バルバラとの決戦は、私たちが圧倒的な優勢を保ったまま勝利を収めた。
全回復した私達スクワッドが、得意な地形で先生の指揮を受けて戦ったのだ。
存分に力を見せつけるようなゲリラ戦を繰り広げた後、バルバラたちユスティナ聖徒会は塵となり消えた。
遂に、決着がついた。
それを証明するように、おまわりさんと先生が拳をぶつけ合っていた。
「お疲れ様です、先生」
「おまわりさんこそ。助かりました」
「いえいえ、子供たちの盾になるのが仕事ですから」
「それでもです。ありがとうございました」
「先生も、あの子たちを導いてくれてありがとうございます」
二人の大人が笑いあう。大きな仕事を乗り越えた後のような達成感を顔に浮かべて。
サッちゃん達も同じように、私たちを労ってくれた。マダムに隠れて作戦成功を祝ってくれた時のように。
喜びも一段落した頃、サッちゃんが聖園ミカの下へと行った。
座り込んでいるミカ。そして、それを見下ろすように立っているサッちゃん。ミカが、目を逸らしてしまう。
しかし、そんなことお構いなしにサッちゃんがミカに手を差し伸べた。
同じ目線になるように、膝をついて。
「大丈夫か、ミカ」
「……うん」
「よかった。立てるか?」
「だいじょぶ……」
「そうか」
サッちゃんの手を握り、ミカがゆっくり立ち上がる。この中で一番ボロボロの格好をしているミカは、どこか恥ずかしそうにしている。
先生に見られたくないからか、ひとりだけボロボロだからか。
「先生、ミカは無事だ」
「よかった。じゃあ、後は皆が来るのを──」
先生の言葉を遮るように、爆音が鳴り響く。壁が吹き飛んだ。
「けけけけ……きああぁぁぁ!!!」
土煙を振り払って中に入ってきたのは、剣先ツルギ。正実の委員長だ。
相も変わらず恐ろしい形相で、ベロを振り回しながら猫背でのそのそと入ってくるその姿は、恐ろしいと言わざるを得ない。どちらかというと、不気味の類だけど。
「きき……けぁ?」
先生、おまわりさん、ミカと順番に見まわして、ツルギの顔がぐるりと回って私たちの方へ向く。
サッちゃんが小声で「マズい」と言った通り、私たちは指名手配犯。しかもトリニティは血眼になって私たちを探していると聞いた。
そんな中、委員長であるツルギと鉢合わせることがどれほど危険なことか。
「きぁ……?」
「……私たちは逃げない。好きにしてくれ」
サッちゃんが武器を捨てて両手を上げた。その様子を見たミサキとヒヨリも銃を捨てた。私も真似をして捨てて、手を上げる。
その様子を獲物を見据えるような目でみるツルギは、やがて興味をなくしたようにそっぽを向いた。
「イチカ、いるか?」
「はいっす~……って、スクワッド!?」
「先生とミカ様、あとこいつらも連れていけ」
「え、拘束とかはいいんですか? 指名手配犯ですけど……」
「こいつらは自ら銃を捨てた。それだけで十分だ」
「りょ、了解っす。じゃあ皆さん、ご案内します!」
先生を先頭にミカが続き、その後ろに私達が続く。
ツルギの横を通り過ぎた時、ツルギがじっとこちらを見つめながら言った。
「逃げるなよ」
「……わかっているさ」
サッちゃんに言った言葉だろう。睨みをきかせた顔を、サッちゃんは軽く流した。いや、受け止めたというべきか。
ツルギの言葉にマスクと帽子を脱いで応えた。休む時も着けっぱなしなことが多かったそれを、両方外して。
サッちゃんの中でも区切りがついた、何よりの証拠だろう。
一人、その場に残った人物がいた。
おまわりさんだ。
皆で正実の子の背中をついてく中、私は足を止めて振り返る。
おまわりさんはツルギの横で、私たちを見送るために小さく手を振っている。
こちらに来ようとしない様子に、声を掛けた。
「おまわりさんは一緒に来ないの?」
「私はお仕事が残ってるからね」
「……そっか」
お仕事と言われて思い浮かんだのは、空崎ヒナが監視してくれているマダムを回収すること。
これからツルギと一緒に、それをしに行くのだろう。
