風紀委員モブの昼休み   作:ふゆうさぎ

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真面目な文の方が書きやすい…


依頼

「頼れるのはもう、先生しか……」

 

 

 雨が降る中。

 ミサキとヒヨリを後ろに、先生を前に、私は土下座をしていた。

 先生は驚きの顔を、ミサキとヒヨリは見るに堪えないと私から視線を逸らしている。

 

 私たちがカタコンベを脱出した時、既に銃声は聞こえなくなっていた。それが単に遠く離れたからなのか、アイツがやられてしまったからなのかはわからない。

 ただ一つわかることは、アイツは私に希望を捨てるなと伝えたことだ。

 全てを諦めるにはまだ早いと、手元にあるスマホが訴えてきている気がした。

 

 気付けばポケットの中に入っていたスマホ。

 私の物でもなければ、スクワッドの誰のものでもない。

 ロックのかかっていないそれを開けば、中には風紀委員に関するメモが大量に残っていた。すぐに理解できた、アイツの物だと。

 私たちのスマホは電源も切れているし、電波も簡単には受信できないポンコツ。このスマホだけが、今の頼りだった。

 

 

「……私の命を賭けて約束する。どんな指示だって従う」

 

 

 モモトークにも電話帳にも、アイツが頼れと言っていた先生の文字は無かった。

 だからシャーレに直接電話をかけてここまで来てもらった。それは襲うためではない。助けを求める為だ。

 烏滸がましいにもほどがあると、内心自分を笑った。そんな状況まで追い詰められてなお、立ち上がろうとする自分にも。

 

 

「ヘイローを破壊する爆弾を預ける。私の命を握ってくれて構わない……ただ、ヒヨリとミサキは……」

 

 

 最期まで言葉を紡ぐことが出来なかった。情けないったらありはしないと、嗚咽交じりの自分に嫌気がさす。

 でも、だからと投げ出すわけにはいかない。私はもう負け犬なんだ。ならば、負け犬らしく戦うためにも、私は全てを捨てる。

 内に秘めてるプライドも、武器も……自分の命だって。

 

 

「頼む、先生……」

 

 

 帽子も脱いで、全てを雨の下にさらす。重くなっていく服だって構うものか。どれだけ汚れたってかまう物か。

 私は額を、地面につけた。

 

 

「だから姫を……姫を、助けてくれ……」

 

 

 

「それはできない相談ね」

 

 

 先生の声ではない。だが、聞き覚えはある。

 どれだけ私たちが警戒したか。真っ先に潰せと計画を立てて、実行できたにも関わらず何度も立ち上がる不屈の胆力の塊。

 先生の後ろには、同じように雨に濡れた空崎ヒナが立っていた。

 

 

「あの子のスマホ、ブラックマーケットからずっと電源が点いていたのよ」

「……追跡をしたのか」

「ええ。ウチの情報部は優秀でね。おかげで貴女が何処で誰と会って何をしようとしていたかは、大体見当がついていたわ」

「……なるほど。私を殺しに来たのか」

「物分かりが早くて結構ね。じゃあ……」

 

 

 頼みの先生にようやく出会えたというのに、ここに来て自分のやってきたことが最大の形となって現れた。

 詰みの状況が続いても、アイツが切り開いてくれた。その度に希望が重なって、いつしか「この状況も何とかなる。姫だって救える」と、無意識のうちにそう思ってしまっていた。

 だけど、ここに来て完全な詰み……いや、王手をかけられそうだ。足掻いてきたことも、全てが無駄になろうとしている。

 ようやく「全てが虚しいわけじゃない」、アイツのおかげでそう思えられたのに。

 やはり、都合が良すぎたんだ……私に救いなど、あってはいけないのだろう。

 

 

「死になさい」

 

 

 空崎ヒナの大型銃の銃口が私に向いているのだろう。私は変わらず地面に視線を向けているからわからないけど、きっとそうだ。

 これで終わるならば、早く終わらせてくれ。

 アイツの言うハッピーエンドが訪れないで、バッドエンドで私という人生が終わるのであれば、それはもう受け入れるしかない。

 運命ならば、受け入れるしか……

 

 

