その「しつけ」、ポケモン用です   作:マウスブン

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IF チリ3 面接

休日で誰もいないポケモンリーグの面接室。いつもならチリちゃんがふんぞり返って座っている審査官席に『後輩』が座り、チリちゃんは小さくなった気分で受験者用の椅子に座らされていた。

 

「……なぁ、自分。休日に呼び出して、罰ゲームが面接て。地味すぎひんか?」

 

不満げに口を尖らせるけど内心はバクバクしていた。あの日「期待してて」なんて言われてから数日間、生きた心地がせんかった。何をされるんや。どこに連れて行かれるんや。まさか、いきなりホテルとか……なんて妄想が暴走して今日は勝負下着まで着けてきてもうたなんて、口が裂けても言えへん。

 

『まあまあ。座ってください。では、準備しますね』

 

自分は楽しそうにチリちゃんの指先に冷たいセンサーのようなものを装着していく。手首には脈拍を測るバンド。

 

「なんやこれ。……嘘発見器か? ベタやな、また」

 

『はい。今日はチリさんの深層心理を丸裸にする圧迫面接です』

 

ニッコリと笑う顔がうさんくさい。目の前のPC画面には、チリちゃんの心拍数やら発汗量やらが波形となって表示されとるらしい。

 

『ではテストも兼ねて第一問。──貴女の相棒ポケモンは、ドオーである。イエスかノーか』

 

「……は? 当たり前やろ。イエスや」

 

自信満々に答える。するとPCから無機質な合成音声が流れた。

 

『判定──真実(TRUE)』

 

「……ふん。懐かしいな、こういうの。ジムテストでも似たようなんあったけど子供騙しやろこんなん」

 

鼻で笑って見せる。四天王たるものポーカーフェイスはお手の物や。心拍数くらい、いくらでもコントロールできる。

 

『どうでしょうね。これ最新機種なんで精度はかなり良いですよ? メタグロス並みです』

 

自分はキーボードを叩きながら意味深に視線を送ってくる。そして、空気がふっと変わった。遊びの時間は終わり、と言わんばかりの声音で、第二問が投げかけられる。

 

『では、質問です』

 

じっと目を見つめられる。逃げ場のない、面接室独特の圧迫感。

 

『今日ここに来るまで……“俺に何をされるのか”と想像して、ドキドキしていましたか?』

 

「──ッ」

 

一瞬心臓が大きく跳ねた。図星も図星。大正解や。「罰ゲーム」という響きに、あんなことやこんなことを想像して昨日の夜もあまり眠れんかったし、今朝も鏡の前で服を選ぶのに1時間もかけた。ドキドキどころか期待と不安ではち切れそうやったわ!

 

(……せやけど、そんなん認められるか!)

 

ここで「イエス」なんて言ったら負けや。チリちゃんのプライドが許さへん。四天王の鉄壁の守り、見せたるわ。

 

チリちゃんはスッと表情を消しクールな瞳で自分を見返した。眉一つ動かさず、平然と言い放つ。

 

「──ノーや。別にただの遊びやと思てるし。ドキドキなんかしてへんわ」

 

完璧な演技や。声のトーンも一定。動揺なんて微塵も見せてへん。これなら機械も騙せるはず──

 

『ビビビッ! 判定──嘘(LIE)』

 

けたたましい警告音が静かな部屋に鳴り響いた。PCの画面には真っ赤な文字で『LIE』と表示され、心拍数のグラフが異常な数値を叩き出して暴れ回っている。

 

「ッ!?」

 

『おやおや、チリさん? 機械は正直ですねえ』

 

自分はニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべてPC画面を指差した。

 

『心拍数、爆上がりですよ? “ノー”と言った瞬間、発汗量も急増してます。……そんなにドキドキしてくれてたんですか?』

 

「ち、ちゃうわ! こ、壊れてんねんこの機械! 安モンやろこれ!」

 

顔が一気に熱くなる。バレた。機械のせいでチリちゃんの乙女心が丸裸にされた。狼狽えるチリちゃんを見て、後輩は「さて、次の質問に行きましょうか」と、さらに楽しそうに身を乗り出してきた。

 

この面接、チリちゃんにとっては公開処刑でしかない。

 

 

 

 

『嘘判定』の機械音が残響する中、自分はゆっくりと椅子から立ち上がった。コツ、コツと革靴の音が近づいてくる。チリちゃんは椅子に縛り付けられているわけでもないのに、蛇に睨まれたカエルみたいに身動きが取れへんかった。

 

「……な、なんや。まだ質問あるんか?」

 

虚勢を張って睨みつけるけど、目の前の男は余裕綽々や。自分はチリちゃんのすぐ横に立つと、スッと手を伸ばしてきた。触れられたのは耳。ピアスの冷たい感触と、指先の熱い感触が同時に襲ってくる。耳たぶを甘噛みするように揉まれ、耳の裏の敏感な筋をなぞられる。

 

「んッ……!?」

 

『質問です。──愛撫されて、気持ちいいですか?』

 

