桜の姫がターフを駆けた軌跡   作:夜刀神 闇

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レースは一旦お休みです!
感想ご指摘ありがとうございます!!
競馬好きなくせにあんまり分からんところが多すぎて調べまくりながら書いてます!!
だから感想のとこで教えてくれるのありがたいですm(_ _)m
マジ助かってます!!!


第11話 友達

 

 

2021年1月5日。

 

 

 

ホープフルステークスからしばらく経った時。

私は、放牧に出されることになった。

 

 

「ヒメ、しばらく休んでこい」

 

 

田中さんが、優しく声をかけてくれる。

 

 

「1ヶ月くらい、のんびりしてこい。皐月賞に向けて、体を休めるんだ。そこからはまた調教だからな。本格的に体を作っていかなきゃだから」

 

 

放牧。レースを走った馬が、心身を休めるための時間。

広い牧場で、自由に過ごす。人間で言えば、休暇のようなものか?

 

 

促されるまま馬運車に乗り込む。

 

向かう先は千葉県の、とある牧場なんだって。

美浦から1時間半くらいで着くって田中さんが言ってた。

 

まあどこでもいいけどゆっくりできたら良いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

……うとうとしていると、馬運車が止まる音が聞こえた。

 

馬運車を降りると……

 

 

広大な景色が、広がっていた。

緑の牧草地。

 

 

「さあ、行っておいで」

 

 

 

牧場のスタッフが、私を放牧地へ導いてくれる。

柵が開かれる。

 

 

 

そして……

 

 

 

私は、放牧地へ。

 

 

 

 

 

久しぶりの、自由。

 

柵の中だけど、広い。

トレセンの馬房とは、比べ物にならないくらい。

 

 

 

私は、軽く駆けてみた。

風が、気持ちいい。

草の匂いが、心地いい。

 

そうだ、こういう感覚……

 

忘れてた。

 

 

 

レースに集中しすぎて、こういう穏やかな時間を。

 

 

 

放牧地を走っていると……

 

 

 

遠くに、馬の姿が見えた。

何頭かの馬たちが、一緒に草を食んでいる。

私も、そちらへ向かってみた。ホープフル終わったあとにダノンザキッドに挨拶しようとしたらめちゃくちゃ威嚇されて悲しかったのよわたくし。あなた気持ちわかります?

 

そろりそろりと近づくと……

 

一頭の青鹿毛の牝馬が、顔を上げた。

その瞬間に、目が合った。

 

見覚えがある。というより……あぁ、会ったことある。

 

あの顔……

 

 

「(ユーバーレーベン!)」

『……サクラノ、ヒメ?』

 

 

少し戸惑ったようなユーバーレーベンの声が、しっかり声として聞こえた。

こうやって顔を合わせてしっかり会話したこと、無かったから。

特に牝馬(女の子)とはね。

 

私が近づいてきたのを見て、ユーバーレーベンもこちらに向かってくる。

鼻先を擦り合わせ、首筋を絡めて匂いを嗅ぎ合う。

 

ユーバーレーベンが、驚いたように耳を立てた。

 

 

『やっぱりサクラノヒメだ、どうして、ここに?』

「(少しの間休ませてもらえることになったんだよね。次、またレースに出ることになってさ)」

『そうなの?白い子は目立つから、あなたのことはよく覚えてる。あなたと同じ白い毛をした女の子もいたね』

 

 

そうだ、札幌2歳ステークス。

ユーバーレーベンも、ソダシも出走していた。私だけじゃなくて、他の子も必死に走っていたんだよな。

 

 

「(本当に久しぶりだよ、会えて嬉しいな。レーベンちゃん元気だった?またレースに出たって聞いたよ?)」

 

 

私も、嬉しくなって尋ねる。

しかし、ユーバーレーベンが……少し、表情を曇らせた。

 

 

『……元気は、元気よ』

 

 

 

 

 

私たちは、並んで草を食みながら、話した。

 

 

 

「(最後に走ってからどうしてたの?)」

 

 

私が聞くと、ユーバーレーベンが小さく鼻を鳴らした。

 

 

『……あなた以外の、白い毛をした女の子いたでしょ?あの子と一緒に2回走ったの。たしか……人間たちが言ってたのは、"アルテミスステークス"だったかな』

「(凄いね?)」

『でもね……』

 

 

ユーバーレーベンが、俯いた。

 

 

