桜の姫がターフを駆けた軌跡   作:夜刀神 闇

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激務な仕事が落ち着きました〜しぬかと思た……
ヒメちゃんの応援ありがとうございます^^


第14話 周りの期待

 

皐月賞から一夜明けた。

 

 

 

サクラノヒメは無事に美浦トレセンに帰厩し、完全休養に入っていた。

馬房で静かに休む白い馬体。

その横で、田中さんがいつものように様子を見守っていた。

 

「お疲れ様、ヒメ。ゆっくり休めよ」

 

優しく声をかけ、馬房を後にする。

事務所に戻ると、他のスタッフたちが集まっていた。

皐月賞の録画映像を見ながら、興奮気味に話している。

 

「いやー、何度見てもすごいわ」

「ヒメの直線の伸び、エグかったな」

「エフフォーリアを2馬身突き放すとか」

 

田中さんも、その輪に加わろうとした時……

佐藤さんが、苦笑いしながらスマホを見ていた。

 

 

 

「……相変わらずネットは荒れてんなぁ」

「え、何がですか?」

 

田中さんが聞くと、佐藤さんがスマホを見せてくれた。

2ちゃんねるの競馬板。

 

 

【GI】皐月賞後のサクラノヒメを語るスレ Part.2

 

 

234 名無しさん@実況厳禁

サクラノヒメ、ダービーどうなると思う?

 

 

235 名無しさん@実況厳禁

>>234

当たり前に勝つだろ

皐月勝ってるし

 

 

236 名無しさん@実況厳禁

いや、分からんぞ

エフフォーリアが本気出してなかっただけかもしれん

 

 

237 名無しさん@実況厳禁

>>236

は?

2馬身差で負けといて本気出してないは無理あるだろ

 

 

238 名無しさん@実況厳禁

>>237

いやでも牝馬だし?

ダービーは1番格式高いんやで

皐月とは違う。格が違うんよ

 

 

239 名無しさん@実況厳禁

>>238

皐月も充分格式高ぇだろ

何言ってんだお前

 

 

240 名無しさん@実況厳禁

正直、フロックだと思ってる

 

 

241 名無しさん@実況厳禁

>>240

フロック?

ホープフルも皐月も勝ってるのに?

 

 

242 名無しさん@実況厳禁

>>241

ホープフルはダノンザキッドが不調だっただけ

皐月賞は馬場が悪かっただけ

 

 

243 名無しさん@実況厳禁

>>242

言い訳乙w

 

 

244 名無しさん@実況厳禁

いや、でも牝馬で牡馬GI連勝は歴史上で見てもほぼおらんわけで

そう簡単には認められんわ

 

 

245 名無しさん@実況厳禁

>>244

だからこそロマンがあるんだろ

 

 

246 名無しさん@実況厳禁

ロマンで勝てるなら苦労しないわ

 

 

247 名無しさん@実況厳禁

所詮は牝馬だろ

ダービーでは通用しない

 

 

248 名無しさん@実況厳禁

>>247

皐月勝った馬に「所詮は牝馬」は草

 

 

249 名無しさん@実況厳禁

エフフォーリアが本調子じゃなかっただけ

ダービーでは逆転するに決まってる。

競馬にタラレバ持ち出したらあかんけど、100回やったら99回エフフォーリアが勝ってた

 

 

250 名無しさん@実況厳禁

>>249

本調子じゃないのに2着って

それはそれで問題だろ

 

 

251 名無しさん@実況厳禁

ダービーでリベンジするって言ってたし

次はどうなるか分からん。マークされたら終わりやで?

 

 

252 名無しさん@実況厳禁

牝馬で牡馬二冠なんて無理無理

夢見すぎ

 

 

253 名無しさん@実況厳禁

>>252

お前、レース見てないだろ?

 

 

254 名無しさん@実況厳禁

見たけど?

