風紀委員モブの昼休み   作:ふゆうさぎ

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悩みすぎて2回は全消しして書き直したよね。


ヒヨリとミサキ

「こんにちは二人とも」

「えへへ、こんにちは先生」

「……久しぶりだね、先生」

 

 

 私は今日、トリニティに出向している。理由は、ちゃんとお仕事。

 今日のお仕事は、エデン条約の事件が解決した後の聴聞会で決まったもの。アリウススクワッドのメンバーの次の所属が決定したのと同時に予定されたものだ。

 お仕事内容は実に先生らしいお仕事で、久しぶりに真っ当な先生業ができると思うと腕が鳴る。

 

 

「じゃあ早速だけど始めよっか」

「あ、その前にお菓子持ってきてもいいですか……?」

「……ヒヨリ、流石に状況考えなよ」

「で、でも……この面談で私たちの処遇が決まるんですよね? もしかしたら、打ち首になるかもしれませんし……そうなるくらいなら、最後に好きなお菓子を食べたいなって……」

「先生、始めよう」

「ミサキさん?」

 

 

 変わらない二人に、つい笑みが零れる。微笑ましいというか、新しい環境でも変わらずにやっている姿を見れて嬉しいのだ。

 そんな二人にこれから行うのは「面談」だ。

 畏まった物でもなければ、何かを聞き出そうとするものでもない。先生が生徒に「最近の調子はどう?」と聞くだけの至極単純なもの。

 

 あの日の聴聞会から、早くも二か月。

 聴聞会の決定では、スクワッドのメンバーは各人が別々の大規模な部活に所属することでのみ、トリニティへの編入が認められた。

 あれだけのテロ行為を、洗脳状態と言えども起こしてしまったのだ。スクワッドを危険視する声は当然あったため、実質的なスクワッド解散、及び接触制限をかけることを編入条件としたのだ。

 そしてその条件を呑んだ結果、睨み合っていると言っても過言ではない組織にそれぞれが所属することになった。

 

 アツコはその血統により、アリウスの生徒会長としてティーパーティーに強制参加。

 サオリは卓越した戦闘技術を買われ、正義実現委員会へ。

 ミサキは身体検査の際に、ミネに腕を見られたらしく、半ば強引に救護騎士団に所属を決定させられたとか。

 そしてヒヨリは……消去法でシスターフッドへ加入することになった。

 

 それぞれが別々の場所に、そして新しい環境に移ることを考慮されて提案されたのが、この面談。

 裁判官を務めた生徒は「環境変化のストレスで何か問題を起こされたら困る」と言っていた。私としてはその言葉は悲しかったけど、判断は間違ってはいないと言える。

 それがスクワッドメンバーたちに向けられている、実質的なトリニティからの評価であるからだ。

 

 

「さて、本題に入るとしようか。最近どう? 何か困ったこととかはないかな?」

 

 

 ミサキはすぐに「別に……」とそっけなく返してきたけど、ヒヨリは真っ直ぐな瞳でこう言った。

 あまりにも真っ直ぐなその瞳。ハイライト一つない死んだ瞳は、ミサキすらも驚かせた。

 

 

「懺悔に来る人たちのお話を聞くのが、嫌です」

「……どういう理由で、嫌なの?」

 

 

 ヒヨリは「もしかしたら私がおかしいかもしれないけど」と前置きして、その理由を語った。

 この二か月で、アリウスの外の世界の常識と自分の常識のすり合わせが多少でもできていると思っていた。

 いや、ミサキはある程度できている。それはミサキの諦観主義とも言えよう性格が、過去の経験に固執しないという副産物を生んでいるからと言える。

 しかし、ヒヨリの口から語られたことを聞いて、常識のすり合わせが彼女たちにとっては難しいことだとわかった。

 思ったよりも根が深い問題が、そこにはあった。

 

 

「懺悔って……別にしないと死ぬってわけじゃないじゃないですか」

「まぁ、そうだね。来る人たちは心のわだかまりを吐き出したくて来るから、生死には直結しないね」

「ですよね! なのに、なんであんなに深刻そうに話すのかわからないんです……たまに生きるためには仕方ないことだって思えるようなことを告白してくる人もいますし……」

「例えば?」

「飢え死にしそうになった時の万引き……とか?」

 

 

 ヒヨリが言いたいことは、すぐにわかった。

 生きるために必要であった犯罪を後になって後悔したって仕方ないじゃないかと、そう言っている。

 

 

「……そうだね。確かに、生死には関係ないかもね」

「そうなんですよ! なのに──」

「だけど、人として、その行動に後悔を持つことは正しい事なんじゃないかな?」

 

 

 ヒヨリの言うとおり、別に気にしないという選択を取ることだってできるだろう。だけど、それは人として正しいと言えるだろうか? 