耳元で直接囁かれる声と指の感触。背筋にゾクゾクとした電流が走る。気持ちいいわけないやろ! と言いたいところやけど、実際身体の力は抜けかけとるし、吐息も漏れそうや。でも認めたら終わりや。

 

「……っ、の、ノーや! やめぇや、くすぐったいだけやし……! こんなん、子供扱いで……」

 

必死に首をすくめて否定する。けれど無慈悲な電子音は待ってくれへんかった。

 

『ビビビッ! 判定──嘘(LIE)』

 

PC画面の波形が、嘘をつくなとばかりに激しく乱高下している。

 

『あはは、また嘘ついた。耳、真っ赤ですよ?』

 

「うるさいわ……! 機械が壊れてるだけや言うとるやろ……!」

 

クスクスと笑う自分にチリちゃんは涙目で抗議する。恥ずかしさで死にそうや。心の中まで見透かされて、身体の反応まで実況されて。こんな屈辱四天王になって初めてや。

 

『じゃあ次の質問。……核心を突きましょうか』

 

自分は愛撫の手を止めず、さらにねっとりと耳の裏を這わせながら低い声で尋ねた。

 

『あの居酒屋の夜。……俺に撫で回されてから、俺のことを“男”として意識してしまっている。……イエスかノーか』

 

「──ッ!」

 

息が止まった。その質問はずるい。あの日以来、ふとした瞬間に自分の手を思い出したり、目が合うだけでドキドキしたり、今日の下着だって気合入れてきたり……。意識してないわけがない。せやけどそれを口にするのは、あまりにも……!

 

チリちゃんはギュッと唇を噛み締め、貝のように口を閉ざした。イエスともノーとも言わへん。沈黙や。黙秘権の行使や。PCの画面だけが上昇し続ける心拍数を正直に映し出している。

 

『……おや? 黙秘ですか?』

 

自分は残念そうに、でもどこか嬉しそうに呟く。そして耳を触っていた手が、するりと下がって──脇腹へと移動した。

 

『質問に答えないのは、いけませんねぇ……』

 

「……っ、ま、待ち……!」

 

『お仕置きです』

 

「ひゃあッ!?」

 

脇腹に指が食い込む。一番弱いところ。不意打ちのくすぐりにチリちゃんは椅子の上で跳ねた。

 

「あはっ、や、やめ、あひっ!? ちょ、そこ、弱っ、むりィ!」

 

「素直になるまで止めませんよー」

 

「わ、わろてまう! くすぐん、な! あーッ! 降参! 意識、してる! してるからァ!!」

 

無機質な面接室に、チリちゃんの悲鳴と笑い声、そして『判定──真実(TRUE)』のアナウンスが虚しく響き渡った。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……っ、鬼か、自分は……っ」

 

くすぐりの刑がようやく終わり、チリちゃんはデスクに突っ伏したまま、荒い息を繰り返していた。髪はぐしゃぐしゃ、目尻には涙が滲みシャツも乱れて鎖骨が覗いている。四天王としての威厳なんて、もう欠片も残ってへん。あるのはただ開発されかけた身体を持て余す、一人の女の姿だけや。

 

(……信じられへん。こんな子供みたいな扱いで……なんで身体が熱いねん……)

 

悔しい。やめてと言いながら、心のどこかで、もっと触れてほしいと願っていたことに気づいてしまっている。それが何よりも悔しくて恥ずかしい。

 

『……ふふ。すごい恰好ですよ、チリさん』

 

後輩は乱れたチリちゃんの髪を指先で優しく整えながら、甘い声で囁く。その手つきはさっきまでの激しさとは裏腹に驚くほど優しい。そのギャップに、また心臓がキュンと鳴る。

 

『では、質問です』

 

自分はチリちゃんの顔を覗き込み、逃がさないように視線を絡めた。

 

『俺にこうやって、身体を好き放題に弄ばれて……嬉しいですか?』

 

「──ッ!?」

 

カッと頭に血が上る。なんてこと聞くんや、このドS!嬉しいわけあるか。こんなんただの恥晒しや。チリちゃんはパルデア最強のリーグを守る面接官やぞ。

 

「う……嬉しいわけ、あるかい……! アホなこと言うな……屈辱や、こんなん……!」

 

震える声で精一杯の拒絶を口にする。せやけど──無慈悲な電子音は、即座に響き渡った。

 

『ビビビッ! 判定──嘘(LIE)』『解析結果:喜び(JOY)・興奮(EXCITEMENT)』

 

PCの画面に躍る文字を見て、チリちゃんは絶句した。

 

「な……っ」

 

『あーあ。嘘つきですねえ。「屈辱」なんて言いながら、数値は正直ですよ? 脳内麻薬、ドバドバ出てます』

 

「ち、ちゃう……壊れてる、絶対壊れてる……っ!」

 

『壊れてませんよ。……じゃあもう一つ質問』

 

自分はチリちゃんの顎を指ですくい上げ強引に上を向かせた。至近距離で見つめ合う。全てを見透かすような、その瞳。

 

『チリさんは、いつも飄々として本心を隠すのが上手ですよね』

 

「……っ」

 

