風紀委員モブの昼休み   作:ふゆうさぎ

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元モブ子「速度超過です。違反点2点で罰金15000円ね」
ワイ「うへー」

昨日の夜あった実話。


始まり

「さて、これでピースは揃いましたね」

 

 

 目の前にいるのは二人の子供。

 一人は秤アツコ。私が崇高に近づくために最も重要な贄であるロイヤルブラッド。

 スクワッドと共に逃げ出した、その報せを聞いたときは少し呆れもしましたが、まぁ今ここにいるならば不問としましょう。

 残りのスクワッド共もそのうちアリウスに侵入してくるはず。おそらく、先生と共に。

 しかしそれは些事。全勢力を以て迎え撃てば、私が儀式を終えるまでは持つでしょう。

 

 そしてもう一人……謎の風紀委員。

 未来を知っている子供……いえ、ここはゲマトリアたちの観測した言葉を使わせてもらうとしましょう。

 

 子供の皮を被った、もう一人の大人。

 

 黒服たちの観測によるところ、おそらく未来が見えているのでは無く知っているとのこと。

 最初は信じられなかったが、行動を見れば見るほど合点がいった。私が予測していたことを悉く裏返そうとして来る存在。

 あぁ、まさか本当にいるとは。

 このキヴォトスという学園都市には摩訶不思議な事が多々起きる。人智を超えた事象も稀に観測されるし、何なら先生もその一人。

 そんな場所ならばいずれ現れるだろうと、私含めゲマトリア全員で予感はしていた。

 

 

「とはいえ、記憶は奪えるものではありませんからね。閲覧をしなければなりません」

 

 

 ヘイローは既に砕け散る寸前。今にも息を引き取りそうになっているこの生徒を、一度回復させなければならないのが億劫。

 本来であれば駒たちにやらせるのだが、致し方ない。

 

 

「口を開けなさい」

 

 

 血まみれ泥まみれ。アリウス生に嬲られるのはさぞ苦しかったでしょうね。

 内臓をぶちまける寸前まで腹に銃弾を撃ち込まれたのでしょう。腹筋の筋繊維が千切れているのを目視するのは人生で初めて。

 それに、どれほど骨が折れているかはわからないが、半身不随レベルまで神経ごと破壊されているようにも見える。

 もう目も見えていないだろうし、腹いせにアリウス生に弄ばれたのは見て取れた。

 しかし、だ。

 

 

「アナタの神秘は素晴らしい……おそらく、内に崇高を持たぬ生徒だというのに」

 

 

 この風紀委員は、ただの生徒と称するには超常的な能力を持ち合わせていた。

 異常なまでの戦闘力と、回復力だ。

 

 最初にスクワッドがこの生徒を確保した時、腕を折り、立つことすら叶わない程のダメージを全身に与えたと報告があった。

 しかしその十数時間後、奴は再びスクワッドの前に現れた。折れた腕はそのままで、全身のダメージも回復しきっていないというのにも関わらず、スクワッド全員とユスティナ聖徒会の大群を前に一人で戦線を維持していた。

 おかげで先生を取り逃がしてしまったのだが……成果としては奴を再起不能まで追い込んだ。

 しかしその後、一日と待たずに立てるまで回復し、スクワッドと共に逃げた。

 

 

「短期間で死に至るダメージを何度も受けては立ち上がる……その姿には疑問を抱くばかりでした。ですが、あなた方をブラックマーケットで捕らえた時に、それをようやく理解できたのですよ」

 

 

 ブラックマーケットでスクワッド共々確保し、カタコンベ内で動けない程度に嬲ってあげたはずなのですが、何故か奴一人だけが異常な戦闘力を持って対抗してきたのだ。

 その理由を模索するうえで欠かせないキーワード……そう、食だ。

 

 

「アナタは風紀委員の生徒ながら、昼休みは必ず休み、必ず定時で上がる生活をしていたそうですね」

 

 

 エデン条約で敗北してから逃げ続けた三日。その期間、どういう食事を摂っていたかは不明だ。だが、たかが三日で死に際から歩けるまで回復し、アリウスの軍勢に一人で対抗するほどの体力を得ることは可能か? 

 当然、否。

 ではどうやって回復したというのか? これからその確認を兼ねた実験を行うのだ。

 

 

「それは食事によって戦闘力を維持するため……私はそう睨んでいます。ですから、これから実験をしましょう」

 

 

 取り出したのは固形完全食。数日分のカロリーを即座にエネルギーとして吸収することが出来る、この機会の為だけに黒服に作らせた物。

 味はカレー味だそう。味など不要だろうに……まぁ、黒服には彼なりの酔狂があるということだろう。

 

 私はその包装を破き、開けさせた口の中にそれを突っ込む。

 意識があるのか無いのかは不明だが、顎を無理やり上下させ咀嚼させ、水で胃の中に流し込んでやる。

 単純な作業ゆえにすぐ終わってしまったが、成果が出るまでは時間がかかるでしょう。

 その間にやることは……

 

 

「さて、待ち時間はアナタで潰すとしましょう」

「……この時が来たのね、マダム」

「えぇ。贄としての責を果たすときが来たのですよ、アツコ」

 

 

 仮面を被っているため表情は読めないが、虚無であろうことは容易に想像がつく。

 コートを脱がし、贄としての正装へと着替えさせる。既に儀式の準備は整っている。後はアツコを祭壇へ縛り付ければ終わる。

 

 ここを外から訪れるモノの戸口へとするのだ。

 アツコのロイヤルブラッドとしての血統と神秘。それが、ビーコンとなる。

 