 悪い事をしたら謝る。謝れなくとも、後悔することができれば、同じことをすることはないはずだ。

 そういう心構えが大事だと、ヒヨリには伝わらなかった。

 

 

「じゃあ、そのまま餓死することが正解なんですか……?」

「そう捉えることもできるかもしれないけど、それは違うよ」

「先生が何が言いたいか、わかりません……」

 

 

 目をぐるぐるさせ始めるヒヨリに、ミサキが呟いた。

 

 

「そんなの、別の方法を探せばいいだけじゃない?」

「別の方法……?」

「万引きがダメなのはアリウスにいた時も同じ。バレたら殺されかけたこともあった……だけど、私たちは生きるためにやった」

「そ、そうですよ! だから、生きるためには仕方ないことだって……」

「だけど、私たちはそれじゃダメ……そうでしょ、先生?」

 

 

 ミサキの瞳が私を射抜く。その瞳に、私は頷いた。

 どんな状況であっても、最善の道を探さない理由はない。必ず、正しい道は存在するはずだ。

 

 

「ヒヨリたちは、万引きを経験してるんだよね? 他にも、アリウスの外じゃ犯罪って言われることも」

「はい……多分、それなりに」

「うん。じゃあ、私から言えることは一つだよ」

 

 

 首を傾げるヒヨリに、私は告げる。

「これはしてはいけない」と安易に伝えることは簡単だ。だが、それでは伝えるべき真意は決して伝わらないだろう。

 全ての物事に疑問を持つことで、初めて答えに意味が生まれる。

 私が示すべきは、疑問提示。

 

 

「ヒヨリ自身がされたら、どう思う?」

「……あ」

 

 

 何かに気が付いた様子。

 すぐに気づけたのは、きっとヒヨリの中にも違和感があったからだろう。

 

 

「人は不思議でね。一度犯してしまった間違いは、次には選択肢の一つとして出てくる。たとえそれが、殺人だったとしても」

「そう、なんですか?」

「うん。経験は選択肢を増やす。それの最悪の例として殺人を上げたけど、万引きだって同じだ」

 

 

 ヒヨリが俯く。さっきまで自分が言っていたことが、どれだけ恐ろしいことだったのかを、認識したからだろう。

 それを正しく認識できるのであれば、ヒヨリはきっと大丈夫だ。

 

 

「ヒヨリの中には、まだ犯罪が選択肢として残っている。それを、これから無くしていこう?」

「……私に、できるでしょうか?」

「勿論。間違いを犯すことは誰だってある。大事なのは、間違いを後悔して、その後悔をどう活かしていくか」

 

 

 俯きながらも、瞳をこちらに向けた。本当に? と言わんばかりの不安たっぷりの揺れる瞳に、私は安心してと笑顔を送る。

 笑顔がどれだけ安心感をもたらすかは、私も最近教わったばかりだ。

 

 

「それだけで人は変われるんだ。だから、一緒に頑張ろう、ヒヨリ!」

「……はい、頑張ります」

 

 

 にへっといつもの笑いを見せるヒヨリ。相変わらずニヒルな笑みだけど、どこか安心感を覚えたような、そんな笑み。

 ヒヨリ自身、このことに違和感を覚えていたはずだ。それを言葉にしてあげて、解決に導くのが、先生としての私の役目。

 先は長いかもしれない……だけど、その手を離さない限り、ヒヨリは間違えることは無いだろう。

 

 

「さて、次はミサキだよ」

「……悩みとかは別に無いんだけどさ、気になることはあって」

「なに? 言ってみてくれないか?」

 

 

 ミサキは少し視線を泳がせてから、諦めるように声を絞った。

 意外な一面というか、こういうことも考えるんだと、少し可愛いなと思ってしまった。

 

 

「最近、皆で集まれなくて……」

 

 

 ミサキの声は震えていた。堪えるほどではないものの、不安が声に滲んでいる。

 私はさっきの考えを改めて、聞く姿勢を正す。

 

 