で、フロックだと思った

 

 

255 名無しさん@実況厳禁

>>254

どこがフロックなんだよ

説明しろよ

 

 

256 名無しさん@実況厳禁

>>255

馬場が悪かった

牡馬が本調子じゃなかった

以上

 

 

257 名無しさん@実況厳禁

>>256

苦しい言い訳で草。馬券でも外れたんか?wwwww

 

 

258 名無しさん@実況厳禁

サクラノヒメ信者必死すぎだろ

 

 

259 名無しさん@実況厳禁

>>258

アンチ必死すぎだろ

 

 

260 名無しさん@実況厳禁

ダービーで負けたら手のひら返す準備できてるわ

 

 

261 名無しさん@実況厳禁

>>260

勝ったらお前が土下座な

 

 

262 名無しさん@実況厳禁

牝馬路線行ってれば三冠取れたのに

勿体ないなー

 

 

263 名無しさん@実況厳禁

>>262

牡馬クラシック制覇の方が価値あんだろ

 

 

264 名無しさん@実況厳禁

価値とか知らん

牝馬は牝馬路線行けよ

牡馬の邪魔すんなよ

 

 

265 名無しさん@実況厳禁

>>264

お前の意見とか知らん

邪魔とかどの立場で言ってんの?

 

 

266 名無しさん@実況厳禁

正直、水野厩舎の宣伝だろこれ

 

 

267 名無しさん@実況厳禁

>>266

は?

 

 

268 名無しさん@実況厳禁

牝馬で牡馬クラシック挑戦とか

話題作りだろ

 

 

269 名無しさん@実況厳禁

>>268

話題作りで皐月勝てるかよ

 

 

270 名無しさん@実況厳禁

まぁダービーで化けの皮剥がれるやろ

 

 

271 名無しさん@実況厳禁

>>270

お前の願望だろ

 

 

272 名無しさん@実況厳禁

サクラノヒメアンチさん

必死すぎて草

 

 

273 名無しさん@実況厳禁

別にアンチじゃないけど

冷静に考えて牝馬で二冠は無理だろって話

 

 

274 名無しさん@実況厳禁

>>273

冷静に考えて皐月勝ってるんだが

 

 

275 名無しさん@実況厳禁

1回勝っただけで騒ぎすぎ

 

 

276 名無しさん@実況厳禁

>>275

ホープフルも勝ってるんだが?

 

 

277 名無しさん@実況厳禁

じゃあ2回か

2回勝っただけで二冠取れると思ってんの?それも無敗の?ここらへんで1回負けるやろ距離伸びるんやぞ

 

 

278 名無しさん@実況厳禁

>>277

じゃあ何回勝てば認めるんだよ

何mならいいんだよ

 

 

279 名無しさん@実況厳禁

ダービー勝ったら認めるよ

 

 

280 名無しさん@実況厳禁

>>279

じゃあ黙ってろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

田中さんは、スマホの画面を食い入るように見つめていた。

 

フロック。

本調子じゃなかった。

所詮は牝馬。

 

その言葉が、目に刺さる。

 

「……」

 

田中さんの表情が、だんだんと険しくなっていく。

拳を、握りしめた。

 

「……ふざけんなよ」

 

小さく、呟いた。

 

「フロック……?本調子じゃなかった……?」

 

声が、震えている。

 

「お前ら、ヒメがどれだけ頑張ってるか知ってんのかよ!」

 

佐藤さんが、田中さんの様子に気づいた。

 

「どうした?」

「……佐藤さん。見てくださいよ、これ」

 

田中さんが、スマホを差し出す。

佐藤さんが画面を見て、眉をひそめた。

 

「……やっぱりひでぇこと書いてんのな。ネットの奴らは勝手だわほんとに」

「ですよね!?ヒメがどれだけ……」

 

田中さんの声が、大きくなる。

 

「毎日毎日、朝早くから夜遅くまで世話して、調教して、ブラッシングして……!」

「分かるよ、田中」

「ヒメだって、必死に走ってるのに!なのに、フロックだとか、他が本調子じゃなかっただけとか……!」

 

田中さんの目が、潤んでいた。

 

「許せないっすよ……!」

 

その時、水野調教師が事務所に入ってきた。

 

「どうした、騒がしいな」

「師匠……!」

 

田中さんが、事情を説明する。

2chでの書き込み。

フロック論。

牝馬は牡馬に勝てないという意見。

水野調教師は、黙って聞いていた。

 

そして……

少し考えてから、口を開いた。

 

「……田中。お前の気持ちは分かる」

「師匠……」

「でもな、競馬ってのは結果が全てだ」

 

水野調教師が、窓の外を見つめる。

 

「サクラノヒメは、まだ4戦しかしていない。確かに全部勝ってはいる。札幌2歳S、ホープフル、皐月賞……全部な」

「はい……」

「でも、まだ疑う奴がいるのも……仕方ないんだ」

「そんな!」

 

田中さんが、悔しそうに唇を噛む。

 

