その「しつけ」、ポケモン用です   作:マウスブン

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キョウヤは調教しません。安心してください。


番外編
デウロ? 覗き


夜。ホテルZの一室は、復興の喧騒が嘘のように静まり返っていた。デウロは自室のベッドに浅く腰掛け、手にした端末の光をぼんやりと眺めていたが、その思考は少し前のある日の出来事へと飛んでいた。

 

(……やっぱりアレ)

 

デウロの脳裏に蘇るのはキョウヤの部屋の光景。タウニーを探しに行って偶然訪れた、あの部屋。ベッドのシーツが中央だけ不自然なほどこんもりと盛り上がっていた。

 

『私のポケモンたちがかくれんぼをしているんだ』

 

キョウヤはそう言って、平然と紅茶を飲んでいた。あの時は「ふーん、Aランクトレーナーのポケモンもそんなことするんだ」と、面白半分に聞き流した。

 

だがあの時。あの部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、デウロの鼻腔をかすめた匂いがあった。それは甘く濃密で、どこか背徳的な……事を終えた後のような生々しい残り香。

 

(……ポケモンの匂いかな、って。そう思ったけど)

 

当時はそう無理やり自分を納得させた。珍しいポケモンなら、そういうフェロモンのようなものを出すのかもしれない、と。

 

しかしその後のバトルフィールドでの光景が、デウロのその思い込みを根底から覆した。

 

キョウヤの圧勝。そして公衆の面前でなんの躊躇もなく行われた、あのキス。敗北し腰が抜けたタウニーとマチエールに、まるで所有物に示すかのように深く口づけるキョウヤの姿。あの時のタウニーの抵抗を許されていない蕩けた顔。

 

(……どう見ても、手慣れて爛れた関係のものだった)

 

デウロは端末の電源を落とし、暗くなった画面に映る自分の顔を見つめた。

 

「……やっぱり、あれ。タウニーだったよね」

 

ぽつりと、独り言が漏れた。あの布団の盛り上がり。あの生々しい匂い。そしてあのキス。点と点が繋がり一つの完璧な答えを導き出していた。

 

あの時あのシーツの下で。タウニーはキョウヤのポケモンとして「かくれんぼ」をしていたのだ。

 

「……はぁ」

 

デウロはベッドに倒れ込むと両腕で顔を覆った。気づきたくなかった。街の誰もが知る、あの歪んだ三角関係。その表面的なゴシップとは比べ物にならない、水面下の生々しく湿った関係性。

 

(……キョウヤのやつ。タウニー相手に、部屋でいったい……)

 

想像が膨らみ、自分の体が妙に熱くなってくるのを感じる。デウロは「あーもう!」と声を上げると、シーツの中で身じろぎした。

 

知ってしまった以上、もうあの二人(キョウヤとタウニー)を、以前と同じ目では見られない。デウロは一人、そのあまりにも濃密すぎる秘密を知ってしまったがゆえの好奇心とわずかな嫌悪感、そして説明のつかない奇妙な興奮に悶々としながら夜を過ごすのだった。

 

 

 

 

気分転換にロビーの喧騒でも浴びようかと、デウロは自室のドアを開けた。夜のホテルZの廊下は日中のそれとは違って静まり返っている。

 

コツ、コツ、と自分のサンダルの音だけが響く廊下を歩き始めた、その時だった。

 

「……ん……っ」

 

微かだが確実に、何かを堪えるような声が耳に届いた。

(……?)

デウロは足を止めた。空耳だろうか。いや、違う。

 

「……ふ……ぁ……っ」

 

今度はもっとはっきりと。甘く、湿った吐息。デウロは音のする方へと抜き足差し足で近づいていく。音はどうやらタウニーの部屋から漏れてきているようだった。

 

そしてデウロはその事実に気づいて息を呑んだ。タウニーの部屋のドアがほんの数センチだけ、半開きになっていたのだ。

 

(……タウニー? どうしたの?)

