風紀委員モブの昼休み   作:ふゆうさぎ

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誤字報告ありがとうございます。
テンポよく進めるためにクソ真面目なお話。
ごめんね?


ブラックマーケット

 我、モブである。

 今日は伝説と言われるご飯を食べにブラックマーケットに来ております。

 その伝説と呼ばれるのは唐揚げ。

 噂によると山海経の玄武商会に所属していた生徒がレシピを持って学園から脱走し、それをご飯と食べることで最強の協奏曲を奏でる料理へと昇華させた至高の料理らしい。

 所詮ただの言伝による噂話だし誇大表現じゃないかと思ったけど、自らの目で、舌でそれを確認しない限り否定することはできない。

 

 こと食事に関しては特にそう。

 今どきの人たちは食事する場所を選ぶのに必ず「口コミ」を見るらしい。

 私はそういうのを見ずに気になった場所にはとにかく入ってみるというスタンスを取っているため、外れを引くことももちろんあるけど美味しいお店に当たったときは嬉しい物だ。

 そういうお店探しという楽しさを、現代人は忘れてしまっているのではないだろうか? 

 評価の悪いお店は店員の態度で悪いだけで味はとても美味しいかもしれないし、逆に評価いいお店はその逆然りかもしれない。

 であれば、その味を自らの舌で感じることではじめて「お店の味」を評価できるようになると私は思っている。

 ゆえに、私は今日ここに赴いた。

 

 ブラックマーケットにおいてそれだけの噂になる味、ぜひ味わわせてもらおうじゃないか! 

 

 あ、もちろん別の用事もあるけど。

 

 

 


 

 

 

「いました! イオリ、行政官、彼女はあそこです!」

「イオリ、カメラは持ってますね?」

「勿論だけど……いいの? 私達仕事投げて来てるんだよ?」

「チナツ、後で手伝ってくれますね?」

「え、嫌ですけど……」

「アコちゃん! 話違うじゃん!!!」

「え、ええい! 私が手伝いますから今は彼女を……あれ!?」

「いない? まさか……巻かれた!? どうしますか行政官!」

「う、うぅ~! 探しますよ!」

「どうせこうなると思ったよ! アコちゃん、チナツ、行くよ!」

「はい! 行政官、サポートお願いします!」

 

 

 


 

 

 

「ここが……伝説の唐揚げ屋さん」

 

 

 お店の前に辿り着いた。

 この前の「メーテル次郎」よりも外装が綺麗だし、窓から見える内装も清潔感のあるものだ。とても唐揚げ屋さんには見えない綺麗さだ。

 

 

「おじゃましまーす」

 

 

 チリンチリンと鈴の付く扉を開けて中に入ると、今日の用事がそこで待っていた。

 

 

「ん、よぉ」

「お疲れ、ラブちゃん」

 

 

 今日の二つ目の用事、ラブちゃんと会う事。

 彼女はトリニティの生徒……だった子だ。要は中退した生徒で、今はジャブジャブヘルメット団のリーダーを務めている子。

 ラブちゃんはヘルメット団に所属しているからあまり良い印象はないかもしれないが、根はとってもいい子。

 姉御肌で面倒見が良くて部下からも慕われている。その上、仕事の依頼をしても失敗はあまりしないし、便利屋とは違って人員を要する仕事も笑顔で請け負ってくれるから依頼する側としても頼もしい限りなのだ。

 そんなラブちゃんを呼び出したのは、ある情報が欲しかったから。

 

 

「仕事の話の前にさ、頼まない?」

「いいねラブちゃん。何食べる?」

「うちは勿論唐揚げ定食! ここ来てそれ以外頼む人いないでしょ」

「ねー。私も唐揚げ定食にしよっ。ドリンクバーどうする?」

「払うのあんただし、いいなら頼むわ」

「いいよ。じゃあ同じメニュー二つね。店員さんお願いします~」

 

 

 注文を終えてドリンクを用意して、私は話を切り出した。

 

 

「それで、この前の依頼だけど」

「もちろん。ちゃんとした書類じゃなくてメモ用紙だけど」

「十分。見させてもらうね」

 

