風紀委員モブの昼休み   作:ふゆうさぎ

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お話が本格的に動くのはもう少し先だよ!


おまわりさんと幼馴染

「あんたたちがアイツが言ってたアリウスの子ね?」

 

 

 時計の針が12で重なる夜中。

 数人で様子を見ながらカタコンベの外に出ると、出口で待っていたのは赤髪の少女だった。

 

 

「貴女が……河駒風ラブさんですね?」

「そっ。あんたはマイアだっけ?」

「私は梯スバルです。マイアさんはこっち」

「ふーん。これからヘルメットを被る者同士、よろしく頼むわね」

 

 

 手をひらひらさせながら歩き始めるラブさん。どうやら行き先は決まっているようだ。

 ラブさんと合流した理由、それはおまわりさんからの依頼。昨日話していた「寝床とドラム缶の確保」の件で案内役を用意したと言っていたが、まさかヘルメット団の方だとは思いもしなかった。

 

 河駒風ラブ。ブラックマーケットで何度か仕事をしている手前、知らない名前ではない。

 ジャブジャブヘルメット団のリーダーを務める『元』トリニティの生徒。ヘルメット団全体で見た時にも幹部級扱いと、なかなかの立ち位置を有している人物。

 そんな彼女が今回、私たちの引率を担当してくれているのには理由があった。

 おまわりさんが、私たちとは別行動を取っているからだ。

 

 

「アイツは?」

「明日の分の食事の買い出しに」

「また飯のことを……でもまぁ、こと食に関してはアイツに任せるのが適任ね」

「そうなんですか?」

「食べることが大好きなヤツだから。何かと食については詳しいのよ」

 

 

 カレーを作っていた時に成分や調理法についてぺらぺら喋っていたのを思い出す。詳しいことのバックボーンは、純粋に好きから来たものだったのか。

 何かと詳しくおまわりさんのことを語るラブさん。どうしてそんなに詳しく知っているのかと聞けば……

 

 

「ちっちゃな頃から一緒だったから。いわゆる幼馴染、んでもって腐れ縁で今でも付き合いがあるって感じ」

「なるほ……年齢かなり離れてません?」

「それは事情があるのよ。その話はまた後で」

「は、はい……」

 

 

 この会話以降しばらくの沈黙が続いた。ただただ暗闇の中を歩き続ける。

 腕時計の短針が1を指した頃、一台の自販機の前でラブさんが足を止めた。ここが目的地なのかと聞けば「休憩」の一言。

 自販機の前に立ってボタンを一突き、電子決済を使ったのかスマホをかざしていた。

 ガランと音を立てて出てきたのはココア。

 

 

「ん、そっちの奴らに渡しなさい」

「……いえ、私たちは」

「事情は聞いてるわよ。あんたたちの境遇もね」

「……同情のつもりですか?」

「悪い? そういうの聞くとね、ほっとけないのよ」

 

 

 ラブさんはココアを私に押し付けてきたかと思うと追加で一本、もう一本と買い続け、ついには人数分のココアが私の腕の中に詰め込まれた。

 ラブさん、そしてマイアさんたちに挟まれてなお、私の思考はどうすべきかを考える。考える必要もないのに。

 

 

「何アンタ、独り占めでもするつもり?」

「そ、そんなつもりは……!」

「じゃあ早く配りなさい。温かいうちに飲むのが一番美味しいのよ」

 

 

 ラブさんも自分用にともう一本買い、すぐにそれを開けた。

 暗闇の中にぼんやりと輝く自動販売機の光。漂ってくるのは、優しくて甘い香り。

 マイアさんたちにココアを配り、私も封を開けた。同じ香りが、目の前に広がってきた。

 

 

「美味しいでしょ? ココア飲んだことある?」

「私は無いです。マイアさんたちは?」

「わ、私たちもありません! えへへ、美味しいです!」

「そっ、じゃあ奢った甲斐があるわね」

 

 

 ニシシと笑いを見せるラブさんに、どことなくおまわりさんと同じ雰囲気を感じた。誰かに何かをすることが喜びなのだろうか。

 面倒見が良い、そうとも言えるラブさんに、ふと口が緩んだ。

 

 

「やっと笑ったわね」

「え?」

「会ってからずっと仇を見る様な目で私を見てるんだもの」

「そ、そんなつもりは……!」

「いいのよ。元でもトリニティはトリニティだから。思わないところが無いわけじゃないんでしょ?」

「……」

 

 

 図星だ。目を伏せる。

 目に影を作る私とは違い、マイアさんたちは少し離れた場所で談笑している。

 隔たれた境界線のこっち側。ラブさんが私の隣に立った。

 

 

「アイツ、ほんと面倒見が良いんだから」

「おまわりさん……そんなになんですか?」

「サオリ。知ってるでしょ?」

「っ……なぜ、アナタが」

「エデン条約のテロ。あの後のアリウススクワッドの逃走を手助けしたのはあの子よ」

「は……え、いや……え?」

 

 

 思考が止まる。おまわりさんが、サオリ達の逃走の手助けをした? 取り締まったり追いかけたりするでもなく、手助けを? 

