短くてすまん。
「これが……」
「ハンバーガー……?」
「これがあのハンバーガーなんですね!!! 美味しいそうですね……良い匂いですね……えへへへ……」
「ねえ、大きさおかしくない? 口に入らないと思うんだけど」
「ミサキさん、この手のは入れるんじゃなくて突っ込むんですよ」
サオリちゃんたちと私の目の前に広がるのはクソでかバーガー五つと、無数のポテトとナゲットたち。
はい、スクワッドの皆を連れてブラックマーケットで超のつくほど有名なハンバーガーショップに着きました。
ここは動画サイトやSNSでも度々名前が出てくるほどの有名で、味も美食研が保証するレベルと非常に高い味を提供してくれるお店なんです。
お店の名前は「ブラックバーガー」。死ぬほど安直な名前と同じく外観も真っ黒。ちなみに内装もほとんど黒。
そんなブラックバーガーで一番の人気は「ブラックチーズバーガー」。お値段そこそこにボリューミーで味も濃厚、デロンデロンになるほど詰め込まれたチーズが大人気な逸品。食べた後に人と会うと「お前あのハンバーガー食べただろ」と絶対に言われるらしい。
だが、私がスクワッドに奢ったハンバーガーはそれではない……そう、店長イチオシ、私もイチオシのブルジョアバーガー。
その名も「ブラックバーガー極」。はい、カロリー表示が真っ黒に塗りつぶされるくらいには大変なことになってるバーガーなんですね。
たった二枚のバンズの間に一体何枚のパティが詰め込まれてるのか。デロデロに溶けだしているチーズの隙間から顔を出すのはレタスと玉ねぎとトマト、そして3枚の目玉焼きに何枚ものベーコン。デカすぎんだろ……
ちなみにお値段はチーズバーガーの約五倍。五人前のセットメニューだからお財布はすっからかん。
ブラックマーケットにもお昼のチャイムはあるらしい。安っぽいチャイムが町の中に響き渡る。
しばらくぶりのちゃんとした昼食。超カロリーの健康をかなぐり捨てたジャンクフードに思うことはただ一つ。
腹が、減った。
「さて、冷める前に食べましょう!」
「おいしいです! おいしいです! うへへ、おいしい!」
「……ヒヨリを見習うとしよう」
「リーダー正気? これ絶対に入らないって」
「ミサキ、私が見本を見せよう……こうやって!」
ヒヨリちゃんの食べる姿を見よう見まねでサオリちゃんがハンバーガーにかぶりつく。こんな時までカッコいい顔なんだねサオリちゃん。
でも反対側から具が盛大に漏れ出してるよ。
最初から漏れることが想定されているため、トレーには大きなお皿とフォークが置いてある。見事なフラグ回収だよサオリちゃん。
「……すまないミサキ。私はここまでだ」
「りっ、リーダー!」
「じゃあ私食べるね」
「姫!? 無茶だ、それを食べるにはヒヨリ並みの貪欲さと無神経さと図太さが必要だぞ!」
「サオリ姉さん?」
全員が見守る中、アツコちゃんが口を開く。全員が無理だと思っていたその時、アツコちゃんの口が突然大きく開いた。顎が外れたんじゃないかと思った。
ギャグマンガ並みの大きな口で握りつぶしたハンバーガーを一齧り。綺麗な歯形の残るハンバーガーに、サオリちゃんたちが目を丸くしている。ヒヨリちゃんだけ目が輝いていた。
「ひ、ひめ……?」
「……うん、美味しいねヒヨリ」
「ですよね! ですよね! こんな美味しい物初めて食べました!」
お互いに笑いあうアツコちゃんとヒヨリちゃん。やっぱこの二人は特大の笑顔が似合うんですねぇ。
その後、サオリちゃんは何度もリトライしては具を溢してを繰り返して、最期はお箸で具を食べていた。
ミサキちゃんに至っては普通に食べることを諦めて、ナイフとフォークを使って食べていた。お上品じゃん? 根っこはトリニティってことだ。本人に言ったらバチギレされそうだから言わないけど。
普段食べないものを食べている四人は百面相のように表情をコロコロ変えながら食事を楽しんでいる。そんな彼女たちを見るのが幸せだ。
叶うのであれば、この後もずっとこうしていてい欲しい。