「だからこそ、だ」

 

水野調教師が、田中さんを見た。

 

「ダービーで勝つ。それも、誰もが認める勝ち方でな」

「……!」

「そうすれば、誰も文句は言えないだろ?」

 

佐藤さんが、頷いた。

 

「そういうこった。ネットのアホみたいな論争見てる暇があったら、ヒメの世話でもしてこい…………あと」

 

水野調教師が、少し笑った。

 

「ネットの奴らなんて、どうせダービーでヒメが勝ったら手のひら返すんだ」

「……そうですね」

「だから、気にするな。お前がやるべきことは、ヒメを最高の状態でダービーに送り出すことだ」

 

田中さんが、深く息を吐いた。

 

「……分かりました」

 

スマホを、ポケットにしまう。

 

「ヒメのため、ですよね」

「そうだ」

 

水野調教師が、優しく笑った。

 

「その気持ちを、ヒメに向けてやれ」

 

田中さんが、頷いた。

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

田中さんは、帰る前の最後にもう一度サクラノヒメの馬房を訪れた。

中では、サクラノヒメが静かに休んでいた。

皐月賞の疲れを癒すように。

 

「……ヒメ」

 

田中さんが、優しく声をかける。

サクラノヒメが、耳を立てた。

 

「お前のこと、まぐれ勝ちだとか勝手なこと言ってる奴らがいるんだ」

 

その言葉に、サクラノヒメが小さく鼻を鳴らした。

ピコンピコンと耳が忙しなく動く。

まるで、その言葉の意味を理解してるかのように。

 

「でもな……俺は信じてるから」

 

田中さんが、サクラノヒメの首を撫でた。

 

「お前が、本物だって」

 

サクラノヒメが、田中さんの手に顔を寄せた。

 

「ダービー、頼むぞ。お前の力、見せてやれ」

 

サクラノヒメの目が…

まるで「任せて」と言っているようだった。

 

「……そうだよな。お前なら、やれる」

 

田中さんが、小さく笑った。

 

「じゃあ、ゆっくり休めよ。明日から、また調教が始まるからな」

 

田中さんが馬房を出ると……空を見上げた。

星が、綺麗に輝いている。

 

「……ダービー、か」

 

呟いて、深呼吸した。

 

「お前なら、勝てるよ。ヒメ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【競馬】サクラノヒメ、ダービー挑戦へ Part.1

 

 

 

456 名無しさん@実況厳禁

サクラノヒメ、ダービー出走確定

 

 

457 名無しさん@実況厳禁

>>456

マジか

 

 

458 名無しさん@実況厳禁

牝馬で二冠挑戦とか

 

 

459 名無しさん@実況厳禁

胸熱すぎる

 

 

460 名無しさん@実況厳禁

でもフロックだろ

 

 

461 名無しさん@実況厳禁

>>460

またお前か

 

 

462 名無しさん@実況厳禁

フロック認定厨湧きすぎだろ

 

 

463 名無しさん@実況厳禁

でも正直、ダービーは厳しいと思う

 

 

464 名無しさん@実況厳禁

>>463

なんで?

 

 

465 名無しさん@実況厳禁

 

距離伸びてスタミナ持たない。どうせ最後の坂にやられるやろ。府中の2400は純粋な実力勝負だし

 

 

466 名無しさん@実況厳禁

>>465

皐月もホープフルも坂あったんだが?

 

 

467 名無しさん@実況厳禁

エフフォーリアがリベンジしてくる

 

 

468 名無しさん@実況厳禁

タイトルホルダーもいる

 

 

469 名無しさん@実況厳禁

皐月にでてない牡馬もおるし

 

 

470 名無しさん@実況厳禁

それでもサクラノヒメ勝つと思うけどな

 

 

471 名無しさん@実況厳禁

>>470

根拠は?

 

 

472 名無しさん@実況厳禁

>>471

皐月勝ってるから

 

 

473 名無しさん@実況厳禁

>>472

それだけ?

 

 

474 名無しさん@実況厳禁

それだけで十分だろ

 

 

475 名無しさん@実況厳禁

ダービーで負けたら笑うわ

 

 

 

476 名無しさん@実況厳禁

>>475

勝ったらお前が土下座な

 

 

477 名無しさん@実況厳禁

別にいいけど

どうせ負けるし

 

 

478 名無しさん@実況厳禁

>>477

フラグ立てんなよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【競馬】牝馬で牡馬クラシック挑戦を語るスレ

 

 

123 名無しさん@実況厳禁

サクラノヒメ、牝馬で牡馬二冠狙うってよ

 

 

124 名無しさん@実況厳禁

無謀だろ

 

 

125 名無しさん@実況厳禁

>>124

皐月勝ってるのに?