 

こんな夜中に。ドアも閉めずに。まさか、またキョウヤに何かされているんじゃ――。あの「かくれんぼ」の一件と、公衆の面前でのキスがデウロの脳裏をよぎる。

 

デウロは壁に背中を預け、音を立てないようにゆっくりとドアの隙間へと近づいた。そしてそっと耳を澄ませる。

 

「……あ……っ! キョ、ヤ……! そこ、だめ……っ!」

「……ん……っ、ふ……! タウニーちゃん、だけじゃなくて……あたし、も……っ」

「……ああ、そうだ。二人とも、よく感じてる……」

 

「「―――っ!」」

 

タウニーの声。マチエールの声。そしてキョウヤの声。三人の明らかに尋常ではない、熱に浮かされた喘ぎ声と、肌が擦れ合う生々しい水音が隙間から溢れ出ていた。

 

(……うそ)

 

デウロの全身からサッと血の気が引いた。状況を理解してしまった。タウニーの部屋で。三人で。今、まさに。

 

(離れなきゃ。聞いちゃダメ。見ちゃダメ)

理性が警鐘を鳴らす。これは自分が踏み込んでいい領域ではない。だが好奇心と、そしてあのキョウヤという男が、今、二人相手に何をしているのかという倒錯的な興味が、デウロの足をその場に縫い付けて離さなかった。

 

(……だ、だって! タウニーが、変なことされてないか、確認しないと……!)

 

デウロは自分にそう必死で言い訳をした。確認するだけ。タウニーが無理やりとか泣かされたりとか、そういうことじゃないか確かめるだけ。

 

彼女はごくり、と喉を鳴らすと、意を決してドアのほんの数センチの隙間に片目をそっと押し当てた。

 

薄暗い部屋の中。暗くてよく見えないが、ベッドの上。三つの影が信じられないほど密着しもつれ合い、一つの塊のようになって激しく揺れていた。タウニーの甲高い嬌声とマチエールの理性が焼き切れたような喘ぎが、キョウヤの低い声に導かれるように交互に響き渡る。

 

デウロは、そのあまりにも生々しく倒錯的な光景から、もう目を離すことができなかった。

 

 

 

どれほどの時間が経過したのか、デウロにはもう分からなかった。ただ目の前の信じがたい光景だけが現実だった。三人の肌がぶつかり合う音、タウニーとマチエールの交互に響く嬌声、そして二人を支配するキョウヤの低い声。

 

デウロが息を殺して覗き込み続けていると、不意にあれほど激しくキョウヤに求められていたタウニーの体の力が、ふっと抜け落ちるのが見えた。

 

「……はぁ……っ、はぁ……」

 

ぐったりと、まるで糸が切れたかのようにベッドに横たわる。キョウヤの手がマチエールの方へと移っていくのを、デウロは隙間からぼんやりと見ていた。

 

タウニーは荒い呼吸を整えながら、熱に浮かされたままゆっくりとベッドの上で寝返りをうった。……偶然にもデウロがいるドアの方へと、その体を向ける。

 

そして。

 

「…………!」

 

タウニーのまだ快感の余韻で潤んだ瞳が、ドアのわずかな隙間――そこに押し当てられていた、デウロの片目――と完璧に焦点を結んだ。

 

時が止まった。

 

タウニーもデウロも互いの存在をはっきりと認識した。タウニーは一瞬、目を丸くした。まさかこんなところを。デウロに。デウロも心臓が喉から飛び出るかと思った。見られた。覗いていたことが、バレた。

 

二人とも驚きに固まったまま、声を上げることはなかった。キョウヤとマチエールの喘ぎ声だけがBGMのように響き続ける。

 

どれくらいの時間、そうして見つめ合っていただろうか。先に沈黙を破ったのはタウニーだった。

 

彼女はぐったりとベッドに横たわったまま、その唇の端をゆっくりと吊り上げた。そしてドアの隙間から覗き込むデウロに向かって、

 

―――ニンマリと。

 

まるで「見ちゃったね」とでも言うかのように悪戯っぽく、そしてどこか誇らしげに笑いかけてみせたのだ。

 

「―――――っ!」

 

その笑顔を見た瞬間、デウロは沸騰しそうになる顔から、バッと音を立てるかのようにドアの隙間から飛びのいた。

 

(……なっ……!わ、笑った……!?タウニー……!)

