プロセカ世界にログインできたけど、デイリーミッションが人間関係。 作:七瀬ぴの
夜風に押されるように、遊園地の出口へ向かう道を歩く。
街灯の下、さっきまでの劇場が少しずつ遠ざかっていく。
「……静かだね」
「さっきまでが嘘みたいだ」
観覧車の明かりが、ゆっくり回りながら空を照らしている。
類くんは隣を歩いているけど、
さっきの舞台より、今の方が距離が近い気がして――
無意識に、歩幅を少しだけ揃えてしまう。
「ねぇ」
「ん?」
「今日、楽しかった?」
「……うん」
即答だった。
「想定外だらけで、危険で、効率も悪かったけど」
「それ絶対褒めてないよね」
「でも」
類くんは、少しだけ視線を落として続ける。
「“楽しい”って、たぶんそういうものだと思う」
「完璧に計算されたものより、
誰かの反応でズレて、崩れて、
それでも笑ってしまう瞬間」
「……君がいると、そういう瞬間が増える」
心臓が、きゅっと音を立てた。
「それ……私、また変なことしてた?」
「いいや」
類くんは小さく首を振る。
「むしろ、ちょうどいい」
「ワンダショはね、
放っておくと“完成しすぎる”んだ」
「完成しすぎる?」
「うん。
舞台も、装置も、演出も」
「でも、君がいると“余白”が生まれる」
「予想できない声、表情、間」
「それがあるから、
みんな、ちゃんと“今”を見てる」
……そんなふうに言われたら、
胸の奥がじんわり熱くなる。
「それ、褒めすぎじゃない?」
「事実だよ」
「実験結果」
「また実験扱い!」
「ふふ」
笑う声が、夜に溶ける。
しばらく黙って歩いていると、
ふいに類くんが足を止めた。
「……あ」
「どうしたの?」
彼は遊園地の入り口を振り返る。
遠くで、スタッフが照明を落としているのが見えた。
ひとつ、またひとつ。
光が消えていく。
「今日のステージ、最後の光」
「……ちゃんと見送らないと」
そう言って、少しだけ真剣な顔になる。
「君にとって、今日ってどんな日だった?」
急な質問に、言葉を探す。
「……夢みたいで」
「でも、夢じゃなくて」
「ちゃんと疲れてて、声も枯れてて」
「それなのに、
“また明日も来たい”って思ってる」
「それは」
類くんが、静かに言った。
「もう、舞台の一部だね」
「……逃げられない?」
「逃がさない、とは言わない」
彼は少しだけ笑う。
「でも、
“戻りたくなる場所”にはなったかも」
胸が、またうるさくなる。
「……ねぇ、類くん」
「なに?」
「私さ」
「この世界に来てから、
ずっと“正解”探してた気がする」
「何すればいいか、
誰のそばにいればいいか」
「でも」
言葉を切って、深呼吸する。
「ワンダショにいると、
正解とかどうでもよくなる」
「笑ってるだけで、
許されてる気がする」
類くんは少し驚いたように目を瞬かせてから、
やさしく目を細めた。
「……それは、最高の環境だ」
「舞台としても、人としても」
「だから」
彼は一歩だけ近づいて、
声を落とす。
「無理に答えを出さなくていい」
「君が笑ってる間は、
ここにいていい」
その距離は、近い。
でも触れない。
触れないからこそ、
余計に意識してしまう距離。
「……ずるいなぁ」
「何が?」
「そういう言い方」
「期待しちゃうじゃん」
一瞬、類くんの目が揺れた。
でも、すぐにいつもの穏やかな表情に戻る。
「期待するのは、悪いことじゃない」
「ただ」
「僕は、君が“自分で選ぶ”のを見たいだけ」
その言葉に、変な安心感があった。
縛られない。
押されない。
でも、ちゃんと見てくれている。
「……ありがとう」
「こちらこそ」
「今日の“観察記録”、かなり良好だ」
「やっぱり実験扱い!」
二人で笑う。
夜風が、観覧車の音を運んでくる。
帰り道の途中、
ふと類くんが言った。
「また明日、来る?」
「……うん」
迷いなく答えていた。
