桜の姫がターフを駆けた軌跡   作:夜刀神 闇

14 / 38
お気に入り数めちゃくちゃ伸びてて歓喜の投稿主
ありがとうございますぅぅ!!!
これからもヒメちゃん応援してあげてください!
あと感想もありがとうございます!励みになります!


第12話 歴史への挑戦

 

 

2月、放牧から戻って最初の調教が始まった。

 

 

「ヒメ、まずは軽めからだそうだ」

 

 

田中さんが、優しく声をかけてくれる。

今までは牡馬と同等に戦う為に強めの調教を繰り返しやっていたけど、放牧明けということで軽めの調教をやるらしい。

 

佐藤さんが騎乗して、コースへ向かう。

 

最初は、ゆっくりと。

常歩、速歩、そして軽い駆歩。

 

体が、少し重い。

放牧で、のんびりしすぎたかな。

 

でも……

悪くない。

筋肉は、しっかり残っている。

休んだ分、体が回復している。

 

蹄が地面を蹴る。

風が顔を撫でる。

 

ああ、やっぱり……

 

走るのが、好きだ。

この、風が通っていく瞬間。

自分がまるで風になったかのような感覚。

 

放牧も楽しかったけど、走る方がもっと楽しい。

 

 

 

 

 

それから数日。

 

 

調教メニューが、少しずつ変わっていった。

 

最初の一週間は、軽めのメニュー。

200mを15秒前後で、何本か。

 

体を、レースモードに戻していく。

二週目からは、少し強度が上がった。

 

坂路調教が、再開された。

 

 

「4ハロン、馬なりだ」

 

 

まだ全力じゃない。

でも、確実に負荷が上がっている。

 

息が、少し切れる。

心臓が、速く打つ。

 

でも……

体が、応えてくれる。

 

放牧で休んだ分、パワーが溜まっている。

 

 

「……52.9」

 

 

水野さんが、満足そうに頷く。

 

 

「いいぞ、順調だな。放牧明けでも感覚は掴んでる」

 

 

 

 

 

そして、調教も順調に進んでいたある時。

3月も半ばのことだった。

 

たけしが、水野厩舎を訪れた。

 

 

「ヒヒーン!(たけしー!久しぶりじゃん!)」ぺろぺろぺろぺろ

「うおっ、やめろってヒメ!あははは……」

 

 

私はたけしに会えたのが嬉しくて、思いっきり顔を舐めまくってしまった。

今まで何してたんだよぉまさか私以外のオンナに乗ったのか?おお?

……と、めんどくさい彼女ムーブをしてみる。言葉は通じないので意味はない。

 

 

「待ってたぞ武司君。ここまで無敗で来れたのは君のお陰なんだ。よろしく頼むよ」

 

 

 

 

調教コースに出る。

たけしが、私の背中に跨る。

 

久しぶりの、このたけしの重み。

何回か乗ってもらったことはあるけど、調教で乗ってもらうのは数える程かな。

重賞に出るようになってからかな、たけしが調教に参加するようになったの。

 

 

「久しぶりだな、ヒメ。調子、どうだ?」

 

 

私は、小さく鼻を鳴らした。

いいよ、完璧だよ。いつでも全力疾走オッケーよ!

 

 

「よし、じゃあ……行くぞ」

 

 

坂路へ向かう。

 

 

「4ハロン、一杯だ」

 

 

水野さんの指示。

全力疾走で坂を駆け上がる。

私の背中ではたけしが、手綱を操作している。

 

たけしの体重の掛け方が絶妙で、私の動きに、完璧に合わせてくれている。

 

息が合う。

一体感。

 

これが、相棒というものなんだ。

 

 

「いいぞ、ヒメ!その調子!」

 

 

たけしの声が、励ましてくれる。

もっと、速く。

坂を、一気に駆け上がる。

 

……そして、頂上に到達した。

 

 

「……52秒フラット」

 

 

水野さんの声が、響いた。

 

 

「完璧だな」

 

 

たけしが、私の首を撫でてくれた。

 

 

「凄いなあ、ヒメは。お前となら本当にどこまでも行ける気がする」

 

 

私は、鼻を鳴らした。

そうだね。まだまだ、行けるよ。

たけし、あなたとならどこまででも。

 

 

調教を終えて、馬房に戻る。

たけしが、水野さんと話している。

 

