風紀委員モブの昼休み   作:ふゆうさぎ

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残酷な描写のタグを付け忘れてたんだ…そういうのを書くって決めてたのにね。
でもね?そういう描写、好きじゃないんだ。


問題

 例の彼女が行方不明になった。

 トリニティを訪問したあの日、彼女と最後に交わした言葉はお花を摘みに行くなんてありふれた物。

 彼女はそれっきり帰ってくることは無く、いくら連絡をしても既読すらつかない異常事態に焦り必死に探し回ったが、私一人では手がかりひとつ手に入れることができなかった。

 

 桐藤ナギサに連絡を入れて事態を説明すると、再び正実の部屋へと通された。

 そこで説明されたのは、私たちが正実の建物を出た後、数人のティーパーティ所属の生徒に私達の尾行をさせていたこと。

 そして、そのうちの一人が何者かの襲撃によって病院送りになったこと。

 その襲撃された生徒の証言により、彼女を拉致していったのはアリウスの生徒だということ。

 ナギサはただ頭を下げるだけだった。いや、下げることしかできないのだ。

 アリウスがどこに潜伏しているのか、どういう装備をしているのか、どのくらいの規模の集団なのか……その何もかもがわからない相手に動くことは、直後に控えるエデン条約を放棄するのと同義だというのは私も理解できる。

 しかし、だ。

 

 エデン条約はもう数日もしないうちに訪れる。

 突貫工事もいいところだと思うほど瓦解寸前のこの計画が成功するとはとても思えないが、それでもナギサはそれを望んでいる。

 トリニティの誰からも否定されてでも未来に起きるかもしれない戦争を止めようと、彼女ひとりで奮闘している。

 そんな彼女に指を指して糾弾することは私にはできない。

 

 幸いなことに彼女がいないことで起きるトラブルはほぼ無い。

 あるとして書類仕事が滞る程度。それもそのはず、彼女はエデン条約の護衛任務に名を連ねていないから。

 理由もわからないまま参加拒否を示し続けた彼女だが、今までの推察では「お昼ごろに任務が重なるから」程度だと思っていた。

 でも今は違う。彼女はエデン条約中に別の場所で何かが起きるかもしれない、そう予想して参加拒否をしていたのではないかと思っている。

 もし私の予想が当たっていたとして、彼女が拉致されてしまった理由が敵に感づかれたからだとしたら? 

 今頃彼女がどんな状況に陥っているか、想像したくも無いのに勝手に頭がイメージを始める。

 助けに行きたいが助けに行けない。

 風紀委員長として、委員の一人助けられない自分の不甲斐なさにスカートを握りしめるしかできない。

 

 エデン条約は予定通りに行われる。

 主要メンバーに欠員が出るわけでもなく、条約締結に影響のない人物が一人行方不明になっただけでは、この行事を取りやめる理由にはならない。

 

 彼女はどこへ連れていかれたのか? 

 彼女は一体何をされているのか? 

 彼女は、生きているのだろうか? 

 

 そんな疑問と不安を抱えたまま、エデン条約は始まる。

 

 

 


 

 

 

 どうも、ボロ雑巾モブ子です。

 ボロ雑巾のようにクチャクチャになって地面にポイされてるから私の苗字はこれからボロ雑巾になります。よろしくお願いします。

 ……というのは冗談。別にポイされてるわけではありません。

 片腕だけ手錠を掛けられて宙づりにされて無限に殴られ続けていますの。

 干されてるボロ雑巾って例えるのが一番いい表現だと思うんだ。

 

 

「なかなか口を割らないな。まだ痛めつけ足りないか?」

 

 

 もう何時間も殴られ続けて、意識が飛ぶたびに冷水をぶっかけられて……うん、拷問じゃんねこれ。

 まさか転生してなお死にかけることってあるんだね。普通にしんどいよサオリちゃん? 

