人を追跡するのってちょっと楽しい。この前そう思った。
年齢不相応だというのは理解してるけど、まるで探偵ごっこの気分。
なかなかに悪くない……というのは、例の彼女のこと。
この前初めて彼女を追跡した時、私の事をすぐに察知したのか学食の裏手へと逃げてしまった。
一度表口から中に入って厨房内を探したけど、フウカに「もう行った」と言われてしまった。
おそらくだけど、私の追跡はバレていたんだろう。
彼女ほどの優秀な生徒なら気づいてもおかしくは無いだろうけど……少し、悔しい。
今度こそはばれないようにしたいわ。
……と、それが先週のお話。
今週はなかなか手元を離れる余裕が無かったから追跡できなかったけど、今日は余裕がある。
なんせ今日は美食研究会が暴れたおかげで、彼女と現場が被ったのだ。
正確に言えば、パトロール中の彼女と、美食研究会が暴れたタイミングと、支援要請を受けた私が近くにいたことでできた機会だ。
この手を逃すわけにはいかない。
他の部員にも彼女のことを聞いて回ってみたのだけれど、素性が少しもわからなかった。
どうやら彼女はそこまで友好関係が広いわけではないらしく、休み時間、放課後、休日そのどれもで風紀委員の子と遊んだり会ったりしてないそうだ。
では一人で何をしているか? それを知る者は、当然誰一人としていなかった。
情報を持っている人がいたら秘密裏に教えて欲しいと幹部級の数人に頼んだのだけれど、数日経った今でも連絡はナシ。
彼女が意図して情報攪乱を行っているのか、もしくは友好関係が狭すぎて知る者がいないのか。定かではない。
しかし仮に前者だとすると、それこそ真意がわからない。
もしかしたら、少し先に行われる予定の「エデン条約」に関係している可能性も……
いや、入ってきて数か月の一年生がスパイ紛いのことができるとは思えない。
今は考えないで……とにかく、彼女の休み時間の行動を探ってみることにするわ。
「……なんか、委員長ハマってない?」
「ですね。まぁ、仕事漬けの委員長にはいい休息なのではないでしょうか?」
「そんなわけ!!! ないでしょう!!!」
「うわでたアコちゃん」
「なんですかイオリ! 私が悪いんですか!」
「誰もそんなこと言ってないじゃん……」
「でも、アコ行政官の言う事もわかります」
「わかるの?」
「例の彼女にばかり気が向いて……少し妬いてしまう。そうでしょう、アコ行政官?」
「そっ……そんなわけないでしょう! この私が! 妬く!? ありえないですね!!!」
「アコちゃんさぁ」
「……お疲れ様」
「委員長も、お疲れ様です」
例の彼女と美食研究会のメンツを縄で簀巻きにしたところで互いにお疲れ様を言い合った。
美食研全員がピクリとも動かないレベルで圧倒的な制圧ができたのは、彼女の戦力があってこそだった。
彼女の武器はバレルの短いショットガン……確か正義実現委員会の剣先ツルギ委員長のものと似ている銃。
あれよりもバレルとストックが短い物を二丁持ちしており、コッキングの度に銃本体をクルクル回しているのはもはや曲芸と言えよう。
しかしそれを曲芸で終わらせないのが彼女の強さだ。
振り回す動作をコッキングに使い、さらにそれを物理攻撃へと換える。
射撃攻撃が主流のキヴォトスにおいて、超近接戦を行う彼女の機動力と膂力は随一。
ゲヘナの一年生で彼女に勝る生徒はいないだろう。
「相方があなたで助かったわ」
「いえ。私もヒナ委員長が来てくれて心強かったです。一人で遭遇した時は……もう肝が冷えました」
「ウソばっか。あなた、美食研くらい一人で制圧できるじゃない」
「まさか。どこのデマですかそれ?」
「本当よ。だって、今見たんだから」
彼女の強さは今まで書類と噂でしか聞いたことが無かったが、目の前で見るとそれ以上だった。
絶対に手放したくない存在だ。
ゆえに、だ。
「ねぇ。あなたってお昼何してるの?」