 

心臓が今までにないほど激しく打ち鳴らされる。見られたことの羞恥よりも、あの状況下で笑い返してきたタウニーへの混乱が勝っていた。

 

デウロはもう一刻も早くこの場から離れたかった。彼女はサンダルの音も構わず、廊下を転がるようにして駆け出すと自分の部屋へと一目散に逃げ帰っていった。

 

 

 

 

翌日。ホテルZの日常は何も変わらずに始まった。

 

デウロは必死に平静を装っていた。朝のミーティングで顔を合わせたタウニーは、いつも通りの底抜けの明るさでリーダーシップを発揮している。昨夜のキョウヤの腕の中で蕩けきっていた姿など微塵も感じさせない。

 

(……気のせいだったのかも)

 

デウロはそう思い込もうとした。タウニーもあの目が合った一件については何も言ってこない。デウロはバレたことの気まずさよりも、タウニーがいつも通りであることに心の底からホッとしていた。

 

だがその安堵は昼過ぎに脆くも崩れ去った。

 

リネン室でシーツの補充作業をしていたデウロの背後から不意に声がかかった。

「お疲れー、デウロ」

「わっ! …タウニーか。びっくりさせないでよ」

リネン室には、デウロとタウニーの二人きり。閉鎖された空間。タウニーはいつもの人懐こい笑顔で、デウロとの距離を詰めた。

 

「ねえ」

「な、なに?」

「昨日の夜。見てたよね」

「―――――っ!」

デウロの心臓が大きく跳ねた。カマをかけているんじゃない。確信を持ったストレートな指摘。顔がカッと熱くなるのが分かった。

「……あ、あの……! ご、ごめん! 本当に、覗くつもりじゃ……!」

デウロはしどろもどろに謝罪した。

 

だがタウニーは怒った様子を一切見せなかった。それどころか、「あはは」と声を立てて笑っている。

「大丈夫、大丈夫! 気にしてないよ」

「え……?」

「別に悪いことしてたわけじゃないし?」

 

あっけらかんとした、いつものタウニーだ。デウロはその屈託のない笑顔に、再び安堵し、強張っていた肩の力が抜けた。

「……よかっ、た……」

 

そのデウロが完全に安心しきった瞬間。タウニーの表情が、ふっと変わった。いつもの元気なリーダーの顔から、昨夜デウロに笑いかけてみせた時と同じ、すべてを見透かしたような淫靡な笑みへと。

 

「……いいもの、見せてあげる」

「へ?」

 

タウニーは「しーっ」と人差し指を自分の唇に当てると、デウロのすぐ目の前で、自分のトレードマークであるトップスの裾を、ゆっくりと掴んだ。

 

そして何の躊躇もなく、それを捲り上げる。

 

「……!」

デウロの視線は、そこに釘付けになった。タウニーの引き締まった腹部。その中央へその少し上あたり。

 

そこにはまるで所有印か、あるいは家畜の烙印のように、黒々としたマジックでキョウヤのものと思われる独特の筆跡の「マーク」が、はっきりと描かれていた。

 

「……これ……」

「いいでしょう」

 

タウニーはそのマークを誇らしげに指でなぞりながら、うっとりと目を細めた。

「キョウヤが、あたしが『いい子』だったからって、昨日の夜、新しく描いてくれたの」

 

デウロはもう何も言えなかった。ただ目の前の現実離れした光景に圧倒されるだけだった。

 

タウニーは満足げに服を戻すと茫然としているデウロの耳元に、その熱い唇を寄せた。そして悪魔のように甘く囁きかける。

 

「……今晩も、扉。少しだけ開けといてあげるね」

 

「―――っ!」

デウロの背筋をぞくりとした悪寒と、それを遥かに上回る強烈な興奮が駆け上がった。

 

タウニーは返事も待たずにこりと笑うと、鼻歌でも歌い出しそうな軽い足取りでリネン室を出ていった。

 

一人残されたデウロは、その場に立ち尽くすことしかできなかった。顔が火を噴くように熱い。心臓がうるさくてたまらない。彼女はただ興奮で赤らんだ顔のままタウニーが去っていった扉を茫然と見送っていた。




思いついたので追加しました。3人目は追加してません。
デウロの脳が焼かれて◯癖がネジ曲がるけど、この後も覗きだけで満たされないと思うと、ほっこりします。
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