暫くしてハンバーガーを食べ終え、冷め始めたポテトとナゲットだけが机に残る。
少し多すぎたのか、ミサキちゃんがグロッキー状態になってしまい、そうでなくともサオリちゃんとアツコちゃんは食べるのを拒否している。ヒヨリちゃんは喜んでいるからヨシとする。
「皆お腹いっぱいになった?」
「あぁ」
「ありがとうね」
「もう無理……」
「えへへ、残り皆食べちゃいますね……」
二人はお話に交ざれなさそうだけど、これからのお話の根幹はアツコちゃんとサオリちゃんだけ。
私は残りのジュースをズゴゴと吸い込み、口を拭いてから話を切り出した。
「これから皆はどうするの?」
「……どうすればいいんだろうな」
さっきまで困り顔ながら笑顔だったサオリちゃんの顔に陰りが生まれる。ひと時の幸せに絶望が薄れていたのも束の間、私の言葉で現実へと戻る。
アツコちゃんもミサキちゃんもそれは同じ。
ヘルメットを被って行動すればある程度は誤魔化せるが、相手はベアトリーチェ。そう長くは持たないだろう。
「逃げる……それしか、私達にはできないだろう」
「そっか。少し先、儀式の日が訪れる。その日まで逃げ切れる自信はある?」
「なんでお前が……そうか、知っているんだったな」
「うん。アツコちゃんも同じ?」
どこか諦めの色を出すサオリちゃん。ミサキちゃんは最初から無理だからと言わんばかりの表情をしているけど、一人違った。
アツコちゃんだけは、その瞳から光を消すことをしなかった。
「私は……青春をしたいな」
「……姫?」
「アズサの友達の言葉、地下まで聞こえてた。わがままかもしれないけど、私も送りたい。青春を」
叶う可能性が1パーセントも無いかもしれない僅かな希望。アツコちゃんたちはそう思ってるかもしれない。
しかし、先生が生き延びた今、トゥルーエンドという未来は確約された。
本編で言えば、サオリちゃんは自分探しの旅に出てDJしたりウエディングドレスを着たりして、他三人はDJさんをリンチしたりする。そんな未来だ。
サオリちゃん以外まともじゃない。
そんな未来を知らないアツコちゃんは、ただアズサちゃんのいる補習授業部の皆を羨ましいと思ったのだろうか。私にはわからないけど、いい方向で影響を受けたことは確かだ。
じゃあ目指そう、青春を!
そんな言葉を言おうとした瞬間だった。
「お前たちが送るのは青春じゃない」
この中の誰でもない声が店内に響いた。
警戒態勢を構築する間もなく飛んできたのは、手榴弾。それも一つではない。数珠つなぎになっている物が、窓を割って私たちの目の前に転がって来た。
当然、ピンは抜けている。
「アツコちゃん、サオリちゃん!」
私は机を乗り越えて、アツコちゃんとサオリちゃんの上に覆いかぶさる。
一番安全だと思ってお店の端っこの机を陣取り、壁際の席にアツコちゃんとサオリちゃんを座らせたのが仇になった。
ミサキちゃんとヒヨリちゃんは窓際だったこともあり、飛ぶようにこの場所から離れ、残されたのは私とサオリちゃんとアツコちゃん。
逃げ道が無い。
「貴様らが送るのは、あの冷たい場所……アリウス自治区での虚しい生活だけだ」
背中にとてつもない熱量と衝撃を受けて、私の意識は一瞬で遠のく。
ぼやけ始める視界の中で見たのは、既に捕らえられたミサキちゃんとヒヨリちゃん。
そして、連れ去られていくサオリちゃんとアツコちゃんだった。
「ナギサ様、報告いたします! ゲヘナの風紀委員長が捜索していた生徒らしき人物が見つかりました!」
「なんですって! どこに!?」
「ブラックマーケットです! どうやら食事を摂っていたようですが……」
「大丈夫です、言ってください」
「……ガスマスクを装着した集団に襲撃された模様です」
「……アリウス、やはりまだ生き延びていましたか」
「どうしますかナギサ様」
「連絡を入れてください。先生と……風紀委員長に」
幸せのあとは、当然不幸の番だよね。
現実もそう。
あとごめん、2日くらい休むかもしれない…