す。

「……もう、そんな時期か。」

 

 根津が頷く。

「彼らは幼い頃から“大人の都合”で働かされ、スラムで生活してきた。

  学校という場所を知らずに育った子たちなんだ。」

 

 ざわめきが走った。

 

 ブラドキングが腕を鳴らす。

「……つまり、俺たちが救えなかった子どもたちってことか。」

 

 根津はまっすぐ見返した。

「そうだね。彼らはただ“生き残るため”に生きてきた。

  だからこそ、僕は“生きるため”に雄英で学んでほしい」

 

 ミッドナイトが脚を組み、顎に手を当てる。

「でも、なぜヒーロー科? 普通科やサポート科、経営科もあるでしょう。

  わざわざ一番“過去を刺激する”現場科を選ぶ理由は?」

 

 根津は即答した。

「彼らの個性は、ヴィランに利用されやすい性質だからさ。」

 

 山田が口笛を吹く。

「で、どんな個性なんスか?」

 

 根津が淡々と補足する。

「三人とも血液を燃料にするタイプの個性だ。

  デンジ君――個性“チェンソー”。血を消費し、身体をチェンソー化できる。

  レゼ君――個性“爆弾”。自分の身体を起爆でき、制御下での爆発運用が可能。

  ビーム君――個性“サメ”。サメ化し高速で噛みつく。地面や壁を“泳ぐ”ように移動できるらしい。」

 

 スナイプが口を挟む。

「相当物騒な個性持ちだな。どれもヴィラン向きだ。」

 

 根津は小さく頷き、言葉を重ねた。

「だからこそ、彼らには“ヒーローの本質”を学んでほしい。

  ヒーローである君たちから、利用されず、誇りを持って生きる強さを学ばせたい。」

 

 オールマイトが腕を組み、深く頷く。

「……彼らが善悪の境目を知らずに利用されてきたのなら、

  まだ我々が導ける余地はあるはずだ。」

 

 エクトプラズムが低く声を発した。

「その責任は……我々全員にカカッテクルナ。」

 

 13号が静かにうなずく。

「ですが、“教える覚悟”があるなら、道は開けます。」

 

 リカバリーガールがため息まじりに口を尖らせる。

「アンタたち、ほんと好きねぇ。

  まぁ、悪いことじゃないけどさ。」

 

 スナイプが肩をすくめた。

「普通の子供じゃない。……だが、ヒーロー科なら悪くない選択かもな。」

 

 根津が一歩前へ出る。

「……彼らはヒーロー社会の“歪み”が生んだ子どもだ。

  その歪みを見ないふりをするなら、僕たちは教育者ではない。」

 

 静まり返る会議室。

 

 根津は最後に書類を閉じ、短く告げた。

「――三名の特別入学を正式に承認する。

  デンジ、レゼ、ビーム。」

 

 会議室に、短い沈黙と安堵が走った。

 

 だが――その直後、マイクが勢いよく手を挙げる。

「Yo! ちょい待ち、校長!」

 

 全員の視線が一斉に彼へ向く。

 

「確かに入学はOKっスけど……その三人、どれぐらいの実力あるんスか?

  ウチの一般入試組は、みんな“実技試験”をくぐり抜けてきてるっスよ。

  ロボ討伐と救助の同時採点――あの試験、結構ハードっス。」

 

 相澤が眉をひそめる。

「……確かにな。入試を経てない分、能力の指標がない。」

 

 山田はマイクをくるりと回して言った。

「だから提案ダゼ!

  “個性把握試験”を予定より早めて、

  さらに“実技模擬戦”もあの一般入試形式でやらせてみるんスよ。

  あれなら純粋な戦闘力がわかるし、

  入ってから他の新入生と同じ土俵でスタートできるでしょ?」

 

 ブラドキングが頷く。

「確かに。ヒーローとしての基本反応を見るにはいい試験だ。」

 

 13号も穏やかに補足した。

「公平さのためにもいいですね。

  彼ら自身も、自分の力の“客観的な評価”を得るべきです。」

 

 根津はしばらく考え、やがて頷いた。

「……なるほど。

  実技模擬戦はともかく個性把握試験は“入学前”に行うのは異例でだが、理にかなっている。

  新しい環境に入る前に、自分の力を知ることは、大きな一歩になるよね。」

 

 オールマイトが静かにうなずく。

「我々も立ち会おう。

  “ヒーローの卵”がどんな光を放つのか、見届ける価値はある。」

 

 根津は軽く目を細め、うなずいた。

「決まりだね。

  ――特別入学三名に、入学前個性把握試験および一般入試形式の実技模擬戦を実施しよう!」

 

 その声に、会議室の空気が再び引き締まった。

 

 リカバリーガールが肩をすくめる。

「好きにやんな。ケガしたら持ってきな。」

 

「もちろんだとも!」根津が穏やかに微笑んだ。

 

 こうして、雄英史上初の“特別入学組・入学前個性把握試験+実技模擬戦”が決まった。





ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
もし少しでも「面白かった」「続きが気になる」と感じていただけたら、
高評価やお気に入り登録をしていただけると、とても励みになります。
感想も大歓迎です。今後ともよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。