その「しつけ」、ポケモン用です   作:マウスブン

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タウニー4 借金3

あれからどれくらいの時間が経っただろうか。ミアレシティの復興は着実に進み、街はかつての輝きを取り戻しつつあった。そしてあの「教育」が始まってから、ついにその日が訪れた。

 

「……はい、10万。これで全部」

 

21時。私の部屋を訪れたタウニーはいつものようにベッドに腰掛けるなり、そう言って自分の端末を差し出してきた。画面には私への送金完了の通知が表示されている。

 

私は自分の端末で入金を確認した。10万。違いない。あの夜から始まった、毎晩の「教育」と、時折行われる過激な「実践指導」。その全てがこの入金によって契約上は終了したことになる。

 

「……ああ、確かに受け取った。これで完済だな、タウニー」

「ふん。まあね」

 

タウニーはどこか誇らしげに、しかし少し不満そうに鼻を鳴らした。借金から解放された安堵と、この習慣が終わることへの名残惜しさが入り混じったような複雑な表情だ。

 

私は端末をしまい、立ち上がる。

「ご苦労だった。これで今夜の『教育』は……」

「待って」

 

私が「終わりだ」と告げる前に、タウニーがそれを遮った。彼女は、まだ部屋から出ていこうとしない。

 

「借金は、これで終わりだけど」

タウニーはそう言うと、自分のトップスをわずかにまくり上げ、そのお腹を私に向けた。彼女の引き締まった腹部。その中央、へその少し上あたりに大きな四角い絆創膏が貼られている。

 

「こっちも、まだ終わってない」

 

タウニーは、その絆創膏を指でとんと叩き私を見上げた。その瞳は潤んでいる。

 

「……そうだったな」

私は小さく頷き彼女の前に膝をついた。昨夜の「教育」の仕上げ。私はその絆創膏の端に指をかけ、ゆっくりと躊躇なく剥がしていく。

 

タウニーが「ん……」と小さく息を呑む。絆創膏が剥がされ、その下にあった肌が露わになる。

 

そこには黒いマジックで、はっきりとした筆跡で。

 

『キョウヤ』

 

と、私の名前が書かれていた。

 

「……キョウヤが言った通り、これ、今日一日ずっとこのまま過ごした」

タウニーは、少し頬を赤らめながら命令を果たしたことを報告する。

「誰にも見られなかった?」

「当たり前でしょ!服で隠してたし……。」

 

私は彼女のその健気な努力に、小さく笑みを漏らした。

「そうか、よく言いつけを守れたね。偉いぞ、タウニー。」

 

私はそう言って彼女の頭を軽く撫でると、立ち上がり、デスクの上のウェットティッシュを数枚手に取った。再び彼女の前に膝をつき、その冷たいティッシュを私自身の名前が書かれた肌に当てる。

 

「ひゃっ……!」

 

タウニーの体が冷たさにビクッと跳ねた。

「じっとしてなさい。消すんだから」

 

私はマジックのインクを溶かすように、ウェットティッシュで彼女のお腹を優しくこすり始めた。冷たさ。そして肌を撫で回される、独特の摩擦。

 

「ん……っ、ふ……」

 

タウニーは唇をきつく結び、こみ上げてくる吐息を必死に抑えている。借金取り立ての口実だった、あの夜の愛撫とは違う。これはただ名前を消すための「作業」だ。だがウェットティッシュ越しに伝わる私の指の感触は、彼女の肌にあの夜の快感を鮮明に思い出させていた。

 

私は徐々に薄くなっていく自分の名前を眺めながら、淡々と尋ねた。

「私の名前を体に書かれたまま一日過ごして、どうだったんだ?」

 

「……!」

タウニーは、カッと目を見開いた。

「な……なんで、そんな事……っ!」

彼女が羞恥と反発で声を荒らげようとした、その瞬間。

 

ピシッ。

私は名前を消していた指とは逆の手の指で、彼女のお腹を軽くはじいた。まるで言うことを聞かないポケモンをたしなめるかのように。

 

「―――ぁっ!?」

 

タウニーの体が弓なりに跳ねた。鋭い快感がはじかれた一点から腹部全体に、そして体の芯へと突き抜ける。もう我慢は効かなかった。

 

「ひ……っ、ん……!」

「どうだったんだ、タウニー」

 

私は彼女が快感の余韻に喘ぐ中、もう一度冷ややかに尋ねた。タウニーは潤んだ瞳で私を睨む。だがその瞳にはもう反抗の色は残っていなかった。

彼女は、諦めたように、ぽつり、ぽつりと感想を述べ始めた。

 

「……ずっと、変な感じだった…お腹に……キョウヤの名前があるって思うと、そこだけ、ずっと熱いみたいで……。誰かに見られたらどうしようって……ドキドキしたし……」

 