『負けちゃった。9番目だったの』

 

 

9着。

その言葉の重みが、伝わってきた。

 

 

『全然、ダメだった。背中に乗ってくれる人の言う通りにしていたのに、調子悪くて……ね。最後まで一生懸命走ってたのに。乗ってくれてた人も、慰めてくれたけど』

 

 

ユーバーレーベンの声が、少し震えている。

 

 

『悔しかったんだよ』

 

 

私は、何も言えなかった。

 

私は……

新馬戦、札幌2歳S、ホープフルS。

全部、勝った。

 

 

でも、ユーバーレーベンは……

札幌は3着。

アルテミスは9着。

そしておそらく、史実通りに阪神JFも出ているのだとしたら、3着。

 

 

同じように頑張っているのに。

同じように走っているのに。

結果は、違う。

おそらく、私が生まれていなかったら新馬戦を勝ち、あとに出たレースの着順も上がってたんだろう。

 

そして、今すぐにでも言ってあげたいけど。

……オークスで勝てるよって。でも、そんな言葉は、今はとてもじゃないけど言えなくて。

 

 

「(その、ごめんね……)」

 

 

私が謝ると、ユーバーレーベンが首を振った。

 

 

『謝らないで。私ね、走れるだけで嬉しいの。走って負けて悔しい思いをしたとしても、楽しいの…………それに、人間が言ってたけど、サクラノヒメって強いんだね。ずっと、勝ってるって聞いた』

 

 

ユーバーレーベンが、少し寂しそうに笑った。

 

 

『勝つって、どんな気分なんだろ……私には、遠い話だね』

「(そんなことない)」

 

 

私は、ユーバーレーベンに擦り寄り、首元の毛を軽く噛み毛繕いをしてあげる。

これは馬同士の大事なコミュニケーション。信頼してるよ、という感情を表した態度。

 

 

「(1回の失敗で全てが決まるわけじゃない。あの時だって、私は後ろから確かにレーベンちゃんの蹄の音を聞いた。ああダメだ追いつかれちゃうって思った)」

 

 

ユーバーレーベンが、少し顔を上げる。

私は、ユーバーレーベンを見つめた。

 

 

「(私だって、初めてレーベンちゃんと一緒に走った時、虫にびっくりして出遅れたんだよ。覚えてる?)」

 

 

ユーバーレーベンが、少し笑った。

 

 

『あの時、後ろ見たらさ、なんか白いのが取り残されてる……って思ったんだよね。ふふっ、でもこうして勝ってるじゃん?』

「(たまたまだよ?背中に乗ってくれる人……たけし、って言うんだけどね。その人が私をしっかりゴールまで連れて行ってくれた)」

 

 

私は、続ける。

 

 

「(調子が悪い日だって、ある。その1回で全部決めちゃうのは勿体ないよ。レースって水物だからさ……だから、私はレーベンちゃんには諦めちゃわないでほしいんだ)」

 

 

ユーバーレーベンが、私を見つめた。

その目には……

 

少しだけ、光が戻っていた。

 

 

『ありがとうね。少し、元気が出た。あと少し、もう少しだけ背中に乗ってくれる人の言うことを聞いて、練習も頑張って、いつか勝ってみせるよ』

 

 

私は、首を軽く振った。

 

 

「(うん、応援してるよ。だって友達だもんね)」

 

 

友達。

その言葉に、ユーバーレーベンが驚いたような顔をした。

 

 

『とも、だち』

「(うん、友達。一緒に走る、友達。ライバルだけど、友達だよ)」

 

 

ユーバーレーベンが嬉しそうに笑った。

 

 

『……そうだね、友達』

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日。

 

放牧地での生活は、穏やかだった。

朝、ゆっくり起きて。草を食べて。仲間たちと走って。昼寝をして。また草を食べて。

 

レースのことを、忘れられる時間。

 

ユーバーレーベンとは、毎日のように話した。

 

 

『ねえ、サクラノヒメ』

「(どうしたの?)」

『次はいつ走るの?』

 

 

ユーバーレーベンが、興味深そうに聞いてくる。

 

 

「(3ヶ月くらい先かな……皐月賞っていってね。牡馬(おとこ)しかいない環境なんだけど)」

『雄ばっかりって、こと……?』

 

 

ユーバーレーベンが、驚いた顔をする。

 

 

『……雄しかいないって、怖くないの?』

「(え?)」

『普通は、怖いよ。囲まれたら凄く怖い』

「……」

 