 

「師匠、ヒメ本当に強いですね」

「ああ。ホープフル勝ってから、さらに成長している。馬体が新馬戦の時より明らかに育っているし、同世代の牝馬どころか、牡馬と比べても馬体ががっしりしてきてんだ」

 

 

たけしが、私を見つめる。

 

 

「皐月賞……どうなるでしょうか」

 

 

水野さんが、少し考えてから答えた。

 

 

「……分からない。相手は、全国の強豪牡馬だし、ホープフルで1番人気だったダノンザキッドも出てくるだろう。それに、この間あった弥生賞……タイトルホルダーが、勝っている。他にも、強い馬がいるはずだ」

 

 

たけしが、真剣な顔になる。

 

 

「でもな」

 

 

水野さんが、私を見つめた。

 

 

「この馬なら、やれる。そう、信じている。武司君、きみが1番分かるはずだ…………君はこの馬の本当の力を知ってるんだから」

 

 

たけしが、その言葉に頷いた。

 

 

「俺も、信じてます。俺が、1番ヒメのことを理解(わか)ってる」

 

 

二人の声が……心に、響いた。

みんなが、私を信じてくれている。

 

 

なら……

その、想いに応えないと。

 

 

 

 

 

3月下旬のある日のこと。

 

助手の佐藤さん曰く今日は併せ馬があるんだとか。

 

 

「向こうの厩舎から、併せの依頼が来たんだ。皐月賞に向けて、お互いに刺激し合おうって」

 

 

タイトルホルダーと、また併せるらしい。

史実通り、弥生賞を勝って皐月賞に出るって。

そう、つまり私の実質的なライバルなわけで。

 

……でも、一緒に走る仲間でもあるわけで。

 

 

 

……美浦のコースに、2頭の馬が並んだ。

 

 

 

私と、タイトルホルダー。

鹿毛の馬体と白毛の馬体が横並び。

……ホープフルの時より、さらに逞しくなっている。

 

と思っていると、タイトルホルダーがこちらを見た。

 

 

『……君』

 

 

タイトルホルダーの声を初めて聞いた。

併せの時も返し馬の時も、何度話しかけようと一切返してくれなかったのに。

その声は、年相応の若い少年のような声をしていた。

 

私は自分から話しかけてくれたのが嬉しくて、少しテンションが上がって足踏みをしてしまった。

 

 

「(久しぶりだね、タイトルホルダー)」

 

 

彼が、小さく笑ってこちらを見た。

 

 

『……この前のレース、おめでとう。もう僕じゃ走りで君には追いつけっこないね』

 

 

私は、首を振って否定する。

 

 

「(そんなことはない。初めて美浦(ここ)で走った時から、あなたは凄いなって思ったし、私じゃ敵わないって思った)」

 

 

タイトルホルダーは、ホープフルで5着だった。

 

でも、その走りは……

力強かった。

 

 

「(もう1回勝負しようよ。)」

 

 

タイトルホルダーが私を見つめた後、前に向き直った。

まるで、覚悟を決めた時のような顔。

 

 

『……ああ、そうだね。今度は負けない』

 

 

私も、前を見つめた。

 

 

「(うん、今度も全力でね)」

 

 

「よし、行くぞ!」

 

 

 

調教師たちの声が、響いた。

 

スタートだ。

2頭が、並んで走り出す。

 

タイトルホルダーの蹄の音が、すぐ隣で響く。

……速い。彼も、速い。

お互いに、譲らない。

並んで、走る。

 

1ハロン、2ハロン、3ハロン……

 

ずっと、並走。

どちらも、引かない。

 

4ハロン地点。

ラストスパート。

タイトルホルダーが、少し前に出た。

 

でも……

私も、負けない。

もう一度、加速する。

 

並んだ。

そして……ゴール。

 

ほぼ、同時。

 

 

「……すごい」

 

 

水野調教師が、呟いた。

 

 

「両方とも、52秒フラットだ」

 

 

タイトルホルダーの調教師も、驚いている。

 

 

「これは……レベルが高い」

 

 

調教を終えて、2頭が並ぶ。

タイトルホルダーが、少し息を切らしながら言った。

 

 

『速いね、君。後ろから来る君のプレッシャーに押しつぶされそうだった』

「(私だってあなたに追いつこうと頑張ったしその結果だよ)」

 

