風紀委員モブの昼休み   作:ふゆうさぎ

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異型ベアおばが細い木みたいな見た目で弱そうだったので、巨木にレベルアップさせました。


祈れ

「どうやらここまでのようですね、空崎ヒナ」

 

 

 膝をついて肩で息をする。

 あの子の死体を見た時、怒りで己を忘れてしまった時に感じた、名状しがたき力。私の内側にずっとあったのに、存在すら知らなかったその力。

 溢れ出てきたそれが「危険な力」だと理解した時には、もう手遅れ。

 噴火の如き出続ける力に、私は意識を乗っ取られないように必死にならざるを得なかった。

 だから、戦闘に集中することができなかった。

 

 

「苦しいでしょう。恐怖を理性で押さえ、あくまでも力だけを利用しようとするのは」

「うる……さいッ」

「強情ですね。ですが、それもここまでです」

 

 

 ベアトリーチェが私を掴み、先生たちがいる方へと全力で投げた。

 上手くコントロールできない四枚の翼が機能することはなく、私の視界は高速で回転しながら、ただ身に受ける衝撃に苦悶の声を上げた。

 先生たちのいる瓦礫に直撃しなかったのは不幸中の幸いだが、付近の壁に叩きつけらてしまった。

 このままでは、先生たちにも攻撃が及んでしまう。

 

 

「ぐ、ぅううう!」

「空崎ヒナ。成り損ないの神は、ここで私が真の姿に昇華させてあげましょう」

「な、に……を?」

「私の本当の姿……光栄に思いなさい。世界を支配する、その正体を知ることを!」

 

 

 その言葉を皮切りに、ベアトリーチェの姿が徐々に巨大に、そして異形へと変わっていった。

 身体は肥大化していき、天へ天へと伸びていく。腕は何本にも分裂し、木の枝のように曲がり、分岐し、伸び……それを繰り返して視界を覆いつくす。

 顔の蕾が開き、一輪の花が大木の頂点で咲いたような姿へと変貌した。

 至聖所の天井を突き破り、太陽の下に顕れたのは巨木。

 白と黒と赤の三色で構成されたそれを木と認識するには、あまりに不気味でならない。

 

 

「私がこの世界を変える! この世界を支配する! この世界を救済する!」

「……化け物」

「あ、あれがマダムの本当の姿……」

「私たち、あんな化け物に操られてたなんて……」

 

 

 サオリ、ヒヨリ、ミサキが口々に言ったのを、ベアトリーチェは聞き逃さなかったようだ。

 

 

「化け物? いいえ、私はより高みに至ることができる神なのですよ」

「意味が分からないことをゴチャゴチャと……」

「私は神樹となった。このキヴォトスに存在する神々を従える、神の在処となったのです」

 

 

 救世主、支配者、絶対者ときて次は神……中二病もここまでくれば救いようがない。

 それに神樹と自らを名乗るとは。確か神樹は「神が宿るとされる木」という意味合いがあったハズ。

 状況的にアツコの神秘でも吸い取ったのだろうけど、それでも神樹を名乗る理由がイマイチわからない。

 

 消耗が激しいが回復も早い今の私は、壁に叩きつけられたにも関わらず、もう戦える状態まで復活した。

 だけど、さっきよりも思考が回らない。いや、単純になった。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 深呼吸して力を抑える。私の本能は「全てを破壊しろ」と命令してくるが、理性でそれを拒否する。

 おそらく、これが私の真の姿なんだろう。とてもじゃないが、先生に見せられたものでは無い。

 

 

「まだ戦うつもりですか、空崎ヒナ」

「当然。今戦えるのは私だけ。なら、戦わなくっちゃ」

「何度も立ち上がる姿……まるであの風紀委員のようですね」

「あの子は強かった……だから、私が彼女の分も頑張らないといけいない」

 

 

 全てを守らんとするあの背中。とても一年生とは思えない大きな大きな背中。でも、あの子はもういない。

 サオリたちが先生を守ってくれてるけど、実質的な最後の砦は私。

 全ても守ろうとしたあの子の意志を受け継ぐなら、私だろう。

 