 あまりのことに理解が追い付かないというのが顔に出ていたのか、ラブさんはココアをひとあおりしてから話を続けた。

 

 

「私も全部を知ってるわけじゃないけどさ。あの子、元々はゲヘナの風紀委員だったのよ」

「えっと……30歳近くで高校生してたってことですか?」

「……そっか、知らないのね」

 

 

 馴染みすぎてすっかり忘れてたと、空き缶をかごに向けて放り投げる。

 放物線を描いてホールインした缶にガッツポーズを取るラブさんは、その勢いのまま話す。

 理解が及ばない、摩訶不思議な出来事を。

 

 

「あの子は一度死んだ。それで、大人の姿に変わったのよ」

「……???」

「そうなるわよねー。私もそうなったもの」

 

 

 そらそうだと言わんばかりの表情で空を見上げる。つられて見上げた空には、いくつもの星々。

 ここ周辺には人が住んでいるような建物はない。空を染め上げる明かりが無いと、いつも覆っている雲が無いと、夜空はこう見えるのかと息を吐く。

 星、星、星。一面が星に埋め尽くされている。

 

 

「あの子は『助けを呼ぶ子を助けることが使命』って言ってさ。いっつも危ないことばっかして」

 

 

 こっちがどんだけ心配したって構いやしない人助けバカだと笑顔のまま罵る。

 しかしその笑顔が長く保たれることはなく、ラブさんの目にも翳りが生まれる。罵っていたその言葉が、心からのものだと知るには、時間はさほどかからなかった。

 

 

「それで死んで……なんか知らないけど大人の姿になって……大人になったら行動に制限がなくなるから都合がいいって……」

 

 

 徐々に小さくなる声。それに伴って……なぜか怒り始めたラブさん。

 

 

「バカよバカ! なんでも解決できる人間とでも自分を思い込んでる大バカ女! あほ! あんぽんたん! ばかちん!」

「ら、ラブさん……!?」

「心配ばっかしちゃうんだもの……幼馴染よ?」

「……大切なんですね」

「えぇ……大事な大事な親友。だから、あんま無茶してほしくないの」

 

 

 ラブさんの視線が私に向く。

 

 

「あの子、そっちで無茶してない?」

「……お世話になりっぱなしです」

「じゃあ手伝ってあげて。あんた達が施しだって感じないように東奔西走してるんだから」

 

 

 いつしか地面ばかりを見ていた。上を向くのが申し訳なくて。

 おまわりさんが私たちに気を遣って言葉を選んで、行動を選んで……そうやっているのは感じていた。

 知らない場所でも私たちのことをずっと考えて動いてくれていたなんて聞かされたら、私の感情はどうなってしまうのだ。

 疑心暗鬼のまま、今更と突っぱねていた私の感情は、まるで子供の癇癪ではないか。

 つまらないプライド。そう一蹴してしまえば簡単だ。だけど、それでも割り切れない感情が私の中には渦巻いている。

 彼女は、それを理解したうえで私たちに手を差し出した……いや違う。

 

 私たちの横に並んで、手を握ってくれたんだ。

 

 影が動く。自販機の光で作られた、ラブさんの影。

 拳を、突き出された。

 

 

「あんたが何考えてるかは……なんとなくわかる。意固地になるのだって」

「……」

「あの子はきっと言うわ。割り切れないことを割り切るなって。自分を捨ててでも割り切ったら、それは割り切れてないって」

「……そんなこと言います?」

「多分よ多分。でも、自分を捨てるとは絶対に言う」

 

 

 目と目が合う。深紅の瞳。真剣に誰かと向き合う、表裏のないまっすぐな瞳。

 

 

「あの子のこと、頼むわよ」

「……はい」

「傷つけたら許さないんだから」

「わかってます」

 

 

 突き出された拳に、拳を当てる。これは約束。

 これでもう、おまわりさんに変に突っかかることはできなくなってしまった。する理由も、なくなった。

 ここまで私たちのことを考えてくれている人を、どう突き放すというのだ。

 今更と喚く私に、それでも私たちに寄り添おうとしてくれる人を、どう突っぱねろというんだ。

 

 

「……はぁ」

 

 

 チョロい。そう判断せざるを得ない自分に、少しだけ笑った。

 

 

 


 

 

 

「こんばんは。ヘルメットラビットです。合言葉をどうぞ」

「『飛べないウサギはただのウサギ』。これでいい?」

「えぇ。ではこちらを。彼女から確保を頼まれていたものです」

「ドラム缶二つに……寝袋ね」

 

 

 休憩を終えて、あれからまた少し歩いた場所。そこにいたのはウサギの耳を生やしたヘルメットを被った二人組。

 ヘルメットとウサミミで誤魔化してるみたいだけど、私はこの二人のことを知っている。どうせ奥にもう二人くらい潜んでいるに違いない。

 D.U.地区の子ウサギ公園でずっと野宿している集団……SRT学園のラビット小隊! 

 なんでこんなところにいるのよ!!! 

 

 

「河駒風ラブさん」

「な、なによ」

「そう警戒しないでください。私たちとて彼女に言われてここにいるのですから」

「……ったく、どんだけ顔広いのよ」

 

 

 アイツの名前が出てきたおかげで警戒しなくて済むけど、それはそれで複雑。

 だって裏社会の爪弾き者と表社会の善人たち、その両方と顔見知りになっているということ。何かあったときに真っ先に疑われるタイプの立ち位置じゃないの。

 

 

「今後もこのような形で取引をしてほしいと、彼女からの依頼です」

「うっそ。もしかして私、そのたびにココ来ないといけない感じ?」

「まぁ、そういうことかと。いつ自警団や正実が来るかわかりませんので、戦力はあった方が良いと彼女が」

「アイツ何と戦おうとしてるの???」

 

 

 普通に考えてSRTとヘルメット団が組んだら並みの組織では止められないわよ? そこに今はアリウスもいるんだから……いやこのパーティー強いな? 

 ともかく、今後もしばらくスバルたちと行動することになりそうだし……活動拠点を移す必要がありそうね。

 引っ越し費用はアイツ負担にしてやるわ。

 心配料としてふんだくってやるんだから!




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