『そんなチリさんが……俺にこうして、隠していた心を無理やり暴かれて。……今、気持ちいいですか?』

 

ゾクリ、と背筋を冷たいものが駆け上がった。それは恐怖であり、そしてどうしようもないほどの快感やった。心を暴かれる。誰にも見せへんかった、弱くて乙女でだらしない部分を、全部引きずり出される感覚。それはまるで服を脱がされるよりももっと恥ずかしくて──どうしようもなく、興奮した。

 

(あかん……許して……)

 

「……き、もち……いい、わけ……」

 

首を振る。でも言葉とは裏腹に、身体はガクガクと震え、瞳は潤み、期待するように濡れている。後輩にはもう全部バレとるんや。チリちゃんがこの状況にゾクゾクしてることも。暴かれたがってることも。

 

『判定──嘘(LIE)』

 

機械音が鳴り響く。それがトドメやった。

 

「……ぁ……ぅ……」

 

否定する言葉さえ、もう出てこない。ただ熱い息を吐いて自分を見つめることしかできひんかった。完敗や。身体も、心も、全部この男の手のひらの上。そう自覚した瞬間、チリちゃんの中で何かがプツリと切れて、トロトロに溶け出していくのが分かった。

 

 

 

 

嵐が過ぎ去ったような静寂が面接室に戻ってきた。PCの駆動音だけが、ブーンと低く鳴っている。

 

チリちゃんは椅子の上でぐったりと脱力していた。全身の力が抜けて、指一本動かすのも億劫や。そんなチリちゃんの乱れた髪を大きな手がゆっくりと、丁寧に撫で付けた。

 

「……っ」

 

ビクリと肩が反応するけど、さっきまでの意地悪な愛撫とは違う。まるで子供をあやすような、驚くほど優しい手つき。耳にかかった髪を指先ですくい耳の後ろへとかける。その温度が、火照った肌にじんわりと染みた。

 

(……なんやねん。急に優しくしよって……)

 

ムチの後のアメ。そんな古典的な手口に引っかかるほどチリちゃんはチョロくない──はずやのに。さっきまで散々弄ばれた悔しさよりも、今のこの優しい手のひらの感触に、胸の奥がキュンと締め付けられてしまうのが情けない。ずるいわ、自分。ほんまに。

 

『さて、チリさん。面接は以上です』

 

髪を整え終えた後輩が満足そうに言った。チリは気だるげに顔を上げ、恨めしそうな目で後輩を睨む。

 

「……で、どうやってん。チリちゃんの深層心理、丸裸にして……満足したか?」

 

『ええ、とても。……ですが、残念ながら結果をお伝えしなければなりません』

 

後輩はわざとらしく溜めを作ってから、無慈悲な一言を告げた。

 

『今回の面接結果は──不合格です』

 

「……は?」

 

思考が止まった。不合格? なんの?嘘発見器で嘘つきまくったからか? それとも、途中でヘタレて降参したからか?

 

「なんの不合格やねん! これ、ただの罰ゲームやろ!? 合否とかあるんかい!」

 

食ってかかるチリちゃんに、自分は涼しい顔で、とんでもないことを言い放った。

 

『“俺に告白する権利”、ですよ』

 

「──ッ!?」

 

時が止まった。口をぽかんと開けたままチリは凍りついた。告白する……権利?え、何? どういうこと?もし合格してたら、チリちゃんが自分に「好き」って言うのを許してくれたってことか?いや、待て。それってつまり──後輩がチリちゃんの気持ちに気づいてるってことやんか!

 

「な、ななな……何言うて……!」

 

顔がさっきの尋問の時以上に爆発しそうに熱くなる。全部バレてた。最初からチリが後輩に惚れてることを分かってて、その上でこんな回りくどい尋問をして、身体反応を楽しんで……!

 

(うわあぁぁぁッ! 性格悪ッ! ドS! 悪魔!)

 

パニックになるチリちゃんを置いて、後輩は踵を返した。部屋の出口で足を止め最後に振り返る。その顔は今日一番の、とびきり魅力的な笑顔やった。

 

『また“受験”したくなったら、いつでも言ってくださいね。……次はもっと素直になれるといいですね、先輩』

 

バタン、とドアが閉まる。後に残されたのは、真っ赤な顔で椅子にへたり込んだ四天王と、沈黙した嘘発見器だけ。

 

「……受験、したくなったら……て……」

 

反芻するだけで、顔から火が出そうや。あんなこと言われたら、また挑むしかないやないか。次は合格してやる。絶対に合格して、あの余裕たっぷりの顔を崩して、今度こそチリちゃんのものにしてやるんや。

 

「……覚えときや、自分……! 次は絶対、言わせたるからな……!」

 

誰もいない部屋で叫んだ誓いは、どこか甘い響きを帯びて消えていった。完敗や。悔しいけど、またあの男の「面接」を受ける日を、チリちゃんはもう待ち遠しく思ってしまっていた。




チリちゃん編終わりです
ちなみにウソ発見器は偽物で、後輩君がポケット内で隠してYes,Noを操作してます。(チリちゃん視点の話なので書いていません)
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