 

彼が、僅かに笑った。

 

 

『今度は、負けない』

「(……うん、全力でね)」

 

 

私たちは、お互いに鼻を近づけた。

また……会おう。良い勝負をしよう。

お互いの名に恥じぬような、そんな走りをしよう。

彼のやはり年相応な少し恥ずかしそうな目を見ながら、私は笑って鼻を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

4月に入って、気温が、少しずつ上がってきた。

トレセンの桜の木は、もう満開になっていた。

 

 

「……綺麗だな」

 

 

田中さんが、空を見上げる。

 

 

「お前の季節だ、ヒメ」

 

 

サクラノヒメ。

桜の姫。

 

桜が咲く季節に……私は、走る。

 

皐月賞で。

 

 

 

 

調教も、佳境に入ってきた。

坂路のタイムは、好タイムを連発して皆を驚かせていた。

体調も、完璧。

食欲も旺盛。

脚元も、問題なし。

 

田中さんが、毎日丁寧にチェックしてくれている。

 

 

「完璧だな、サクラノヒメ。お前、最高の仕上がりだ」

 

 

水野調教師も、満足そうだ。

 

 

「あとは、本番を待つだけだ」

 

 

 

 

 

 

皐月賞も目前という時……

上位人気馬の調教師たちは取材に応えていた。

 

 

 

「水野調教師、サクラノヒメの調子は?」

「完璧です」

「牝馬で皐月賞、不安はありませんか?」

「不安はあります。でも、この馬なら……やれると信じています」

「ホープフル以上の走りを期待していいですか?」

「……期待してください」

 

 

水野調教師の言葉が……ネットで、話題になった。

 

 

Twitter

 

@keiba_fan_123

水野師匠のインタビュー見た

「期待してください」って

もう、期待しかない

#皐月賞 #サクラノヒメ

 

RT:12,345 いいね:45,678

 

 

 

@uma_love_45

サクラノヒメの調教動画見た

めっちゃ動きいい

これはいけんじゃね?

#皐月賞

 

RT:8,234 いいね:32,456

 

 

 

 

 

 

4月17日。

 

 

皐月賞の前日。

 

私は、馬房から空を眺め、明日の皐月賞を頭に思い描いていた。

 

いよいよ、明日……皐月賞。

牡馬クラシック、第一戦。

他に誰が出るんだっけ……と考えながら窓から顔を出す。

 

桜が、満開だった。

淡いピンクの花びらが、風に揺れている。

風に乗って、1枚の桜の花びらが私の顔の上に乗った。

 

綺麗だな、桜。

私の、名前の由来。

明日…

この桜の下で、走るんだ。

 

そんなことを考えていると、田中さんが馬房に来てくれた。

 

 

「ヒメ、明日が本番だ」

 

 

その声が、少し震えている。

 

 

「皐月賞……牡馬クラシックだ。相手は、全国の強豪だしホープフルで競ったダノンザキッドも、逃げが自慢のタイトルホルダーも出る」

 

 

田中さんが、私の顔を覗き込む。

 

 

「怖いか?」

 

 

私は、首を振った。

いいや、怖くないよ田中さん。

 

……むしろ、ワクワクしているんだ。

楽しみなんだ。

 

 

「……そうか」

 

 

田中さんが、笑った。

 

 

「お前らしいな」

 

 

彼が、私の首を撫でてくれた。

 

 

「頼むぞ、ヒメ。みんなが、お前を信じてる。俺も、師匠も、そして武司君も」

 

 

その言葉が……心に、響いた。

期待されている。

応援されている。

 

なら……私にやれることはただひとつしかないよね。

 

全力で走ってやる。

 

 

窓の外を、もう一度見る。

満開の、桜。

風が吹いて、花びらが舞う。

 

明日……

この桜の季節に……私は、走る。

 

サクラノヒメとして。

白毛の牝馬として。

 

牡馬クラシックに、挑むんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……4月18日。

皐月賞、当日。

 

 

私は、中山競馬場へ向かう馬運車の中にいた。

窓の外には、満開の桜。

春の陽気が、車内にも届いている。

 

……今日だ。

今日、私は皐月賞を走る。

牡馬クラシック、第一関門。

 

全国の強豪牡馬が集まる、高嶺の舞台。

 

