風紀委員モブの昼休み   作:ふゆうさぎ

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母親からコロナ貰ったせいで全然頭回んない…
あと今回は地の文ばっかだよ。


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 数日ぶりに風紀委員の敷居を跨いだ。

 私が不在の間でもゲヘナ生たちは問題なく大暴れしていて、風紀委員の子たちは相変わらず忙しそうにしている。

 そんな中、突然帰って来た私に、一人の生徒が大声を上げた。

 

 

「か、帰ってきましたァー! アコ行政官、ヒナ委員長帰ってきましたァ──!!!」

「ななな、なんですってー!?」

 

 

 ドタバタと部屋から飛び出してくるアコ。その焦った顔も久しぶりだ。

 相当心配……いや、苦労させてしまったのだろう。目の下には真っ黒な隈が目立っている。

 化粧一つも施せないほどに忙しいのは、アコだけではないようだ。

 

 

「委員長! 帰って来たんだな!」

「おかえりなさい、ヒナ委員長……心配していました!」

「ごめんなさいイオリ、チナツ……」

 

 

 後に出てきた二人は千鳥足。相当な疲労が蓄積しているのが目に見えた。

 事実、二人も同様で大きな隈を目の下に張り付けていて、イオリに至っては服もボロボロだ。

 この三人の中で唯一前線に出張るのはイオリ。この数日、私に変わってずっと前線で戦い続けていたのだろう。

 チナツは後方支援組だけど、現地で治療を施す役目を持っている。そのせいだろう、服には所々血が付着したままになっている。

 相当な無理を押し付けてしまったようだ。

 

 

「ごめんなさい……私が勝手に動いたばかりに」

 

 

 頭を下げる私に、アコが必死に首を振った。

 

 

「いえ、このくらいなんてことないですよ委員長! ええ、この私の作るコーヒーさえあれば、皆は馬車馬のように……」

「アコちゃんさ。それって自分のコーヒーが不味いって公言してるようなものじゃない?」

「イオリ、あんまり声に出して言う物ではありません」

「ええい、二人ともやかましいですね! ともかく、私たちは大丈夫です!」

 

 

 堂々と宣言して胸を張るアコ。なんとも頼もしいことだろうか。

 横乳が大事な所が見えそうなほど飛び出していなければカッコよかったのに。それほどに、皆疲れているのだろう。

 周りを見渡せば、廊下で雑魚寝している生徒すらもいる。

 机に突っ伏して寝る者、机をくっつけてその上で毛布を被って寝る者、サタデーナイトフィーバーみたいな恰好で寝ている者もいる。

 

 

「……皆、ありがとう」

「いえ、感謝されるほどではありません! 私たちは、私たちの仕事を全うしただけですから」

「だからよ。ありがとう、アコ」

「い、委員長……!」

 

 

 一度自分の席へと戻る。そこには聳え立つ書類の山……それも、複数。

 素で「うわ」と声が出てしまったが、私にしか処理できない仕事もある。数日席を外しただけで何故こんなにも……

 建物の外では爆発音が何度も響き、その度に風紀委員たちの怒声が飛び交っている。

 地獄かここは? 否、ゲヘナだ。

 ずっとトリニティの敷地にいたから忘れていたけど、これがゲヘナの日常なのだ。

 ようやく、帰って来たのだ。

 

 

 


 

 

 

 さて、あの後のことを少し話しましょう。

 

 あの子が再び至聖所に戻ってきたのとほぼ同タイミングで、ベアトリーチェが目を覚ました。

 ベアトリーチェは絶対に何か言い訳すると思ってたけど、私とあの子、そして剣先ツルギの三人が目の前にいたことで観念してくれた。

 味方であったはずのゲマトリアからも見捨てられて、糾弾し攻撃してきた人物が目の前にいる状態。さながら、弾圧を受けたアリウス分校と同じ境遇。因果応報という奴だ。

 こうしてベアトリーチェという、このエデン条約襲撃事件から始まった全ての事件の黒幕を確保するに至ったのだ。

 