【デイリーミッション達成:帰り道で、余韻を共有しよう】
(報酬:胸がちょっと苦しい)
その夜、布団に入っても、
ステージの光が瞼の裏に残っていた。
――付き合ってない。
――でも、確実に“始まってる”。
そんな予感だけが、
静かに、胸の中で鳴っていた。
舞台装置のネジを締めながら、ふと思う。
……静かだ。
いつもなら、
えむの声が反射して、
司の芝居が誇張されて、
寧々のため息が空気を揺らす時間帯。
なのに今日は、
少しだけ“余白”が残っている。
原因は明確だ。
彼女が、いない。
「……妙だな」
口に出してから、
自分で少しだけ笑ってしまった。
“いない”だけで、
環境音が変わる。
これは由々しき事態だ。
僕は本来、
人の不在にここまで影響を受けない。
舞台は代替可能だし、
演者も配置換えができる。
なのに。
彼女が来てから、
ワンダーランドは「再現不能」になった。
予想できないリアクション。
理屈より先に出る言葉。
照れも、戸惑いも、全部そのまま。
……ああ、なるほど。
これは“感情”だ。
実験対象が、
いつの間にか“観測者”になっている。
危険だ。
非常に。
「……ふむ」
ペンを回しながら、
無意識に思考が逸れる。
彼女が笑ったときの声。
真剣に話を聞く横顔。
照明に照らされたとき、
ほんの一瞬だけ言葉を失う表情。
――計測不能。
つまり、制御外。
「これは、恋と呼ばれる現象だろうか」
問いを立てるが、
即座に否定する。
違う。
少なくとも、まだ。
恋というのは、
相手の行動を縛りたくなる衝動だ。
でも僕は、
彼女がどこへ行くかを
“見たい”だけだ。
選ぶ瞬間を、
笑う理由を、
迷って立ち止まる姿を。
……それを近くで観測できればいい。
「……ずるいな、僕は」
踏み込まないくせに、
距離だけは保っている。
期待を煽る言葉も、
意味深な間も、
全部、無意識だというのだから。
彼女が言った。
――「期待しちゃうじゃん」
あれは、正しい反応だ。
僕の行動は、
期待を生むよう設計されている。
でも、回収はしない。
今は。
「……付き合わない、か」
その選択をしたのは、
彼女自身だ。
だから僕は、
それを尊重する。
尊重している間は、
まだ“舞台の外”にいられる。
ただし。
彼女がもし、
自分から踏み出したなら。
そのときは――
「全力で、受け止めるけどね」
独り言が、
静かなステージに溶けた。
その瞬間。
扉の向こうで、
聞き慣れた足音がする。
軽くて、少し急いでいる。
……やれやれ。
「戻ってきたか」
胸の奥が、
ほんのわずか、温度を上げた。
これはまだ、
“恋未満”。
でも。
舞台が始まる前の、
あの独特な高揚感に、
とてもよく似ている。
――観察記録、更新。
【対象:綾瀬陽菜】
【分類:未定義】
【備考:手放す気は、今のところない】
扉が開く音がした。
さて。
今日もまた、
予測不能な実験が始まる。
瑞希の部屋は、相変わらずだった。
「散らかってるけど座れるから大丈夫だよ〜」
大丈夫の基準がだいぶ怪しい。
床にはケーブル、ノート、タブレット、謎の色ペン。
だけど、不思議と“居心地が悪くない”。
陽菜はベッドの端に腰掛けながら、
机に向かう瑞希の背中を眺めていた。
「……今、作ってるの?」
「んー、途中。完成はしてない」
瑞希はそう言って、
ヘッドホンを片耳だけ外す。
画面には、
音の波形と、無数のトラック。
陽菜は息を潜めた。
(……あ、これ)
(“ニーゴ”の空気だ)
軽口を叩く瑞希とは別の、
夜に沈む瑞希の背中。
言葉が少なくなる時間。
「ね、陽菜」
「ん?」
「この曲さ。
誰かに“わかってほしい”って気持ちで作ってるんだけど」
瑞希は振り返らずに続ける。
「わかってもらえなくても、
“ここにいる”って証明にはなると思う?」
陽菜は一瞬、言葉に詰まった。