 エデン条約編が終わる前のアリウス組って怖いんだね。

 頭アリウスじゃん。

 

 

「へへ、まだ意識を保ってますね……苦しいですよね、しんどいですよね……」

「共感しないでヒヨリ。さっさと吐いてもらわないと困るの、もうエデン条約まで時間が無い」

「……はぁ。いい加減に、吐けッ!」

 

 

 サオリちゃんのアサルトライフルの銃床で思い切り顔面をぶん殴られます。痛いですね。

 なんかもう視界なんか真っ赤だし、なんなら液体が目に入りすぎてマジで痛い。

 さっきからずっと鉄っぽい臭いが嗅覚を支配してるし、表情を変える度になんかヌルヌルする。

 流石にこれは我々の業界でもご褒美じゃないです。

 

 

「……まさかここまで根性があるとはな。特別な地位を持つ生徒でも無いというのに」

「意外だね、サッちゃん」

「姫……離れていろ。血が飛ぶ」

「ううん、いいの。ねぇあなた」

 

 

 この声は……アツコちゃんかな? もう視界がほぼ潰れてて声で判断するしかできないよ。

 もしかしてこれ、リアル「前が見えねェ」状態なんじゃないかな? だとしたら顔面潰れてるじゃん、ブッサ。

 

 

「そろそろお昼なんだけど、食べる?」

 

 

 そう言ってアツコちゃんが取り出したのは、ただのカロリーバー。色的にプレーン味だろう。

 お腹は確かに空いている。だって昨日の夕飯から何も食べてないし……というか、今お昼なんだ。

 

 ランプ1個だけが周囲を照らしているこの場所……なんか塹壕っぽい感じ。太陽光が一切入ってこないから凡その時間もわからない。

 多分だけど、古聖堂周辺の廃墟の地下とか、そういう場所な気がするよね。

 とにかく湿っぽくて空気が気持ち悪いの。

 

 

「姫。それは私たちの食糧だ。こんな奴に」

「痛めつけてもいいけど、死なれたら困るでしょ?」

「数日食べない程度じゃ人は死なない」

「外にいる子は私たちと違うよサッちゃん?」

「……好きにしてくれ、姫」

「ありがとサッちゃん」

 

 

 アツコちゃんがトテトテと私に近づいて、カロリーバーを剥いて差し出してくれた。しかも口元に。

 これってもしかして……いや、もしかしなくても「あーん」ってやつじゃないのか!? 

 ラブちゃんともまだやったことない「あーん」をアツコちゃんにやってもらえるのか!? 

 やるんだな……今、ここで! 

 

 

「……ンァ」

「はい。プレーン味しか無くって、ごめんね?」

 

 

 口を開けるだけで口端のかさぶたが取れて痛すぎるんだが。

 無造作に口の中に突っ込まれるカロリーバー。「あーん」し慣れてないアツコちゃんもかわいいね。

 うん、血の味しかしない。

 

 

「……大丈夫?」

 

 

 顔を横に振る。正直もう声を出す元気も無いんや。すまんなアツコちゃん。

 吊られてる方の手首も本当にもげそうなくらい痛いし、それに血ダダ漏れだし。というか感覚無いし。

 うへぇ、寒くなってきたよぉ。

 

 

「……正直に言ってくれれば、もう痛いことしないよ?」

 

 

 アツコちゃんが優しく言ってくれるけど、私は無言で首を振る。

 ここで警備配置とかの知ってることを話すということは、先生の生死を彼女たちを操る「悪い大人」側に委ねることになってしまう。

 ごめんねアツコちゃん、優しくしてくれてるのに。

 

 

「……そっか」

 

 

 ごめんよアツコちゃん。事が全部終わったら美味しいご飯屋さん連れて行ってあげるから……

 

 

「私たちが知りたいのはね、エデン条約の件だけじゃないの」

 

 

 と、いいますと? 