 ミカとスクワッドたちがいる聴聞会に、簀巻きのベアトリーチェを連れてツルギとあの子と一緒に乗り込んだ。

 先生の説明のもと「この人物が事件の黒幕であり、ミカたちには考慮が必要である」と訴えたのだ。

 会場がざわつき、その真偽を問おうと……そこで、問題が起きた。

 意気揚々と言い訳を並べるベアトリーチェが、突如意味不明な言葉を喋り始めたのだ。挙句の果てには解読不能な言語を喋り始めたりもして、会場は困惑で一色になった。

 誰もが不気味だと不快感を顔に浮かべていたところ、あの子がベアトリーチェを意識を刈り取ることで黙らせて、言った。

 

 ヘイローを持たない人間が色彩に接触するとこうなる。本来の狂気が、ベアトリーチェを壊した。

 

 この言葉がどんな意味なのか。それを理解できたのは私、スクワッドたち、そして先生だけだろう。

 アツコが儀式に使われた後の様子を思い出して、すぐに理解に至った。

 幸いなことに、先生が至聖所で起きた全ての出来事を映像として記録してくれていた。おかげで、ミカたちの減刑はあっさりと決まった。

 

 ミカはティーパーティーの資格を剥奪されるに留まった。

 スクワッドたちは、全員がバラバラになるように調整された。

 アツコは歴代アリウス生徒会長の血を受け継いでいるということで、ティーパーティーへの参加の強制。

 残りの三人はそれぞれ、シスターフッド、救護騎士団、正義実現委員会へ所属することを強制されたようで、誰がどの委員会、部活に入るかは各々が相談しあってくれとのこと。

 

 聴聞会が閉廷し、ベアトリーチェは正実に連れていかれた。話によれば、この後はヴァルキューレに受け渡す予定になっているらしい。

 あの子が無事に帰ってきて、真の罪人が正しく裁かれた。私の目線で見ればだが、十分にハッピーエンドと言えるだろう。

 先生の下へ行くときに言っていたあの子の言葉。約束は、果たされたと言ってもいいかもしれない。

 

 ただ一つだけ……あの子が、元の姿に戻れなかったことを除けば。

 

 

 


 

 

 

 あの子の運転する車の助手席。

 私たちは今、シャーレへと向かっている。

 揺れる車内。私は流れる景色をただただ眺めていた。

 

 

「……」

「……」

 

 

 特に話すことも無く、流れているラジオを右から左へと聞き流してるだけ。

 お天気情報に交通状況、流行りの曲が垂れ流されている。そんな状況を、私は外の景色で誤魔化す。

 

 ゲヘナに帰ってきてから数日後の話。

 溜まっていた仕事もほぼ終わり、私がゲヘナに帰って来たことで治安も仕事も落ち着いたころ。私はようやく、委員の皆におまわりさんのことを紹介した。

 おまわりさんとなったあの子を「風紀委員所属の一年生のあの子」として紹介した所、突拍子もないことを言ってきたと、頭の心配をされた。

 ずっとトリニティに居座っていたせいで、頭トリニティになったんじゃないかと言われる始末。頭ゲヘナよりかは良いと思うけど。

 

 アコたちや他の風紀委員の子たちは最初、あの子をまじまじと見ながら疑っていた。しかし、あの子がアコに命の母を無言で渡したことで全員が理解してくれた。

 唯一、アコはブチ切れてたけど、おまわりさんの戦闘技術によってあっけなく制圧されていた。その手際の良さは風紀委員の時の姿と同じで、皆はすぐに「元あの子」として信じてくれた。

 書類仕事の主戦力が帰って来たと皆が期待を寄せていたけど、その時にはもう決まっていた。

 あの子の、ゲヘナ学園からの除籍が。

 

 向かっている先のシャーレでは、これから新たな組織の発足式がある。

 それに際してこの子は……元風紀委員であるおまわりさんは、ゲヘナ学園の生徒という肩書を失う。

 新しい組織に所属するために、除籍されることとなったのだ。

 まぁ大人の女性が「私、高校一年生です!」と言うのもおかしな話だから、この判断はある意味正しいのだろう。

 だけど……私は理由も無く、納得がいってなかった。

 