 

「あの風紀委員同様で、貴女も大概厄介ですよ。空崎ヒナ」

「お互い様じゃない?」

「神に向かって……いいでしょう。力を見せてあげます」

 

 

 枝がウネウネと動き出す。指なのか枝先なのかわからないそれが、一斉に私たちの方へと向いた。

 直感が訴える。先生が危ないと。

 

 

「先生!」

「神の供物になりなさい、忘れられた神よ」

 

 

 無数の先端から光が放たれる。私がさっきまで使っていた力と同格か、それ以上の威力の光線。

 先生が受けたらひとたまりもないだろう。下手をすれば蒸発だ。

 重たい翼を羽ばたかせて先生の正面へと移動。そして、翼を重ねるようにして盾を作る。

 

 

「ヒナ!」

「動かないで先生! サオリ、先生を!」

「あ、ああ! 任せろ!」

 

 

 サオリがアツコを抱きしめたまま先生に覆いかぶさる。うらやましい。

 余計な思考を振り払い、防御に専念する。しかし、ベアトリーチェの攻撃は圧倒的。

 

 

「そんな肉盾が役立つとお思いで?」

 

 

 全ての光が私へと一点集中する。あれだけの威力の攻撃が束になっていれば、私の翼など数秒と持たない。

 反転によって武骨になった翼とて、所詮は肉体の一部。超高熱の熱線を一点に受け続けていればどうなるかなど、想像しなくともわかる。

 痛い、痛い。痛みが思考を塗りつぶす。

 

 

「流石のタフネス。あの風紀委員を従えるだけのことはありますね。ですが、これで御終いです」

 

 

 全ての光線が一気に太くなる。熱量が格段に上がったそれに、私の翼が蒸発した。

 血を出すことすらも許されず消し飛んだ翼の次に光線を受け止めるのは、私の身体。

 両手を広げて防御面積を増やすも、一身に浴びるそれに悲鳴を上げてしまう。

 

 

「あああああッ!!!」

 

 

 服が焼けこげる。肌すらも貫通せんとする攻撃に意識が飛びそうになるけど、ここで負けるものか。

 こんな状況でも、あの子なら絶対に倒れない。ならば、私も踏ん張らなければ。

 

 

「ヒナ! ヒナッ!」

「せん……せい……」

 

 

 攻撃が止んだ。私は今、あられもない姿を晒してしまってるだろう。だけど、それを気にする余裕はない。

 足は震えてるし、翼が欠損したことでバランス感覚もおかしくなってる。痛みで頭がチカチカするし、立ってるだけで精一杯。

 バランスを崩し、倒れる。

 否、倒れそうになった。

 

 

「……アツコ?」

「ありがとう、空崎ヒナ」

 

 

 倒れかけた私を支えてくれたのは、アツコだった。

 ここに来た時、あんなにも錯乱していたというのに。意識が戻ったのだろうか? 

 それに、どこかすがすがしい顔をしている。

 先生に倒れそうな私を受け渡し、アツコが一人でベアトリーチェと対峙する。

 

 

「……マダム」

「アツコ、色彩に呑まれたはずでは」

「なんとか帰ってこれたよ。あの子のおかげで」

「……今、なんと?」

 

 

 花びらについている全ての目が細まる。枝先がアツコに、私達のいる場所へと向いた。

 

 

「あの子が色彩の中で私を助けてくれたの」

「あ、ありえない! 死体が色彩と接触したというのか!?」

「マダムが儀式を行った時、死体をそのままにしたでしょ? そのせいじゃないかな?」

「まさか……? いや、しかし死体に変化は無い? であれば、魂だけが色彩と?」

 

 

 ぶつぶつと喋るベアトリーチェだったが、ぴたりとそれをやめてアツコへと目を向けた。

 何かに気づいたのだろうか、突如高笑いを始める。木から笑い声が聞こえるというのは、なんと不気味なことか。

 