 

 

126 名無しさん@実況厳禁

皐月はフロック

 

 

127 名無しさん@実況厳禁

>>126

またフロック認定厨かよ

どこにでも湧くんやな

ゴキブリかよ

 

 

128 名無しさん@実況厳禁

でも実際、牝馬で牡馬二冠って前例ないよな

 

 

129 名無しさん@実況厳禁

>>128

クリフジがいる

ウオッカもトキツカゼもブラウニーも

 

 

130 名無しさん@実況厳禁

 

>>129

ウオッカは桜花賞2着→ダービー

クリフジはダービー→オークス→菊花賞

トキツカゼは皐月賞→オークス

ブラウニーは桜花賞→菊花賞

皐月賞→ダービーでもし勝ったら史上初

 

 

131 名無しさん@実況厳禁

>>130

マジか

ていうかクリフジバケモンすぎて草

 

 

132 名無しさん@実況厳禁

だからこそロマンがある

 

 

133 名無しさん@実況厳禁

ロマンで勝てるなら苦労しねーんだよ

 

 

134 名無しさん@実況厳禁

牝馬は大人しく牝馬路線行っとけ

 

 

135 名無しさん@実況厳禁

>>134

お前の意見とか知らねーよ

馬券当たらんかった腹いせだろ

 

 

136 名無しさん@実況厳禁

正直、ダービーは無理だと思う

 

 

137 名無しさん@実況厳禁

>>136

お前ほんとしつこいぞ

 

 

138 名無しさん@実況厳禁

冷静に考えて無理

 

 

139 名無しさん@実況厳禁

>>138

冷静に考えて皐月勝ってる

 

 

140 名無しさん@実況厳禁

まぁ見てろって

ダービーで化けの皮が剥がれるから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌朝。

美浦トレセン。

サクラノヒメの調教が再開された。

 

「ヒメ、軽くだぞ」

 

田中さんが、手綱を引いて厩舎を出る。

外は、快晴。

気持ちのいい朝だった。

 

「昨日はごめんな、変なこと言って」

 

田中さんが、サクラノヒメに話しかける。

 

「でもな、お前のこと信じてるから。俺だけじゃない、師匠も、佐藤さんも、武司君も……みんな信じてる」

 

サクラノヒメが、小さく鼻を鳴らした。

 

「だから、ダービー……一緒に勝とうな」

 

その言葉に、サクラノヒメが首を振った。

まるで「当然でしょ」と言っているように。

田中さんが、笑った。

 

「……そうだよな。お前なら、絶対やれる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コースに出ると、他の馬たちも調教していた。

いつもの、美浦の朝。

 

でも……

今日は、少し違う。

サクラノヒメは、皐月賞馬。牝馬で73年ぶりにクラシックを制した馬。

そんな馬が、そこにいる。

そして……次は、ダービーに挑む馬。

 

「よし、軽く歩くぞ」

 

田中さんが、手綱を引く。

サクラノヒメが、ゆっくりと歩き出した。

 

 

その姿を、遠くから水野調教師が見つめていた。

 

「……順調だな」

 

隣にいた佐藤さんが、頷く。

 

「はい。皐月の疲れも、ほとんど残ってないっすね」

「よし。このままダービーまで、じっくり仕上げていく」

 

水野調教師が、遠くを見つめた。

 

「ダービー……牝馬で牡馬二冠。ほぼ前例のない偉業だな」

「……やっぱり不安、ですか?」

 

あれだけ言っていても、やはり不安なのかと。

佐藤さんが聞くと、水野調教師が笑った。

 

「不安?そんなものはない」

「……」

「あの馬なら、やれる。そう信じてる」

 

その目には……

確かな、確信があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私、サクラノヒメは今、完全休養期間を終えて軽めの調教を再開していた。

皐月賞から一週間。

体は、もうすっかり回復している。

 

むしろ……

もっと走りたい気分だ!