「……えっ」
「いつもすぐ部屋出て行っちゃうじゃない。何してるのかなって」
「……」
彼女が素っ頓狂な声を上げた。
まさか私からこんな雑談を振られると思っても無かったのか、目が点の状態で思考停止に陥ってしまったようだ。
暫くの沈黙の後、彼女が絞り出した答えは。
「……ご飯食べてます」
「……そう」
絶望的に会話が続かないではないか。
どこに? とか、何食べてる? とか聞きたいんだけれども……彼女がしきりに視線を逸らしている方が気になる。
何をみているのだろうか。彼女が向けている視線の先を見ると、そこには時計。
丁度お昼12時を指していた。
「えっと……ヒナ委員長」
「……わかったわ。後は任せて」
「ありがとうございます! でも、その前に」
一刻も早くお昼休みに入りたいという欲が伝わって来た。
任せろと伝えると満面の笑みが返ってくる。
彼女がお昼休みにいなくなる理由は、単に仕事から離れたいだけなのかもしれない。
彼女は踵を返す前に、ハルナの方へ足を向けた。
ショットガンでハルナの頬を突くと、ようやく黒目が復帰した。
「……お久しぶりですね」
「はい。教えて欲しいことが」
「いいでしょう。この私に答えられることなら」
「それじゃ……ちょっと耳貸してください」
「ええと、動けないんですけど」
「……」
ため息を一つ吐きながら簀巻きになっているハルナの耳にごにょごにょと小言で何かを話している。
要件を聞き終わったのかハルナは「えぇ、知ってますよ」と彼女に言葉を返していた。
彼女はハルナからその続きを聞きだしたのか、頷きながらハルナから離れる。
「助かりました、ありがとうございます」
「ご満足ですか? でしたら、この縄を……」
「ヒナ委員長。お願いします」
「任せて。お昼、ゆっくり休んで頂戴ね」
「ありがとうございます! では、私はここで」
「ちょっと! 薄情すぎませんか!?」
彼女はハルナの言葉を無視してそのまま歩き去ってしまった。
どこへ行ったのか……ハルナに聞いてみるとしよう。
「ねぇハルナ。彼女はどこに行ったの?」
「黙秘権を──」
「無いわ。教えなさい」
銃を顎に突きつけると、諦めた様子で喋ってくれた。
「彼女は飲食街の外れにある格安中華店に行きましたよ」
「格安? 彼女、そんなにお金無いのかしら……」
「いえ、そこには便利屋68がいるからです」
「……なんですって?」
無意識に銃を突きつける力が強くなる。
顎に銃口を押し付けられて呻きを上げるハルナに、力を弱める。
「……なんのために?」
「けほっ……残念ながら、私も存じ上げませんわ。彼女、何がしたいのかわかりませんもの」
「顔見知りじゃないの?」
「もちろん。ですが、何をしたいのかはさっぱり」
「……そう。なら、調査するしか無いわよね」
ハルナの縄を解き……
「あら、解放してくれるんですの?」
「服をね」
「……?」
ハルナが羽織っているオーバーサイズの制服を剥ぎ取る。
「ちょ、ヒナさん!?」
「帽子も貰うわね」
「まってください! ちょっと、ヒナさん!!!」
ダメージでうまく動けないハルナから帽子も奪う。
ハルナとの身長差もあり私にとってはかなりのオーバーサイズだが、この制服はコートに見えて丁度いい。
帽子も私の目元が隠れるから、急ごしらえの変装にしては上出来だろう。
「ヒナさん……そんな、破廉恥な……」
「うるさいわね。戻ったら返すわ。ほら、連れて行きなさい」
「えっ、ちょっと! いつの間に!」
気付いたら到着していた風紀委員の護送車にハルナたちを任せ、私は彼女の追跡に向かった。
向かうのは飲食街の外れの中華店。
便利屋との接触……彼女は何を考えているの?
ちょこっと分割。
続けて書くの長くなるから嫌い。
仕事中に適当にストーリー考え広げて、良さげなのを切り貼りしてるのがこの小説です。
おかげで仕事で100万の損失出しました(ガチ実話)