でも、考えすぎる前に口が動いた。
「なると思う」
即答だった。
「だってさ。
誰にも聞かれなくても、
作った時点で“存在した”じゃん」
「瑞希が、そこにいた証拠でしょ」
部屋が、静かになる。
数秒後。
「……やっぱさ」
瑞希がくるっと椅子を回した。
「陽菜、ニーゴ向いてるよ」
「え、やだ怖い。病む未来しか見えない」
「そういう意味じゃないってば」
瑞希は笑って、
でもその笑顔は少しだけ柔らかい。
そのとき。
――スマホが、同時に震えた。
瑞希の。
そして、陽菜の。
画面に表示された名前は同じ。
《奏》
「……来たか」
瑞希が小さく言う。
「え、奏って……あの?」
「あの、だよ」
通話を繋ぐ前に、瑞希が一言付け足す。
「陽菜、引かないでね」
「ニーゴはさ、
優しい場所じゃないから」
プツ、と音がして。
静かな声が、スピーカーから流れた。
『瑞希……その人、来てるの?』
「うん。陽菜。
前に話したでしょ」
一瞬の沈黙。
それから。
『……はじめまして。
宵崎奏です』
声は小さくて、
でも、音だけはまっすぐだった。
陽菜は、無意識に背筋を伸ばす。
「……綾瀬陽菜です」
『……よろしく、お願いします』
その奥で、
別の通知音。
《まふゆ》
《絵名》
瑞希がにやっとする。
「はい、そろいました〜」
「歓迎するよ。
25時、ナイトコードで。」
陽菜はその言葉を聞いた瞬間、
なぜか胸の奥が少しだけ、痛んだ。
(ああ)
(ここは、笑顔を置いてく場所だ)
でも。
だからこそ。
――踏み込んだ。
通話は、しばらく無言だった。
奏の生活音が、向こう側で小さく鳴る。
絵名が何か言いかけてやめた気配。
瑞希はあえて口を出さない。
そして。
『……綾瀬さん』
まふゆの声だった。
低くて、感情が測れない声。
「はい」
『どうして、ここにいるんですか?』
いきなり核心だった。
陽菜は一瞬だけ目を瞬かせる。
(あ、これ)
(オブラート包むタイプじゃない)
「瑞希の家に遊びに来ただけ、って言ったら?」
『それは理由じゃないですよね』
淡々と、でも逃がさない。
『25時、ナイトコードでは
“理由のない人”は、あまり来ないので』
空気が、少し冷える。
瑞希が口を挟もうとする前に、
陽菜の方が先に話した。
「理由、いる?」
『……必要です』
「じゃあ正直に言うね」
陽菜は、少しだけ息を吸った。
「居場所を見に来た」
『……』
「誰かの“しんどい”が、
どういう形をしてるのか、知りたかった」
一瞬、回線の向こうが静まり返る。
『……同情ですか?』
「違う」
即答だった。
「同情なら、来ない」
『……じゃあ、興味?』
「うん。たぶん」
瑞希が小さく吹き出した。
「陽菜、正直すぎ」
『……』
まふゆは、少しだけ間を置いてから続けた。
『あなたは、苦しくないんですか?』
「苦しいよ」
『……』
「でも、笑うのは嫌いじゃない」
「苦しいから笑わない、って選択は
私にはできなかった」
その言葉に、
まふゆの呼吸がほんの一拍、乱れた。
『……それは』
『それは、ずるいと思います』
「そうかもね」
陽菜は、少し困ったように笑う。
「でもさ」
「笑える人がいるから、
笑えない人が“悪者”にならずに済むんじゃない?」
沈黙。
長い、長い沈黙。
その間、
陽菜は何も言わなかった。
説得もしない。
理解したふりもしない。
ただ、待った。
『……』
『あなたは』
まふゆの声が、ほんの少しだけ揺れる。
『ここに、向いていないと思います』
「うん、知ってる」
即答。
「たぶん一番向いてない」
『……』
「でも」
「向いてない場所を、
“知っちゃいけない”理由もないでしょ」
また、沈黙。
今度は、少し短かった。
『……瑞希』
「なに?」
『この人』
『……嫌いじゃ、ないです』
瑞希が、ぱちっと指を鳴らす。
「はい出ました〜!