 

「ヒメ、焦るなよ。まだ軽めだけだからな」

 

田中さんが、私の首を撫でながら言う。

分かってるよぉ田中さん。

でも、体が勝手に前に行きたがるんだもん。

私は小さく鼻を鳴らして、不満を表明した。

 

「あはは、やる気満々だな」

 

田中さんが笑う。

そうだよ、やるき満々だよ。

だって次は、ダービーなんだから。

 

……日本ダービー。

東京優駿。

競馬の最高峰。

そこで勝てば……

牝馬で牡馬二冠。

史上初の快挙。

 

 

……もう、フロック勝ちだなんて失礼なことを言う輩はいなくなるだろう。

ワクワクが止まらない。

 

 

 

 

ちなみにその日の午後。

調教を終えて馬房に戻ると……

田中さんが、いつもと違う様子だった。

何だか、ソワソワしている。

 

「あー、えっと……ヒメ」

 

田中さんが、私の前にしゃがみ込んだ。

 

「実は今日、取材が来るんだ」

 

ほう、取材とな?

 

「皐月賞を勝ったから、テレビ局が密着取材したいって」

 

……テレビ、

私が、テレビに出るのかい?

いやん!毛並みは大丈夫?綺麗に映るかな?

 

「まぁ、お前が主役だから。俺たちはおまけみたいなもんだけど」

 

田中さんが、少し照れくさそうに笑った。

 

「カメラが来ても、いつも通りでいいからな。変に緊張しないで」

 

……緊張?私が?いや確かにテレビに出るって聞いて、おっと思ったけど。

レースで何人もの観客の前で走ってるのに、カメラごときで緊張するわけないじゃん。

むしろ、ちょっと楽しみだわぁよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後2時。

テレビ局のクルーが、美浦トレセンにやってきた。

カメラ、マイク、ディレクター……結構な人数だ。

いや競走馬1頭に対してそんな人数いるんかい!と思ったが黙っておく。

 

 

「こんにちは!今日はよろしくお願いします!」

 

若い女性ディレクターが、元気よく挨拶する。

 

「あ、はい……よろしくお願いします」

 

田中さんが、少し緊張した様子で応える。

あれ、どうしたのよ田中さんの方が緊張してるじゃん。

 

「では早速、サクラノヒメちゃんを撮影させていただいてもいいですか?」

「はい、どうぞ」

 

カメラが、私の方を向いた。

……よし。私は、背筋を伸ばして立った。

白い毛並みが、午後の光を浴びて輝く。

 

「わぁ……!綺麗……!」

 

女性ディレクターが、感嘆の声を上げた

 

「白毛、本当に真っ白なんですね!」

 

「はい。同期にソダシという白毛もいますが、この子は特に毛並みが自慢なんですよ」

 

田中さんが、誇らしげに言う。

 

「毎日ブラッシングしてるんですよ……あっ、そうそう。ここ、顔の横掻くとね……ホラ、喜ぶ」

 

ん、んふ〜そこダメ!自分で掻けないから気持ちいいのよなぁ!

もっと掻いて〜〜〜!

 

「おお、ほんとに喜んでる……」

「ええ」

 

田中さんが、私の首を撫でた。

……ありがとう、田中さん。

私は、田中さんの手に顔を寄せた。

 

「あ、今の!今の撮れました!?」

「はい、バッチリです!」

 

カメラマンが、親指を立てる。

 

「すごく仲良しなんですね」

「まぁ、毎日一緒にいますからね。でも主戦の武司君にもべったりなんですよ」

 

田中さんが、少し照れくさそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、インタビューが始まった。

 

「では、田中さん。サクラノヒメちゃんとの出会いについて教えてください」

「出会い……ですか」

 

田中さんが、少し考えてから答えた。

 

 

 

 

 

「この子が、うちの厩舎に来たのは……去年の春でした」

「第一印象は?」

「……正直、驚きました。白毛の馬なんて、初めて担当したので」

 

田中さんが、私を見つめる。

 

「でも、目……凄く芯があった」

「芯?」

「はい。『絶対に勝つ』って、そう言ってるような目でした」

 

……そうだね、田中さん。

私、最初からずっと思ってたもん。勝つって。

 

「それから、毎日世話をして……調教を見守って……」

 

田中さんの声が、少し震えた。

 

「この子が、どんどん強くなっていくのを見て……嬉しかったです」

「新馬戦、勝ちましたよね」

「はい。あの時は、もう……信じられなくて」

 

田中さんが、目を細めた。

 

「白毛の牝馬が、勝ったんです。しかも、出遅れをものともせずに」

「そして、札幌2歳Sも?」

「はい。あの時も圧巻でしたよ」

「ホープフルSでは……」

「……あれは、本当に凄かった」

 