()()()()()()()()レース。

 

胸が、高鳴る。

 

どんな走りができるのか。

どんな景色が見られるのか。

……先頭でゴール板を駆け抜け、無敗の皐月賞馬になった時、どんな気分なんだろうか。

 

 

 

 

 

 

……そうしているうちに馬運車が、中山競馬場に到着した。

 

 

厩舎エリアに入ると……

すでに、たくさんの馬運車が並んでいた。

 

ダノンザキッド。

タイトルホルダー。

そしてエフフォーリア。

そして、他の強豪たち。

 

みんな、ここに集まっている。

 

 

「ヒメ、降りるぞ」

 

 

田中さんが、馬房へと私を導く。

 

 

「今日が本番だ。お前の力、全部出し切ってくれ」

 

 

その声が、少し震えている。

田中さんも、緊張しているんだ。

田中さんだけじゃない。水野さんや佐藤さんやたけしだって緊張しているんだ。

そりゃそうだ、1頭だけ牝馬だし、この挑戦は牝馬である私が歴史に挑んだという記録になるのだもの。

 

私は、小さく鼻を鳴らした。

 

大丈夫。

任せて。

 

馬房に入ると、遠くから、馬の鳴き声が聞こえた。

他の出走馬たちも、気合が入っている。

 

ピリピリとした、空気。

同じGIでも、ホープフルで感じた時の空気と全然違う……

これが……クラシックなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着いてからは競馬場付きの厩舎で待機、そこから装鞍所の方で馬体検査。

 

馬体は、完璧な状態。

筋肉も、張りがある。

 

毛並みも、ツヤツヤだ。

田中さんが、何時間もかけてブラッシングしてくれた成果。

それに、たてがみもおしゃれに編み込んで貰ってる。

 

 

「……いい顔してるな、ヒメ」

 

 

水野調教師が、私を見つめる。

 

 

「お前なら、やれるよ」

 

 

その言葉が……力になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

午後2時すぎ。

 

未だにオッズが揺れ動いていた。

 

第81回 皐月賞(GI)

2021年4月18日(日)中山競馬場 芝2000m 3歳オープン

 

 

〜3枠6番サクラノヒメ 牝 3番人気 4.8倍

 

〜4枠7番エフフォーリア 牡 2番人気 3.7倍

 

〜4枠8番ダノンザキッド 牡 1番人気 3.3倍

 

〜7枠13番タイトルホルダー 牡 8番人気 17.0倍

 

 

 

 

 

ネットが、一斉に動いた。

 

Twitter

 

@keiba_fan_123

皐月賞オッズヤベ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

サクラノヒメ6番!まだ動いとる!

白毛の牝馬、ついにクラシック挑戦やあ!

#皐月賞

 

RT:25,678 いいね:98,234

 

 

 

@uma_love_45

ダノンザキッドvsサクラノヒメのリベンジマッチ

タイトルホルダーも!

これは熱い!!

#皐月賞

 

RT:18,456 いいね:76,543

 

 

 

@keiba_yosou

ワイの皐月賞予想

◎ダノンザキッド(ホープフルのリベンジ)

○タイトルホルダー(弥生賞勝ち)

▲サクラノヒメ(ホープフル勝ちだが牝馬であることがネック)

牝馬で勝てるか!?

#皐月賞

 

RT:15,234 いいね:65,432

 

 

 

 

 

2ちゃんねる競馬板

 

【GI】皐月賞 出馬表スレ Part.3

 

567 名無しさん@実況厳禁

サクラノヒメ6番か

 

568 名無しさん@実況厳禁

枠は悪くないな

 

569 名無しさん@実況厳禁

でもダノンザキッドが本命だろ

 

570 名無しさん@実況厳禁

ホープフルで負けてるからな

リベンジ狙ってるはず

 

571 名無しさん@実況厳禁

タイトルホルダーもサクラノヒメも弥生とホープフルで勝ってるのにこの人気は謎やけど、馬券的にはオイシイかもやで

 

572 名無しさん@実況厳禁

三強対決か?

 

573 名無しさん@実況厳禁

牝馬で勝ったら歴史的やぞ

 

574 名無しさん@実況厳禁

>573

1948年のヒデヒカリ以来だもんな

 

575 名無しさん@実況厳禁

でも厳しいだろ

皐月賞だぞ?

