風紀委員会には妙な委員が一人いる。
彼女はネームドとして記憶されるような大層な人物ではない。
しかし風紀委員会のメンバーとしてみると、あまりに浮いている人物だ。
私はヒナ、風紀委員長。
これを書くのは……なんとなく。
ものすごく短い休みを手に入れたのだけれど、何かをするには短すぎる。
だから愚痴……と言っていいかわからないけど、口では言えない言いたいことを殴り書きすることにした。
彼女は今年入ってきたばかりの1年生。
ゲヘナの生徒総数がキヴォトスきってのマンモス級なのは殊更言わなくてもいいことだとは思う。
だから当然風紀委員の所属人数も多いわけで……当然、ここに来るのは世紀末模様のゲヘナに治安をもたらしたいと願い集う有志たちだけ。
彼女も言わずもがなその一人……と言いたいのだけれど、そうではないみたい。
彼女はものすごく大人びている。
考え方、物事の段取りの仕方、仕事の速さ、勉学と仕事と私生活のワークライフバランスetc……
おそらく先生のそれを上回る振る舞いは、私の中で彼女を一人の大人と認識してしまっている。
年齢は私よりも下だというのに、気遣いすらもできるのは驚嘆に値することだと思う。
アコに「命の母」を渡した時は笑いを堪えるのに必死になったのは記憶に新しい。
そんな彼女だが、これだけ語れば「むしろ親しまれるべきなのでは?」と思うでしょう。
でもそうならないのは、彼女の仕事への向き合い方だと思う。
先生は「組織で膨大な仕事を抱える時は、ひとりひとりではなく全員で対処するべし」と言っていた。
風紀委員の仕事は多岐に渡り、さらに多岐に渡るほど多い。
ゆえに、一人一人の仕事量は馬鹿にならない。
でも彼女は、さっき言った通り「仕事が速い」のだ。
それも「とてつもなく」。
彼女は帰りのチャイムが鳴るまでに必ず仕事を終わる。
そして、ひとり帰ってしまうのだ。
もう一つあった。
私たち風紀委員はその多忙さ故に昼休みに休めることは少ない。
お昼抜きで動き続けることなどザラ。
でも彼女はまたもや違う。
彼女は昼のチャイムがなった瞬間に席を立ち、財布をポケットに突っ込み、ひとりどこかへ行ってしまうのだ。
どんなに、どれだけ多忙であっても、必ずだ。
何をしているかは知らないが、必ず午後の始業のチャイムには戻って来る。
昼食をどこかで摂っているのだろうと委員たちは語っているが、SNS一つやっていない彼女の情報を得るには、私たちは時間が足りない。
彼女は何をしているのか、何を考えて行動しているのか、イマイチわからないのが浮いている理由だろう。
加えて大人びた雰囲気は他との壁にも捉えられてしまい……さらに敬遠されるのだろうと、予想に難くない。
こんな彼女だが、頼りになる委員には間違いない。
書類仕事の処理スピードは爆速で、更に勉強は常にトップクラス。
戦闘面は一人で美食研究会と拮抗できるほど強い上に、部外者や被害者への対応も完璧にこなす。
他学園との交流網も多く持ち、万魔殿から引き抜きたいと声が上がるほど多くの人脈やパイプを持っている。
こんなデキ後輩だというのに私たち上級生へ生意気な口をきくことは一つもなく、アコの作るコーヒーよりも格段に美味しいコーヒーを作れる。
浮いてることを除けば、あまりに理想的で頼りになる部下なのだ。
ゆえに私は、彼女を調査することに決めた。
彼女が一体何をしているのか……何を考えて行動しているかを。
万魔殿に取られてたまるものか……というのも、本音だが。
今後、私は席を外すことが多くなると思うけどよろしく頼むわ。
「……え、あの時委員長笑い堪えてたんですか!?」
「まぁ……明らかに肩震えてたし。ね、チナツ」
「そうですね。というかアコ行政官、気が付かなかったのですか……?」
「怒り心頭で周囲が見えてなかったです……」
「アコちゃんいつもじゃんそれ」
「なにか言いましたかイオリ!」
「渡されたんでしょ、命の母。ちゃんと飲んでる?」
「私はまだ更年期とは縁が無いです!!!」
「それはただの短気では……」
「チナツ、シーッ」
「聞こえています!!!」
つづくかな?