まふゆ的最大級の肯定!」
「え、今の肯定なの?」
『……これ以上は言いません』
ぷつ、と通話が一瞬不安定になる。
そのあと。
奏の小さな声が入った。
『……陽菜さん』
「はい」
『ありがとう』
理由は、言わなかった。
でも。
陽菜は、その一言で十分だった。
(ああ)
(ちゃんと、ここに触れたんだ)
夜はまだ、深い。
25時は、始まったばかりだった。
「……で?」
最初に口を開いたのは、絵名だった。
カメラ越し。
腕を組んで、じっと陽菜を見る。
「結局さ。
あんた、何しに来たわけ?」
(来た来た来た来た)
陽菜は内心で身構えた。
(ニーゴで一番“優しくない優しさ”の人)
「瑞希の家に遊びに来て」
「それさっき聞いた」
即切り。
「それ以外」
「……音を見に来た?」
「抽象的すぎ。却下」
「じゃあ人を」
「それも却下」
早い。
会話のテンポが速すぎる。
瑞希が横から入る。
「絵名、ちょっと厳しすぎじゃない?」
「厳しい?
私は“普通”だけど」
『……絵名』
まふゆが小さく言う。
「なに?」
『……言い方』
「はいはい」
ため息。
それから、絵名は陽菜をまっすぐ見た。
「ねえ」
「その目、なに?」
「……目?」
「そう」
「“わかりたい”目」
陽菜は一瞬、言葉を失った。
「その顔でここに来るの、
正直ムカつくんだけど」
「え、ひど」
「褒めてない」
間髪入れず。
「だってさ」
「普通、ここ来る人って
“もうどうでもいい”か
“どうしていいかわからない”かの二択なの」
「なのにあんた」
「ちゃんと立ってて、
ちゃんと自分の足で来てる」
陽菜は、ゆっくり瞬きをした。
「……それ、ダメ?」
「ダメじゃない」
「でも、楽じゃない」
絵名は、少しだけ目を細める。
「ここにいるとさ」
「“ちゃんとしてる人”の存在が
めちゃくちゃ刺さるの」
空気が、ぴんと張る。
陽菜は、少し考えてから言った。
「じゃあさ」
「ちゃんとしてないところ、見せよっか」
「は?」
「私さ」
「音ゲー下手だし、
授業サボるし、
推しの前だと脳死する」
瑞希が吹き出す。
「それ今言う!?」
「あと」
陽菜は続ける。
「“わかりたい”って思ってるけど」
「わかれるとは思ってない」
「無理でしょ」
「他人だし」
その瞬間。
絵名の眉が、ほんの少しだけ上がった。
「……」
「それでも」
「“ここにいる”って事実は、
変えないでいいと思ってる」
沈黙。
それから。
「……はあ」
絵名が大きく息を吐いた。
「ほんっと、ズルい」
「なにが?」
「逃げ道作ってないとこ」
「嫌いじゃないけど」
「疲れるタイプ」
「え、じゃあ嫌いではない?」
「……嫌いだったら
こんなに喋んない」
瑞希がドヤ顔で言う。
「はい、絵名的合格でました〜」
「合格じゃない」
「仮置き」
「様子見」
奏の小さな声が混ざる。
『……でも』
『陽菜さんが来て、
空気が少し動いた』
絵名は一瞬だけ黙ってから、
「……まあ」
「それは、否定しない」
そして、カメラ越しに指を差した。
「勘違いしないで」
「ここは、“優しくしてもらえる場所”じゃない。ただ居場所を共有し、理解する場所。お互いの苦しみを受け入れる場所。」
「壊れたままでもいいけど」
「直してもらえると思わないで」
陽菜は、にっと笑った。
「うん」
「直してもらう気、ないから」
「ただ、隣に立つだけ」
絵名は、少しだけ口角を上げた。
「……ほんと」
「変な子」
瑞希がぽつり。
「それ、最高評価ね」
25時。
夜は、少しだけ深くなった。
ワンダショのストーリーは主人公の人柄上多いんですが他に多めに書いてほしいっていうユニットってありますか?
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レオ二
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モモジャン
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ビビバス
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ニーゴ