田中さんが、深く息を吸った。

 

「2歳王者決定戦。牡馬の本命、ダノンザキッドを相手に……この子は、勝ったんです」

「その時、どう思いましたか?」

「……この子は、本物だって。そう、確信しました」

 

田中さんが、私を見つめた。

 

「そして、皐月賞」

「73年ぶりの、牝馬による制覇ですね?」

「はい……もう、言葉にならなかったです。ただ、泣いてました」

 

田中さんの目が、少し潤んでいた。

 

「この子と一緒に、クラシックタイトルを獲れたこと……一生、忘れません」

 

……田中さん。

私も、忘れないよ。

あなたが私をここまでお世話して見守ってくれたこと。

だから、私、ダービーも獲ってくるね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……インタビューの後、カメラは私の日常を撮影し始めた。

 

馬房での様子。

ブラッシングされている様子。

水を飲んでいる様子。

 

「サクラノヒメちゃん、カメラ慣れしてますね」

 

ディレクターが、驚いた様子で言う。

 

「普通、馬ってカメラを初めて見たら怖がるんですけど……この子、全然平気ですね」

 

「そうなんですよ。この子、人懐っこくて」

 

田中さんが、笑った。

 

「誰が来ても、フレンドリーなんです」

 

そうだよ。

私、人間大好きだもん。

前世でも人間だったし、人間の気持ちが分かるからね。

 

……薄れてく記憶はあるけど、馬の本能が勝る時もあるけど。

カメラマンが、私に近づいてきた。

 

「すごいなぁ……本当に綺麗だ」

 

その言葉に、私は少し得意げになった。

綺麗でしょ?さっきも言ったけど田中さんが毎日ブラッシングしてくれてるからね。

私は、カメラに向かって小さく鼻を鳴らした。

 

「あ、今の可愛い!」

「撮れました!」

 

スタッフたちが、盛り上がっている。

……ふふ。

なんか、楽しいかも。

 

 

 

 

 

その時、水野調教師が現れた。

 

「お疲れ様です。撮影、順調ですか?」

「はい!サクラノヒメちゃん、とても協力的で助かってます!」

 

ディレクターが、笑顔で答える。

 

「では、水野調教師にもインタビューをお願いできますか?」

「ええ、いいですよ」

 

カメラが、水野調教師に向けられた。

 

「水野調教師。サクラノヒメの強さの秘訣は、何だと思いますか?」

「……秘訣、ですか」

 

水野調教師が、少し考えてから答えた。

 

「この馬は……生まれ持った才能があります。スピード、スタミナ、気性……全てが一流です」

「それだけですか?」

「いいえ」

 

水野調教師が、私を見つめた。

 

「この馬には……『勝ちたい』という、強い意志がある」

「意志?」

「はい。普通の馬は、騎手の指示に従って走ります。でも、この馬は……自分から勝ちに行く気概があるんです」

 

水野調教師が、穏やかに笑った。

 

「まるで、人間のように」

 

……そうだよ、水野さん。

勝ちたいって気持ち、誰にも負けないよ。

 

「次は、ダービーですね」

「はい」

「牝馬で、皐月・ダービーの牡馬二冠……前例のない偉業へ向けて。不安は?」

「ありません」

 

水野調教師が、きっぱりと答えた。

 

「この馬なら、やれる。そう確信しています」

「その自信は、どこから?」

「……この馬を、信じているからです」

 

水野調教師が、私の目を見つめた。

 

「サクラノヒメは、特別な馬です。サクラノヒメなら、未だかつて辿り着いたことのないほどの高みへ、自分たちを連れていってくれると。走ってくれると、信じているんです」

 

……水野さん。

ありがとうね。その期待、絶対に裏切らないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

撮影が終わった後。

スタッフたちが帰り、厩舎に静けさが戻った。

 

「お疲れ様、ヒメ」

 

田中さんが、私の首を撫でてくれる。

 

「カメラ、平気だったか?」

 

私は、小さく鼻を鳴らした。

全然平気だよ。むしろ、楽しかった。

 

「そっか。良かった」

 

田中さんが、優しく笑った。

 

「明日からまた、調教が続くからな。しっかり休めよ」

 

そう言って、田中さんが馬房を出ようとした時……

私は、小さく嘶いた。

 

「ん?どうした?」

 