そうなれば、ここからは別行動となる。私たちがどういう扱いを受けるかはわからないけど、しばらく会えなくなりそうな予感があった。
ツルギに突かれて至聖所へ戻ろうと、踵を返すおまわりさんに、最期にと聞く。
「また、会える?」
「会えるよ、絶対に!」
「ほんとうに?」
「もちろん! だって、私はおまわりさんだからね!」
「……うん」
「またね、アツコちゃん!」
「うん……また」
都合のいい言葉だと思いながらも、少しだけ嬉しくなった。
同時に、寂しさも。
少し俯く私に、おまわりさんは頬をぐいっと上げて笑って見せた。
色彩に取り込まれたあの時と同じように。だから、私も真似して頬を指で上げる。
とびきりの笑顔。それが、おまわりさんのトレードマーク。
「最後に笑ってたやつが、ハッピーエンドを掴めるんだよ!」
「……だから、笑う」
「ふふ、覚えててくれたんだね!」
「この言葉は、貴女が最初にくれた希望だから……」
ニシシと笑うおまわりさん。大きく手を振って、地下回廊に姿を消していった。
サッちゃんたちはもう行ったようだ。残されたのは、私一人。
追いかけなければいけないけど、なんだか足が動かない。
「……ハッピーエンド、か」
おまわりさんの言葉を繰り返しながら、部屋を見上げる。
地下回廊の入口であり、バルバラたちと戦ったここには、大きなステンドグラスがある。
その殆どが割れているけど、大昔は祈りを捧げる場所として機能していたのだろう。
僅かに残っているステンドグラスが日差しを受けて、私をカラフルな色に染める。今まで何色でもなかった私に、色が付く。
綺麗な色彩……胸がポカポカするような、そんな気持ち。
胸の前で手を組んで、目を閉じる。
これからのみんなが、いい日を送れますようにって。
「姫、どこにいる!?」
手を解いたタイミングで、サッちゃんが声を上げながら部屋に帰って来た。
どうやら長居しすぎたみたいだ。
「サッちゃん、私はここだよ」
「良かった……どこかではぐれたのかと思った」
「ううん、おまわりさんと少しお話してたの」
「そうか……アイツは行ったのか?」
「うん。お仕事が残ってるからって」
サッちゃんと並んで地下回廊の向こうを眺める。光一つない通路。
その真っ暗な向こう側に、私たちが置いてきた物を代わりに取りに行ってくれた。
私たちはもう触れるべきではないと、もう安心していいと笑って。
「……サッちゃん」
「なんだ、姫?」
「私も……私達も、あんな大人になれるかな?」
「……わからない」
だけど、とサッちゃんが言葉を続けた。
「あんな大人になるためにも、私達も行かなくてはいけない」
サッちゃんが私に手を差し伸べる。
何かに希望を見出したような、たくさんの光がこもっている瞳が、私を見ている。
そんなサッちゃんを見れたのが、ちょっと嬉しいかも。
「……? 何を笑っている?」
「ううん、なんでもない。行こっか、サッちゃん」
サッちゃんの手を取って、一緒に建物から出る。
外に出て最初に待っていたのは、先生。
その後ろにミカと、ヒヨリとミサキ。
そして、たくさんの正実の生徒。
「ねぇサッちゃん」
「……なんだ?」
「私ね、目指したいことがあるんだ」
サッちゃんよりも一歩先に前に出る。
振り返って、サッちゃんの顔を見て、私は言った。
あの時、残ったポテトとナゲットを前にして、言えなかった言葉。
「皆で、青春したい!」
アズサは言ってた。
それがたとえ虚しいことであっても、抵抗し続けることをやめるべきじゃないって。
アズサがやり遂げられたのだから、私たちもできないわけない。
ならば、頑張ってみたいと思う。
私たちの青春は、私達だけのものだから。
最後には、ハッピーエンドを迎えたいから。
「だから……笑おう、サッちゃん!」
私は指で、頬をグイッと上げた。
メインストーリーはこれにておわり。
イベストの後日談的なのを数話やるので完結扱いにはしません。
もうちょっとだけ付き合ってください。