「ヒナ。ダメだよ」

「……先生」

 

 

 私の前に誰かが立った。視線を上げる。

 先生が立っていた。

 

 

「せ、先生……! ダメだ、撃たれたら死んでしまう!」

「大丈夫、ヒナは撃たないから」

「……先生、どいて」

 

 

 しかし、空崎ヒナは変わらず銃口をこちらに向けている。先生がいるにも関わらず。

 先生の声が、若干上ずった。

 

 

「ひっヒナ? やめよう、こんなこと?」

「こんなこと? 委員の子が……私の仲間がスクワッドに攫われたのよ。あの子が私たちを助けてくれた時、どんな格好をしていたか……先生も見たでしょう」

「それは……そうだけど」

「ならわかるはず。退いて」

 

 

 助けてくれた時……私が先生を撃とうとしたあの時だろう。

 あの時、アイツは拷問した場所から直行してきたような格好だった。全身ボロボロで傷だらけ、腕だって折れていたはず。

 それなのに、たった一人で私達スクワッドと無数のユスティナ聖徒会を相手に戦った。一方的な蹂躙にも関わらず、アイツは先生たちが去るまで最後まで立ち続けていた。

 今の先生も同じだ。銃を突きつけられているのに、私を守らんと立ち続けている。理由は違えど、守るため。

 ふと、アイツと別れた時の後ろ姿が重なった。

 

 

「先生、退いて」

「ダメだ」

「……退きなさい」

「退かない」

「退きなさい!!!」

 

 

 空崎ヒナが天へ向けて発砲した。薬莢が転がる音が、雨の中に静かに響く。

 大きな音に多少の委縮はしたものの、先生はそれでも立ち続けている。銃口が再び、私たちの方へと向いた。

 

 

「先生、邪魔しないで! 私はそいつを……錠前サオリを殺す!」

「なら私はここから動かないよ。絶対に」

「せんっ……せい!」

 

 

 先生の真横を弾丸が通り過ぎていく。これでも動かないのかと、空崎ヒナの顔が強張っていく。

 

 

「先生、今すぐ退いてくれ! 空崎ヒナの怒りは私に向いているだけだ! 先生がここに立ち続ける理由は」

「あるよ」

 

 

 きっぱりと言い放つ。

 

 

「ヒナが……ううん、生徒が道を踏み外そうとしている。それを見過ごすことはできない」

「先生……なんで……なんでなの!!!」

 

 

 空崎ヒナの向けてくる銃口がぶれる。私を撃つというとこは、先生も撃つということ。そんなこと、空崎ヒナにはできないだろう。

 先生が大切な人だから……私にとっての姫と同じ。撃てなくて、当然だ。

 

 

「あの子を残して逃げた時、悔しかった! 不甲斐なかった! 何もできない自分が嫌だった! 見殺しにした自分を許せなかった! 横に並ぶことも、手を差し伸べることも……私は、何もできなかった!」

 

 

 空崎ヒナは銃を落とした。そして私と同じように膝を突いて、蹲って泣き始める。

 雨でも誤魔化せない大粒の涙が、嗚咽に混じって地面を更に濡らしていく。

 

 

「私は委員長なのに……皆を率いて、守る立場なのに! 私は後輩の一人も守ることができなかった! それどころか助けられて……私は、あの子を眺めることしかできなかった! 役立たずにもなれない傍観者にしかなれなかった! ……私はっ、何も……うぅ……ぁあ」

 

 

 私よりも肩を震わせて慟哭している姿は、あまりに見るに堪えなかった。だけど、視線を逸らすことは決してしてはならない。

 私が奪った物は、空崎ヒナにとって大切な物だと理解してしまったから。

 ならば、私がすべきことはなんだ? 

 空崎ヒナに対してすべき償いはなんだ? 