 

「ヒナちゃん」

「……なに?」

「ご飯食べ行かない?」

「式に間に合うの?」

「ううん」

「ダメでしょ。いや、やめなさいって」

「12時のチャイムが鳴ったから外出でーす!」

「ちょっと!!!」

 

 

 本日のメイン行事の主役が、まさかの出席拒否。しかも、シャーレを目前にして。

 この子は思い切りハンドルを切って車を方向転換。タイヤが盛大に鳴っているではないか。

 ギャギャギャという音に誰もが振り向くけど、この子は視線なんかお構いなし。そのままシャーレとは反対方向へと走って行く。

 どこへ向かうというのだ。

 

 

「今のは流石に、ダメでしょ!」

「昼飯はどんな事よりも優先されるんだよ? お腹空いたでしょ?」

「それは! ……そうだけど」

「いいじゃん、おまわりさんが良いって言うんだから良いんです!」

「もしかしてだけど、貴女も悪い大人だったりする?」

 

 

 私の言葉をスルーして運転し続けるあの子。やっぱり悪い大人だ。

 どんどん遠ざかるシャーレ。式が終われば先生を交えた会食があったのに……なんてことしてくれたんだ。

 恨めしい目であの子を睨むけど、当の本人はどこ吹く風。

 車の操縦権がそっちにある以上、私から手を出すことはできない。潔く諦めて揺られること数分、車が停まった。

 顔を上げれば、そこには牛丼屋。

 それもチェーン店。時間に追われるサラリーマン御用達の、どこにでもあるお店。

 

 

「……なんで?」

「そういう気分……っていうのは建前」

「ちゃんと説明して」

「ヒナちゃんとご飯、一度も行ってなかったなって思って」

 

 

 私の確認もとらずに店内へと入っていくあの子。

 丼もの……私はそういう気分じゃないのだけれど。あの子が入ってしまったならば仕方ないと、私も店内へと入る。

 時間はお昼12時をほんの少し過ぎたくらいの時間。人はまだ少ない。

 テーブル席に着きタブレットでメニューを見る。この後のことを考えれば、口内に匂いの残る食事は控えたい。丼もの以外のメニューも存在していたから、私は無難に鮭定食を選んだ。

 あの子は……

 

 

「にんにく白髪ねぎ牛丼……美味しそうじゃんね」

「待ちなさい。この後のこと覚えてるわよね? にんにくは流石にやめなさい?」

「だよねー。じゃ、キムチ牛丼を」

「普通の牛丼にしなさい」

 

 

 口を尖らせながらあの子は牛丼の大盛を頼んだ。

 注文が終わった。対面している私とあの子の間にあるのは、水が注がれたコップが二つだけ。

 遮るものは、何もない。

 

 

「さて、教えてもらえるかしら? どうして式から逃げたの?」

「逃げたってわけじゃないけど……まぁ、そうだね」

 

 

 私の言葉に、あの子は背中を椅子に預けて、窓から見えるシャーレの建物を見つめて呟いた。

 

 

「最後のご飯だから……かな?」

「……どういう意味?」

「意味なんかないよ。ただ──」

 

 

 改めて向き合ったあの子の顔は、どこか寂しそうだった。

 

 

「風紀委員モブの昼休みは、これで最後だから」

 

 

 笑顔がトレードマークと言えるあの子が、初めて寂しそうな顔をした。見たことの無い表情に、私は目を丸くしてしまう。

 そして、少し笑ってしまった。

 

 

「ど、どうしたのヒナちゃん?」

「だって……貴女がモブ? ふふ、変な事言うのね」

「え、だって風紀委員だった時なんて、みんなと同じ格好してたし……」

「格好だけよ。貴女、浮いてたもの」

「……ほんと?」

「本当。だから、貴女はモブなんかじゃないわよ」

 

 