 

576 名無しさん@実況厳禁

それでも見たいわ

白毛の牝馬が牡馬クラシック制覇とか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後3時。

パドックへの準備が始まった。

 

 

「ヒメ、行くぞ」

 

 

田中さんが、手綱を引く。

 

私は、ゆっくりと馬房を出た。

 

通路を歩いていると……

遠くから、馬の気配を感じた。

 

ダノンザキッド。

タイトルホルダー。

みんな、同じようにパドックへ向かっている。

 

緊張感が、ひしひしと伝わってくる。

競馬場に来た時も感じていたけど……

これが……やっぱりクラシックの空気なんだ。

 

 

 

 

 

 

そして……

パドックへ移動して。

私が姿を見せた瞬間……

 

 

「うおおおおっ!!」

 

 

凄まじい歓声が、響いた。

1階も2階も満員だった。

物凄い人があふれている。

 

 

「サクラノヒメー!!」

「白毛ー!!」

「牝馬頑張れー!!」

 

 

たくさんの声が、私に向けられている。

私は、背筋を伸ばして歩いた。

白い毛並みが、春の陽射しを浴びて輝く。桜が、満開だ。

 

まるで……

 

私を、祝福しているみたいに。

 

 

「6番、サクラノヒメ」

 

 

アナウンスが響く。

私は、パドックを周回しながら……

他の馬たちを見た。

 

7番、エフフォーリア。

共同通信杯を制した馬。

……本来、たけしを乗せているはずだった馬。

 

8番、ダノンザキッド。

堂々とした歩き方。

本命馬の、風格。

 

13番、タイトルホルダー。

力強い筋肉。

弥生賞馬の、自慢の逃げ脚を自信に。

 

 

みんな、強い。あたりまえだ。

 

でも……

私も、負けていられない。

牝馬でも"やれる"っていうところを、見せなくちゃならない。

 

そうしていると、騎手たちが入場してきた。

たけしの姿が見える。

 

 

「ヒメ!」

 

 

本番前はやはり緊張しているんだな、少し震えている。

でも……

 

その目は、真剣だった。

 

 

「行こう。一緒に、クラシック勝ちに行こう」

 

 

たけしが、私の背中に跨る。

その重みが……心地よかった。

 

そうだね、勝ちに行こう。

無敗の皐月賞馬になってやる。

……だって、私たちは、最高のコンビなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パドックを後にして……

 

本馬場へ。

中山競馬場の、芝コース。

 

満員のスタンドから、歓声が降り注ぐ。

 

 

「うおおおおっ!!」

 

 

春の風が、吹いている。

桜の花びらが、舞っている。

 

……ああ、これが。

これが、クラシック、皐月賞なんだ。

 

 

「…………昨年のホープフルステークスを快勝し、果敢にクラシック挑戦で常識を覆します!サクラノヒメ、今日も絶好調のようです、横川武司と共に挑みます!」

 

 

アナウンスが響く。

私は、軽く芝を駆けた。

 

中山の芝。

ホープフルと、同じコース。

 

でも……

空気が、違う。

 

もっと重い。

もっと熱い。

すっっごいプレッシャーだ。

 

これが……

クラシックの、重みなんだ。

 

返し馬をしていると……

横に、ダノンザキッドが並んだ。

パッカパッカと音を立てて近づいてくる。

 

 

『おい、そこの白い雌』

 

 

その声が、聞こえた。

相変わらずお口の悪いことで。

 

 

『この間のリベンジ、させてもらうぞ』

 

 

私は、ダノンザキッドを見た。

 

 

「(……今回私の方が速かったらその呼び方直すって約束しなさいよ)」

 

 

頼むよお姉さん悲しいから。

するとダノンザキッドが、鼻を鳴らした。

 

 

『……フン。強気だな。だけど、今日は負けない』

 

 

そう言って、ダノンザキッドは前へ駆けていった。

 

もう一頭、私の横に並ぶ馬がいた。

タイトルホルダーだ。

やけにお兄さんぽい口調だけど体は私のほうが大きいんだからね私がお姉さんなんだからね〜〜〜?