 

「アツコ、貴女は重要なことを忘れていますよ」

「重要なこと?」

「死人が決して蘇ることが無いということを。この世全てに該当する、絶対的な自然の摂理をお忘れで?」

「……たしかに」

「……アナタをそこまで馬鹿に育てた覚えはありませんよ」

「ごめんね、おバカで?」

 

 

 わざとらしく口を隠して笑う。まるで「あんたに育てられた結果がコレだよ」と言わんばかりの、にんまりした笑顔。

 どうしてこの状況で、そんなに笑えるのか。先生に支えられながら、そう思った。

 

 

「笑ってごめんね? でも、あの子が教えてくれたんだ」

 

 

 指を口の両端に添えて、グイッと押し上げる。出来上がったのは、満面の笑顔。

 あの子の笑顔に似ている。あの子が教えた物で間違いない。

 

 

「笑えって」

「ッ……いいでしょう。そんなに笑いたいのであれば、痛みも無く終わらせてあげます!」

 

 

 声に含まれるあらん限りの怒気。私達に向けられた枝先が虹色に光り始める。それが今までの攻撃とは違うのは一目瞭然。

 どんな苦境でも笑う。そんな綺麗ごとを笑って流せるほど大人ではないベアトリーチェ。怒りを買うのは当然だ。

 だけど、その光景を見てもアツコは怯まない。

 

 

「色彩の力を込めたこの攻撃……あなたたち生徒が受ければ、一瞬で神秘は反転するでしょう」

「そんな攻撃をして、どうするの?」

「神として目覚めた貴女方を吸収し、神樹としての神性を高めるのですよ。さすれば、私の地位は更に神へと……いえ、神すらも超えるモノとなる!」

「それがマダム、貴女の『救世主としての姿』なの?」

「そうです。このキヴォトスを監視する神樹として降臨し、災いとなる芽を天から摘む……それが私の目指す救世主像!」

「……そっか」

 

 

 アツコの笑顔が、満面な物から不敵な物へと変わる。訝しむベアトリーチェを他所に、アツコが言った。

 あまりに藪から棒な話に、多分だけどベアトリーチェが眉を顰めた。顰める眉すらないから、実際にはわからないけど。

 

 

「知ってる? おまわりさんってさ、私達子供を助けてくれる人なんだって」

「……何故今、警察が何たるかを語るのです」

「あの子が……ううん」

 

 

 不敵な物から、柔らかな物へと。コロコロ変わる彼女の表情。きっと、これが本来のアツコという少女なのだろう。

 アツコが続きを言おうとした時、至聖所内に響いた。

 音楽が、祈りが。

 キリエが。

 

 

「……ふふ、祈ってくれる人は、私だけじゃないみたいだね?」

「ば、馬鹿な!? 何故コレが流れる!? 楽器も蓄音機も全てを破壊したはず……!」

「奇跡は起きる。私たちが諦めない限り、いつでもそれは訪れるから」

「許されない! 子供たちは憎悪を、軽蔑を、呪いを謳わなければならない! 祈りなど、謳ってはならない!」

 

 

 ベアトリーチェの抱く怒りと憎悪に呼応するように地面が震え、巨木のあらゆる場所から深紅の光が溢れる。

 

 

「子供たちはお互いを騙し傷つけあい、繰り返され増幅し続ける憎悪という名の無限の地獄の中で、大人に搾取される存在であるべきなのです!」

 

 

 巨木本体で輝いていた深紅の光が、枝先へと移動した。虹色の光は一瞬のうちに濁った赤色となり、ベアトリーチェの憎悪そのものを表しているような物へと変貌した。

 何度も口にしている「色彩」とかいう形而上のものではなく、確かに感じることができる負の感情。

 

 

「第一歩として、まずはお前たちから搾取してやろう!」

「……黙れ!」

 

 