「聴聞会の直後は何度か会えたんだけど、今じゃ全然……皆忙しいんだろうけど。こうしてヒヨリと会うのも一か月ぶりだし」

「確かに、最近会えませんね……姫ちゃんもリーダーも、きっと忙しいんだろうなって」

「ミサキとヒヨリは、今部活は忙しい?」

「毎日定時に上がってます!」

「私は大抵残業かな。ミネ……先輩に付き合ってると、帰れないこともあるし」

 

 

 それならばヒヨリ以外の部活の拘束時間に問題がある……そう思ったけど、少し不可解な部分があることに気が付いた。

 部活が無い時……特に、休日に何をしているのかということだ。

 このキヴォトスにおいても、学校は土曜日と日曜日が休みの日となっている。

 サオリみたいな治安維持に関わる部活だとシフト制で回しているだろうけど、シスターフッドと救護騎士団がそうとは思えない。

 特に日曜日なんか、大抵の部活動は休みとなっているはずだ。会おうと思えば、そこで会うことができるはずではないか。そう伝えると、二人ともが微妙な顔をした。

 その顔が何を伝えようとしているのか。それは、気まずさだった。

 

 

「その……私は最近、マリーちゃんと遊びに……」

「私はミネ……先輩と。私が危ない事しないかって、最近はずっと」

 

 

 会えない理由。二人が言ってくれたそれは、ある意味いい方向の原因だった。私からしてみれば、とても健全な理由と言える。

 新しい人間関係が始まって、以前の人間関係よりも今を優先せざるを得ない状況。そして、以前の人間関係に負い目を感じる……人間として、社会の中で生きていけば必ず現れる壁だ。

 

 

「なるほどね……じゃあ、一月に一回でもいいからご飯に行くとかどうかな?」

「それだけで……?」

「うん。きっとだけど、少し顔を見るだけでも違うと思うんだ」

「……わかった。今度、誘ってみる」

 

 

 特に仲のいい人間同士であれば、会えないことそのものがストレスとなる可能性がある。お互いに自分をないがしろにされてると思ってしまい、すれ違いが発生することだって、この手の話じゃ珍しくも無い。

 だからこそ、大事なことがある。

 

 

「わざわざ時間を設けるよりも、空き時間に少し会うだけでもいいと私は思うよ」

「……そんなので、いいの?」

「うん。一度会えば、また会いたいって感じると思うから」

「……そっか」

 

 

 どこか納得したような、清々しい顔を見せるミサキ。

 ヒヨリもミサキも、少し憑き物が落ちたような顔になった。面談の効果は、十分と言えるだろう。

 二人との面談の内容を殴り書いたメモ用紙を片して、私は立ち上がる。

 面談はこれにて終わりだと二人に告げると、ミサキに制止をかけられた。

 

 

「……先生、もう一ついいかな」

「どうしたのミサキ?」

 

 

 片付けの手を止めて、ミサキに振り返る。そこには、ちょっと頬を紅くしているミサキの姿。

 おやおやおやと思う心を押し殺して、にやける顔を澄まさせてミサキの話を聞く。

 

 

「その……リーダーのことなんだけど」

「サオリの事?」

「う、ん……その、私もお金が入ったから……今までのお礼を、したくて」

 

 

 聞けば、サオリが何が好きかとか、どういう趣味を持っているのかとか、そういうのが一切わからないとのこと。

 であれば、私からかける言葉は一つだけだ。

 

 

「サオリに聞いてみればいいと思うよ。きっとサオリは遠慮するだろけど……でも、想いをちゃんと伝えるなら、物より言葉だからね」

「……うん。ありがと」

 

 

 不器用な笑顔を浮かべるミサキ。感謝を伝えるのは難しいけど、ミサキならきっとできると伝えて、私は二人の下を後にした。

 次に面談を控えているアツコとサオリの居る場所に向かうためにも。

 

 

 


 

 

 

「そろそろ先生が来るね、ナギサさん」

「ですね……私も同席してよろしかったのですか、アツコさん?」

「うん。きっと先生も、私たちが他人からどう見えてるか知りたがると思うから」

「なるほど。でしたら、このままここにいさせていただきますね」

「いいよ。……遅いなぁ、サッちゃん」




会えないことにみんなが悩んでます。
アリスクは家族みたいなものですから、会えなければ寂しいでしょう。
さてそんな中、大黒柱的なリーダーはどう思うでしょうか?
新しい環境に変わって、自分から離れていく家族たち…

残り2話で完結です。
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