田中さんが、振り返る。

私は、田中さんの方に顔を向けた。

 

……ありがとう、って言いたかったんだ。

毎日、世話をしてくれて。

毎日、励ましてくれて。

あなたがいるから、私は走れるんだよ。

 

「……ヒメ」

 

田中さんが、もう一度近づいてきた。

 

「お前、何か言いたそうだな」

 

私は、田中さんの手に顔を寄せた。

 

「……分かった。お前も、頑張ろうって言ってるんだな」

 

田中さんが、私の額を撫でた。

 

「ああ、一緒に頑張ろう。ダービーまで、あと少しだ」

 

その温かさが……

心に、染みた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年5月初旬

 

 

 

ゴールデンウィークが明けて、調教が本格化してきた。

もう、軽めの調教じゃない。

しっかりとした、負荷のある調教。

 

「4ハロン、一杯で走れ!」

 

久しぶりの、このたけしの重み。

やっぱり、安心する。

 

「ヒメ、調子どうだ?」

 

私は、小さく鼻を鳴らした。

 

「ブルルッ(バッチリよ、たけし)」

「よし、じゃあ行くぞ」

 

傾斜のある、厳しいコース。

でも……嫌いじゃない。

自分の力を、試せるから。

 

「行け!」

 

たけしの合図。

全力で、坂を駆け上がる。

蹄が、地面を蹴る。

 

風が、顔を叩く。

息が切れる。

心臓が、激しく打つ。

 

でも……気持ちいい。

この、全力で走る感覚。

 

「いいぞ、ヒメ!その調子!」

 

たけしの声が、励ましてくれる。

坂を、一気に駆け上がる。

 

……そして、頂上に到達した。

 

「……52秒2」

 

水野さんの声が、響いた。

 

「……良いタイムだ」

 

たけしが、私の首を撫でてくれた。

 

「ヒメ、お前……本当にすげぇなぁ!」

 

当たり前だよ、たけし。

私、まだまだ成長途中だからね。

ダービーでは、もっと速く走れるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調教を終えて、馬房に戻る。

体は疲れているけど、心は満たされていた。

 

やっぱり、走るのが好きだ。

全力で走る、この感覚。

 

 

 

そして、その夜。

田中さんが、最後の見回りに来た。

 

「ヒメ、調子どうだ?」

 

私は、小さく鼻を鳴らした。

バッチリだよ。

 

「そっか。良かった」

 

田中さんが、私の首を撫でてくれる。

 

「あと3週間で、ダービーだ」

 

……もう、そんなに近いんだ。

 

「お前、プレッシャーとか感じてないか?」

 

私は、首を振った。

プレッシャー?

そんなのないよ。

ただ……走りたい。

勝ちたい。

それだけ。

 

「……そっか。お前は、強いな」

 

田中さんが、優しく笑った。

 

「俺なんか、ネットの書き込み見て怒っちゃったのに」

 

……ああ、あの時のね。

ほんとに失礼な奴らなんだから。

 

「でも、お前は違う。何も気にしてない」

 

当たり前だよ。

だって、結果で示せばいいんだから。

 

「……そうだよな。結果が全てだ」

 

田中さんが、深く息を吸った。

 

「ダービー、勝とうな。お前となら、絶対勝てる」

 

私は、田中さんの手に顔を寄せた。

……うん、勝つよ。

絶対に。

 

ダービー、近づいてきた。

もうすぐだ。

もうすぐ、あの舞台に立てる。

楽しみで楽しみで仕方がないよ。

 

窓の外を見ると、星が輝いていた。

前世で、テレビで見たレース。

競馬界最高峰の舞台。

まさか、自分が走ることになるなんて。

人生……いや、馬生って、面白い。

 

目を閉じる。

明日も、調教がある。

ダービーに向けて、準備を続けるんだ。

でも……

不安は、ない。

 

ただ……

走りたい。

勝ちたい。

 

その気持ちだけが……

私を、前に進ませる。

 

 

 




ネットの奴らは勝手なのでそういう空気を描いてみました。
実際にそういうことを言う奴はいますからね。今回は少し過剰な気がしますが……
あと周りの人達の優しさ。ヒメちゃんにはしっかり伝わってますね。よかた。

凱旋門賞 前哨戦としてどこ行くか

  • ヴェルメイユ賞※牝限
  • フォワ賞
  • ニエル賞
  • ギヨームドルナノ賞
  • プランスドランジュ賞
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