 先生が一歩前に出た。ベアトリーチェと同様に、あらん限りの怒りを露わにして。

 ずっと奥で守られているだけと思っていたのだろう。先生の登場にベアトリーチェの声が上ずる。

 

 

「私の大切な生徒に、手を出すな!」

「貴方は何もわかっていない! 私の崇高なる計画が、どんな未来をもたらすかを!」

「お前がもたらす未来なんて、幸せであるわけがない!」

「な、なぁ……ッ!」

「……そうね、先生の言う通り。貴女みたいな人が、いい未来を作れるわけがない」

 

 

 私も先生の隣へと、アツコの隣へと立つ。ベアトリーチェを見上げて、なんだかその姿に笑いがこみ上げる。

 冷静になって考えてみればわかることだった。人とは思えないその姿で、人を導くなどできるわけないだろう。

 アツコと目が合う。きっとアツコもこのことをわかっていたのだろう。女子たちが噂話で笑うように、お互いに笑いをこらえる。

 加勢するように現れたサオリ達も、みんなが笑っている。

 

 

「何が、そんなにおかしい!」

「てんでおかしいさ、マダム」

「サオリ……いえ、スクワッド共も! 何故だ! 何故私の作る未来を享受しようとしない!」

 

 

 光が徐々に大きくなっていく。私たちが受け止められる攻撃じゃない。きっと、この一帯ごと消し飛ぶパワーを持っているだろう。

 だけど、皆それに怯まない。怯えず、竦むことも無い。

 

 

「何故だ!」

「決まっている!」

 

 

 先生が言った。

 

 

「生徒の未来は、生徒自身が切り開いていくものだからだ!」

 

 

 ベアトリーチェが自ら破壊した天井から、そのさらに上に広がる曇天から、光が差した。

 青空。どこまでも広がる青空。

 補習授業部のあの子が宣言した時と同じ。どこまでも透き通る青が、私たちを照らしてくれる。

 

 

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ、黙れェッ!!!」

 

 

 ベアトリーチェが荒れ狂うように叫んだ。同じように、無数の枝たちも揺れ、その感情に呼応するように光を発する。

 晴天の青すらも塗りつぶさんとする赤に、先生は胸元からカードを取り出した。

 あの時に取り出したのと同じ、大人のカード。

 

 

「ベアトリーチェ! お前の相手は、私が……」

「ごめん先生、その前にちょっと」

「あ、アツコ?」

「先生、皆。私に合わせてほしい……皆で、こう言うの」

 

 

 アツコが直前で待ったをかけた。訳も分からなかったけど、先生たちと一瞬だけ目を合わせて、逡巡する間もなく頷いた。

 言ってほしいという言葉をアツコが教えてくれた。それがこの状況にどんな変化をもたらしてくれるかはわからない。

 だけど、ここにいる全員が感じてたはず。

 きっと、それが私たちの切り札になるんだって。

 

 

「何をしようと無駄です! 貴女たちは、ここで消えるのですッ!!!」

 

 

 ベアトリーチェの攻撃が始まる。

 背面の光輪が眩い光で空を照らし、地面を照らし、憎悪の赤が周囲を埋め尽くす。

 そして、全ての枝先から攻撃が放たれた。

 私たち目掛けて、死の光が迫る。

 

 

「みんな……いくよ!」

 

 

 アツコの一声に、皆で手をつなぐ。

 あれだけ憎しみを抱いていたサオリとも、強く手をつなぐ。

 強く強く、意志すらも通じるほどに強く。

 

 目を閉じて、祈る。

 

 あの子が歌う祈りに合わせて。

 

 先生がカードを使うのに合わせて。

 

 皆で、声を合わせて。

 

 

『助けて! おまわりさん!!!』

 

 

 キヴォトスの空に浮かんでいる光輪が、強く光った。




クライマックスに近づくにつれて執筆難易度が上がっていく…

実はワイ、9年間小説書き続けてるけど完結まで書けたことが無いから、今が未体験の世界なんだよね。
これからは体力と相談しながら投稿するよ。
失踪だけはしないから安心してね。
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