 

 帽子を取り、立ち上がる。

 先生の横へと出て、空崎ヒナが私を狙えるような位置にわざと立つ。

 これが私が見せられる誠意だ。

 

 

「さ、サオリ!?」

「空崎ヒナ……アイツは今、カタコンベ内で戦闘を行っている」

「サオリ、それは……あの風紀委員の子?」

「そうだ。私たちを逃すために、単身でアリウス生徒の軍勢に挑んでいる」

「そ、そんな!」

 

 

 先生が驚愕の声を上げる。それもそうだ、先生は何度もアリウス生徒との戦闘をしている。

 それゆえに知っている。アリウス生徒の一人一人がどれほど強いか。

 特殊部隊として私達スクワッドがいるだけで、一般生徒たちも私と同等の戦闘力を持っている生徒がゴロゴロしている。

 もしその軍勢に単身立ち向かったと聞いて、人はどう思うか。そんなこと、火を見るよりも明らかだ。

 

 

「……あなたも見殺しにしたの?」

 

 

 空崎ヒナの鋭い目が私を射抜く。私はそれに首を振った。

 

 

「いや。アイツに送り出された……先生に助けを求めろと」

「……あの子が?」

「あぁ。こいつを託された……気づかないうちにポケットに入れられていたんだ」

 

 

 アイツのスマホを空崎ヒナに渡した。血痕が多く付着しているそれに、怒りを露わにしている。

 

 

「あの子の……ッ! どうして!? なんであの子なの! どうしてあの子なの!」

 

 

 私に掴みかかって来る。先生が制止をかけようとしてきたが、目配せでそれを止めさせる。

 今空崎ヒナと私に必要なのは、物理的にぶつかり合うことだ。

 

 

「何とか言いなさい、錠前サオリ!」

 

 

 空崎ヒナの鉄拳が私の頬に直撃する。この拳に一体どれだけの力と怒りと憎しみが込められているのか。踏ん張ることも叶わず、私の身体は吹き飛んだ。

 空のドラム缶に背中を打ち付け、鈍い音がドラム缶の中で響き続ける。

 ドラム缶に背中を預けながら、私は空崎ヒナの言葉に答える。

 

 

「……アイツは、未来を知っている」

「……未来?」

「あぁ。今私たちを取り巻くエデン条約に纏わる物語……それだけじゃない。このキヴォトスで今後起こる物語も全て知っている」

「何を……言ってるの?」

「私にもわからない。だが、一つわかっていることがある」

 

 

 起き上がり、再び空崎ヒナの前に立つ。殴りたければ殴れ、そういう意思が無かったわけではない。

 でもそれ以上に、もし可能なら……

 

 

「アイツの未来の記憶を奪い、姫を利用して……マダムは何かに成ろうとしている」

「……マダムって誰」

「アリウス分校の生徒会長。そして指導者であり、支配者でもある……大人だ」

「ッ! 先生、それって……」

 

 

 先生が頷く。この事態……いや、この凄惨な物語の発端がどこにあるか、ここにいる全員が理解したから。

 

 アズサに言われたことで、真実に気づくことが出来た。

「この憎しみはいつから」そんな短い言葉を、マダムに見捨てられたことでようやくわかった。

 植え付けられた憎しみに、私達アリウス生徒たちは踊らされ続けている。

 

 

「アイツは絶対に殺されていない。マダムの指示で殺すなと言われている」

「……じゃあ、今もどこかで?」

「あぁ。だから、救わなくてはならない人物は二人」

 

 

 ここまで来た道を振り返る。長く続いた足跡は、もう雨で流されてしまった。来た道は消された。

 これから私たちは戻るのではない。行くのだ。

 あの冷たい場所に、迎えに行くのだ。

 

 

「姫と……アイツだ」

 

 

 途中から物陰に隠れていたヒヨリとミサキが姿を現す。もう行く準備はできていると言わんばかりの勇ましい顔。

 今までそんな顔、見せたことなんてなかったのに。少しだけ、口角が上げてしまった。

 

 

「……そうだな、まだお礼をしていない」

 

 

 地面に置きっぱなしで雨に撃たれ続けている銃を拾い上げる。

 準備はできたか? そう言わんばかりに、銃口はギラリと光っている。

 

 

「ハンバーガーのお礼を、しっかりしてやらないとな」

 

 

 先生と空崎ヒナに振り返る。そして、もう一度頭を下げた。

 

 

「先生、空崎ヒナ……姫とアイツを助けるために、力を貸してくれ」




ヒナ参戦!!!
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