 

 ラブちゃんからメモ帳を貰ってそのページを見ると、そこには依頼していたことの調査内容がちゃんと記されている。

 ラブちゃん文字綺麗だね……きっと婚姻届けとかそういうのを書いてる時とかに旦那さんに「ラブ、字も綺麗だね」って遠回しにラブちゃん自身も綺麗だねって言われてるのに本人はそれに気づかないまま「でっしょぉー」ってニッコニコの笑顔で返すんだ。

 ラブちゃんに旦那できるとか絶対に許さんのだが? 私が絶対に許さんのだが? 私がだーんな? 違う? そう……

 

 依頼していたのは「エデン条約当日の正実の護衛配置」について。

 ラブちゃんたちヘルメット団はキヴォトスのどこにでもいる関係上、トリニティにいたとしても何も言われることは無い。

 それを逆手に取った依頼だったが、どうやら大成功みたい。

 正実は案外そのあたりの情報管理についてルーズなのかもしれない。

 

 

「ふぅーん……うーん。こんな感じか」

「一応調べられるだけ調べたけど、途中から怪しい目で見られちゃって。そこに書いてあるのが全部じゃないかもしれない」

「ううん、これだけあれば十分だよラブちゃん。よく集めてくれたね」

「報酬がたんまりもらえるって、あんた言ってたでしょ? だから部下たちも張り切ってくれてさ」

「やっぱラブちゃんに頼んで正解だったよ。ありがとね」

「いいってば。それよりいいの? あんた風紀委員でしょ?」

 

 

 痛い所を突くじゃんねラブちゃん……ま、否定はしない。

 ここまで裏の世界に精通する人たちとの人脈を築き上げるのには相当苦労したものだ。

 なんせ相手は風紀委員や一般市民からしてもテロリストや問題児ばかり。

 普通に風紀委員として接触すれば最悪返り討ちにされてしまうところだが、それは前世も含めた年の功でなんとかした。

 死ぬほど仕事ばかりしていた甲斐があったというものよね。

 

 

「良くはないかな。ブラックマーケットに入るのだって、あんま良くないし」

「うちは外でも活動できるし、別にここじゃなくても良かったんじゃない?」

「ここが良かったの。だって、お昼休みだよ?」

「……そうね、あんたグルメだもんね」

「えへへ。ラブちゃんとまたご飯食べれて嬉しいし」

「この前行ったばっかじゃない……ま、うちも悪い気はしないし」

 

 

 ギザ歯で笑顔を私に向けてくれるラブちゃん……うーんどうやったらこんな可愛くていい子がトリニティを辞めなければならなかったのだろうか。

 やっぱトリニティってろくでもねーですわ。トリニティをゲヘナパワーで支配する計画でも立てる? あ、ミカちゃんがいるから無理か……あの人アホみたいに強いし。

 

 今回の依頼はほぼ確認作業みたいなもの。

 このエデン条約はトリニティとゲヘナ双方が対等な関係で邂逅を果たしましょうという約束事を交わしている性質上、護衛の数や配置は対になるようにされる可能性が高いと考えていた。

 この前サツキちゃんにゲヘナ側の護衛配置を聞いたのはそれが理由。

 今回ラブちゃんが手に入れて来てくれた情報と照らし合わせてみれば、見事に対になるような配置となっていた。

 

 場所は通功の古聖堂というトリニティの敷地内にある場所。

 調べてみたら廃墟化が進んでいたが、今回のエデン条約に際して使用場所のみ修繕が行われることになったそう。

 廃墟になったままの場所が多いということは、それだけ伏兵が多くなる可能性があるということ。

 もしその廃墟を取り崩すことが出来れば、これから起きる被害の少しは減らせるだろうが……私にそんな権限は無いし、力も無い。

 

 

「オマタセシマシター」

「お、来た来たぁ! うっわぁ、美味しそうじゃん!」

「だねラブちゃん! ね、写真撮ろうよ!」

「え、もう食べ始めちゃった!」

「もーラブちゃん! そんなところも可愛いのしゅき!」

「えぇ……あんたちょっとキモイよ」

「ラブちゃん!?」

 