私は相槌も打たず、黙って名前を消す作業を続ける。

 

「でも……」タウニーは、消え入りそうな声で続けた。

「……でも、なんていうか…キョウヤと……ずっと居るみたいで……。ちょっとだけ……」

 

「ちょっとだけ、どうしたんだ?」

 

「……安心、した」

 

その言葉を最後にタウニーは真っ赤な顔を俯かせた。私の名前はもう彼女のお腹から消えかけていたが、その感触はきっと今夜も彼女の肌に残り続けるのだろう。

 

 

 

 

 

ウェットティッシュはインクの色をすっかり吸い取っていた。タウニーのお腹には、もう私の名前の痕跡はどこにもない。ただこすられたせいで、その部分だけがほんのりと赤みを帯びている。

 

私は使い終わったティッシュを丸めて捨てると、まだ私の目の前で小さくなっているタウニーに向かって穏やかな声で言った。

 

「タウニー」

「……ん」

「借金はこれで終わりだ。だがもしまた何か困ったり、悩んだりしたら……一人で突っ走る前に私のところに来るんだよ」

 

それはあの「教育」の始まりに言ったことと同じだった。だが今やその言葉の重みは、二人にとってまったく違うものになっている。

 

タウニーは俯かせていた顔をゆっくりと上げた。その潤んだ瞳で私をじっと見つめ返す。そして小さくはっきりと頷いた。

 

「……わかった」

 

その素直な返事に私は満足して笑みを浮かべた。

「良い子だ」

 

私はそう言うと、まだウェットティッシュの水分でうっすらと濡れている彼女のお腹に、顔を近づけた。

タウニーが、私が次に何をするのか分からず、身を硬くする。

 

私はその赤くなった肌を乾かすため、

「―――ふぅ」

と、軽く息を吹きかけた。

 

「あ―――っ!」

生暖かく湿った空気が、敏感になった肌を撫でる。それは指で触れられるのとはまったく違う、ぞわぞわとした、背筋を駆け上がるような快感だった。タウニーの体はビクン!と大きく震え、今夜一番の喘ぎが漏れそうになるのを必死に両手で口を覆って耐えた。

 

私はその反応に満足したように立ち上がると、何事もなかったかのように彼女に告げる。

「もういいぞ。今夜は終わりだ」

 

「……っ」

タウニーはまだお腹の余韻に耐えながら、真っ赤な顔で私を睨み上げた。だがその視線にもう力は残っていない。

 

彼女はよろよろと立ち上がるとドアに向かう。そして部屋を出る直前小さな声で

 

「……お休み」

 

とだけ言うと、今度こそ自分の部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

バタン。自室のドアを背中で閉めタウニーはその場にずるずると座り込んだ。

 

「……はぁ、はぁ……」

 

ようやく一人。張り詰めていた緊張の糸が切れ、全身の力が抜けていく。

 

(終わった……)

 

借金。10万。ようやく、返し終えた。あの屈辱的で、けれどどこか甘美でもあった毎晩21時の「教育」。

 

(明日からは……もうキョウヤのところに行く必要、ないんだ)

 

そう。もうあの部屋に行かなくていい。契約は終わったのだ。ほっとした。心の底から安堵した。

 

タウニーは無意識に、自分の手で自分のお腹をそっと撫でた。さっきまでキョウヤの名前が書かれ、キョウヤの指に撫でられ、キョウヤの息を吹きかけられた場所。

 

「……終わっちゃった」

 

ぽつりと、自分でも驚くような寂しそうな声が漏れた。自分で自分の肌を撫でてみる。ほんの少しは、あの時の感覚を思い出してゾクッとする。

 

(……でも)

 

ダメだ。全然、違う。キョウヤに触られた時のように体の芯が熱くなるようなあの強烈な快感は、まったく訪れない。

 

「……!」

タウニーは自分が何を考えているのかに気づき、慌てて自分の頬をパンパンと叩いた。

 

「大丈夫、大丈夫!あたしはあたし!」

いつも通り。借金もない、クリーンなあたしだ。街の復興もまだ途中だしやることは山積みだ。

 

タウニーは無理やり自分にそう言い聞かせると、勢いよく立ち上がった。そしていつもの日常を取り戻すかのように、自分のパートナーたちのモンスターボールを手に取った。

 

「みんな、お待たせ!ご飯の時間だよ!」

 

いつも通りの明るい声。だがその手当てされたはずのお腹の奥には、消し去ることのできない「教育」の熱が、まだ確かに残っていることに、彼女は気づかないふりをした。




タウニーの借金編は終わり。次はマチエールです。タウニー編続きはその後。
先に申しますが3人目は無いと思います。作者の好みと差別化の問題です。

高評価ありがとうございます。ランキング10位台に乗っていてスカウターの故障を疑いました。
ここすきも付けてくれてありがとうございます。
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