 一度こみ上げた笑いはなかなか止まらない。この子が自称モブだったなんて知ったら、おかしくてしょうがない。

 風紀委員だった時から全然変わらない、変な事ばっかする子。

 優秀で強くて、それなのに浮いてて、優しくておかしな子。それは、この姿になっても変わってなかった。

 そんなこの子の姿に、心底安心した。

 

 

「あーあ。変な気持ちになってた私がバカみたい」

「え、えっと……?」

「いいの、こっちのことだから」

 

 

 除籍と言う処分は仕方ない。納得できなかった部分もあったけど、もうどうでもよくなってしまった。

 あの子はあの子。姿が変わっても、それは変わらない。

 姿が変わって、所属が変わって……もう二度と会えなくなると思ってた。

 だけど、そんなこと無いと知れたから。

 

 

「なんか損した気分だわ」

「ひ、ヒナちゃん?」

「この食事代、貴女持ちね」

「ヒナちゃん!?」

 

 

 必至に財布の中を確認するあの子。まさか大人が金欠な訳ないだろう? 先生ではあるまいし。

 あたふたしているあの子を笑いながら眺めて数分、注文していた定食が届けられる。

 あの子と一緒にいただきますをして、手を付ける。

 格安チェーン店のご飯は、特別に美味しいわけでもない。だけど、美味しそうに食べるこの子と一緒に食べると、なんだかとてもおいしく感じる。

 先生と一緒に食べるときは、幸せという感情が先行する。だけど、この子は違う。

 ただ美味しく食事を食べたい。心に浮かぶのはそれだけ。

 

 

「……ねぇ、おまわりさん?」

「ん、なに?」

「今度はもっと、ちゃんとしたお店に連れてってくれる?」

 

 

 私の言葉に、あの子は目を輝かせる。

 口角はグッと上がって、満面の笑みがそこに広がる。百面相な彼女だけど、やっぱり似合うのは笑顔だ。

 そんなあの子は、机から乗り出すように私に顔を近づける。

 

 

「勿論! どこ行きたい!? ヒナちゃん何が好き!? 何食べたい!?」

「ちょっと、今度って言ったでしょ」

「えへ、そうだったね……楽しみ」

「ええ……私も楽しみにしてるわ」

 

 

 空になったお皿。コップの水を飲み干して、お店を出る。

 会計を済ませた彼女と一緒に車に乗って、シャーレへと向かった。

 お店から出てシャーレでの発足式が始まるまで、時間目一杯食事について語りつくした。

 何が好きか、どういうお店が好きか、食後はデザート派か飲み物派か、朝はご飯派かパン派か……ずっとずっと、食について話した。

 

 暫くして始まった発足式。

 七神リンと先生の承認によって発足した、シャーレの管轄下に置かれる新組織「シャーレ警察」。

 安直な名前だと思うと同時に、あの子ほどピッタリな担当はいないだろう。

 上司にあたる先生に敬礼をして、リンから辞令を受け取る。

 今この瞬間から、あの子は名実共に警察として、キヴォトスに存在を認められた。

 同時に、マコトが渋々出した辞令も、機能を果たし終えた。

 

 こうしてあの子は、ゲヘナを去った。

 

 

 


 

 

 

「……いなくなっちゃったね、あの子」

「ふん、清々しました! これでヒナ委員長の気を引く人間がいなくなったのですから!」

「ですが、彼女がいなくなった分、書類仕事は滞りますね。それもかなり」

「ほーらアコちゃん。チナツの言う通り、これから忙しくなるんだから」

「構いません! 私には新しいコーヒーがあるのですから! 今までよりも格段に美味しく淹れられるようになったのです!」

「ふーん……で、誰に教わったの?」

「……」

「素直じゃありませんね、アコ行政官は」

「いいじゃん、アコちゃんらしくて」

「ええい! うるさいですね二人とも!」

「吠えないでよ。貰ったんでしょ、新しい命の母」

「イオリ!!!」

「はいはい、仕事しますよーだっ」




タイトル回収完了。
あと何話くらいになるかな…わかんね()
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