 

 このブルアカというお話は、結末が決まっている。

 エデン条約調印式当日。この古聖堂はアリウスの攻撃によって神聖な場所から地獄へと姿を変える。

 カタコンベという地獄の窯の蓋が開き、無数の兵士が憎しみを抱えて全てを破壊せんと突撃してくるだろう。

 私にはそれを直接止める術はない。

 

 だから私は、動くのだ。

 

 私というオーディエンスがこのエデン条約編という演劇を見ているだけでは見えない設定を、その裏の裏の裏まで全部。

 この先の物語を知っていて、ハッピーエンドに向かうためにも。

 私は誰よりも情報を集めて、一人でもできる策を講じ続けなければならない。

 私はもう小さな画面で物語を楽しむだけのオーディエンスではない、この世界に住まう一人の住民なのだ。

 ハッピーエンド以外の全てのルートが世界滅亡ならば、ハッピーエンドルートを辿る方法を知ってる私が動かないでなんとするか。

 

 

「……どしたん?」

「ううん、なんでもないよラブちゃん。ちょっと仕事忙しくてさ」

「エデン条約ねぇ……どうせ失敗するって。トリニティとゲヘナ、何百年犬猿の仲やってると思って」

「私もそう思う。でも、重要なのはそこじゃないから」

「……? どゆこと?」

「ううん、こっちの話」

 

 

 このエデン条約、先生が死ぬ確率が最も高いと言われる場所。

 実際にサオリちゃんに撃たれて生死を彷徨う場面があるけど、一歩間違えればそのまま死んでしまうだろうね。

 この物語をハッピーエンドに向かわせるために必要なのは、先生という重要なピース。

 絶対に死なせないためにも、私は誰にも注目されないノーマークのモブのままでなければならないの。

 

 

「ねねラブちゃん。エデン条約終わったらさ、トリニティのご飯屋さん行こうよ」

「ブルジョアたちの食べ物なんて買える金無いわよ」

「私の奢り! ね、どう?」

「……良いわよ。ただし、部下も一緒よ?」

「もちろん! 楽しみだね!」

「じゃあちゃんと成功させなさいよ、エデン条約」

「もち! じゃ、私はそろそろ行くね?」

「ん、仕事頑張りなさいよー」

 

 

 私は懐から分厚い封筒を机に置いて、ラブちゃんに手を振ってお店を出る。

 こっからが地獄だぞと自分に言い聞かせながらブラックマーケットを後にする。

 

 今回でかなりの情報を手に入れることができたが、まだまだ情報が出そろっていない。

 

 この前の補習授業部がゲヘナ地区に入って来たという情報を考えると、そろそろミカちゃんの裏切りが発覚する頃だろう。

 ミカちゃんによるアリウス生たちの外患誘致、それによってナギサちゃんが計画の変更を行うかもしれない。

 そうすれば今まで集めてきた情報が役に立たなくなる可能性だって十分にある。

 

 時間がもう、足りない。

 

 

 


 

 

 

「……結局見つかりませんでしたね」

「だねチナツ。やっぱり私たちのこと気づいてたんだよ。どうするのアコちゃん」

「どうするもこうするも……何もできないですよ」

「珍しく冷静じゃん。どしたの?」

「いえ、何故彼女がこんな変な行動をするのかなって」

「確かに。裏切りだとしたら回りくどすぎるし、そうじゃないとしたら信頼性がまるでない。どっちつかずだよね」

「わかりませんね、彼女が何をしたいのか──あ」

「どうしましたチナツ?」

「いました! あそこ!」

「どこ!? ……って、あそこ唐揚げ屋じゃん!」

「……もしかして、本当に食事しにきてるだけですか?」

「……かもしれないね」

「ッ~! もう許しません! 牢屋にぶち込んでやります!」

「待ってアコちゃん! 待って!」




モブ子の目的はこんな感じ。
実はこういう真面目な雰囲気のを書くのが得意なんです。
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