 

 

「あなたの全部を教えてほしい。エデン条約の件は建前。マダムはあなたが何者かを知りたがってる」

 

 

 ……これはマズイのでは? 想像よりもはるかにヤバい状況なのでは? 今更だけど。

 私が何者か? いたって普通の一般風紀委員モブなんだが? それ以外に何があると? 

 もしかして……転生者ってバレとります? 

 

 

「あなたは私たちのことを知っていた。それも、最初から」

 

 

 一瞬何を言われてるかわからなかった。なんで私がアツコちゃんたちを知っていることがバレたんだ? って。

 いや違う、今アツコちゃんはマダムって言った。

 つまり、ベアおばは私のことを知っていた。いや、セイアちゃんみたいに観測していたんだろう。

 秘密裏に動いていたつもりが、いつの間にかベアおばの掌で弄ばれていたわけだね。

 

 私が今まで動いていた理由は、アリウス襲撃による被害を軽減させるため。

 本編での先生がサオリちゃんの攻撃で被弾したのは、ミサイル攻撃による戦力分断や戦況攪乱がアリウスの想定通りに行ったから。

 同じことがこの世界でも起きるのだとしたら、戦力をもっと増やして、ミサイル攻撃された後の戦力回復を迅速にできるようにすれば、先生が銃撃を喰らう可能性は限りなく低くなるはず……そう思って、行動してきた。

 

 

「エデン条約の簒奪。先生の殺害。トリニティとゲヘナ両校の壊滅。私たちの計画全部、あなただけが知っていた。だから一人で動いていた。……違う?」

 

 

 で、それを逆手にとって今に至るってことだね。

 私は元おまわりさん。地道に足で動くことしか脳のない私と比べて、ベアおばは随分とご慧眼なようで。

 ここまでやられては出せる手はもう無い。完全なお手上げだ。

 

 アツコちゃんは私がもう肯定も否定もしないことを察知したのか、手錠を外してくれた。

 支えもない私はただ地面へと落ちるだけで、その場から一歩たりとも動くことができない状態。

 真っ青になっている腕は感覚がなくって、指がぴくりとも動かない。

 もう片腕はサオリちゃんに殴られた時に折れたのか、動かそうとすると激痛が走るし、足は笑ってしまい立つことすら叶わない。

 

 

「私たちはそろそろ計画を遂行しないとなの。ここで大人しくしてくれれば、もう何もしない」

「姫。せめて拘束を……」

「いらないよサッちゃん。出口だけちゃんと塞いでおけば、もうここから出れないから」

 

 

 姫は優しすぎるとぼやくサオリちゃんは、ヒヨリちゃんとミサキちゃんを連れて先にこの部屋から出て行ってしまった。

 アツコちゃんもそれに続くように私から離れていくが、出口の戸を開ける前にふと振り振り返った。

 

 

「ここにある食糧は食べていいから。一応、殺すなってマダムに言われてるから」

「……どうして」

 

 

 かろうじて絞り出した声に、アツコちゃんは淡々と答える。

 無機質では決してない、こうなるのが運命なのだと言わんばかりの声色。

 そこには、優しさがあるような気がした。

 

 

「物語を知っている者なら記憶ごと吸収するため、だって」

「きゅう……しゅう……?」

「大丈夫だよ。……一人じゃないから」

 

 

 小さく手を振ったアツコちゃん。

 出口の扉は閉められ、鍵のかかる音がこの部屋に響く。

 一人部屋に残されたのは血まみれの私。

 かろうじて仰向けになった私の目には、わずかな風にゆられる小さなランプ。

 ふと、言葉が漏れた。

 

 

「……ままならないね」

 

 

 大きな大きなため息をついて、私は瞼を閉じた。

 寝れば多少痛みも気にならないかと思ったけど、痛すぎて寝れなかった。




昨日投稿できなかったのは、お酒飲んだら筆が止まっちゃったから。
ごめんね?
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