……まあいいや。自分で言ってて悲しくなってくる。

 

 

『……君』

 

 

その声が、静かに響いた。

 

 

『今日は、君に負けない。全力でいくつもりだ』

 

 

私は、タイトルホルダーを見つめた。

……レースとなれば話は別。絶対に、絶対に勝つ。

 

 

「(うん、私も全力で走るよ)」

 

 

タイトルホルダーが、小さく笑った。

 

 

『……良い勝負をしようね』

 

 

そう言って、彼も前へ駆けていった。

 

 

……みんな、本気だ。

全力で、ぶつかってくる。

 

なら……

 

私も、全力で応えないと。

 

 

「まもなくファンファーレです」

 

 

アナウンスが響く。

スタンドの喧騒が、一瞬静まる。

 

 

そして……

 

クラシックのファンファーレが、鳴り響いた。

 

皐月賞の、旋律。

これから走る者たちへの激励。

その音が……

中山競馬場全体を、包み込む。

 

桜の花びらが、風に舞う。 

春の陽射しが、コースを照らす。

 

そして……

 

16頭の馬たちが、その音色に導かれるように……

ゲートへと向かい始めた。

 

 

 

「春の中山競馬場、第11レースは第81回皐月賞GⅠ ̄ ̄三歳クラシック第一冠。これから、16頭による“夢へのゲートイン”が始まります」

 

「例年通り、スタンド前はすごい熱気ですね。やや追い風になっていますね、まるで馬たちをゴールまで導くかのようです」

 

「皐月賞、戦前から話題を集めていますのは、やはり白毛の牝馬・サクラノヒメ。札幌2歳ステークス、ホープフルステークスと無敗の3連勝。いよいよ牡馬クラシックに挑戦です」

 

「牝馬で、しかも白毛でこの舞台に来るのは異例中の異例ですね。ですがこの馬、坂路の動きが本当に素晴らしい。最終追い切りのあの軽さは特筆ものですよ」

 

「それにね、返し馬の動きが抜群にいい。落ち着いていて、ストライドも大きい。牝馬とは思えない力強さがあるんですよ。しかもゲートもうまい。これはレースで大きな武器になります」

 

「そのサクラノヒメ、いまゆっくりとスタート地点へ。白い馬体が夕陽を反射しています。いやぁ、美しいですねぇ」

 

「デビューから騎乗してきた横川武司騎手がどう出るか、この純白の乙女をどう乗りこなすのか見ものですね」

 

「そうですねぇ。さぁ、各馬ゲートへと向かいます。まずは内から順に、アドマイヤハダルが入りました。続いて奇数番の馬たちが入ります…………そして偶数番の馬たち……6番のサクラノヒメもゆっくりと近づきます。」

 

「……おっ、見てください。まったく動じてない。あれだけ歓声が飛んでるのに、微動だにしない。度胸が違いますね。」

 

「白い馬体がすっとゲートの中……おぉっと、すんなり入りました!落ち着いています、サクラノヒメ!」

 

「これが、この馬の強みです。冷静さ。どんな場面でもブレない」

 

 

 

 

 

 

 

実況の声が、興奮を帯びている。

 

私は、ゆっくりとゲートへ向かった。

たけしが、鞍上から私を落ち着けるように首をポンポンと叩いてくれる。

 

心臓が、激しく打っている。

 

……でも。

大丈夫。

 

任せて。私、やるから。やってやるから。

 

 

大外枠の8枠16番のレッドベルオーブが入ったのを見て……

 

 

 

一瞬の静寂。

心臓が、相変わらず激しく打つ。

ああ、始まってしまう……クラシックが。

 

 

 

「……勝負の時。爽やかな風が、伸びたターフの1本1本の葉っぱを靡かせます」

 

 

「さあ、16頭ゲートイン完了。第81回皐月賞 ̄ ̄ ̄ ̄」

 

 

 

 

 

 

ガシャァァンッ!!

 

 

 

扉が、開いた。




相変わらずTwitterのRT数とかがえぐいことになってる気がするけどこんなもん?笑
あまりやらないから把握してないけどこれでいいよねそうだよね良いはずだ
あと馬達の口調がむずいけど描いてて楽しい笑
さてさて皐月賞どうなるでしょうか〜〜!

凱旋門賞 前哨戦としてどこ行くか

  • ヴェルメイユ賞※牝限
  • フォワ賞
  • ニエル賞
  • ギヨームドルナノ賞
  • プランスドランジュ賞
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。