 

「マダム……アナタは何をしようとしているの?」

「貴女がそれを知る必要はありませんが……そうですね、聞かせてあげましょう」

 

 

 跪いているアツコの前に立ち、扇子を広げる。この空間ではこんな物は必要ないが、歪む口元を見せるのは少々躊躇われますからね。

 

 

「私は高位な存在になりたいのですよ」

「……高位な存在?」

「そう。あなた方生徒より……神秘を持つ者よりも高度で高位な存在になり、この世を救いたいのです」

「……ごめん、わからないわ」

 

 

 これだから子供は……そう思いながらも続ける。どうせこれで最後となるのだ、途切らせるのは後味が悪いだろう。

 

 

「このキヴォトスでは神秘を持つ子供たちが政治を行う、つまりキヴォトスという場所での事実上のトップであるわけです。学園都市なのだから当然でしょう? であれば、それよりも高位な存在となれば──」

「……このキヴォトスを支配できる、そういうこと?」

「その通り。今はアリウスの生徒会長と言う立場ですが、それを私の存在ごと更なる物へと昇華させる。さすれば、私の地位はこのキヴォトスで最たるものとなり、事実上の支配者となるのです」

「それが、この世を救うのとどう関係が」

「この混沌を救うには、絶対的な地位と力が必要……それだけ言えば理解できるでしょう?」

「……そうね」

 

 

 アツコが視線を落とす。ゲマトリア同士では互いの趣味嗜好、解釈の違いからこの手の話は複雑化するのだが、相手が何も知らぬ子どもであれば簡単だ。

 これは議論ではない、ただ私の考えを教えているだけなのだから。

 

 

「崇高を持つ者……名もなき神……神秘に恐怖。ふふ、解釈と言うのは如何様にもすることができるのが、哲学の難しい所ですよ」

 

 

 アツコの周りを無意味に歩き続ける。まだ時間までは遠い。

 先生率いるスクワッドはまだ来ないでしょう……いえ、間に合う事すらも難しいかもしれませんね。

 ですが……

 

 

「彼女たちがここに来る……その予感は既にあります。ゆえに、先手を打たせてもらいましょう」

「マダム……一体何を?」

「マエストロの云う芸術というのは一夜にしてならず。であれば、その足元に積み上げられたものは全て失敗作と言う事です」

「……まさか、アレを!?」

「そうですよアツコ。あなたの神秘を吸収して……それを成すことが出来る」

 

 

 アツコの頭を掴む。念じることで、アツコの中にいる概念を吸い取る。

 あぁ……感じる。これが神秘。

 

 

「ぐ、ぅううっ!」

「安心なさい。奪い過ぎればあなたは贄としての存在意義を失いますから」

「私の神秘で……何を……!」

「ふふ、アナタが古聖堂で行ったことと同じことをするだけです」

「……サッちゃん……みんな……!」

 

 

 ステンドグラスの前に立つ。外に見えるは荒廃した世界。

 この世界はまるで墓場……私はそう評し、マエストロに許可したのですよ。

 

 失敗作の廃棄場所にしていい、と。

 

 

「さぁ起きなさい……名も無き芸術共よ」

 

 

 指を鳴らす。同時に、大きな振動がバシリカを襲う。建物が崩れてしまわないか心配になるが、問題は無いだろう。

 

 

「狙うのはスクワッド、そして先生だけ」

「マダム……一体どれだけの兵器を用意したの!?」

「さぁ? マエストロに聞いてくださいな。私はただ、それを起動しただけ」

 

 

 ステンドグラスに影が入り込む。

 巨大なそれが、いくつも起き上がる。

 手負いの風紀委員一人ごときに半壊してしまうようなアリウス部隊よりも、こちらの方が確実でしょう。

 私の手駒は一つではないのですよ、先生。

 

 

「さぁ行きなさい、ロスト・アンブロジウス(失敗作)よ。我がロイヤルブラッドの神秘に従い……スクワッドと先生を殺せ」

 

 

 地下空間に響き渡る咆哮。一体何体いるかはわかりませんが……これだけの数があれば十分でしょう。

 ヒエロニムスの失敗作の、さらに失敗作。ですが、その本質は変わらない。

 たった数人を始末するには、過剰戦力もいいところだろう。

 確実に殺すには、十分だ。

 

 

「さぁアツコ、儀式の準備を……と、おや?」

 

 

 シュウウウ……そんな水が蒸発するような音が隣で鳴った。

 始まったか。隣に目をやると、風紀委員の全身から蒸気が発生している。怪我が急速に再生するときの描写として、コミックではよく使われる手法だ。

 まさか同じようになるとは。

 

 

「……ベアトリーチェッ」

「お目覚めのようですね、物語を破壊する者よ」

「私はそんなんじゃない。ただの風紀委員だ!」

「自覚のないのが最も質が悪いのですよ」

 

 

 寝起きざまに叫ぶ奴の頭を鷲掴みする。抵抗する武器も無く、力もまだ回復していない今だけがチャンス。

 アツコから神秘を奪い取った時と同じように、目を閉じて念じる。

 見せてもらいましょう……アナタの知っている未来を。

 

 

「私を高次元な存在へと昇華させ、この世の支配する……そのための糧となりなさい!」

 

 

 奴の悲鳴がバシリカ内に響き渡る。

 ほぼ同時に外で戦闘の音が聞こえ始めた。




モブ子の食に拘る理由、食べるなら美味しい方がいいから。
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