 

あぁ、そうか。普通は怖いものなんだ。

ユーバーレーベンは、普通の牝馬で、馬として普通の感性を持ってる。

……少し黙ったあと、私は、空を見上げた。

 

 

「(私の周りの人間たちは、私を牝馬しかいない環境で走らせるつもりはないみたいなんだ)」

 

 

ユーバーレーベンが、私を見つめる。

 

 

『そう、なんだ』

 

 

その目には……

尊敬と、でも少しの寂しさがあった。

ユーバーレーベンが、小さく笑う。

 

 

『もしかしたら、私たち……ここを出たら、もう会えないかもしれないね』

 

 

その言葉が、少し胸に刺さった。

 

そうだ。

私は牡馬クラシックに進む。ユーバーレーベンは牝馬クラシック。

そもそもの道が違っていたんだ。

 

……ユーバーレーベンは、さっきまでの暗さを打ち消すように明るく笑った。

 

 

『でもね、サクラノヒメ。私いつか、あなたと同じところで走れるくらい強くなってみせるよ。一生懸命頑張って、練習して、いつか勝ってみせる』

 

 

その言葉に、私もつられて笑った。

 

 

「(そうだね。いつかまた走ろう)」

 

 

ユーバーレーベンが、嬉しそうに鼻を鳴らした。

 

 

『うん、約束!』

 

 

 

 

 

 

 

2月に入ってしばらくして。

放牧期間が、いよいよ終わりを迎えていた。

 

 

「ヒメー、そろそろ帰るぞー」

 

 

牧場のスタッフが、呼びに来た。

美浦に、戻る時間。

 

私は、ユーバーレーベンに別れを告げた。

 

 

「(じゃあ、また今度ね)」

 

 

ユーバーレーベンが、寂しそうに笑う。

 

 

『頑張ってね、サクラノヒメ。応援してるから』

 

 

私は、ユーバーレーベンの鼻先に、自分の鼻を近づけた。馬の、別れの挨拶。

 

 

「(レーベンちゃんも頑張って。次のレース、勝てるといいね)」

 

 

ユーバーレーベンが、小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

……そして私は、スタッフに引かれるまま放牧地を後にした。

 

 

 

振り返るとユーバーレーベンが、まだこちらを見ていた。

私も、小さく首を振って応えた。

 

また会おうね、って。ユーバーレーベンもそう言っている気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬運車の中。

窓の外を、景色が流れていく。

放牧は、楽しかった。ユーバーレーベンと話せて、良かった。

 

のんびりとした時間。それも、大切だった。

 

でも……もう、休みは終わり。

 

これから……

皐月賞に向けて、本格的な調教が始まる。

 

牡馬クラシック。

 

桜の季節。

 

中山競馬場。

 

窓の外に、まだ冬の景色が広がっている。

 

でも……

 

もうすぐ、春が来る。

桜が咲く季節が。

 

サクラノヒメとして……

 

その季節に、走る。

 

体は、十分に休まった。

心も、リフレッシュした。

 

そして……

友達もできた。

ユーバーレーベン。

 

彼女も、頑張ってる。

 

だから、私も……

頑張らないと。

 

ユーバーレーベンが言ってくれた、その覚悟に応えるように。

 

美浦トレーニングセンターが、見えてきた。

 

……ただいま。

私は、戻ってきたんだ。

 

春の季節に、花咲かせるために。




ヒメちゃん初めてのお友達

左耳飾りのウマ娘が左耳飾りのウマ娘に擦り寄る未来が見える見える

ユーバーレーベンが千葉に放牧されてたという情報は見当たりませんでしたが物語の都合上そうしてます(メタ)

青嶋バクシンオーの実況好きすぎて繰り返し見ておる

あと本馬場入場の時の紹介でウオッカのやつ見て感動した
称えるべきは11年振り乙女の挑戦。酔いしれるは64年振りの夢!ってやつ……
ちょっと研究してます
ヒメちゃんも同じく牝馬で牡馬クラシック挑むことになるので

ヒメちゃんならたけしを仏連れて行けるって信じてる
勝ち負けは置いといてロマンがあるよねという話

凱旋門賞 前哨戦としてどこ行くか

  • ヴェルメイユ賞※牝限
  • フォワ賞
  • ニエル賞
  • ギヨームドルナノ賞
  • プランスドランジュ賞
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